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宝玉はまた輝く  作者: 日月星
地に這いつくばろうとも、泥水を啜ろうとも、人は歩まなければならず
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2話 登場人物のほとんどが暴君です

それから私達は破竹の勢いで地方予選を制し地区大会へと進出し、今はトーナメントの組み分けを決めるため先生に引率されて抽選会場までやって来た。


えっ、先生って誰って? 馬鹿者、うちのアメダス部の顧問のアリタム先生だ。確かに部活に顔を出すことは少ないし陰は薄いけどとてもいい先生なんだぞ。


まあいい人過ぎてかなり仕事を押し付けられるところとかあるけど。そのためアメダス部の顧問をさせられるは、ついたのはいいけど別の仕事で来れないことが多く、この間の合宿という名のバカンス……という擬態を被った強化訓練にだって付いてこられなかった。さすがに申し訳なく思い部員一同でお土産は渡したけど。


で、今も会場に着くなり困っているお婆さんを見つけて助けており、そのまま私達の前から姿を消してしまった。まあ私達だけでなんとかなりますからいいですけど。


で、同じく一緒に来ているサティはと言うと始終ご機嫌だ。予選を圧倒的な力で勝てたことと今まで馬鹿にしていた奴らが手のひら返しの如く称賛しているのが嬉しいんだろ。


けど油断するなよ、まだ強い奴らが結構いてここからが本番なんだぞ。言えば「わかってるよ!」と言ってまた怒るだろうな。だから言わない。私はお手洗いに行く彼女をただ待つのだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



手を洗い、お気に入りのハンカチで手を拭き、ルンルン気分でトイレから出てきたサティ。チームは連勝に次ぐ連勝、しかも圧倒的大差。知名度はうなぎのぼりで誰も彼もが無視できない存在たなった。


チームを愛する彼女にとってまさに今は常世の春。極楽気分で有頂天だった。そんなご機嫌気分だった彼女だがその気分が急遽一変する。


空間が切り離され、目の前にこの世で最も嫌っていると言ってもいい人物が現れたからだ。フードを被りこれ見よがしに自分の母から奪った神剣を腰につけている正体不明の人物。


サティは彼女の存在に気づくなり身につけているローズクォーツをレイピアに変化させて戦闘体制に入る。


「相変わらず落ち着きがない」


対照的に謎の人物……ナナシは優雅にその場に佇みサティを馬鹿にする。その態度がさらにサティの機嫌を損ねる。


「そもそも私は貴方と戦う気がない。今日だって貴方に注意をしに来ただけ」


「注意?」


「そう。……浮かれているようだけど貴方は彼らが全国制覇する姿を見ることはない」


「なんだと!」


今の何気ない一言にサティの苛立ちが振り切れる。常人なら気絶してもおかしくはない覇気を振り撒きながら一歩、ナナシとの間を詰める。


「私のことはともかくチームのことを知らないのに出来ないって言わないでよ!」


「……私の言葉をどう捉えようと貴方の自由。だけどこれだけは言う……高い希望を願うのならばそれが叶わなかった時の絶望を覚悟しておくことね」


ナナシは軽く呆れるようにため息をつき、言いたいことを言い終えるなり怒り狂うサティに背を向けてその場から去ろうとする。


その背中をサティが追いかけようとする。が、その前に空間が歪み彼女は元の場所へと戻されてしまった。


怒りの矛先を失ってしまった彼女はその不機嫌な表情を隠さないままセシルが待つ場所まで戻っていく。当然ながら戻ってきた彼女がとても不機嫌なことにセシルは疑問で仕方なく首を傾げるのであった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



結局先生は戻ってこないしサティの機嫌が悪くなるわでこの抽選会は散々な滑り出しだな。せめてくじはいい方向に進んでくれよと思いながら会場となるホールの入り口の扉を開ける。


段々となっている椅子に各校が陣取る形で座っている。見たことがある学校が勢揃いしていて見ていて壮観だな。


だからと言ってこちらを一斉に見てコソコソと話すのはやめてもらいたい。こちらは貴方がたとは違い無名校なのですから。


後それと、狭い通路にこれ見よがしに足を伸ばすのはやめてもらえませんか。短い足が気になって仕方がありません。


とまあ煽りはこれくらいにしてどうしたものか。とりあえず数種類、取れる策を挙げてみる。


1、何事もなく超える。短い足だから超えることは難なく可能だ。まあ、超えた後に因縁をつけられるのは目に見えている。


2、わざと引っかかる。取り敢えずこれはなし。無様にこけるのは嫌だし当たったら当たったでさらに因縁をつけられる。


3、踏みつける。個人的にはこれがいいのだがさすがに現実でやればまずい。後で慰謝料とか請求されるのは面倒くさい。


なのでここは無難な4、別のルートを選ぶにする。あいにくと邪魔者がいるルートを選ばなくても席には辿り着くことができる。まあ少し遠まりにはなるけど。何故新人の私達が前の方なんだ、不便すぎる。


「足、邪魔」


と、考えていた私の耳にそのような声が聞こえてきた。何かと思い見てみれば先ほど足を通路に出していた生徒が痛そうにアキレス腱あたりを抑えていた。


いや、まさか蹴り上げたんじゃないよな? さすがの私もそこまで露骨に喧嘩を売ることはしないぞ。案の定、足を伸ばしていた生徒は睨みつけるように自分の足を蹴り上げた男を見る。


ただその蹴り上げた男はそんな彼のことなど気にすることなく、


「やあ、元気にしてた?」


こちらまでやって来て何気なく挨拶をする。これだから暴君と呼ばれるんですよ。


「まあぼちぼちと言うところですかね。……ところで、いいんですかあれ、普通に暴力行為ですよ」


「足を通路に出している方が悪い。そのせいで僕は引っ掛けて転けそうになったよ。だから僕の方が被害者」


「ソウデスカ」


やはり蛮族とは分かり合えない。今だって殴りかかって来た生徒を容赦なく糸で縛りあげている。よくそれで自分は被害者だと言えたものですね。


「……今回も僕らが優勝するから覚悟しておいてね」


「足元をすくわれないように気をつけてください」


彼みたいに。まあ彼の場合は足元を掬われたというよりも掬い上げられたと言った方がいいか。

それに対抗するように聖人(苦労人)が一人


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