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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
4章ですよ モーリン神殿? いえ、建てなくてもいいですが。
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43話 キャラバン隊からの両手に花

どうもこんにちは、モーリンです。


 ついにセレブファミリーとのお別れの日が来たっぽいです。

 ちくわちゃんも旅支度をしていますし、宿屋さんに預けっぱなしだった馬車が、セレブファミリーのお屋敷の入り口の前に停まっていて、その横には兵士さんもいます。


 朝のティータイムで、セレブファミリーも神妙な感じで何かを言っていました。

 きっと、お別れの挨拶か何かだったのでしょう。


 そのあとワイルド商人さんが現れて出発を……って、馬車が多いです!!

 え!? なんですか、このキャラバン隊みたいなのは!?


 ワイルド商人さんが馬車が沢山連れて来ました。 乗ってる人の年齢性別はバラバラですね。 あっ、エルフっぽい人もいますから、人種もバラバラなのでしょうか?

 なんか、新天地を目指して、民族大移動を開始! って感じですね。 今から村に帰るのに、こんなに人を連れてきて、いったい…… あっ!


 そういえば、私が出発する前に、村が大規模工事みたいな事をしてましたよね?

 では、この人たちは、村に引っ越してくる、新しい住人さんとかですか?

 いえ、住人ではないにしろ、あの工事のお手伝いの人員とかかも知れませんね?


 どちらにせよ、村の発展のために来てくれる人だというなら、村のマスコットキャラを自称する私としても、ご挨拶くらいしておくべきですねー。

 こにゃにゃちわー。



 私が、村のお仲間候補の皆さんの前に顔を出すと、皆さんは様々なポーズを取りました。


 あ、いえ。 様々なポーズと言っても、自分が思う最もカッコいいポーズを、皆さんで一斉に披露したとかいうわけではありませんよ?

 まあ、それはそれで見てみたい気もしますけど。

 というか、個人的にはその方が良かったかも知れません……。


 皆さんは私に向かって、敬礼したり、祈ったり、拝んだり、投げキッスをしたりしました。

 どうやら皆さんは、それぞれのやり方で、私に敬意を示すような態度を取っているようです。 あ、最後の投げキッスは少し違う気がしますが。


 おや? ちくわちゃんが、投げキッスの人を、建物の裏に連れて行きました。

 何かお話しでもあるんですかねー? あ、それより、皆さんの態度の事でした。


 村の皆さんに敬われるのは、まあ慣れましたが、さすがに初対面で、しかも大人数に一斉に敬意を向けられるのは焦りますね。 そもそも、敬意を向けられるような事に心当たりがありませんしねー?

 まあ、嫌われるよりはいいので、よしとしておきましょう。


 あ、ちくわちゃんが、まるで人間でも入ってるんじゃないかと思うほど、大きい布の袋を運んできて、馬車の荷台に放り込みました。 荷物運びのお手伝いですか? ちくわちゃんは良い子ですねー。


 ところで、さっきの投げキッスの人は、どこへ行ったんでしょうか? トイレですかね?



 あ、トイレと言えば、ぺルルちゃんはトイレに行っている様子は無いのに、昨日食べ過ぎで重くなった体が、今朝には元の重さに戻っていました。


 同性とは言え、トイレについて質問するのはどうかと思ったのですが、やはり気になったので本人に聞いてみると、トイレに行く妖精と行かない妖精がいて、ぺルルちゃんはトイレに行かないタイプだとのこと。

 食べたものは、少しも残さず全部が魔力に変換されるので、残った物を排泄するという必要が無いようです。 


 食べ過ぎると魔力に変換するのが間に合わずに、昨日のようにダウンする事になる点は、人間の消化不良とあんまり変わらないようですけどね。



 とりあえずぺルルちゃんの消化不良は、すっかり治ったようなので、ディアえもんとお話しした内容を訊いてみました。


 「そうね、妖精族の恥になる話なんだけど、リンには手伝ってもらう事になるだろうから、話すわ」


 そう前置きしたあと、話してくれました。



 「結論から言うと、あの魔力は、ジャッドっていう妖精が、保管していた部屋から持ち出した物よ。 当然、部屋には見張りもいたんだけど、妖精族っていうのは、良くも悪くも子供っぽい性格が多いから、知り合いが『お願いだから、ちょっとだけ入れて』とか頼んだら、普通に通しちゃったりするし、『内緒にしてね』って頼んだら、内緒にしたりもするわ。

 今回も、ジャッドにお願いされた見張りの子が、悪気も無く、素直に証拠隠滅を手伝ってたから気付くのが遅れたのよ」



 そ……それはまた素直ですねー。 私は、そう言う人は好感が持てますが、見張りを任せる人選としてはどうなんでしょうね?

 私のその疑問を予測していたのか、ぺルルちゃんが答えを言ってくれました。


 「……言われた事は真面目にやる子なのよ。 だから見張りに向いてるって思われてたみたいなんだけど…… 『知らない人や怪しい人が来たら報告しろ』って指示してあったのを、どうやら『来たのが知り合いなら報告しなくていい』って解釈したらしいわ」


 あー、なるほど、意図の取り違えですか。 それは私もやるから何も言えませんねー。


 私の場合は、『通行ご遠慮ください』って看板があった通路を、遠慮した態度なら通っていいと解釈して、卑屈にペコペコしながら通った事がありました。


 そしてその後に、近くにいたおじさんに『いや、そうじゃねえから』ってツッコミをいただきました。


 私が過去の失敗を思い出している中、ぺルルちゃんはお話しを続けます


 「妖精はイタズラ好きだけど、それ以上に楽しい事が好きだから、多くの人を不幸にするような事は本能的に避けるのよ。

 あの魔力は、多くの不幸を生みかねないものだから、誰も持ち出すような事は無いと思ったんだけど…… なんで、こんな事が起きたのかしら」



 そう呟いたぺルルちゃんは、いつもはあまり見ない、暗い表情でした。

 ぺルルちゃんに元気が無いのは悲しいですね。 私で力になれる事があれば…… って、そういえば、私に手伝ってもらうって言ってましたよね?

 何をすればいいんです? 何か手伝える事があるなら、やりますよー。


 ぺルル・ノゾム・バッチコイ・ワタシ・スッポンポン


 「はぁ!? 私はリンのスッポンポンなんて望んで無い…… あ、もしかして、『一肌脱ぐ』って言いたいの? 変な言い方しないでよね」


 いや~、その『変な言い方』をしても、最終的には、ちゃんと伝わるのがぺルルちゃんの凄い所ですよね。


 「はぁ……何か気が抜けたわ。 お陰で暗い気分は飛んで行ったけど。

 もしかして私の気分を変えるために、わざと変な事を…… いえ、違うわね。 リンは、いつもそんな感じよね。 ふふっ」


 はたして、私がいつもどんな感じだと思われているのか? というのは、少し気になりますが、ぺルルちゃんが笑顔になって良かったです。



 「リンにお願いしたいのは2つね。 1つは、今まで通りに、魔力の浄化よ。

 まあ、かなりの量を持ち出されたらしいから、リン1人で浄化しろなんて言わないけど、協力してくれると助かるわ。 あ、無理はダメよ? 許容量を考えて吸収しなさい。 ……昨日、食べ過ぎた私が言える事じゃないんだけどね」


 まあ、確かに前回は、許容量ギリギリだったせいでコスプレで空を飛ぶはめになりましたから、気をつけるべきですね。 あ、でも、あの時は、近くに花を咲かせる場所がなかった事が一番の理由ですし、どちらかというと、気をつけるべきは、花を咲かせる場所があるかどうかの方ですかね?



 「2つ目は、魔力を持ち出した妖精、ジャッドを見つける事よ。 タイミングや状況を考えると、前にリンが見た、男の妖精がジャッドの可能性が高いわ。 わざわざ探し回れなんて言わないけど、また見かけたらすぐ教えて頂戴」


 あの子がジャッド君ですか。 んー、チラっとしか見てませんけど、悪い子ではなさそうでしたけどねー? まあ、一瞬見ただけの印象なので、当てにはならないかも知れませんけど。


 「モーリン、c5iHゆaデg」


 あ、ちくわちゃんが、馬車の方で、私に何か言いながら手招きしています。

 そろそろ出発するから馬車に乗れって事でしょうか? 周りを見ると、他の皆さんも馬車や馬に乗り始めているようですし、多分そうなのでしょうね。


 では、私も乗るとしますか。 ……これでセレブファミリーともお別れですか……。


 馬車に乗り込むと、旅支度をしたセレブお嬢さんが乗っていました。

 普段より動きやすそうな格好をしていて、目力がある事もあって、凛々しい感じに仕上がっています。 うん、その服装も似合いますねー。


 って! なんで乗ってるんですか? えっ? もしかして、一緒に村に行くんですか?

 ……あっ! さっき、セレブファミリーの皆さんが神妙な顔で何か言ってたのは、お別れの挨拶ではなくて、娘を頼む的な挨拶だったんでしょうか!?


 お友達と一緒にいられるのは嬉しいので、私はウェルカムなんですけど、ちくわちゃんは困惑しているのか、セレブお嬢さんを何とも言えない表情で見ています。


 まあ、賑やかなのは良いことです。

 さて、ワイルド商人さんが御者席に座りましたし、出発ですかね。

 さあ皆さん、座りましょうか…… って、何で2人とも私の側に座るんです? 反対側が空いていますけど。 ……まあ、私は良いんですけど、狭くないですか?



 「リンってばモテモテね。 両手に花じゃないの」


 そういって茶化すぺルルちゃんは、反対側の席に座っています。

 3人座れる椅子を、30センチのぺルルちゃんが独り占めですか。 これはまた、広々とした快適スペースですねー。



 同行者が増えて、賑やかになった馬車が動き出し、また旅が始まります。

 この街とお別れする寂しさはありますが、村が恋しくなってきた気持ちもあるので、ちょうどいいタイミングですね。

 また改めてこの街に来る時もあるでしょう。



 ……話は変わりますが、私を挟んで両側にいる2人が、私の髪の毛に顔を埋めて、匂いをくんかくんか嗅ぎ始めたんですが、この場合、どういう反応をするべきでしょうか?



 「……そういうものだと、諦めなさい」



 ぺルルちゃんが生暖かい目でこちらを見ながら、そう言いました。

 ……なるほど、了解です。





 ーーーーー 花園の民 コランバイン視点



 行ってしまいましたか……。

 あちらの村に派遣する花園の民の、リーダーを決めようとした時、トレニアが名乗りを上げたのは、少しは驚きましたが、まあ予想の範囲内でした。


 ですが、あんなにも楽しそうに旅立つとは思っていませんでした。

 ふふっ、よほど精霊様に心酔したんでしょうかね。 まあ、フリージア嬢と仲良くなったというのもあるのでしょうけど。 



 ……精霊様に心酔した……というのは、納得できますけどね。

 魔導甲冑の攻撃からトレニアを守るあの姿は、私から見ても凛々しく見えました。

 実際に守られたトレニアは、どれだけ心が震えた事か。


 そして、わたくしは残念ながらその場を見る事は出来ませんでしたが、精霊様は蝶の羽で空に舞い、街中に見たことも無いほど美しい、金細工の様な花を咲かせ、その直後には犯罪組織を討伐し、捕まっていた兵士の命を救いました。


 そこまででも、もはや物語の一幕のような話だと言うのに、それだけの話では終わりませんでした。


 どうやら、あの花からは清らかな魔力が放出されているらしく、廃屋や下水道などに潜んでいた低位の魔物が、街の外へと逃げて行ったという報告もありました。


 その奇跡に心を動かした者が多かったんでしょうね。

 精霊様の村への派遣や移住の話をすると、飛びつく人の、まあ多いこと。


 エルフだけではなく、人間や獣人やドワーフまで、随分と人数が集まりました。

 アウグスト様とわたくしで面接をして、能力や人柄で人数を絞りましたが、当初の数のまま村へと出発していたら、軍隊が出陣したなどと思われそうでしたね。


 ふふっ、もしも自由に動ける立場だったなら、わたくしも……


 「あなた? 少年の様な顔になっていますよ? 可愛らしいこと」


 おっと、妻にからかわれてしまいました。 心情が顔に出ていましたか。

 ですが、妻は次の瞬間、深刻な表情に切り替えて、小さな声で言いました。


 「あなた。 ……精霊様を取り込もうとする連中の方は大丈夫ですか?」


 ……その話ですか。 私も小声で答えます。


 「あの連中は、静かに事を運びたかったようですから、今回、精霊様に注目が集まった事で動き難くなったようです。 今は大丈夫でしょう。

 精霊様の噂を聞いて、王族が動かないかが心配でしたが、城内にも、精霊様に敬意を示す派閥と、魔物として扱う派閥がいて、どういう態度で精霊様に接するかが決めかねているようですから、こちらも今は動けないはずです。

 国王様も慎重な方ですし。 ……優柔不断ともいいますがね」



 私のその言葉を聞いた妻は、微笑みました。


 「それは良かった。 妙な行動をする者が現れる前に、このまま神殿の建設計画を進めましょうか。

 (おおやけ)に神殿で祀られる事となれば、迂闊に精霊様に手を出す者も減るでしょう」


 そう語る妻の顔には、本気で精霊様の味方をしようとする決意が見えていました。

 正直、意外ですね。 こう言ってはなんですが、妻は私以上に打算的な面を持っていますから、精霊様の事も、もっと割りきった態度で利用するかと思っていたのですが……。


 「ダリア。 あなたがそんなに精霊様に入れ込むとは思いませんでしたよ」


 「うふふ、入れ込んでいるのはあなたもでしょう? 私達は2人とも最初は、精霊様は、あくまでもただの旗印になってくれればいいと言っていたじゃありませんか。

 ですが、お会いすると、やはり自分にはエルフの血が流れていると実感するわね。 本能的に、惹かれてしまう何かを感じたわ。

 ……いえ、人間であるアウグスト様も心酔しているのだから、エルフだからではなく、精霊様自身の魅力なのかしら?」



 そう言った妻は、口には出していませんが、精霊様と共に旅立ったトレニアを羨む気持ちが見え隠れしていました。

 ええ、わたくしも同じ気持ちですから良く理解できます。


 ですが、羨んでばかりいても仕方がありません。

 トレニアが精霊様の近くで精霊様に尽くすと言うのなら、わたくしはわたくしのやり方で力を尽くしましょう。


 「彼らと別のグループの若草の民や、村への移住を希望する者、特に医者や鍛冶屋など今、村にいない職業の者を優先して声をかけてみますか。 ああ、経済面を忘れてはいけませんね。 いくつかの商店に支店を作ってもらうべきですか? いえ、そちらの方面はアウグスト様が手配しているでしょうから、わたくしがやるべきは……」


 今後の計画を考えるわたくしを見て、妻が笑いました。


 「うふふ、あなたったら、また少年の顔になっていますよ? 本当に可愛らしいですね」


 「ふむ。 可愛らしいですか? わたくしは、どちらかと言えば格好いい系だと思っているんですが、どうでしょう?」



 たまには冗談を言ってみようかと思い、そんな事を言ってみると、妻は無言で目を伏せました。


 周りをみると、メイドや使用人たちも、無言で微妙な表情をしています。


 な、なんですか? わたくしが冗談を言ってはいけませんか!? 


 ええいっ! わたくしの味方はいないのですか!?

次回も2日後の予定です。

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