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新月の街  作者: クォーツ
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魔導書片手に異世界でバケモノ討伐

はじめまして、クォーツと言います。新月の街、楽しんでいただけると嬉しいです。

たまにグロいかもしれないので苦手な方はご注意下さい。

「ママおはよー!!」

「お母さんおはよー。」

朝の6時半から少年少女の元気な声が飛び交う四葉孤児院。住宅街から少し離れた場所にあるこの孤児院の入居者は、大多数がまだ8歳に満たない幼い子供達だ。孤児院の建物のすぐそばを澄んだ小川が流れ、綺麗に整えられた庭には今の季節にふさわしい明るい色の花が所狭しと、まるで入居している子供達の様に咲き誇っている。

そんな孤児院の中では、毎朝恒例の騒がしい朝の準備が行われていた。ある少女は寝癖のついたくせっ毛をどうにかして直そうと鏡の前で虚しい努力をし、ある少年はまだ起きてこない他の子供の分まで朝食を食べようと料理が盛り付けられた大皿に手を伸ばしている。平均年齢5〜6歳の子供達がわいわいと着替えや朝食などの朝の準備をしている中、ただ一人だけ周りとは明らかに違う人物がいた。特に小さい子供の世話に追われつつ、周りの子供たちに声をかける若い女性、この孤児院のオーナー加賀美(かがみ) (りょう)である。

「アンナ、そのくせっ毛、直してあげるから鏡を占領しないでちょうだい。ハルダメじゃないの、まだ起きてきてない他の兄弟の分まで朝ごはんを食べちゃ。」まだ30代前半の働き盛りで、かなりの美人なのに遊びたい盛りの子供達をおよそ20人育てているというたくましい女性だと近所では有名だ。


彼女は腕に抱きかかえた2歳ほどの赤ん坊をあやしながら、器用に子供達の相手をしはじめた。

「ハルナ、そこのお料理をハルにあげて。このままじゃハルに全部食べられちゃうわ。ユウキ、コウちゃんが泣いてるから、あやしてくれないかしら?はいアンナ、髪が結べたわよ。」

綾がテキパキと子供達を世話している中、一人の少女が彼女のエプロンの紐を引っ張った。

「まま。」

「あらどうしたのユキちゃん。何かあった?」

ユキと呼ばれた少女は綾のエプロンの紐を握ったまま、小さな声で話し始めた。

「まま、あのね、お姉ちゃんがね、まだ起きてきてないの。起こしてきていいかな?」

「あの子ったらまぁた起きてきてないの?全くあの子は最年長なのに。ユキちゃん、悪いけど起こしてきてくれる? だからハル、それはお姉ちゃんの分だから食べちゃダメなんだって。」

「はぁい、まま。」 「え〜お腹すいたよ〜!」


食欲旺盛な血の繋がっていない兄を残し、ユキは階段を上って二階に向かった。もう他の兄弟姉妹の姿はなく、子供部屋はがらんとしてしまっている。ユキは迷うことなくその階の突き当たりの部屋に入って行った。

部屋の中には落ち着いた色合いで統一された学習机と椅子とベッドが置かれ、机の上にはアルバムと薬が無造作に置かれている。部屋に入ってすぐに見える、レースのカーテンがかかった四角い窓からは春の太陽の穏やかな光が射し込んでおり、薄暗い部屋の中をわずかに照らし出していた。そのベッドの中には、ユキが「お姉ちゃん」と呼んで慕っている少女がいる。

「お姉ちゃん、朝だよ。起きて。」

そう言ってゆさゆさと体を揺さぶると、布団の中から「○×%#¥=☆♪8・÷:」

という謎の言語が返ってきた。一瞬呆気にとられたものの、ユキは諦めない。

「お姉ちゃん朝だよ。あーさーだーよー!!起きて!ご飯無くなっちゃうから!ねえお姉ちゃんってば!」

「分かった分かった、起きるから……。」

「あ、お姉ちゃんそこ((ry」

ユキがそこベッドじゃない、と言おうとした時にはすでに「お姉ちゃん」はベッドから転げ落ちていた。

「でっひゃァァァ」

「ベッドじゃないから気をつけてね。」

「遅いって……」

したたかに頭をぶつけた彼女は腕だけをベッドにあげてぼやき、そのまま何かを探すように腕を動かした。

「ユキちゃん、私の杖どこにある?」

「あ、はいこれ。お姉ちゃんの」

「あーあった。ありがとう。ついでに起こしてもらってもいい?」

「うん!!」

「ありがとう。やっぱり早起きはするべきだ。一人じゃ何もできないね、ユキちゃん。」

ユキに腕を引っ張られて起き上がった少女は両手でユキの顔を挟み込んで笑った。


少女の名前は雪宮(ゆきみや) 新月(しんげつ)。歳は今年で17歳で、この四葉孤児院の最年長である。幼い頃に交通事故に遭い、そこで両親と自身の右目を失ってしまった。事故の後遺症で自由に歩くことも出来ないうえに体が弱く、孤児院の外に出ることはほとんどない。あまり日光に当たらない彼女の肌の色は抜けるように白く、触れれば壊れてしまいそうな程、どこもかしこも細い。腰まで届く長い髪は真っ白で、流水の如く美しい輝きを放っていた。目は昔は黒かったが、事故に遭ってからはなぜか青くなってしまった。ユキはそんな新月の手をとって引っ張った。

「お姉ちゃん、行こ。みんなご飯食べてるよ。」

「そうだね。行こっか。」


新月が食堂へ降りていくと、ハルやアンナといったやんちゃ盛りの子供達が群がってきた。

「お姉ちゃんおはよー!」

「おはようハル。」

「ねーねー、お姉ちゃんの朝ごはんちょっとだけちょうだい!全然足りないの!」

「分かった分かった。好きなの持ってって。」

「お姉ちゃんみてみて!ママにやってもらったの!」

「へぇ、アンナにぴったりだ。似合ってるよ。」

「お姉ちゃん後で一緒にお外行こう!」

「そうそう、一緒に行こう!」

「ハル、コウ、私はお外に行けないんだよ。覚えてるかな、確か一週間前にも同じような事言ったはずだけど。」

群がってきた子供達と新月が会話しているところへ洗濯物の山を持った綾がやって来た。

「おはよう新月。今日はお医者さんが来てくれる予定だから、早めに食べてちゃんと準備してね。」

ベランダに出た綾は洗濯物を干しながらそう言って、新月はその言葉に飲んでいたホットミルクを吹き出した。

「え、医者って誰?聞いてない。」

「ちゃんと言ったわよ。あなた眠そうだったから聞いてなかったんじゃないの?ほらほらみんな、新月お姉ちゃんはゆっくりしか動けないんだからそんなにくっつかないの!…あら、男子用のズボン、2枚足りないわね。ユキちゃん、ちょっと取って来てくれる?新月、朝ごはんの後片付け、お願いね。」

「私の話は無視かい。まぁいいか。」


もともと少食の新月はさっさと朝食をとり、後片付けを済ませた。

しかし、朝食を済ませた後、新月にはやる事などない。普段であれば学校に行くところだが、あいにく今日は休みだ。というか、今は春休み中なのでそもそも学校自体がやっていない。午前中に、妹弟と一緒に撮りためているアニメでも消化しようか、なんて考えていると、玄関で呼び鈴が鳴り、新月は飛び上がった。

驚きのあまり心臓が止まりかけた。

「考え事してる時にいきなりチャイム鳴らすなよまったく…おかあさーん、誰か来たよ〜。」

呼びかけてみるものの、返事はない。またチャイムが鳴った。

「お母さん?ねぇ、お母さんってば。」

声を大きくしてみても、やっぱり返事は返ってこない。おっかしいな、別にどこかに行くとは言ってなかったはずなんだけど。私の声が聞こえてないのか?自由に動き回れないからあんまり歩きたくなかったけど、仕方ない。てか、チャイムうるさい。

「…私が出るしかないのか…」

思い通りにならない体を叱りつけ、かつんかつんと杖の音を響かせながらゆっくり玄関に向かった。

「はいはい今開けるから。ちょっと待ってって。」

苛立ったように何度も何度も鳴り響くチャイムの音。流石に腹立ってきた。怒鳴りつけてやろうか。そう思った彼女は勢いよく扉を開け、しつこい来訪者を怒鳴りつけた。

ー怒鳴りつける為に開いた口は、唐突に閉じられた。

「「それ」は、私の目の前にいた。」





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