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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
5章ですよ わ……私がお母さんですか!? お姉ちゃんではダメですか?
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47話 ステージデビューからの無自覚のお告げ

5章開始です。

静かな森の中、1人の男の、苛立ちの強くこもった声が響いた。 


「悲しみや苦悩の高まりを感じない…… なんで……? どうして不幸が起きない!? 種は撒いたはずだ! なぜ(けが)れが広がる気配すらないんだ!?」


 取り乱し、喚くフード姿の男。

 そのすぐ後ろで突然、光が広がり、それが収まると共に、そこに少年の姿の妖精が現れた。


 「ただいま。 前にアレを置いてきた所を見てきたんだけど…… なんか知らないけど、すっかり綺麗に浄化されてたよ。 あれをやったのって、多分かなり力のある精霊だと思うんだけど、君は前に、今この大陸に力のある精霊は居ないって言ってなかったっけ?」


 妖精の少年がそう訊ねると、フードの男はクルリとそちらを振り向いて答える。

 その顔に、張り付けたようなニッコリとした満面の笑みが浮かんでいて、先程まで1人で喚き散らしていた男とは別人の様だった。


 「うん、それは間違いないはずさ。 だって精霊は僕の前に現れなかったんだ。

 強い精霊のパートナーになるべき存在は僕しかいないはずなのに、その僕の前に現れないって事は、今、この大陸に強い精霊はいないって事だろう?」


 男の、理屈とも呼べない理屈に妖精は首を傾げるが、幼い子供のように素直で善良なこの妖精は、他人の意見を批判する事はしない。 いや、そもそも他人が間違っているという考えが思い浮かばないのだ。


 「う~ん? ボクには良くわかんないけど、君がそういうなら、そうなのかな?」


 「あははっ。 ジャッドには少し難しかったかな? でも今、この辺りに強い精霊は居ないハズさ。 ……だからこそ、僕はこの子を創り出したんだからね」


 そう言って、更に笑顔を深めた男の後ろには、色とりどりの花が咲く花畑があり、そこには、うっすらと透けて見える半透明な少女が、膝を抱えて眠るように瞳を閉じたまま、フワリと宙に浮いていた。




ーーーーーーー




 どうもこんにちは、芸人です。 


 ほら、あのライブ会場らしき建物があるじゃないですか。 まだ、外側は未完成なんですけど、中は大体完成したっぽいんですよ。

 で、今日は、そこで私の初めてのライブをやることになったようです。


 なぜ、そんな事になったかを、最初からお話ししましょうか。



 今朝、突然ちくわハウスに訪ねて来たデリバリー爺さんに連れられ、ちくわちゃんと一緒にその会場に行ったら、ちくわちゃんとは別の部屋に案内されました。 

ぺルルちゃんは、ちくわちゃんの行き先が気になるようで、そっちについて行ってみるそうです。


 2人と別れた私が案内された部屋は…… んー、ステージの裏の控え室ですかね?

 そこで、少し待ってて的なジェスチャーをされたので、私はとりあえず時間つぶしとリラックスを兼ねてヨガをしていました。


 ほら、ヨガって集中していると、頭の中でインドの神様が歌ったり踊ったりを始める事がよくありますよね? 今日ももうすぐ頭の中でシヴァ神が踊りそうな雰囲気だったんですけど、そこで、ふとステージから聞き慣れた可愛い声が聞こえるのに気づきました。 おや? これはちくわちゃんの声ですよね?


  ステージとこの部屋はカーテンのような布で仕切られているのですが、わりと大雑把な仕切り方なので、カーテンに隙間があります。

 なので、私はその隙間から部屋の外の様子をチラリと確認してみました。


 おお? 観客席には、たくさん人がいますねー! おや? セレブお嬢さんもいます。 今日は朝から出掛けたと思っていたら、ここにいたんですか。


 この建物は大きいので、流石に満席ではありませんけど、村の人口から割合を考えると、かなりの人数が来てませんかね?

 多分、手が空いていた人はほとんど来てるのでは?


 ステージの上では、オシャレをしたちくわちゃんが一生懸命喋っていました。

 あっ、カジュアルな修道服みたいな服を着てますね。 あれって、今まで2~3回くらいしか着てるの見たことありませんけど、ちくわちゃんの勝負服でしょうかね?


 オシャレをして、ステージの上で客席に向けてお喋りをしている……。

 なるほど! これは、ちくわちゃんのトークショーですね?

 ちくわちゃんが、ついにアイドルデビューでしょうか? それとも女優ですか?


 そう思って見守っていたら、またデリバリー爺さんが現れて…… んー、私を呼んでます? もしかして、ステージに立てと!?


 あー、ちくわちゃんは単独トークショーをしていたのではなくて、何かの企画の司会進行をしていたんですね? なるほど、ちくわちゃんが目指しているのは、アイドルでも女優でもなくて、番組MCでしたかー。


 で、新番組『ちくわの部屋(仮)』の第1回放送のゲストが私というわけですか。

 ふむふむ、やっと状況が理解できました。



 ……という事で、冒頭に戻る感じです。


 ですがトークが出来ない私がトーク番組に出演するというのは、番組ディレクターも冒険に出ましたねー? いえ、番組ディレクターがいるかどうか知りませんが。


 んー、ですが本当にどうしますかねー? ちくわちゃんの看板番組のゲストなら、喜んで出演したいところですが、ステージに上がってから何をするべきでしょう?


 ……あっ、芸人がゲストに呼ばれた場合、登場してすぐに挨拶代わりにネタをやるってパターンもありますよね? あれで行きましょうか!


 おや?、楽器の演奏が聞こえてきましたね? これは、芸人の登場シーンに流れる、いわゆる出囃子(でばやし)というやつですね?

 それにしては、神殿で演奏されるような綺麗で壮大な曲ですが…… ああ、なるほど。

 私のようなちんちくりんが、壮大な曲に合わせて登場するというのも含めてのギャグなんですね? 了解です。 では、行きましょう! 今こそステージデビューです!



 私は、欽ちゃん走りでの登場からのカトちゃんペのコンボを繰り出しました!


 ………………


 あれぇ!? 誰も笑ってません!? えっ? なんでですか?

 欽ちゃんからのカトちゃんですよ? 面白くないですか?

 んー、日本で大流行したギャグだったんですけどねー?


 うぬぬ…… ナハナハかガチョーンにするべきでしたか……?


 ですが、ここで止まる私ではありません! このまま畳み掛けます!

 ギャグで笑わせるだけがエンターテイメントではありませんよ! 

 見ている人が楽しい気分になるショーなら、それは立派なエンターテイメントとなるのです! という事で、函館イカおどりを披露しましょう!



 大勢の観客が見守る中、演奏も無しでイカおどりを踊る私。

 聞こえるのは、私がパパンがパン! と手拍子を打つ音だけです。



 イカおどりも6ループ目に差し掛かった頃です。

 突如、観客席の上に浮いていたぺルルちゃんが泣きそうな顔で飛んで来ました。


 「もうやめてっ! 何て言うか、もう見ていられないわ!」


 うむむ…… ぺルルちゃんに、ここまで鬼気迫る勢いで訴えられちゃったら仕方ないですね~。 もう2~3ループ踊ったら、この膠着状態を打破できそうな手応えを感じたんですけどね?



 私が踊りをやめたのを見て、ちくわちゃんが何かを言って、ステージは閉幕となりました。

 次回もお楽しみに! 的な、締めの言葉を言ったんでしょうかね?



 「リン。 貴方は普段から珍妙なんだから、意識してギャグをしなくて良いわよ? 多分、貴方が意識的にしたギャグは、大多数のニーズから離れていると思うわ」


 帰り道、ぺルルちゃんがアドバイスをしてくれました。 うむむ、ニーズから離れている……ですか。 欽ちゃんカトちゃんのコンボは、少し時代を先取りし過ぎましたかね?


 「……あと、根本的な話だけど…… さっきのあれは、宗教的な儀式みたいなものだと思うわ。

 村の人達も、別にお笑いライブを期待してたわけじゃないと思うわよ?」


 もー、ぺルルちゃんってば、そんな事を言って私を騙そうとしても引っ掛かりませんよー?

 お客さんがいて、司会進行がいて、出囃子が鳴って、ステージに私が登場するんですよ? その状況を見れば、お笑い方面しか考えられないじゃないですか。


 ……優しいぺルルちゃんの事ですから、きっと、私の芸がウケなかったから、

『あれはお笑いライブじゃないんだから、ウケなくても失敗じゃないんだよ』ってフォローをしてくれているんでしょうね。

 ぺルルちゃんに、これ以上気を使わせないためにも、次のライブは必ず成功させてみせます。 大丈夫! まだまだギャグはたくさんあります!


 『ナハナハ』『ガチョーン』『アイーン』『だっふんだ』『コマネチ』

『もみじまんじゅう』『かいーの』『大阪名物ボコポコヘッド』

 『小山ゆ~えんち~』『バンザーイ、なしよ』『シェー』


 これら、『最先端のお笑い十本刀』は、まだ11個残っていますから、まさに万全の体制です!


 動画視聴サイトで勉強した成果を見せてあげます!! ……なぜか妙に再生回数の少ない動画でしたが、『爆笑! 最新ギャグ』ってタイトルだったから間違いないはずですよね?


 ちなみに4月1日にアップロードされて、1日で削除された幻の動画でした。



 「……ねえ、リン。 なんか変な事を考えてない? もうお笑いライブはやらなくていいわよ? むしろ、やったらダメよ?」



 ふふふっ、わかっていますって。

 『やるなやるな!』は『やれ!』のフリですよね? ぺルルちゃんも、私をやる気にさせるのが上手いですねー。


 さあ、ぺルルちゃんも応援してくれていますし、帰ったら、次回のライブでどのネタをどういう順番でやるか、しっかり考えておきましょう。





 ーーーーーー



 その後…… 村の主なメンバーが集まり、首を傾げていた。


 「うーむ…… 情けないが、私には、精霊様が何をしていたのか分からなかった。 皆は、精霊様の意図が理解できただろうか?」


 そう言ったのは、領主の弟で、代官としてここに派遣されている、ハルディンであった。

 その問いには、集まった皆も答えられずに互いに顔を見合せるだけだったが、その中で長老が発言した。


 「ふぅむ…… 前半の動きは分からんが、最後の踊りは、実に陽気で楽しそうな踊りじゃったから、なにか嬉しくなるような、良いことが起こるというお告げではないか? と思っておるんじゃがのう?」


 「幸運を知らせるお告げか…… であれば良いが、良い事と決め付けて気を抜き過ぎるのは危ない。 もう少し様子を見てから判断するしかあるまい」



 結局、誰もモーリンの行動の意図が理解できずに、その話し合いは終わったのだが、その次の日、ある理由でまた会議が開かれた。

 北に位置する隣国・イスベールからの移民が2人、この村に合流したいと連絡を取って来たのだ。



 「おぉ……。 隣国からわざわざ来る者が居ると言うことは、この村も有名になってきたのかのぅ? それは嬉しい話じゃ」


 「しかし、あまり急に住人が増えすぎるのもトラブルの原因になる場合がある。 ましてや隣国の民となると、無計画に受け入れていいものかは心配だな……

 それにしても、この地の更に北のイスベールから、雪山を越えてここまで来るとは予想していなかった。 北以外の、東・西・南からの移住者なら想定していたのだが……」


 「北だけは想定していなかった…… ですか……」


 それまで長老とハルディンの会話を聞いていたトレニアが会話に参加した。


 「なるほど…… 神殿でのお姉様の、あの動きの意味が理解できました。

 その方々を受け入れるべきだと(おっしゃ)っているのだと思いますわ」


 「ほほう? トレニア嬢、説明してもらっても良いかな?」


 トレニアの言葉を聞いたハルディンが興味深そうに訊ねると、彼女は説明を始めた。


 「あの時、まずお姉様は、正面を向いたまま横に歩くような動きで私たちの前に現れました。 あれはおそらく、視線と違う方向…… つまり、意識していなかった方向から目の前に現れるという意味でしょう。

 そして次に、指を2本、鼻の先に当てましたわ。 あれは、2人の人物が、すぐ鼻先の距離まで来ている、という意味です。

 そして最後の踊りが、長老の解釈通りに、嬉しくなるような良い事を意味するとすれば……」


 「なるほど。 その2人を受け入れることが、我々に取って、良い事に繋がる……という事か」



 ハルディンは、ううむ…… と唸り、そのまま目を閉じて数秒ほど考えたあと、目をカッと開いて結論を口にした。


 「よし! その2人を受け入れよう! 精霊様を中心とした街を作ると決めた我々が、その精霊様のお告げに疑いを持つわけにはいかん!」




 こうして受け入れられた2人は、それぞれ腕の良い楽器職人と酒造り職人で、その2人を中心として、モーリン村に新たな音楽と酒が生まれた。

 そしてその音楽と酒から娯楽が、更にその娯楽から観光が成長し、この地の発展に繋がっていった。


 人々はモーリンのお告げの正しさを知り、畏怖と尊敬の感情と共にこう語った。

 『モーリン様は、まるで全ての事を知っているかのようだ』

 ……だが、言うまでも無い事だが、モーリンは全てを知っているどころか、自分の一発芸がお告げだと思われている事すら知らなかった。

今日からまた2日に1回ペースで投稿するつもりです。

楽しんでいただければ幸いです。

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