60話 育毛剤からの崩れゆく日常
いつもは20時に投稿してますが、深夜にメンテナンスが入るらしいので、その前に読んでもらえるように少し早めに投稿しました。
当初はこの話で5章を終わらせるつもりでしたが、もう1話書きます。
なので、次回が5章のラストです。
どうもこんにちは、モーリンです。
今夜はちくわハウスで女子会ですよー。
私は普段なら外で休むのですけど、あのコーヒーゼリーのお化けから、魔力をちゅうちゅう吸ったおかげで、土から養分をもらわなくても足りるくらいに元気ハツラツでしたので、久しぶりにちくわハウスにお泊まりしました。
するとぺルルちゃんとフラスケちゃんも一緒にちくわハウスに入って来たので、そのままみんなでキャッキャうふふと女子会に突入したんですよ。
正直な所、ちくわハウスは小さいので、普通ならこの人数は多いのですが、私とちくわちゃんはコンパクトサイズですし、ぺルルちゃんは超コンパクトサイズです。
フラスケちゃんは浮いているので居場所に困りませんし、そもそも実体が無いので狭くても問題ありません。
一般的な成人女性のサイズなのはセレブお嬢さんだけなので、意外と狭くは感じませんでしたよ。
みんなでワイワイとお菓子を食べながらお茶を飲みました。
その時に本人が言ったのですが、フラスケちゃんは私と同じで、物を食べることはできるのですが、味はわからないそうです。
ですが、それでも楽しそうにしていましたし、私にいたっては食べ物の味がわからない上に会話もできないので、そもそも参加する意味があるのか? とかも思っちゃいますが、みんな一緒にいて、それだけで楽しいのですからそれでいいですよね?
夜も更けて来て、そろそろ寝る時間かなー? とも思ったんですが、その前に……
女だらけのお泊まり会といえば、みんなでお風呂でサービスシーン!
……っというのがお約束ですが、ちくわハウスにはお風呂がありませんし、そもそも私・ぺルルちゃん・フラスケちゃんは汗や垢が出ませんから、あまりお風呂に入る必要はないです。
……いえ、女の子として『お風呂に入らない』と堂々と言うのはどうなのか? という気持ちもあるんですけどね。
でもまあ事実ですので、私たち3人はパスして、ちくわちゃんとセレブお嬢さんが1人ずつ順番に、サッと水浴びして終わりという呆気ない入浴タイムは終わりました。
……おっと、今は冬ですから、体が濡れていては風邪を引きますよ?
と思ってたら、任せて! っと言ってぺルルちゃんが魔法を使うと、2人の体の表面の水分が集まって、1つの水の玉になって排水口の方にふよふよ飛んで行きました。
……これって、ぺルルちゃんが魔法で動かしてるんですよね?
水が自分の意思で排水口に向かって行っているわけではないですよね?
……便利は便利ですが、ちょっとシュールな光景でしたねー。
さて、寝る時間になりましたね。
ベッドでのポジションは、私が真ん中に寝て、右手側にちくわちゃん。 左手側にセレブお嬢さんがいて、私を挟むように寝ています。
ぺルルちゃんは私の胸の上で横になっています。
『体が真っ直ぐ伸ばせて寝やすいわね』って感想をいただきましたが、それは私の胸が真っ直ぐ平らだということですかね?
いやー、返す言葉もありませんねー。
そしてフラスケちゃんは、天井に張り付いて下を向いて寝っ転がって……
はて? これは『寝っ転がる』と表現していいんですかね? 仰向けになった私と、天井から下を向いているフラスケちゃんの目が合っています。
ふむふむ、重力の影響を受けないフラスケちゃんならではの寝かたですねー。
私もフラスケちゃんも眠らなくていいですし、まばたきもしなくてもいいので、結局朝が来るまでの間ぶっ通しでにらめっこしていました。
いえ、何か私から目を反らしたら悪いような気がしちゃったんですよね。
で、気づくと日が昇っていました。
あっ、皆さんも目を覚ましたようです。 おはようございまーす。
良い朝ですね。 すなわちグッドモーニングです。
お友達と同じ部屋で寝て、同じ部屋で起きて、朝からみんな一緒というのは嬉しいですね。
なんだか修学旅行を思い出しますよ。
……いいですねー、こう言うの。
これからもこんな生活がずっと続けば素敵ですよねー。
おっと、いけませんね。 こう言うフラグっぽいことを考えていると、いつも何か起こってしまうので、あんまり余計な事は考えないように……
……おや? フラスケちゃん、ぼんやり光ってませんか?
フラスケちゃんの体が、ホタルのように光っています。
最初はフラスケちゃんも自分に何が起きているのか、よくわかっていないようでしたが、少しすると、何か納得したような顔をして、寂しそうな顔で言いました。
「おかあさん、ごめんなさい。 アナベルが呼んでるの。 行ってくるね?
きっと、きっと、また来るから」
そう言ったフラスケちゃんは、そのままスゥっと消えてしまいました。
フラスケちゃん!? どどど……! どこへ行ったんですかー!?
ちくわちゃんもフラスケちゃんを探しているのか、辺りをキョロキョロ見回しています。
そしてフラスケちゃんの姿が見えないセレブお嬢さんは状況がわからずに不思議そうにしています。
そんな中、1人冷静なぺルルちゃんが私に言いました。
「落ち着きなさい。 姿が見えない私も、あの子の魔力が消えたのは感じたわ。
多分、あの子が姿を消したのよね? リン、あの子は去り際に精霊語で何か言っていなかった?」
そ、そういえば何か言ってましたね? え~っと確か……
アナベベ・ヨンデル・イッテクル・マタクル・イッテタ
「そう……。 じゃあ多分、契約者から召喚されたのね。 あの子の本体は別の場所にあるんでしょうから、その本体のある場所に召喚するのは難しくないわ。
だからアナベベが…… ん? アナベベ? ……ねえ、本当にアナベベって言ってた? 多分アナベルの間違いだと思うんだけど」
んー、言われて見ればそんな気もしますね?
……うん、確かにアナベルだったかもしれません。
「まあそれはいいわ。 とにかく召喚魔法で呼び出されて、本人もまた来るって言っているなら、多分アナベル…… あのフードのエルフの所に帰っただけだと思うわ。
……あの男が何かを企んでいるかも? って心配はあるけどね」
あっ、アナベルって、あのフードさんのお名前でしたか。
あ~、良かったです。 怪我をした状態でお別れしたので心配してたんですが、召喚魔法とやらを使ったということは、魔法が使えるくらいには元気になったと言うことですね?
うん、アナベル…… あれ? アナベベでしたっけ? はて、どっちでしたかね?
んー、まあ今まで通り、フードさんでいいですよね?
そのフードさんの所に帰っただけならフラスケちゃんも危ないことは無いでしょう。
急なお別れは寂しいですけど、フードさんだってきっと寂しくてフラスケちゃんを呼んだんでしょうから仕方ないですよね。
ぺルルちゃんが、フードさんが何か企んでいないか心配しているようですが、フードさんはそんな人では無いと思いますよ? というかいい人か悪い人かは、目を見ればわかりますよ。
……おや? そう言えば私はフードさんの目を見た記憶がありませんね?
いっつも深くフードを被ってますし、一度だけお顔を拝見しましたが、至近距離から目を合わせるのは照れくさいので、ちゃんと目を見ませんでした。
んー…… でも、フードさんはいい人ですよね、多分、きっと。
「何を1人でコクコク頷いているか分からないけど、今、妖精界から急な連絡が来たから、ちょっと行ってくるわね。
……うーん、ディアモン様が自らアナベルの所へ行くって言ってたから、その件で何かあるのかしらね?」
ぺルルちゃんはそう言ってピカッと転移しました。
更にしばらくすると、ワイルド商人さんと係長さんが現れて、セレブお嬢さんを連れて行きました。 そのメンバーを見た感じ、多分、商売の話か村の工事の話ですかね?
お仕事ご苦労様です。
フラスケちゃんに続いてぺルルちゃんとセレブお嬢さんまでどこかへ行ったので、ちくわちゃんが寂しそうな顔をしていますね。 ほらほら、私がいますよー。
私はちくわちゃんを抱き締めて頭を撫でてあげました。
みんな出かけてしまったのは少し寂しいですけど、考え方を変えて、久しぶりにちくわちゃんと2人きりで親睦を深める機会だと思いましょうか。
ちくわちゃんを愛でている内に誰か帰って来るでしょう。 なでなで。
……焦りました。 かなり本気で焦りました。
……激しくなでなでし過ぎて、ちくわちゃんの髪の毛が抜けました。
いえ、もちろん明らかにハゲてしまうような抜けかたではありませんが、ブラシで髪をとかしてからそのブラシを見ると、ほわぁ!? ってくらいに髪が抜けてる事がたまにありますよね?
それを3割り増ししたくらいの抜けっぷりでした。
手裏剣を投げる忍者と、COOLなスクラッチを決めるクラブDJをブレンドしたようなゴキゲンな手つきでなでなでしたのが不味かったようですね……。
とりあえず抜けたちくわちゃんの髪の毛は、本人にバレないように吸収して証拠隠滅しました。
んー、コソコソと隠れてちくわちゃんの髪の毛を吸収していると、なんだか変態さんにクラスチェンジした気分ですが、深くは考えないようにしましょうか。
それより、まずは根本的な解決法を考えましょうか。
なにかアイデアはないかと、頭をカラカラと回転させていると、ミカンの皮から育毛剤が作れるという話を思い出したので、私は急いでミカンを創りました。
もちろん育毛効果のUPを祈りながら創りましたよ?
とりあえず使うのは皮なので、実はちくわちゃんにあげました。
嬉しそうに食べているちくわちゃんは、自分の髪の在庫が品薄になっている事に気づいていません。
うう…… その笑顔が胸に刺さります…… 早く髪の在庫を補充してあげなくては。
私はミカンの皮をモミモミして、その汁を塗り込むように頭を撫でてあげました。
当然、これ以上髪が抜けてはいけないので、優しい手つきを心がけます。
おおぅ…… 目で見てわかるくらいのスピードで髪が生えてきますねー。
これは、薄毛に悩んでる人は大金を払ってでも欲しがりそうです。 トラブルの予感がするのであんまりおおっぴらにしない方がよさそうですね。
ちくわちゃんの頭の砂漠化を食い止めてほっとしたタイミングで、ぺルルちゃんが帰って来ました。
おや? いつも、早くても半日くらいかかるのに、今日は早いですね?
「ただいま。 ……ねえ、ディアモン様がリンに仕事を頼みたいそうなんだけど、聞いてもらっていいかしら?」
ふむ。 ディアえもんからのお仕事ですか? 問題ありませんよ。
シゴト?・OK・OK・マカシトキー
「ありがとう。 じゃあ説明するわね? ジャッドがアナベルに渡した悪い魔力の玉は、まだたくさんあるはずなんだけど、回収しに行く予定だったディアモン様がゴタゴタで行けなくなったらしいのよ。
だから私とリンで回収に向かって欲しいんだって」
ああ…… なるほど、あれを放っておいたら危ないですよね。 小さなお子さんが大きな黒あめと間違えて食べちゃったりしたら困りますし。
私はOKなのですが、村の外に行くのなら、村の皆さんに一言伝えておくべきですよね?
うむむ、会話のできない私は、そこが結構な難関なのですが…… まあ、どうにかなりますよね。 じゃあ早速デリバリー爺さんか係長さん辺りにお話しを……
……おおぅっ!?
外出許可を取るため、村へと向かおうとしていた私は、突然の強い光に驚いて足を止めました。
なんかぺルルちゃんの腕輪が点滅しています! めっちゃチカチカしてます!
何事ですかー!?
「えっ!? これが反応したって事は、あの魔力が使われたってこと!? でも、この大きな反応は…… まさか残ってたのを全部!?
……っ!? またディアモン様が呼んでる!? ちょっ……ちょっと行ってくるわね!」
そう言ってまた転移したぺルルちゃんの様子は、かなり深刻な感じでした。
……今、残りの魔力が全部使われた的な事を言ってませんでしたか?
今まで、1個ずつでも結構なトラブルになってた記憶があるんですが……。
……待って下さいよ? その魔力はフードさんが持っていたんですよね? そして、フラスケちゃんはフードさんの所に召喚されたはずです。
……じゃあフードさんとフラスケちゃんは、今、トラブルが起きているであろう場所にいるということですか!?
……だっ……大丈夫ですよね? 無事ですよね!?
フードさんもフラスケちゃんも、危ない事になってませんよね!?
その時、光と共にぺルルちゃんが帰ってきました。
……そして、青ざめて固くなった表情で、その言葉を呟きました。
「……エルフの住む森が壊滅した。 ……被害はまだ広がり続けているわ」
私は、自分を取り巻く平和な日常が、足元から崩れて行くのを感じました。
次回、アナベルとフラスケ側で何が起きたのかを書いて、5章終了にしようと思っています。
次回投稿は2日後の予定です。