3話 さあ、準備は整った
「よくやった」
帰って来て抽選会の報告をするなりサンショク先輩が肩を叩いて褒めてくれる。この結果からわかるようにクジの方はいい結果に終わった。
よかった、私が引いといて。前みたいにサティにくじを引かせたらどうなっていたことやら。サティは昔からここぞという時のくじ運は悪い方だからな。
まあその分、引きたがっており、なおかつ機嫌が悪いこいつを説得するのは骨が折れたんだけどな。
「あのセントラルと反対側のブロックになってひとまず一安心だな」
そう。サンショク先輩が言った通りセントラルとは反対のブロックに入ることができ決勝まで当たることはない。今回の上位二チームが全国に行けるから最悪勝てなくても全国に行ける。
皆、わかりやすいくらい機嫌が良くリンゴウさんにいたっては胸を撫で下ろしてホッとしていた。
「夏の雪辱を晴らすチャンスだったのに」
と言っても一部では決勝まで当たらないことに落胆しているものがいる。ご存知戦闘狂でプライドが高いコウメイだ。
「その前に倒さなければいけない相手がいる」
と、同じく楽観視しておらず、どちらかと言えば引き締めているものがいる。デールもその中の一人でありトーナメント表に書かれているある高校の名をじっと見ている。
「ソリューズ高校」
それに気づいたものの一人が小さく呟く。
「隣の県の強豪校で今のところ連続出場記録を途切れさせたことがない」
それに加えてミトが補足説明を行う。そう、このソリューズ高校が今回、私達が全国に行くための最大の難所になる。
なにせ相手は夏と冬を合わせても全国出場を逃したことはない名門校。四王が所属する学校と比べると少し見劣りしてしまうがそれでも全国屈指の実力校だ。
「上を見ることはいいけどその前に数多くの学校と戦わないといけない」
かと言ってそれまでの戦いを蔑ろにするわけにはいかない。思わないところで足元をすくわれるとも限らない。
「中には過去に全国に出場している高校も存在しているんだぞ」
「そうだ。この地方大会から今年の夏の全国出場校が出てくる。うちも初戦から当たる」
そう、今ミトが言っていた通りに今年の夏、全国に駒を進めたことがある学校と初戦と当たる。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「反対側か〜」
そしてここにもう一人、コウメイと同じく決勝まで戦いたい高校と当たらず嘆いているものがいる。アタルだ。くじを引いた直後から不貞腐れており今もこうしてぐちぐちと嘆いていた。
「せっかくどれだけ強くなったのか楽しみにしてたのに結局決勝までお預けか〜」
「上がってくればの話ですけどね」
アタルとは違い、彼らのことをそれほど気にしていない選手がそう答える。彼から見てみれば夏の初戦に戦って圧勝した高校、何故そこまで彼が期待するのかわからない。
「来るよ」
だからこそアタルはまだまだだと落胆してしまい少し怒った態度を取ってしまう。ほんの僅かながら覇気が出してしまい言った一年生の選手をビビらせてしまった。
「なんたってこの僕から一本取った期待のルーキー君がいるんだから。そう簡単に敗退されたら面白くもない」
「ずいぶんとお前のお眼鏡にかなっているんだな」
ビビってしまった一年生の肩を叩きアタルに話しかける三年生。アタルとは小学生の頃からの付き合いであり親しい間柄である。
「何、妬いているの?」
こういう冗談も軽く叩ける間からである。ただ気をつけてもらいたい。この学校にも暗黒面の住民がおり、今の発言に目をピカリと光らせているものもいるのだから。
「何キモいことを言っているんだよ」
だから頭をグリグリすることもやめて下さい。目を光らせているマネージャーが真面目な顔で「ご飯三杯いけますね」と呟いてらっしゃるので。
「痛い痛い。……まあ理由はそれだけじゃないんだけどね。あの子とは少し因縁じみたところがあるんだよ」
先ほどまでしていたおちゃらけな態度を一変させ、アタルは真面目な顔をしながら呟く。彼は気づいていた、ミトという少年の正体を。まさしくあれは——、
「アタルさん。あいつは俺が先に倒すって決めているので取らないでくださいよ!」
と考え込んでいたアタルの耳に可愛い後輩であるシュンの声が届く。彼にとってもミトは因縁の相手、まんまと罠に嵌められ彼のせいであの初戦は散々な結果に終わらせてられてしまった。リベンジを込めて今度は圧勝しなければ気が済まない。
「そうだったね、ごめんごめん」
と言いながらもシュンでは彼の相手は荷が重すぎると感じていた。あれは自分が最も倒したい男にして【怪物】と称された逸材なのだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この時期になると特に忙しい。と思いながら仕事をしていた男の前にコーヒーが入ったカップが置かれる。
「編集長が気にされているクリスタル学園が上がってきましたね」
出してくれたのは以前一緒にクリスタルとセントラルの試合を見に行った新人記者メメコだ。あの頃から少しは仕事を覚え、今では小さいながらも特集を書かせるくらい成長した。
ただ編集長からしてみればまだまだであり、自分がブラック好きなのにカフェ・オ・レを淹れてきたことに少なからず思うところはある。まあ、せっかく淹れてきてくれたから飲むことは飲む。
「甘い」
「どうかなされましたか?」
「いや、なんでもない。まあ彼らの実力からすれば地方大会に上がってくるのは目に見えていた。ただ、問題はここからだ」
「ずいぶんと厳しいことを言いますね」
「記者として当然のことを言っていたまでだ。だが、この初戦に勝てたら彼らの実力は本物だ。もしかしたこの大会を制するかもしれない」
「反対側にあのセントラルがいますのに?」
「……可能性の一つだ」
と言っても期待せずにはいられない。何せあそこは粒揃いで彼がいる。過去に自分が担当し、将来を期待しながらも消えてしまっていた怪物。
またあの時のように胸を熱くさせてくれと期待を込めながら過去に書いた自分の記事を密かに読み直し口元を緩ませる。