46話 変わり行く村からの更なるフラグ設置
4章の本編はこれで最後です。
どうもこんにちは、モーリンです。
大きな工事が進むこの村ですが、ちくわハウスと私の切り株周辺は、出発の日から手付かずのままで残してくれていたようです。
正直、ホッとしました。
多分、ここがいじられていたら、やっぱり悲しくなっちゃうと思いますしね。
あ、金の鈴蘭も元気ですよー。 でも、そろそろ1シーズンくらい経っていそうなんですけど、いつまで咲いていてくれるんでしょうかね? 1日でも長く綺麗な花を咲かせていてほしいものです。
昨日の夜は、久しぶりに切り株の上に座って休みましたが、やっぱり回復の効率が良いですねー。 疲労がポンと飛んで行きますよ。
ちくわちゃんも自分の家は気が休まるんでしょうか? ちくわハウスでグッスリと休んでいます。 まあ、ちくわちゃんは、割といつでもグッスリと眠れるタイプのようですが。
あっ、セレブお嬢さんもちくわハウスにお泊まりしたようです。
あそこのベッドは、ワラの束に布を掛けただけのシンプルな物なので、セレブお嬢さんにはどうかと思ったのですが、考えたら彼女はサバイバル技術を持つタフなお嬢さんでしたね。
嫌な顔1つしないで、普通にちくわちゃんと並んでワラの上で寝てました。
ぺルルちゃんは、もう起きてここにいますよ。
昨夜は私の髪の毛を体に巻き付けて、寝袋のようにして寝ていました。
ぺルルちゃんが物音を立てると、怪奇現象嫌いなセレブお嬢さんが怖がるので、ちくわハウスで寝るのは遠慮したようです。
しばらくしてトンテンカンと工事の音が響き出すと、ちくわちゃんとセレブお嬢さんも起きて来ました。 おはようございまーす。
グッドなモーニングですねー。 いわゆるグッドモーニングです。
今日は村の様子を見て回ろうと思っています。
まだまだ工事の途中みたいですけど、それでも私たちが街に向かう前には無かった物も沢山増えていますから、それを見てみたいと思います。
ちくわちゃんとセレブお嬢さんも一緒に来るようですし、ぺルルちゃんも私の頭に乗っています。 うんうん。 みんな仲良く一緒がいいですねー!
まず、時代劇に出てくる長屋……でしたっけ? あの細長い建物ありますよね?
あんな感じの建物が並んでる所があったので、それを見に行ってみました。
うん。 長屋みたい、というか、まんま長屋でしたね。 多分、工事の作業員さんたちの仮設住宅的なものでしょう。
いかにもヘルメットと軍手が似合いそうなおじさんが沢山います。
この人たちは、これから出発するようですね。 スケジュールが別ということは、さっきちくわハウスのそばでトンテンカンしてた人たちとは違うチームですかね?
どこの工事をするのか見てみたい気もしますけど、ついて行くとお仕事の邪魔になるでしょうから止めて、おとなしく皆さんを送り出すことにしましょう。
いってらっしゃーい。 お仕事頑張ってくださいねー。
作業員の皆さんに行ってらっしゃいした後、そのまま長屋の方を見て回ります。
おや? ちょっと離れた所に、普通の家とは少し違う感じの建物がありますね? この建物は完成してるっぽいですけど、なんの建物でしょうね?
なんだろうなー? と思いながら、じろじろと見ていると、ちょうど扉が開いて中からセクシーさんが出てきました。
おおぅ、相変わらずのダイナマイトバディですね~。
比較してもしかたありませんけど、彼女の体がダイナマイトバディとしたら、セレブお嬢さんの体が打ち上げ花火くらいで、私の体はネズミ花火くらいの破壊力でしょうか? 謎の軌道で走り回って突然はじける辺りに親近感を覚えますし。
私たちに気づいたセクシーさんは、あら? って感じで少し驚いたあと、私たちを建物の中へ入れてくれました。 おじゃましまーす。
中に入ると、そこには広めの部屋があり、テーブルや椅子が沢山並んでいました。
あ~、食堂ですか? あっ、いえ。 カウンターの後ろに酒樽が並んでる所を見ると、どちらかと言うと酒場っぽいですかね?
……うわぁ。 作業員さんたち(大半が中年男性)の住む家のそばに、セクシーさんが酒場を出店するなんて…… これはもう、繁盛するに決まってます。
なんともえげつない経営戦略ですねー。
まあ、作業員さんにとっても嬉しいでしょうから、win-winの関係なんでしょうけどね。
ところで、ウィンウィンってカタカナで書くと、ロボットが動く音みたいですよね。 まあ、だからどうした? って話ですけど。
セクシーさんは私たちをカウンター席に案内すると、私には水、ちくわちゃんとセレブお嬢さんにミルクをごちそうしてくれました。 ゴチになります。
セクシーさんは、更にそのあと、小さいカップに入れたミルクを私の横の席に、ちょこんと置きました。
……あっ、これって、ぺルルちゃんの分ですよね? もしかしてセクシーさんって、ぺルルちゃんが見えているんでしょうか?
そう思ったんですけど、視線の方向が微妙にズレているので、見えてはいないみたいです。 んー、でも大体のいる方向は感じてるみたいですね?
こういうパターンの人は珍しいですね? どういう事でしょうか。
ぺルル・ミエソウ・デモ・ミエナイ・ビミョウ二・スケスケ・ナンデヤネン?
「私がセクシー下着でチラリズムを追求してるみたいな言い方はやめて。
多分、この人が私の事に気づいている事を質問してるのよね?
私の姿は、私と魔力が同等以上の人にしか見えないようにしてるから、見えないけど気づくっていう事は、彼女の魔力量は私の魔力量よりも、ほんのわずかに少ないくらいの量って事じゃないかな?」
なるほど、それは是非ともセクシーさんにレベルアップしてもらって、ぺルルちゃんが見える仲間になってほしいですね。 ぺルルちゃんを愛でる会は、あなたの入会を待っていますよー。
セクシー酒場で飲み物をご馳走になったあとは、また村の散歩を再開しました。
……『セクシー酒場』と言うと、なんかエッチに聞こえるので、やめましょう。
普通に『村の酒場』でいいですね。
で、その村の酒場からそのまま道に沿って歩くと、コテージタイプの住宅が並んでいる所に着きました。
この住宅地そのものは私たちが街へ向かう前からあったんですけど、コテージの数が明らかに増えています。
あっ、あっちでは今まさに建築中ですねー……って、おや? あっちで丸太を担いでる人って、以前に村を襲撃した若頭さんじゃないですか!?
あれれ? いつの間に土建屋さんにジョブチェンジしたんですか?
腕利きっポイ感じだったのに冒険者は辞めちゃったんですかねー?
あっ! も、もしかして、全裸の少女に顔を踏まれて気絶した噂が広まって、冒険者の仕事が来なくなっちゃいましたか!?
だとしたら私のせいですか!? 私は若頭さんの冒険者生命を終わらせてしまいましたか!? 私は男性の人生を狂わせた魔性の女なんですかー!?
で、ですが、あのまま私が木材にされてしまう訳にも行きませんでしたし、仕方なかったですよね? し、しかし、1人の人生を変えておきながら、『仕方ない』で済ませてしまうのも不誠実ですよね? うぬぬ……!
「リン。 ちょっとリン! なんか戦ってるんだけど止めなくていいの!?」
はい? 戦ってる?
考え事を中断して、ぺルルちゃんの指差す方向を見ると、マジカルちくわロッドを振り回すちくわちゃんと、必死の表情で逃げ回る若頭さん、そして、状況がわからずに困っているセレブお嬢さんの姿がありました。
わあっ!? ちくわちゃん! ダメですよ、ストップ! ストップです!
若頭さんは反撃をする様子はなかったので、私はちくわちゃんの方を取り押さえました。
どうどう。 いい子だから落ち着いて下さいね?
私はちくわちゃんの頭をナデナデして落ち着かせました。 若頭さんは、その様子を見ながら『ふう、やれやれだぜ』みたいなポーズで苦笑いをしています。
んー、結構余裕がありますねー?
いや~、うちのちくわちゃんがすみませんねー。
ですが、私も一度あなたにヘイヘイホーされましたし、おあいこって事で水に流しましょうよ。
そんな気持ちを込めて軽めに頭を下げると、若頭さんは苦笑いの表情のまま、手をヒラヒラと振ったあと、また丸太を担いで去って行きました。
んー、想像ですが、済んだ事はもう気にしないぜ? みたいな事を言ってる気がします。
……なんとなく憎めない人ですね? 今は土建屋さんとして新たな生活を始めているようですし、次に会うときは、お友達になれるような気がしますね。
まあ、ちくわちゃんがクールダウンしてくれないと難しいかもしれませんが。
しばらく村を歩いた私たちは、ちくわハウスに戻ってお昼ご飯を食べていました。 あ、私はいつも通り、足を土に埋めてるだけですが、一応気持ちの上では一緒に食事しています。
いや~、一通り見て回りましたが、未完成ながら村も変わりつつありますねー。
しっかりとした警備兵の詰所みたいな場所もできていて、そこにいる人たちは、制服みたいなお揃いのコートを着ていましたから、なんか警察みたいに見えました。
マッスルさんはここに所属しているみたいです。
ぽっちゃり係長さんは、村の外れに、怪しいお薬屋さんを開いていました。
その怪しい雰囲気が、逆に、凄い薬を売っていそうな雰囲気を出していましたね。
あ、食べ物のお店もありました。 今、ちくわちゃんとセレブお嬢さんが食べているブリトーの前世みたいな物も、そこで買ったものです。
お店が増えて、警察的な施設もできて、酒場もあります。 村の中心には大きなライブ会場も建てているようですし、この工事は観光客を呼び込む準備でしょうかね?
私も村のマスコットキャラ・兼・芸人というポジションを期待されているようですから、頑張らないと行けませんね。
セレブお嬢さんという新しいお友達もできましたし、若頭さんとも遠くない内に仲直りが出来そうです。
村も順調に成長していますし、私の将来の方向性も見えて来ました。
うんうん! 良いこと続きです!
行方不明になった、妖精のジャッド君の動向は気になりますけど、悪い魔力の浄化は成功してますし、そうそう大変な事にはならないでしょう。
案外、ホイホ~イっと解決してしまうかもしれませんねー。(楽観視)
……えっ?…… フラグ?
いえいえ、私は頭の中で思ってるだけで、口に出して言ってないのでセーフです。
……せっ…… セーフ…… ですよね……?
ーーーーーとある森の奥
夕暮れ時、フードを深く被った男が、木に寄り掛かって立っていた。
突然、辺りを強い光が照らし、それが収まると、そこには幼い少年の姿をした妖精が浮いている。
「終わったよ! 言われた通りに、アレを色んな所に隠してきたよ! ……でも、ホントに大丈夫? きっと何か起きちゃうよ?」
心配するような言葉を言った妖精に向かって、フードの男はニコリと笑い、甘ったるく感じるほどに優しい声で語りかける。
「ふふっ、ジャッド。 君は心配性だなぁ。 でも大丈夫、これは遊びなんだ。
楽しい楽しい勇者ごっこなんだよ? 勇者ごっこに事件は必要だろう?
何か起きても、最後には勇者が、ぜーんぶ解決するから平気さ」
「本当? 誰も不幸にならないよね?」
「はははっ! 僕を見てごらん、笑っているだろう? ジャッド、君のおかげで僕は幸せなんだよ。 君は正しい事をしているんだ、自信を持つといい。 ふふふっ」
フードの男の笑い声が森に響き、やがて静けさを取り戻すと、今度は、幼い少女が呟く声がした。
「おかあさんは? おかあさんは、まだきてくれないの?」
その少女の声に、フードの男は、また甘ったるい声で語りかける。
「お母さんは、君が良い子にしていたら、きっと会いに来てくれるはずだよ?
だから僕と遊んで待っていようよ。 今、ジャッドが一生懸命に準備してくれているんだ。 ……だからさ、準備ができたらさ……」
男は、嬉しそうに。 本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべて言った。
「一緒に勇者ごっこを始めようよ。 ……ね?」
これで4章の本編は終わりです。
閑話を数話書いてから5章に進みますが、物語もそろそろクライマックスに近づいて来ました。
今後、閑話を入れるタイミングが難しくなりそうなので、ここで多めに閑話を入れるつもりです。
まだ書いていないので、何話になるかは不明ですが、流石に10連続で閑話とかはやらないつもりです。
とりあえず、2日後に1話投稿予定です。