街頭演説
ぼんやりと歩いているうちに、駅まで来てしまった。人が多くて嫌いな場所だ。友達と笑いながら歩いている高校生、電話をかけてるスーツのサラリーマン、手を繋ながら歩く父と子。どいつもこいつも、キラキラしていて、憎くてたまらない。
(俺だって、あんな感じになれるはずだった。幸せになる権利があるはずなんだ。俺だって努力したんだぞ!)
イライラしてきたので、今度は全国チェーンの喫茶店に入り、コーヒーを注文した。席に座ると隣には参考書で勉強をする若者がいた。見た感じ、浪人生だろう。
(俺は現役で入ったからな。そこは俺、偉いよなぁ)
一人で悦に入りながらコーヒーをすする。
(安いくせに旨いじゃないか・・・)
店を出ると、またイライラと虚しさがこみ上げてきた。しかし、よく考えてみれば、俺はまあまあ努力はしてるんだ。高校はまあまあのところだし、大学受験だって失敗もしたが最後はちゃんと現役合格した。それでも、失敗して申し訳ないとは若干思ったから、大学では必死でやったつもりだ。結果1年留年はしたが、あの時は運悪く単位を落としただけでやろうと思えば取り返せたのだ。なのに今の俺の姿は、その努力に見合った格好をしていない。これはなぜなんだろうか。必死にやってきた結果がこれなのか?
突然、大きな声が聞こえてきた。どうやら街頭演説をしているらしい。
(近くだな・・・。暇だし、少し見てみるか)
そばまで行くと、知らないおばさんが車の上で声を張り上げている。周りでは年を取ったジジババ共が拍手していた。
「皆さん、こんにちは!共社党の森本です!」
(国会議員か・・・。上級国民だな。俺達の税金で飯食いやがって、ったく)
「応援ありがとうございます!」
(ジジババ共はこんなやつが好きなのか。所詮国会議員なんて、俺達平民のことは眼中に無いだろうに)
「皆さん、今苦しくないですか?辛くないですか?」
(なんだよ、いきなり)
「努力しても報われない、働いても生活が苦しい、そんな声が日本各地から聞こえてきます!」
(・・・・・)
「誰がそんな風にしたのか?悪いのは、あの阿部政権なんです!税金を上げ、お友達には忖度し、外交も失敗してるではありませんか!」
(政治の、せい?)
「皆さんは悪くありません!」
誰かが、そうだそうだ、と叫んだ。
「皆さん、我々共社党に力を貸して下さい!皆さんが幸せに暮らせる社会を、共に作っていきましょう!」
(・・・・・・・!)
「アブ政権をぶっ壊す!アブはヒトラーだ!アブ政権を許さない!アブガー!!!」
どこかからか、すすり泣く声が聞こえてきた。
(俺がこうなったのは、俺のせいじゃなくて、日本のせい?アブってそんな奴だったのか?)
なんだか目が覚めたような気がした。
「来週水曜日に、共社党の勉強会を行います!宜しければ、是非ともおいでください!」
俺は勉強会のチラシをふと、手に取った。