表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
5章ですよ わ……私がお母さんですか!? お姉ちゃんではダメですか?
93/151

56.5話A 招かれざる客

フリージア視点です。

タイトルには56.5話とありますが、内容的には55話の部分です。

私は、トレニアと新しく友達になった精霊と3人でお喋りしていた。

 トレニアはこの精霊の姿は見えないけど、意識を集中していれば声はなんとか聞き取れるみたいだから、お喋りだけならできる。

 みんなでお喋りしてるだけでも充分に楽しくて嬉しいな。


 でも、モーリンを基準にしてたから、精霊はあんまり喋っちゃいけないルールとかがあるのかと思っていたんだけど、この精霊は普通に喋ってるね。

 でもこの子も自分以外の精霊のことを知らないって言ってたから、この子が精霊のルールを知らないだけって可能性もあるのかな?


 まあいいや、大切なのは今お話しができていて、それがとても楽しいってことだよね。

 ……モーリンやあの妖精も一緒にお話しできればもっと嬉しいんだけど。


 モーリンは私たちがお話ししているのを見守るように眺めている。 いつも通り無表情だけど、楽しそうにしてるのはわかるよ。

 私もたくさんの友達が一緒にいてくれて嬉しいな。 妖精が出かけてるのは残念だけど、あの子もそろそろ帰ってくる頃だと思うし、そしたら今日はにぎやかな1日になりそう。



 ……でも、その楽しい時間に邪魔が入った。



 「あっ! アナベルとジャッドだ!」


 精霊の子が、横を向いてそう言った。 アナベル? ジャッド? ……誰?

 私とトレニアもそっちを振り向くと、フードを被った人がいて、そのそばには妖精の男の子が飛んでいた。


 むぅ……ここは、私とモーリンの庭だから、あんまり知らない人に入って欲しくないなぁ。 でもこの人、妖精を連れてるなんて、ただの旅人じゃあなさそうだよね?

 変な事をしないかぎり、追い払うのは止めておいたほうがいいかな?

 ……個人的には今すぐ帰ってほしいけど。


 そのフード男は、モーリンを見ると嬉しそうに声をあげた。


 「やっと会えたね、僕の精霊姫様! 僕はアナベル、貴女の伴侶になる者だ! さあ、僕と共に行こうか!!」


 ……はっ? ふざけてるの?

 突然現れて、なに寝言を言ってるの? モーリンの伴侶は私だよ?

 むぅ…… こんなひどい寝言を言うって事は、きっと眠いんだよね? じゃあ私が眠らせてあげよう。 うん、そうしよう。

 ……もうずっと起きなくてもいいんだよ?


 私は杖を握る手に、力と殺意と魔力と殺意と殺意を込めた。

 横目でチラリとトレニアを見ると、スゴい顔でフードの男を睨んでいた。 うん、気持ちは同じみたいだね。 私とトレニアはアナベルとかいう名前のフードの男をぐっすりと眠らせてあげるために近づこうとしたんだけど、そこでモーリンが私とアナベルの間に入って来た。


 ……多分、ケンカはダメだって言ってるんだと思う。

 むぅ…… 私はケンカじゃなくて、ゆっくり眠らせてあげようとしているだけなんだけど、でもモーリンがやめてって言うならやめておこうかな……。


 そう思いかけた時だった。 

 アナベルがモーリンの手を取って、その手の甲に……キスをした。


 死 ね !  い ま す ぐ に 死 ね !


 私は即座に飛びかかって、その罪人アナベルの顔面を殴りつけた。

 普通の人なら頭が潰れるくらいの力で殴ったけど、顔面に当たる前に何かにぶつかったせいで威力が減っちゃったみたい。

 足下を見ると、氷の破片が散らばっている。 むぅ…… これに当たったの?


 「……痛いなぁ。 僕の氷壁を叩き割った攻撃力には感心するけど…… この僕を殴るなんて、あまりに無礼じゃないかい?」


 アナベルは立ち上がりながら文句を言ったけど、文句を言いたいのは私の方だ!!


「むぅ……!! 無礼はそっちだ! モーリンにキスしていいのは私だけなんだよ! そんな無礼な唇はむしり取って、傷口に塩をすりこんであげようか?」


 「……フリージアさん、凄い事を言いますわね……。 聞いただけで私まで唇が痛くなってきましたわ」 


 私の言葉を聞いたトレニアはそんな言葉を言ったけど、私に言わせれば優しい処分だと思う。

 モーリン本人が怒ってないみたいだから、これでもまだオマケしてあげているんだよ?


 「口の利き方に気を付けるんだね。 僕は原初のエルフの血を引く真のエルフだよ。 森を捨てた半端者の若草の民が生意気を言える相手だと思っているのかい?」


 原初のエルフの子孫なの!? アナベルのその言葉に、私は衝撃を受けた。


 「むぅ…… 子供の頃からお話で聞いていた、あの原初のエルフの子孫が、女の子に突然キスするような変質者だったなんて…… がっかり……」


 「……変質者とは言ってくれるじゃないか! 自分でその生意気な言葉を止められないと言うなら、僕がこの手で黙らせてやってもいいんだぞ!?」



 アナベルの喋り方がさっきより乱暴になってきた。 でも、私も仲良くする気はないから、どんな喋り方をされてももうどうでもいいや。



 「やめて! なんでケンカするの? 仲良くしようよ!」

 「そうだよ。 仲良しの方が楽しいよ?」


 精霊の子と、アナベルと一緒にいた妖精の男の子が仲良くしようと言ってくる。

 うん、私も君たちとは仲良くしたいな。

 ……でもアナベルはダメだ。 コイツは敵だ。


 私はもう一度アナベルを睨み付けた。

 フードで顔はよく見えないけど、多分、あっちも私を睨んでいると思う。



 「そこまでだ! 双方、落ち着け!」


 この声は……兄さん?

 私が声の方向を振り向くと、そこには兄さんを先頭にして、長老とヒースさんも駆けつけていた。

 

 兄さんはその後も言葉を続ける。 ……いつもより力を入れてお腹から出したような声だ。 これは、みんなを守る戦士としての喋り方だよね。 久しぶりに聞いたな。


 「そこの男は深緑の民と見た。 エルフの血を引く同胞として歓迎したい気持ちはあるが、村に無用な争いを持ち込むのなら、迎え入れることはできんぞ!」


 兄さんの言葉に対して、アナベルはフンと鼻で笑ってから答える。


 「僕は、精霊姫様を迎えに来ただけさ。 その用事が済めばすぐに帰るつもりだから、その子が変に噛み付いて来なければ争いになんかならないよ」


 「モーリンを連れて行くって言うなら、争いになるのは当たり前でしょ!?」



 「アナベル…… ここの人たちは、おかあさんを連れていってほしくないみたいだよ? 連れていくのはやめて、私たちの方がここに住んだらダメなの?」


 「そうだよ、無理に友達とお別れさせたら可哀想だよ」


 精霊と妖精がアナベルに、そんな意見を言った。 ……うん。 やっぱりこの子たちは良い子だよね。 なんでアナベルなんかと一緒に居るんだろう?


 その2人に、アナベルは、なんか気持ち悪い笑顔になって語りかけた。


 「精霊姫様と言えば、伝説に語られるほどの存在だよ? 正統なエルフである深緑の民…… 更に言えば、その中でも最も高貴な血を引く僕しかパートナーは務まらないだろう? だから精霊姫様には聖域に来ていただく。 これは深緑の民の総意さ」



 偉そうに語るアナベルに対して、ふぅ、っとため息をついて、ヒースさんが前に出る。


 「正統なエルフ? 高貴な血? それは誰が決めたのかな? それに深緑の民の総意? そんなモノに僕らが従う理由は無いけど?

 ……自分で自分は偉いんだって言い張ったところで、他人がそんな王様ごっこに付き合って頭を下げると思っているのかい? 滑稽(こっけい)だね?」


 むぅ……ヒースさん、笑顔なのになんか迫力がある…… 怒ってるのかな?

 ヒースさんの正論に、アナベルは顔色を変えた。


 「なっ……! 君たちもエルフの血を引く者だろう!? なら、エルフの血をより色濃く引く、この僕に従う義務があるだろう!?」


 「義務? 無いけど? ……君たちの決めたルールが通用するのは、君たちの間だけだよ? それを僕らに押し付けられても、子供のわがままにしか聞こえないよ。

 あ、そもそも君はモーリン様本人の意思を確認していないよね? モーリン様は既にフリージアを巫女に選んでるから、初めから君はお呼びじゃないよ」


 「うん、私がモーリンの巫女だよ?」


 うん。 これはハッキリと主張しておくべき事だよね。



 「それはっ! それは精霊姫様が僕の存在を知らなかったから、仕方なくその子を選んだだけだろう!?

 僕が迎えに来たんだから、僕の所に来てくれるはずだ!」


 子供みたいに喚くアナベルにヒースさんは笑顔で言った。


 「……モーリン様に直接訊いてみたら?」


 それを聞いたアナベルは、バッとモーリンの方を向いて、その質問をした。


 「精霊姫様! 精霊姫様は、僕とこの子のどちらを選ぶのさ!?」



 ……モーリンは、すぐに答えなかった。

 私を選ぶと即答してくれなかったから、急に不安になって来ちゃった……


 モーリンの事は信じているけど、でも、もしかして……って考えて、頭の中で不安がぐるぐる走り回っている。 ……大丈夫だよね? 私を置いて行かないよね? モーリン……。



 その時、優しい手が伸びてきて、私の手を取りながら頭を撫でてくれた。

 ……モーリンだ。 モーリンは、まるで『心配ないよ』って言ってくれているみたいだった。


 そうだよね。 モーリンは私を置いて行ったりしないよね?


 ……良かった。 もしもモーリンが出ていくなんて言ったら、モーリンを頑丈な箱に閉じ込めて、私の家の奥に大切にしまっておかなくちゃ! っとか、私を養分として吸収してもらって、モーリンと1つになってずっと一緒にいよう! っとか、いっそ私がモーリンを食べちゃおうか? っとか考えちゃった。


 えへへ、そんなことにならなくて良かった。



 「……なんでなのさ」


 アナベルが呟いた。


 「なんで…… なんで僕を選んでくれないのさ!? 精霊姫様! ……僕がっ!! 僕こそが!! 最も優れたエルフなのに……!」


 興奮して怒鳴り出したアナベルは、私を睨み付けた。 ……フードで顔は見えないけど、今のは感覚で睨まれたってわかった。


 「そこの小さいの!! 確かフリージアとか言ったな!! ……決闘だ!

 エルフの正式な方法での決闘を申し込む! 僕こそが精霊姫様の伴侶に相応しいと、実力で証明してやるよ!」


 決闘? ……むぅ…… 決闘か。

 そんな事をしなくてもすでに私がモーリンの巫女である事は決まっているんだから、あんまり受ける意味が無い気がするなぁ。

 でも、早いうちにこの勘違い男を黙らせないと、後までネチネチ言いがかりをつけて来そうな気がするし、何より私が純粋にコイツを殴りたい。 これは決闘しちゃったほうがいいかな? 


 あ、でもモーリンは決闘とかそう言うのは嫌がりそうだよね?


 私はチラリとモーリンの反応を見た。

 するとモーリンは、いつもよりもキリッとした無表情で、ビシッて感じにアナベルを指差していた。


 ……えっ? これは、私にアナベルをやっつけろって言ってるのかな?

 だったら答えは決まっているよね! モーリンが戦えって言うなら、私は神様とだって戦うよ!


 私はその意思を伝えるように、モーリンの目を見て、コクッと頷いた。

 そして、アナベルと周りのみんなにも聞こえるようにハッキリと言った。


 「その決闘、受けたよ!」

 

 すると今まで黙って見ていた長老が、ふむ……っと呟いてから、私とアナベルの両方に語りかける。


 「エルフの古来からの決闘方法は、結界で隔離した空間内での実戦形式じゃ。

 無論、命を奪う事を推奨はしていないが、結果として死者が出る事もある危険なモノじゃぞい。 ……それを分かっていて言っているのじゃな?」


 「当然さ。 礼儀知らずにお仕置きをしながら僕の実力を精霊姫様に見てもらう事ができるんだから、とても良い手段だろう?」


 アナベルが答えた、礼儀知らずにお仕置きかぁ……それはこっちのセリフだよ?

 私も長老に答えた。


「私も分かってるよ? 手加減は苦手だから、それくらいのルールのほうがやりやすいよね」


 「……そうか、では結界の準備をするから少々待っておれ」





  それから、しばらくたった。


 あの後、村から結界を張るための魔法陣を描く人とか、効果を高める細工をする人とかが来て、戦いの舞台を整えていった。


 その準備の間も精霊と妖精のコンビは、ケンカはダメ! って言ってきた。

 

 私もケンカが好きなわけじゃないけど、アナベルがふざけた主張を取り消してくれないんだから、実力でハッキリと決着をつけなくちゃいけないんだ。

 2人ともゴメンね? 殺しちゃわないように頑張るから。


 「準備はできたぞ。 そちらの心の準備が出来ているなら中に入るといい。 2人が入った時点で結界は閉じられて、決着がつくまで出入りはできなくなる。

 ここで言う決着とは、どちらかが敗北を認めるか、気を失うか……あるいは死ぬかだ」


 兄さんがそう説明する。 ……普段なら、私が危ない事をしたら止めるであろう兄さんが、私に声をかける事もしないで淡々と喋っている。

 ……目付きを見ればわかる。 これは、私の兄さんとしての顔じゃない。

 『若草の民の筆頭戦士ムスカリ』としての顔だ。 こんな風に冷静な態度で戦いに送り出されると、一人前として見てもらってる実感を感じて少し嬉しいな。


 私は、戦いの舞台に上がった。 ほとんど同じタイミングでアナベルも上がってきた。


 私たちは、お互いに睨み合う。 そして……


 「これより、若草の民フリージアと深緑の民アナベルの決闘を行う!

 合図は俺が出させてもらうぞ。 では……  ……始め!!」


 

 兄さんの合図で、決闘が始まった。

次回は56話部分の別キャラ視点です。


次の投稿も2日後の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ