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004 OUKIN

 東新宿のスーパーでは、刺し身の盛り合わせとカップ酒を買った。30代も半ばを過ぎても御一人様おひとりさまをぜっさん艶女医えんじょい中な私は、10年後もお一人様な気がしており、料理とかの家事労働はどんどん省いてしまっている。そんな私が今晩は久しぶりに美少女ゲームをプレイなさるのだ。

 (美少女ゲームといえば、女体盛り。)

 と、悪魔が少女の裸体にトロサーモンやイカソーメンやアワビなどなど何かとうねうねにょろにょろしている魚類貝類を盛り立てる様を想像する。

 「サイトウ、最低だな。」

 という、今は二児の母である腐女子仲間のスルガのツッコミが聞こえた気がした私は、

 (けっして私の患者ちゃんたちの中高生ではなく、あくまで二次元少女の方を思い浮かべつつ、だがな。)

 と、心の中で、白衣姿でポーズを決めた。

 

 ともあれ、御三家校の腐女子中学生時代からゲーム依存症を専門とする精神科医としてのキャリアを積む今に至るまで、男性のものであれ、女性のものであれ、あらゆる表層心理・深層心理に、私は好奇心ランランなのだった。そんな私が美少女ゲームをやるからには、いかにも(げへへ。)という下卑だ声を出しそうな御宅男子おたくだんしに成り切るのに限るのである。

 

 

 スーパーでは高まる期待に下卑た笑みを浮かべてしまった私だったが、家に帰ってセレクトしたのは、先日のカルテにも書いた香港のGameShowプラットホームの『OUKIN』だった。コウの治療に役立つかもしれないとか、今日のコウに共通する要素を探すとかではない。おそらくはネトゲーの『OUKIN』の方にはほとんど登場してこないであろう、栗原美里ミサト(...漢字違うかも)のことが私はなんとなく好きだったのだ。『OUKIN』の世界に転生し主人公として生きる一方で、元の世界でも彼女がもし生きていたとすれば、どんな風に生きて、大学に行って就職して、私のような年のオバサンになっていくのだろうか。

 

 そんなミサトがもし、『OUKIN』をプレイしたとすれば思うであろうこと。今宵こよいのテーマをそう定めた私は、女体盛りは、大晦日あたりに取っておくことにしてお刺し身盛り合わせを冷凍庫に突っ込んでしまった。代わりに、私は冷蔵庫に大量に突っ込まれているドイツやオランダの黒ビールたちから、デュンケルとポーターをセレクトしてゲーミングチェアに腰を落ち着けた。

 GameShowプラットホームにログインし、『OUKIN』のアカウントを取得した。なるほど、GameShow版ではバトルでホログラフィも選べるというわけね。『OUKIN』の懐かしいキャラクターの中から長身の剣士おねえさまを選択した私は、まずは空飛ぶ竜種の一種に実家の秘伝を使っての緒戦を挑みはじめた。

 

 

 早朝に目覚めた私は、炬燵こたつにくるまっていた。なぜだか、パジャマの下は穿いておらず、左の太ももが低温やけどしているのではないかと心配なくらいに暑かった。医療者としての矜持に目覚めコタツの台まで這い起きて台にひじをついた私は、炬燵の上にゲーミングノートPCと、みかんと黒ビールの缶とおっさん向けのワンカップ酒が置かれているのを目にした。どうやら冷え込む大都会での凍死を避けるために、私は炬燵に潜り込んでも黒ビールやワンカップ酒を飲みながら、『OUKIN』をプレイし続けていたらしい。一晩にしては随分とレベルが上がった『OUKIN』からログアウトした私は、ゲーミングPCのままで大学病院のアカウントにログインし、眠気覚ましを兼ねて、昨晩書くはずだったコウの面接初日のついての所見をレポートしたのだった。

 レポートのタイトルは、『希少な若年のDID併発型ゲーム依存症ゆえに、破瓜型のケースのような配慮が必要あり。』とした。要するに、初潮を迎えるお年頃の統合失調症患者と同様の配慮を行い、慎重にコウの治療戦略を立案すべしというものである。

 

 書き終えた私には、

 「やはり、サイトウ、最低だな。」

 という、今は二児の母である腐女子仲間のスルガのツッコミが再び幻聴として届いていた。

 

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