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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
5章ですよ わ……私がお母さんですか!? お姉ちゃんではダメですか?
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59話 サイボーグ精霊からの妖精界のゴタゴタ

現在、1話目から見直しています。

少しセリフや表現を変える事はあるかもしれませんが、基本的には誤字脱字・改行・句読点のチェックだけのつもりなので、ストーリーに変化はありません。

とある荒野…… 大きな岩が並ぶその場所に、1つの人影が立っていた。


 「うう…… くそっ! なんで…… なんでだよっ!」


 その人影…… アナベルは、悔しさをぶつけるように目の前の岩を殴りつけた。

 アナベルは、魔導師としての腕は確かだが肉体的には常人の枠を越えていない。 素手で岩を殴れば当然その拳には血が滲むが、彼はそんな事は気にもせず、感情に任せて2度3度と続けて岩を殴りつける。


 「僕は勇者だっ! 勇者じゃなくちゃあいけないんだ! なのに……なのに!

 なんでこんなに上手く行かないのさ!? なんでこんなに失敗ばかりなのさ!?」


 アナベルは叫んだ。 子供の様に叫んだ。


 「僕に浄化魔法の知識があれば、あの子が浄化を失敗したとき、アドバイスくらいはできたはずだ! それに、あの時に現れた黒い化物も、僕がもっと強ければ1人で倒せた!」


 怒りをぶつけるように…… あるいは懺悔(ざんげ)をするように、言葉を吐き出し続ける。


 「ジャッドを自分1人で守りきる事ができなかった! あの危険な妖精たちには捕まらないで済んだけど、結局ジャッドは連れ戻されてしまった!」


 やがて、悲しみと悔しさの色を浮かべていたアナベルの目に強い光が宿る。

 ……だが、それは前向きな心の強さを感じさせるものではなく、危うい狂気を(はら)んだ、妖しい光であった。


 「僕に力が無かったからだ…… 力が無いから勇者になれないんだ……。

 力だ…… チカラ、チカラッ! 力だよっ! 力があれば勇者になれる!

 勇者になれば、きっと何もかもが上手く行くようになるんだ!」


 次の瞬間、アナベルは微笑んだ。

 その表情はとても穏やかだが、なぜかその顔は先ほどまでの大声で叫んでいた時よりも不穏な気配を感じるものであった。 


 「まだ、僕とあの子が一気に強くなる手段はある! ……早く里へ帰ろう。

 きっと妖精達は、あの魔力を回収しに来るはずだ。 あれがなければ、あの手段が使えなくなってしまう!

 少しでも早く計画を実行しないといけないね…… ならっ!」


 アナベルは、首飾りにして下げていた小さな宝石を口に含むと、それを噛み砕く。

 バキン! と硬い物が砕ける音が響くと共に、アナベルの体を光が包んだ。


 次の瞬間アナベルが周りを見渡すと、そこはエルフの聖域にある、深緑の民の里…… 彼の故郷であった。


 アナベルが使ったのは、転移魔法が込められた使い捨ての魔導具である。

  使い捨てとはいえ、転移魔法が使用できる魔導具など市場に出回るようなものではなく、エルフ族が栄華を誇っていた時代の遺産として、少数だけ里に残っていた物だ。


 言うまでもなくとても貴重なものだが、アナベルは、躊躇(ちゅうちょ)なくそれを使った。

 彼にとって今こそが全て賭けるべき、勝負の時なのだ。


 アナベルは、里の者の立ち入りを禁じている、自分だけの花畑の奥へと足を進めた。

 

 「……さあ、始めようか。 邪魔が来ないうちに終わらせないとね」





 ーーーーーー モーリン視点



 どうもこんにちは、モーリンです。


 あれからしばらくして、フラスケちゃんもかなり回復したので、一度村に帰りました。

 今はフラスケちゃんは、ちくわちゃんとセレブお嬢さんと3人で、お手玉みたいな物で遊んでいます。 うん、微笑ましいですねー。 


 で、私はぺルルちゃんからお話を聞いています。

 妖精界で、本を読んだり詳しい人からお話を聞いたりして調べた決定、フラスケちゃんについて色々とわかったようですよ。


 「私が調べた事と、ジャッドから聞いた事とを合わせて考えると…… あの子はおそらく人工精霊だと思う。 大雑把に説明すると、植物や石や水なんかの自然物に強い魔力が宿って魂が生まれたのが普通の精霊だとすると、自然物に人の手で魔力と魂を宿らせたものが人工精霊よ。

 ……ジャッドがあのエルフに出会った時にはすでにあの子は居たみたいだから、生み出された時の事はよくわからないらしいけどね」


 人工精霊…… 精霊のサイボーグみたいな感じでしょうか? 格好いいです!

 ロマンですよねー、サイボーグ。 加速装置とかついてるんでしょうか?


 「……な、なんで目をキラキラさせてるの? リンが人工精霊って存在に少しでも嫌悪感を見せたら、『生まれは違っても同じ精霊よ』って言おうかと思っていたんだけど……。

 リンが生まれの違いくらいで、この子を変な目で見ることはないとは思ってたけど、さすがに嫌悪感どころか好意的な目を向けるのは予想外だったわね」


 嫌悪感なんてとんでもない! 私の中学生時代の将来の夢はサイボーグでしたから、むしろ羨ましいくらいですよ。

 ですがロボットダンスが上手く踊れなかったので、自分にはサイボーグの素質が無いと思って諦めたんです。 懐かしいですねー。


 おっと、私の過去の挫折体験なんかどうでもいいですよね。

 それに、フラスケちゃんが人工か天然ものか、というのもどうでもいいです。

 私が知りたいのは、フラスケちゃんの食べ物や寝床はどんなのが適しているかとか、一緒に暮らすために気をつける事とか、そういう話なんですよ。


 ぺルル・フラスケ・ライフ・スタイル・is・ドナイヤネン?


 「うーん、食べ物は…… この子の本体が何なのか? とか、どんな状態なのか? とかによもるけど、ここはリンの咲かせた花がたくさんあるから、そこから出る魔力で生命維持には充分のはずよ? 睡眠もいらないわ。

 流石に個人的な好き嫌いは知らないから、そこは実際にこの子の反応を見て探って行くしかないけど、多分、感性はそれほど私たちと変わらないと思うわよ」


 ふむふむ、つまり普通の人が嬉しい事は嬉しいし、嫌がるような事は嫌がるということですね? ではあまり意識する事はないという事ですね。 了解ですよー。


 「あっ、リンの感性の方が普通とズレてるせいで判断ミスすることはあるかも?」


 なんですと!?





 ーーーーーー 妖精界のとある場所にて……



 妖精議会……。


 4つある妖精界から数人ずつ選出された議員が所属しており、別の妖精界同士の間でトラブルがあった場合や、大妖精が自分の妖精界を留守にする時に議員が相談して許可を出す……

 という事になっているが、遊び好きで飽きっぽい妖精が、そんな堅い仕事を真面目にやるはずもなく、よほど無茶苦茶な事を言わなければ、ほぼスルーされて許可が出る。


断罪妖精を派遣する許可があっさり通ったり、オベロンが自分の妖精界を留守にしてホイホイ遊びに来ることを見てもそれは明らかだろう。


 今回ディアモンは、ジャッドが持ち出した魔力をアナベルから取り戻しに行くため、妖精界を留守にするという連絡をしにここへ訪れた。

 当然、いつも通りすぐに許可がでるものだと思っていたのだが……。



 「すみませんが、現状ですぐに許可を出すわけにはいきません」


 「なんだと……? 私が担当している世界のトラブルを解決するのに、私自身が行動してはいけないとでも言うのか?」


 「いえ。 いけないとは言いませんが、手順を踏んで行動していただきたいといっているのです。

 大妖精様が直接行動をする場合は、ご本人を除いた残り3名の大妖精様の内、2名の承認を得る必要があると定められております」


 「それは、あくまでも他の大妖精が管理する世界に影響を与える可能性がある場合の話だろう!? 今回は私の管理する範囲内の話だから、適応外のはずだ!」


 いつもは内容すら聞かずに許可を出すような議員が、今回に限っては話し合いの余地すらなく不許可の一点張りだ。 その事にディアモンは違和感を感じ、眉をひそめる。

 その時、彼の背中に声をかける者が居た。


 「言っても無駄だよ。 議会にはエイワスとリュヌの手が回ってるみたいだよ。 もー、こう言うやり口は好きじゃないなー」


 その声に振り向くと、そこにいたのはオベロンだった。

 エイワスとリュヌとは、ディアモンとオベロン以外の残り2人の大妖精の名前だ。


 「あの2人が……だと? 確かにアイツらとは不仲だが、それでも今までは過剰な干渉は控えてきたというのに、断罪妖精の派遣にしろ今回にしろ、なぜ急にここまであからさまな妨害をするようになったのだ……?」


 「リュヌの所で、大妖精になれるくらいの素質のある新人が見つかったみたいだよ。

 で、キミを追い落として、その新人を後釜にしたいみたい。

 ほら、重要な決定は、4人の大妖精の内3人がの意見が一致して初めて決まるでしょ? だからキミの代わりに自分の息のかかった新人を大妖精にして過半数を味方で固める事で、ボクの決定権を無くすのが狙いみたいだよ? やる事がちっちゃいねー」


 「……権力欲か? それともオベロンへの嫉妬や恨みか? どちらにせよ下らないな。

 だが、今の状況で私の動きが封じられるのは、痛いな…… おのれ…… 私を追い落とすのではなく、直接オベロンを攻撃すればいいものを……」


 ついこぼれてしまったディアモンの本音に、オベロンは苦笑いする。


 「えー? ボクを攻撃するのは構わないっていうの? 酷い事を言うなぁ。

 でもまあ、あの2人にそんな度胸は無いと思うよ? なにせボクは強いからね」


 オベロンのセリフは決して自惚れではない。

 4人の大妖精の中で最も戦闘力が高いのはオベロンであり、更に彼は、態度は友好的だが平和主義というわけでは無く、敵対した者に対して実際にその力で制裁を加える事も珍しく無い。

 他の大妖精たちも、直接攻撃などして本気で怒らせる事は避けたいと思っているのだ。


 「普段ならそんな小物の嫌がらせなど鼻で笑い飛ばしてやるのだが、今は笑えんな。

 私が出られんとなると、あの魔力の回収をどうするか…… ジャッドではあのエルフに言いくるめられるだろうし、他の妖精では抵抗された場合に勝ち目が無い」


 「うーん、ボクが部下を貸してもいいけど、多分また手続きの段階で邪魔されると思うよ?

 僕もイライラしてきたから、そろそろ動くつもりだけど、流石に2~3日で片付く話じゃないし、急ぐならぺルルとモーリンを行かせるほうがいいんじゃない? ボクとしてもモーリンが動いたほうが見てて面白いし」


 オベロンのその提案に、ディアモンは眉間にシワを寄せて考えこむ。


 「だが彼女は私の部下というわけではない。 そう何度も面倒な事に巻き込む訳にも…… いや、だが、確かに他に丁度いい人選は……。

 ううむ仕方ない、彼女に頼るしかない……か……」


 部下ではなく、あくまで協力者であるはずのモーリンに頼り過ぎることを申し訳なく思うディアモンは、いずれ礼をしなくては……っと思い、自分がしてやれる事は何かと考えていた。

次の投稿も2日後の予定です。


多分、次かその次で5章が終わります。

そして次の章が終章です。 終章は短めにする予定なので本編完結も遠くないと思います。

最後まで読んでいただければ幸いです。

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