27話 神それぞれ
お待たせしました、久しぶりの更新です
壁は純白、床は塵一つ落ちてないというくらい清潔で、周りに置かれている美術品の数々はどれ一級品ばかり。そこを軽快に軽率に自由気ままに歩く男が一人、メディアを司る神ザラップ。せっかくの質のいい服が行動のせいで台無しである。
いや、ここはよくその裾が長く動きにくそうな服でそこまで動けると褒めておいた方がいいか。
そう、ザラップは今日、とても珍しく高貴な衣装を着ているのである。いつもは流行りや奇抜な、人の目を引くためのファッションをしているというのに。もちろんそれにはしっかりとした理由がある。
「お〜い、エクレーヌさ〜ん!」
ザラップは少し遠くで見つけた、自分と同じとある会議に参加するエクレーヌに大声で声をかけ、気づいてこちらに振り返ってきた彼女に大きく手を振って挨拶をする。
いつも自分勝手な行動を取りその度に部下であるナナエルに叱られているザラップだが、彼もまた前を歩くエクレーヌと同じくこの世界を束ねる九柱神の一人。
しかも序列は彼女よりも上の第八位。世界は色々と理不尽だと思い知らせれる。
「おはようザラップ。珍しく時間より早く行動しているな、偉いぞ」
「いや〜さすがの僕も大事な会議には遅れませんよ、オーレリア様に怒られたくないし」
「いつもそのくらい真面目なら良いのだがな。それと服装もしっかりとしたまえ」
「これはまた失敬」
「まったく」
小言を言いながらエクレーヌはザラップのは服を整える。それをザラップは頭をかきながら大人しく従う。
「君はもう学生ではないのだ。もう少ししっかりとしたまえ」
「でもエクレーヌさんは今でも学園長ですよ。それに僕にとってエクレーヌさんはいつまでも恩師ですので」
「本当に君は昔から口が立つ」
「それほどでも〜」
「褒めてない」
今の会話でわかるように、この二人、元は先生と生徒との関係である。しかもエクレーヌが立ち上げた学園の一期生の時の。
「それはそうとどうですか、学校の様子は? 面白い子とかいますか?」
「君が期待する問題児はいない。皆、聞き分けのいい優等生ばかりだよ」
「と言いながらもそういう子は学校の教師達が早々に矯正するのでしょ」
「当たり前だ。学校とは教育の場、そして我が校……というよりもこの世界はそういう目的のために運営している」
「それはわかっているんですけど……それはそれで面白みにかけて個性が潰れてしまいます。あーあ、教師陣に負けないくらい尖った子とか来てくれないですかね。ほら、エクレーヌさんが所属するファンクラブにいるあの女の子とか」
「アラモーナか?」
「そう、その子。彼女、色々ぶっ飛んでいましたね。僕の耳にも届いていましたよ」
「笑いごとではない。現場がどれほど大変だったか。とても先生達では手が負えず私自らが出てくるほどの問題児だったんだぞ。まあモロブロン、ましてや君ほどではないけどな」
「え〜、僕、モノブロン君よりはマシだと思うんですが」
「発言は正確にするように。君はメディアを司る神なのだから」
「エクレーヌさんの中での僕の評価酷くないですか。……まあそのくらい尖っている子だったからエクレーヌさんの教育にもついてこられて今そこそこいい仕事についているんでしょ?」
「それは元々彼女が優秀だったから。ああ見えてもかなり格式が高い世界のいいところのお嬢さんだからな」
「確かバルバトスさんと数年単位で殴り合ったという?」
「おお、そういえばそういうこともあったな」
噂を言えば影とやら。話し込んでいた二人の元に話題の人物であるバルバトス、それから途中で一緒になっていたバンベルクがやって来た。
「お久、御両人」
「ガハハ、久しぶりだな」
楽しげに会話する二人。その近くではバンベルクが「相変わらずうるさい」と思い軽くため息をついていた。
「君達よく一緒にいるね。本当に仲がいい」
「冗談はよせ。面白くもない」
「ガハハ、それはそれで傷つくではないか。それに兄弟子に対してそれはどうかと思うぞ」
「いったいいつの話をしているのだ。我は吾のそういうところが昔から好かん」
「主は相変わらずだな」
「皆さんお集まりで何かありましたか?」
とそこでまた新たに神がやって来る。ほんわかとした雰囲気でおっとりとした表情で頬に手を当てて顔を傾けてる女性。
「なんでもない、アディーテ」
それが彼らと同じ九柱神の一人であるアディーテだ。バンベルクはまためんどくさい奴が現れたと思いながら無愛想に答える。
「なんでもないことはないでしょうバンベルクさん。まさか私だけ除け者にするのですか、酷いです。エクレーヌさんもそう思いますよね?」
「アディーテ、別に君を除け者にしているわけではない。ただ時間がないだけなんだ」
嘘も方便。エクレーヌはそれらしいことを言って会話を終わらせようとする。かと言ってそれがまるっきり嘘ではない。彼女達が会話をしている間も時間は過ぎておりいつの間にか予定の時刻へと迫っていた。
そのことに気づいたアディーテは「あら、本当ですね」と言ってさほど気にせず他の四人と共に廊下を歩いていく。
そしてしばらく歩いていくと五人の目の前にはとても大きく高級感漂う扉と、
「お待ちしておりました」
一人のメイドがただずんでいた。
「皆様、中ではすでにオーレリア様がご着席されてます。くれぐれも粗相がないようにお願いいたします。特にザラップ様」
「わかってるよペルポネちゃん」
「……どうやら全くと言っていいほどわかってらっしゃらないみたいですね」
作られたかのような端正な顔立ちのペルポネの表情は曇らない。ただその目は氷のように凍てついており思わずザラップがエクレーヌの後ろに隠れるほどの怖さがあった。
「貴方も九柱神の一人です。もう少し自覚というものをお持ちください」
「全くその通りだ」と他の九柱神は思う。が、あまりのペルポネの怖さに誰も同意の言葉が出なかった。
「さもなくば——」
「ペルポネ、その辺りにしなさい」
逆に止められるほどである。ただ止めたのはエクレーヌ達廊下にいる九柱神達ではない。扉の奥、部屋の中にいるものからである。そしてその言葉と共に扉が開き、中にいたものは彼らから姿が見えるようになる。
凛々しくまさに絵に描いたような美女。しかし機械的なものではなくどこか温かみというものを感じさせて周りを包み込むのような圧倒的な存在感がある。
「皆の者、久しぶりですね。今宵は会議に参加頂き感謝します」
それが現在この世界を取り仕切っている序列第二位のオーレリアである。そのあまりの格の違いに歩いてここまでやって来た他の九柱神達は背筋を上し各々の席へとつくことしかできなかった。
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数百年ぶりの九柱神会議。その様子は神域で放送されており誰も彼もが固唾を飲んで見守っていた。ただ残念なことに全員出席ではない。
第四席と第三席は誰も座っていない。正確には第四席の椅子には猫のぬいぐるみが置かれており第三席の前のテーブルには【離席中】という座席カードが置かれていた。
猫のぬいぐるみはふざけた容姿、俗にいうぶちゃ猫と言われているもので少し太々しくそれがさらにイラッとさせる。
座席カードの方は妙に凝った作りをしており「私、センスあるでしょ」と誇張している感じでこちらもこちらで絶妙に不快感を与えられる。
本来ならば一番上のものに怒られるものだがあいにくとその主席はこの場にはいない。それどころかその席には【バカンス中】という座席カードと共に麦わら帽子が置かれていた。
ふざけている。だというのにオーレリアは何事もないかのように会議を進行させており他のものもその彼女が何も言わないからそれ以上言えなかった。
「ふざけんなよ」
当然ながら怒りを感じている者もおる。その中の一人である若い神族のものはグラスをテーブルの上に叩きつけていた。
ただそのグラスには度の強いお酒が注がれており神族の顔も怒りとは違う赤みを帯びていた。つまり酔っているのである。
「こちとら真面目に働いているというのに上のものは呑気にバカンスかよ」
「おいよせ」
「いーや、はっきり言わせてもらうぜ。あんな奴らは老害だ。ただ無駄に歳を取ってるだけの能がない奴らだ!」
酒の勢いか、それともふざけた態度への怒りか。どちらが原因かはわからないが男は普段の鬱憤を晴らすように大声で演説する。
それを見ていたものは止めるや無視を決めるもの、
「下らん」
あるいは馬鹿にする者がいる。その中の一人である男はジョッキを優しく机の上に置いて男の前までやって来る。男の名はモロブロン。ちなみに中身は牛乳、彼は下戸である。
「貴様の目にはあの方達の凄さが分からぬのか。無知とは愚かなものだな」
「なんだと!」
「少しでも知恵と力があればあの方達に逆らおうとは思わぬ。それほど我らとあの方達の間にはとてつもない差がある。それにあのオーレリア様が意味のわからぬことをするはずがなかろう。きっと何かしらの考えがある」
「何意味のわからねーことを言ってんだよ! 俺は四つ星なんだぞ、これが目に入らないのか!」
「そうか。ちなみに我は——」
「何をしている?」
モロブロンは服の中に入っている自分の星の数を証明するカードを出そうとした。だけど出せなかった、その前にその場をとてつもない威圧感が支配したからである。
そのあまりの威圧感に周りにいる客達は気絶し、四つ星の男は膝を屈指、七つの星であるモロブロンは嫌な汗をかいてしまう。
「もう一度問う、貴様らは何をしているのだ」
やって来たのは威圧的で高級感漂う服装で、周りで囲んでいる部下のもの達とは一線をかく。それは何も服装だけではなく実力的にもそう言える。
七つ星というこの世界ではそれなりの上位にいるあのモロブロンですら素直に勝てないと思わせる者であった。
その彼はその場に立ち尽くしているモロブロンに近づきさらに威圧感を与える。床が凹み、そのままモロブロンが片膝をつくほどの圧力を。
「やりすぎですよダルメルス」
ただその圧力は突如と張られた結界により和げられた。その結界を張りダルメルスに声をかけたものはそのまま彼の元まで歩いていく。
「貴様には関係なかろう、ナナエル」
「確かに関係はありません。ですが見過ごせません、自分よりも弱いものに横柄を働く貴方の行いは。もう少し序列10位の自覚を持ってください」
「なら貴様の主人にもいうのだな」
「それはすでに諦めてます」
頭を抱えて嘆いていることからでもそれがどれだけ困難かが伺い得る。しかしそんなこと関係ないと言わんばかりにダルメルスは鼻で笑い部下と共にその場から去って行った。
それとは入れ違う形にハーニットがお店の中へと入って来てナナエルとは違う意味で頭を手で押さえでいるモロブロンの元までやって来る。
「災難でしたね、モロブロン」
「このくらいなんともない、我が弱かっただけだ。さすが【神前】からこの世界に住んでいることだけはある。今の我とは格が違う。だがいずれは超えてみせる」
「それでこそモロブロンですね」
「少しはあの傲慢にも見習ってもらいたいものですね」
ナナエルはため息をつき店から去って行ったダルメルスを見つめる。
ここで小話を一つ
この世界で一番偉い神は主神、創造神ではない