48話 燃費の改善からのぺルルの重要任務
どうもこんにちは、木です。
最近は人間の姿の方が多いんですが、やはり木の姿の方が体が楽ですね。
木の姿と言うか、厳密にはゆるキャラの姿と言うべきですが。
さて、今この姿になっているのは、久しぶりに果物を創ろうと思ったからなんですよ。
この前の旅の途中では、余力の都合で数えるほどしか創ってませんでしたが、ここの土は栄養豊富ですし、いざとなれば切り株に座れば回復も早まりますから、余力は十二分です。
セレブお嬢さんには、あの街で創ったマンゴーしか食べさせてないですから、是非とも他の果物も食べてみてほしいです。
誰にでもホイホイあげるのはやめましたけど、セレブお嬢さんはもうお友達ですから、ホイホイあげてもOKですよね?
なので、存分にホイホイしましょう。 ホ~イホイ♪
今日は…… うん。 ミカンにしましょうか。
ちくわちゃんとぺルルちゃんにも好評でしたし、確か以前ぺルルちゃんに聞いた話では、この世界にミカンは無いと言っていたので、セレブお嬢さんも初めて食べるでしょうしね。
むむむ~…… ソイヤ! はい、完成ですよー。 余力は……おや? 結構ありますね? まだ創れそうなので、一度収穫し終わってから、もう一度実らせます。
ワンモア・ソイヤ! オゥ・イエーイ、ナイス・ソイヤ!
はい、おかわりの完成です! ですが…… んー、なんか、まだ2~3回はいけそうな気がしますねー? 今日はやめておきますけど。
私は、ちくわちゃんとぺルルちゃんとセレブお嬢さんが、並んで仲良くミカンを食べているのを微笑ましい気分で見ていました。
あ、そう言えばこの前、初めてぺルルちゃんがセレブお嬢さんに姿を見せたんですよ。
ぺルルちゃんが動いたり音をたてたりする度に、青い顔でキョロキョロと周りを見回すセレブお嬢さんが気の毒になったのか、ちくわちゃんがぺルルちゃんを指差しながら、セレブお嬢さんに何かを言いました。
多分、ここに妖精さんがいますよー、安全、安心、高品質で、怖いことは無いですよー、的な事を言ったんだと思います。
ぺルルちゃんも、少し考えるような仕草をしてから、
「まあ、彼女はもう身内みたいなものだし、いつまでも顔を見せないのもちょっと失礼かもね」
と言ってから姿を現しました。
ぺルルちゃんとセレブお嬢さんは、会話は出来ませんけど波長は合うようで、わりとすぐ仲良くなりました。 今もセレブお嬢さんがぺルルちゃんの分のミカンの皮を剥いてあげたりしています。
「自分の姿を見た相手に親切にするのが妖精のマナーよ。 近くで彼女の手助けをする機会を探してみるわ」
ぺルルちゃんはそう言ってセレブお嬢さんとちくわちゃんの間を飛び回っていますが…… ふっふっふ、私にはわかってますよ? 最近ちくわちゃんとセレブお嬢さんが仲良くなってきたので、自分も仲間に入りたかったんですよねー?
ちくわちゃんとセレブお嬢さんに、左右から同時に指でツンツンされて、キャーキャー言っているぺルルちゃんは、凄く楽しそうに見えました。
セレブお嬢さんとのスキンシップを終えて一休みしていたぺルルちゃんに、私は、さっきミカンを創った時の事を質問してみました。
ぺルル・ワタシ・ミカン・ツクル・シタ・デモマダ・ムッキムキ・ワタシ・マッスル?
「いやいや、リンはマッスルとは程遠いわよ? え~っと、それは…… ミカンを創っても、まだまだ元気があるけど、自分はパワーアップしたのかな? ……っていう質問かしらね?」
おお、通じました。 流石はぺルルちゃん、安定の解読能力ですね。
「リンから感じる魔力量はそこまで劇的に増えた感じはしないから、どちらかと言うと、魔力の消費量が減ったのかもしれないわね。
ほら、この前の旅の間、回復効率の悪い人間の姿でいる時間が長かったから、自然と体が省エネに慣れたとか? あとは悪い魔力の浄化を何度かしたおかげで、魔力の扱いが巧くなった可能性もあるかしら?」
なるほど…… 人間型になってから感じていた燃費の悪さが少しは改善されたみたいですね。
村の皆さんにも果物を配りたかったんですが、最近、村の人口が一気に増えたから諦めていたんですよ。 ですが、このまま私の燃費が良くなれば、いつかは村の全員の分の果物を創れるかも知れませんね。
いえ、果物をホイホイあげないと誓った事は覚えていますよ?
ですが、お祭り的な時に配るくらいはセーフですよね?
この世界に祝日という考えがあるかどうかは知りませんけど、きっと年末年始にはお祭り的なものはあると思うんですよね。 で、ぺルルちゃんが言うには、今の季節は冬らしいので、そろそろ年末だと思います。
ですから、近々、何かしらのお祭があるんではないかと期待しているんです。
いやー、意外に思うかも知れませんが、実は私はお祭りが大好きなんですよー。
ですが、コミュニケーションが取れない私は、お祭りの企画に参加は難しいです。 と言うか、そもそもお祭りの趣旨を理解できるかも怪しいですし。
なので、せめて皆さんに美味しい果物を配ることで、お祭りに笑顔を増やすお手伝いができればなー、っと思っているんですよ。
という事で、私の今の目標の1つは、村の全員に行き渡る数の果物を創れるようになる! という事です。
まあ他にも、次のライブこそお客さんを大爆笑をさせますよー! っとかの目標もありますが。
「なに? 何かを考えているように見えるんだけど、また珍妙な事を考えているの?」
私の顔を覗き込んで、そう訊ねてくるぺルルちゃん。
『また』ってどう言う事です? 私、そんなに珍妙な事ばかり考えてるイメージですか?
心外ですねー? たまには普通な事を考える日もありますよ? それに、今、考えてた事も、そんな変な内容ではないですよね?
ぺルル・ワタシ・マッスル・クダモノ・ホウサク・ミンナ・ニッコリ・ヘン?
「……効率の良くなった魔力で果物を沢山創ってみんなを笑顔にするのが変なのか? って言ってるのよね? ……そうね、変だわ。
元々強かったリンが、さらに効率よく魔力を使えるようになったのよ? もっとスケールの大きい望みも叶えられそうなのに、真っ先に考えた魔力の使い道が『果物でみんなを笑顔にする』だってあたりが、変。
とっても変で、とっても微笑ましくて…… とってもリンらしいわ」
そう言って笑ったぺルルちゃんは、物凄く可愛かったです。 いえ、ぺルルちゃんは元々可愛いんですが、今の顔は、思わず『ムヒョ! 最高です!』と言いたくなる可愛さでした。
ぺルル・カワイイ・モエモエ・ムヒョ・サイコウ
「なっ!? いきなりなによ!? というか、ムヒョって何よ!?」
ぺルルちゃんは、顔を赤くして、「よ……用事があるから!」と言って飛んで行きました。
褒められるのに慣れてないんでしょうかね? ぺルルちゃんは褒めるとすぐに照れますねー。 そこも可愛いんですけど。
ふと思ったんですけど、ぺルルちゃんって、お姉さん気質で世話焼きのしっかり者で、ストレートに褒められると直ぐ照れるって辺り、ラブコメ漫画の、隣の家に住む幼なじみキャラっぽいですよね?
寝坊したら、部屋まで入ってきて起こしてくれて、文句を言いながらも、朝ごはんまで作ってくれそうなイメージがあります。
まあ、今の私はゆるキャラ状態なので、ラブコメ漫画というよりギャグ漫画のほうが似合いますよねー。
あっ、いえ、そもそも私は人間の姿でもラブコメからラブを抜いた感じですが。
ぺルルちゃんが突然飛び去った事に、セレブお嬢さんは驚いたようですが、ちくわちゃんが何かを説明すると、納得したように頷きました。
ぺルルちゃんが時々用事でいなくなる事を説明しているんですかね?
ですが、きっと今日は照れて気まずくなっただけだと思いますから、すぐに戻って来ると思いますけどねー。
ーーーーーぺルル視点
……ちょっと慌て過ぎたわね。
自分でもまさか、同性に可愛いって言われるだけで、こんなに照れるとは思わなかったわ。
考えたら、ディアモン様やオベロン様は外見を気にする性格ではないし、周りの妖精は子供っぽい…… と言うか、子供そのものみたいな妖精ばっかりだったから、リン以外に可愛いなんて言われた事なかったかも?
それにしても、同性を相手にちょっと意識しすぎかしら?
……もしかして、私って女の子の方が好きだとか? いやいやまさか、そんなはずは無いわ! うん、無い……わよね? きっと。
あー! やめやめっ! 考えれば考えるほどモヤモヤして来るわ。
少しその辺りを飛び回って気分転換を…… っ!?
その時、キーンと耳鳴りが鳴って、その数秒後に頭の中に声が響いた。
《ぺルルきこえるー? ディアモンさまが、おはなしあるっていってるよー》
この、のっぺりした眠そうな声は、コライユね。
それにしても妖精界から直接私に念話を飛ばして来るなんて、流石は妖精界でもトップクラスの念話の使い手って言われてるだけの事はあるわね。
……でも、恥ずかしくてその場を離れようって思って、その場しのぎの嘘のつもりで、用事があるって言ったのに、本当に妖精界に戻る用事が舞い込んでくるなんて…… たしか、日本のことわざで、嘘から出たまこと……って言ったっけ?
ちょっと今すぐリンの所には戻りにくかったから丁度良いかもね、じゃあ行きましょうか。
私は転移魔法を使って、妖精界へと飛んだ。
ーーーーーー
応接室でお会いしたディアモン様は、深刻そうな顔をしていた。
「戻りました、ぺルルです。 お呼びですか?」
「ああ、呼び出して悪いな。 座ってくれ」
ディアモン様は、顔の険しさを少し緩めて、私に着席を促した。
……良かった、とりあえず、私に対して怒っているわけじゃあないみたい。
「……ぺルル。 お前は、断罪妖精という存在を知っているか?」
「え? あ、はい。 確か、悪に堕ちて邪精となった妖精を裁く、警察官と処刑人が一緒になったような妖精でしたっけ? 陽気な妖精には珍しい、裏の仕事ですよね?」
「ああ。 そいつらがジャッドを邪精として処罰するため、派遣されて来る。
……オベロンは静観してくれていたが、他の2人の大妖精が動いたようだ。
あいつらは私の事を邪魔に思っているようだからな…… まったく、私の嫌がる事に対してだけは、実に仕事が早い」
そう言ってディアモン様は忌々しそうに顔を歪めた。
「ジャッドを邪精として処罰!? た……確かに、悪い魔力を持ち出したのは冗談で許される事じゃないですけど、断罪妖精って問答無用で処罰するんですよね? 先に事情を聞くするべきじゃあ?」
「あいつらは、私の責任問題にする事が目的なのだから、ジャッドの事情など関係ないのだろう。
ジャッドを罰する必要はあるが、かと言って問答無用で処刑や封印刑などにさせるわけにはいかん。 だが私は2人の大妖精がこれ以上介入をしないように手をうつ必要があるから、ジャッドの捜索に参加はできん。
澱んだ魔力を感知する腕輪と、妖精を捕縛できるマジックアイテムを渡す。 力ずくでもいいから、断罪妖精より先にジャッドの身柄を確保してくれ。 頼む」
私だってジャッドは知らない仲ではないし、処刑や封印刑なんかにさせたくないわ。 責任重大だけどやるしかないわね。
ジャッドが持っている悪い魔力は、まだたくさん残っているはず。 ばら蒔かれた時の事を考えると、対抗手段を持っているリンがいたほうが安心よね。
きっとリンは、私のお願いなら、迷わずに動いてくれると思う。
それが分かっているからこそ頼みにくいんだけど…… 緊急事態だし、頼んでみようかしら?
私は苦笑いした。 『対抗手段』だなんて、もっともらしい理由をつけているけど、結局は私がリンと一緒に居たいだけだって、自分でも分かっていたから。
私の脳裏に、1人の少女の顔が浮かんだ。
見ていて色々と不安になるほどにリンの事が大好きな、あのエルフの子だ。
……私も、あの子の事をどうこう言えなくなっちゃったかもね。
次回の投稿も2日後の予定です。