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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
4章ですよ モーリン神殿? いえ、建てなくてもいいですが。
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閑話 ちくわクエスト・後日談

「モーリン!! モーリン!! ただいまー! 帰って来たよー! モーリン!!」


 村に帰って来た私は、まず、モーリンに抱きついて、体を擦り付けながら髪の中に顔を突っ込んで深呼吸した。 スーハー、スーハー。

 モーリンも、久し振りに私に会えた事を喜んでくれてるのかな? 頭のてっぺんに、ポンっと黄色い花が咲いていた。


 私はモーリンを抱き上げてクルクル回った。 えへへっ! 

 すると、今度はモーリンが私を抱き上げてクルクル回った。 えへへへへっ!


 さらにモーリンは、私を髪の毛で持ち上げて、両手をワサワサ羽ばたかせながらクルクルと回りながら、凄いスピードで辺りを走り回った。

 えへっ! えへへへへ! うぇへへへっ! モーリン! モーリン!



 「そ……そろそろ落ち着いてはどうですか? 久し振りにお姉様に再会した嬉しさは、よ~く分かりますが…… あの…… 他人に見せられない顔になっていますわよ?

 元が整った顔だからこそ、非常に痛々しい事になってますわ」


 トレニアが変な生き物を見るような顔でそう言った。 その後ろには、呆れ顔をする妖精が飛んでいる。 むぅ…… これは仕方ない事だよ?

 むしろ、あまりの喜びで、アレとかソレとか駄々漏れにしながら気絶したりしなかっただけ冷静だと褒めてくれても良いくらいだよ?

 多分1ヶ月前の私なら危なかった。



 久しぶりにモーリン成分を補給してから、私はエンジェルなんとかを持って兄さんの所へ行った。

 兄さんは、前はヒマがあればヒースさんの所へ行ってたけど、兄さんもヒースさんもそれぞれ別の事で忙しくなったから、最近はあんまり一緒にいなくなったみたい。

 今日も兄さんは警備隊長としての仕事があるから詰所にいるはずだ。



 兄さんは詰所の奥にある訓練所にいた。

 相変わらず部下たちが疲れて座り込むほどに訓練をしているね。 ……訓練は大事だけど、動けなくなるまで訓練しちゃったら、本当に何かが起きた時に仕事にならない気がするけどいいのかな?


 「ああ、フリージアか。 旅から無事に帰ったようだな。 それで目的は果たせたか?」


 兄さんの言葉に、私はニヤリと笑ってから、手のひらサイズのつぼを見せた。 

 ほら、ちゃんと持ってきたよ!


 「うむ! よくやった。 無事に、なんとかティアを持って来たようだな」


 「色々あって苦労もしたけど、なんとか持ってこれたよ! でも兄さん、名前を間違えてるよ? なんとかティアじゃなくて、エンジェルなんとかだよ?」


 「む? そうだったか? エンジェルなんとか?

 うーむ…… なんとかティアだったと思っていたが、覚え間違いだったか……」


 首を傾げる兄さん。 ところで、これを誰に渡せばいいんだろう?

 そもそも、誰が魔物除けを作るのか聞いてなかった。


 「ねえ、魔物除けって、誰が作るの? ヒースさん?」


 「いや。 王都などから集まった技術者たちが『緑の精霊工房』という工房を開いたのだ。

 今後は、村に必要な物で大がかりな物はそこで作る事になるらしい。 後で工房に届けておくから、そこに置いておいてくれ」


 そう言いながら剣を構え、素振りを始める兄さん。 ……うーん。


 「ねえ、兄さん。 もう少しこのまま、兄さんの訓練を見ててもいい?」


 「それは構わないが…… 珍しいな? お前は、人の訓練を見るより、実際に体を動かして訓練に参加するほうが好きだっただろう?」



 うん。 私は昔から、見たり聞いたりして勉強するより、実際に体に叩き込むほうが覚えが良かった。 今でも多分そうだとは思うんだけど、でも……



 「今回の旅で、パーティーとして戦ってみて、仲間の戦い方を知るのも大切だって、改めて気づいたの。

 今まであんまり気にしてなかったから、この機会に、そういうのも気にしてみようかな? って考えて、まずは兄さんの動きを見てみようと思ったんだ。

 ねえ。 兄さんの剣技を見せてくれないかな? ……ダメ?」


 私がそう言うと兄さんは、凄く嬉しそうにニゴリっ!と笑った。

 うん。 ニコリじゃなくて、ニゴリっ! だ。 なんか暑苦しい感じの笑顔だった。


 「ふっふっふっ……! 妹から、戦う姿が見たいとねだられるとは、兄冥利に尽きるというものだ。 これは、実に気合いが入るぞ!

 お前たち! これから模擬戦を始めるぞ! さあ来い! 来るのだ!」


 いつもより暑苦しさの増した兄さんは、疲れ果ててぐったりとしていた部下の人たちを、暑苦しく叩き起こして、暑苦しく模擬戦を始める。


 むぅ…… これは、私がおねだりしたから? なにも本当に戦わなくても、剣の振り方とか重心移動とか、そういう技術を見せてくれるだけでよかったのに……

 部下の人たち、なんかごめんなさい! 私の一言で兄さんが変にやる気をだしちゃった!


 模擬戦の内容は…… うん、勉強にはなったよ?  兄さんは強い。 私が技術についても少しは理解したからこそ、兄さんの強さが昔よりも分かるようになった。


 でも、最初から疲れてボロボロだった部下の人たちが、更に兄さんにしごかれて、また倒れて、また叩き起こされて、うめき声の響く部屋の中、ひたすら延々と戦いが続くこの光景が悲惨すぎて、だんだん見ていられなくなってくる。


 ゾンビ軍団VS脳筋ファイターとか、そういう演劇を見せられてる気分だった。


 むぅ…… なんかもっと静かに、剣の心得とかを語り合いながらじっくり技を見せてもらうとか、そんなのを想像してたんだけど……

 コレ、なんか違う。




 ーーーーーその頃、王都でのジーナとティートは……



 「おう! そこの姉さん! モーリン親衛隊とその他1とかいうパーティーのリーダーだよな? 魔物の巣に突入して、冒険者を助け出したとかいうじゃねえか!

 Bランクに上がるのも遠くないって噂も聞いたぜ? やるじゃねえか!」


 アラクネの群れを発見し、冒険者を救出したことから、ギルド内の評価が上がっていた『モーリン親衛隊とその他1』であったが、実はその後さらに評価が上がったのだ。


 あれから改めて編成された正規の部隊が突入し、調査した結果、すでに半数以上のアラクネが、彼女達により討伐されていた事を確認。

 それが本部に報告される過程で街中にも広まり、今やちょっとした有名人となっていた。



 「ふう……。 評価されるのは嬉しいけど、アレは、ほとんどフリージアちゃんが倒したものだし、トレニアさんのサポートも的確だったわ。 冒険者としてのキャリアだけでリーダーになったような私がちやほやされると申し訳ない気持ちになるわね」


 仲間あってこその成果であると思っていたジーナは、フリージアやトレニアが挙げた成果までが、自分の成果のように思われている事に困惑していた。


 とは言え街の人間は、どんなメンバーが所属していて、どんな活躍をしたかの詳細など知らないのだから、リーダーが成果を挙げたのだろうと思うのは、無理もないことではあるのだが。


 「なにが不満なんだよ? 活躍したと思われているんだから、姉さんはいいじゃねえか…… オレなんかよ~……」


 ジーナを恨めしそうに睨みつつ、口にする言葉には、不満の色が見て取れた。

 そして、そこに不満の原因である言葉が飛んで来た。


 「おお? 坊主。 モーリン親衛隊とその他1の、『その他1』のヤツだよな?

 なんか怪我をして、助けに行った相手に逆に担がれて帰って来たんだって?

 おいおい…… しっかりしろよな~」


 昼間から酒を飲んでいるオッサンにニヤニヤと笑われ、背中をバンバンと叩かれながら、しっかりしろと注意を受けたティートは、泣きそうな顔をしていた。


 「……コレだぜ? しかも、間違いじゃないから言い返せねぇ……」


 そう。 確かに『その他1』はティートを表した部分であるし、怪我をしたのも、助けた相手に逆に担がれて帰って来たのも、更に言えば、そのあと怪しいオーラの漂うオッサン集団に熱烈なアプローチを受けたのも、全て真実なのだ。


 「ま、まあ、ギルドの人間とか冒険者は、ティートがちゃんとパーティーに貢献した事を知ってくれてるんだから、変な噂はその内消えるわよ。 きっと」


 フォローしようとするジーナの声に、「だといいけど……」と呟いたティートは、やはり機嫌が良いとは言えない表情だ。

 ジーナは少し考えると、思いついたその考えを口に出してみる。


 「ちょっと王都を離れてみる? 元々ここにいたのは、ティートの見習い卒業試験のためだったんだし、今はどうしても王都にこだわる理由は無いわ。 行商人か移住者の護衛でも引き受けて、何日かこの街を離れれば、帰ってくる頃には変な噂も収まってるんじゃないかな?」



 ティートは少し悩んでから、チラリとギルドのある方向を見て、頷いた。


 「う~ん、そうだな…… そうするか。 じゃあギルドで依頼を見てみようぜ。 行商人や移住者の護衛依頼が無いか探してみないとな」




 ギルドに入ると、ジーナもティートも、受付に馴染みの受付嬢の姿を探してしまったが、彼女はもうこの街にはいない。


 「そういえば、あの受付嬢さんって、結局なんで左遷されちゃったのかしらね?」


 ジーナのその呟きに、部屋にいた男性職員が答えてくれた。


 「ああ、あの娘は、アイーン美少年合唱団の公演があった時に、仕事を無断欠勤して見に行ってたんだよ。 その前のキムタークの公演の時には同僚からお金を借りたりもしてたし、その辺りの事が少し目に余るって事で、そういう娯楽の少ない場所に配置を変更することになったんだ」


 「あー……なんか納得したぜ。 ところでアンタが持ってる紙ってギルドに来た依頼書の束だろ? その中に、別の街に行く依頼とか無かったか?」


 「おいおい、こういうのはボードに貼られた後に、そこから自分で探すのがマナーだよ? ……まあ、いいけど。 あ、ほら、これはどうだ? 急な仕事だけどな」


 そう言って男性職員が差し出した依頼書を、ティートとジーナがのぞきこんだ。


 「あっ、この目的地って、多分フリージアちゃんの村じゃない? ほら、ネウロナ王国最北の村『モーリン村』って書いてあるわよ?」


 「も、モーリン村!? それって、あのモーリンだよな? なら絶対にフリージアの村だな。 つうか、モーリン村なんて名前の村にフリージアが住んでいなかったら、逆に不思議に感じるな…… うん、絶対アイツはそこにいるぜ」


 「じゃあこの依頼を受けようか? この村に行けばフリージアちゃんとモーリンちゃん、それにトレニアさんもいると思うから、退屈はしないと思うわよ?」


 そう言って微笑んだジーナだったが、依頼書の下の方を見て、表情を曇らせる。



 「えっ? この依頼主、今夜出発するらしいわ! もしコレを受けるなら、すぐに返事をして、旅支度を始めなきゃいけないわ! ちょっと忙しくなるわね」



 「はあ!? 今、依頼して今夜出発!? その依頼主って、よっぽどせっかちなのか? いや~、オレたちにも準備が必要だし、それは急過ぎるだろ? この依頼を受けるのは考え直したほうが……」



 その時、音を立ててギルドの入り口が開き、紫色の服を着た中年男達が入ってきた。 途端にギルド内に、濃厚なフェロモンが広がってゆく。


 「やっと到着だね。 ああ、王都のギルドに来るのも久しぶりだねぇ。

 ……うん? そこのお尻のキュートなボーイは、ティート君じゃあないかい!? これも運命の男神の導きかな?」


 その男達を見た瞬間、ティートは顔を青くして小刻みに震え始めた。



 「ひぃ!? な……なんでコイツらが王都に!?」



 「冒険者が拠点を変えるのは珍くは無いだろう? でも、また君に逢えて良かった。 この前は、なにか誤解を与えてしまったようだから、改めてお互いを理解し合う事からやり直したいと思っていたんだ。 ……ねえ、今夜、会えないかい?」


 「ティート君! 君を忘れる事ができないんだ!」

 「頼む! 僕にもう一度チャンスをくれないか!?」

 「安心してください! 我々は紳士ですよ!」

 「大丈夫! ちょっとだけ! ね? ちょっとだけだから!」



 実に紳士(HENTAI)的な雰囲気で、じわじわと接近して来る男達に向かって、ティートは見せつけるように依頼書を掲げた。



 「ほほほほら! みみっ、見てくれよ! オレはこの依頼を受ける事にしたんだ! ほらほらほら! 出発は今夜って書いてあるだろ!? なっ!? だからオレは、今すぐ準備しなきゃいけないんだ! だから、ほら! もう行かないと! な? な!? じゃあな!!」



 それだけ言ったティートは、挙動不審のカクカクした動きのままジーナの腕を引っ張って、ギルドから逃げ去るように立ち去った。


 この瞬間、ジーナとティートの次の目的地が、モーリン村に決まったのであった。

次の投稿も2日後です。

ちくわクエストはこれで終わりですが、別の閑話をあと2話くらい書くつもりです。

もう少し閑話にお付き合いください。

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