始まり
目の前の不可視の祭壇、
地もなく天もない混沌の海のような揺蕩う世界の中央に
一つの存在が朽ち果てようとしていた
それは俗に言う神とも悪魔とも精霊と呼ばれる存在であり
そのモノを表すなら王と呼ばれる存在だった
何モノかに襲われて逃げ込んだ先救いを求めて開く深淵は
紫の直方体だった
〜〜〜
「あべし!」
そう使い古された断末魔を上げながら森の中からコンニチワからの轢き逃げアタックを猪に食らった現代人がわたしである
トラックではなかった為に異世界転生することなく足元から一回転からの頭部にダイレクトアタックをくらったで済んだ
必死に立ち上がり加害者と対面するわたし
トラックなら話し合いの余地はあるが所詮は獣
滴る血に興奮しているのかヒトに対する怒りか明らかに殺意を感じる
相互理解は不能ゆえ現代らしからぬ戦闘が始まった
こちらは柄杓にバケツそして頭部打撲にスネから出血がある
猪は怒り狂っている
種族は違えど普段から人を憎む自分と猪を重ね、一方的な友情すら感じたが所詮は獣、道理も情もなく牙が迫る
死を前に走馬灯が走る
久方ぶりに実家の墓参りに誰も予定が空いて居らず
暇人の無駄飯喰らいを引き摺り出し実家の掃除を言いつけられて数時間
掃除を済ませ墓参りに向かい帰るだけだったのに
唐突な轟音に意識が戻る
猪は前足から崩れ脇を通り過ぎ
首辺りからおびただしい血が溢れ
それでも進まんと足は空を切る
一瞬の出来事に呆然とし
変わり果てた相手の姿にただ見つめるしか無かった
後に猟友会のおかげで助かった事を知らされ
猪は実家の庭に埋めたいと希望した為そのまま頂いた
このまま忘れるのが苦しい程の生の姿に感動というより
他の人に扱われるよりという気持ちだった
流石に重いと思うがなんとか家の玄関まで来た所で足元が消えた
わたしはそのまま頭を玄関から先の穴の縁に頭をぶつけて意識を失った