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ぶっ殺す探偵  作者: てこ/ひかり
幕間
20/22

研究日誌②

・2010年7月17日に施行された、改正臓器移植法。これにより本人の意思が不明な場合でも、家族の同意があれば臓器提供をできるようになった。



・心臓移植は日本では1999年に初めて実施された。2010年の7月までは年間0〜10件程度だった手術回数も、改正により2016年には50件を超えた。



・さらに人工心臓などの開発、改良により今度も移植手術はさらに発展していくことだろう。それでも、現在の心臓移植の平均待機日数は約3年はかかるのが現状だ。



・最長では約15年(5623日)というものもある。手術のチャンスなど、あるはずもなかった。そもそも移植が実施可能な施設は限られているのである。そうしているうちに、私は日々の業務に忙殺され、学生時代にノートの切れ端に描いた『夢物語』を忘れていった。



・五月某日。



・突然その『チャンス』が巡ってきた。先日から日本中を賑わせていた殺人事件の犯人が、私の病院に緊急搬送されてきたのだ。殺人犯の少年は、銃撃を受け出血多量の脳死状態だった。一緒に担ぎ込まれてきた少年の姉は、心臓を一突きされて瀕死の状態であった。予断を許さない状況である。そして、これほど好都合な状況もなかった。私の中で、忘れかけていた黒い”何か”が、むくりと鎌首をもたげた。



・言い訳にしかならないが、私も決して自分の『夢物語』を丸ごと信じていた訳ではない。臓器提供による記憶の受け渡しなんて何の科学的根拠もないし、そもそも人為的にどうこう出来る技術もない。全てはただの『空論』に過ぎず、成功するはずはない。そして、自分にそう言い聞かせることで、私は私の中の倫理観をゆっくりと溶かして行った。



・私は二人の家族に「悲劇を終わらせましょう」と話した。当然二人の両親は、娘だけでも助かるなら、と私に手術を哀願した。臓器提供に必要なのは家族の同意である。記録に残すつもりのない非公式な手術ではあるが、同意を得ることで、私自身の良心の呵責を少しでも減らそうとした。そして私は、微かに震える指で、脳死した殺人犯の少年の体にメスを入れた。それが、新たな『悲劇』の始まりになるとも知らずに……。

第八条


規定により死体から臓器を摘出するに当たっては、礼意を失わないよう特に注意しなければならない。


(引用元:臓器の移植に関する法律)

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