41.5話A 街のお散歩 裏視点
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ありがとうございます。
今回はフリージア視点です。
「むぅ……」
私は今、複雑な気分だ。
昨日の夜、妖精が居なくなった。
多分、何か用事があるんだろうし、いつも次の日には帰って来るから、心配はしてないけど、いつも一緒にいる相手がいない寂しさと、モーリンと2人きりだっていう嬉しさがあって、自分でも悲しいか嬉しいかわからなくなっちゃった。
でも、居ないものは居ないんだから、今は素直にモーリンと2人きりの時間を過ごそうって、気持ちを切り替えたんだけど…… むぅ……。
「フリージアさん、その恨めしそうな目は何かしら?」
「むぅ……一言では説明しきれない」
今、モーリンを挟んで反対側に居る、このトレニアが私の複雑な気持ちの原因だ。
トレニアは、私たち若草の民とは別の派閥、花園の民のエルフだ。
長老がいつも、花園の民はズル賢いと言っていたし、村に届いた手紙の文面も正直、イラっとするものだったから、苦手意識があったけど、会ってみたら悪い人じゃなかった。 ちゃんとモーリンにも敬意を払っていたし。
このトレニアも、すぐにモーリンの偉大さに気づいた辺りは見る目あると思うし、性格も別に嫌いじゃあないんだけど、私とモーリンが2人で出掛けようとした時に、
「では、私が街を案内しますわ」と言ってついてきたのが、少し不満だ。
知らない物があったら、丁寧に説明してくれるのは助かるけど、不便があっても良いからモーリンと2人が良かったって気持ちもあって、複雑かも。
「この区画は、昔、ドワーフの血を引く方々が多く住んでいた場所ですわ。
その関係で、今でも鍛冶屋や武器屋、工具屋などが多くて、通称、職人通りと呼ばれて…… あら?
武器屋を見ているのですか? お姉様は武器に興味がおありで?」
「モーリンは、わりと色々なものに興味を持つ。 ところで質問だけど、トレニア、何でモーリンがお姉様?」
昨日も一度、お姉様って呼んでたし。 ちょっと気になったから訊いてみた。
「何で、と訊かれましても、強く、優しく、美しい…… そんな素敵な女性をお慕いする時に『お姉様』以上に適した言葉が他にありまして?
それより、お姉様が興味をお持ちなら、武器屋に入ってみませんか?」
そっか、モーリンを慕ってるからそう呼んでるのか。 なら納得だね。
もちろん私もモーリンを慕っているよ。 私はモーリンに直接、呼び捨てでいいって言われてるからそうしてるけど。 私とモーリンは、特別な友達だから。
えへへっ、私だけ特別!!
「うん、じゃあ武器屋に入ろう。 ……えへへ!」
「最後の笑いが、なんとなく優越感が滲み出ていて、少し不快ですけど……
まあ、良いですわ。 さあ、では、入りましょうか」
「わっ…… 武器がいっぱいある」
武器屋なんだから、武器がいっぱいあるのは当たり前なんだけど、そんな当たり前な事を口に出しちゃうくらいに、武器がいっぱいあった。
まず私は、杖を見てみた。 ……むぅ、悪くないけど、今の杖の方が魔力の通りがいい。
次は剣を見てみた。 ……むぅ、悪くないけど、今の杖の方が頑丈だ。
「あら? あまり気に入る物は無いのかしら?」
トレニアだ。 トレニアは、弓矢を手に持っている。 それを買うのかな?
弓…… 弓か~。 エルフは弓が得意なはずなのに、私と兄さんは、弓は苦手だ。
……まあ、遠距離なら魔法を使えばいいから、私は弓はいらないかな。
「今の杖より強そうな物がないの。 ……あ、これは強そうかな?」
私は店の奥の方にあった大剣を持ってみる。 凄く大きい、私の身長の倍くらいの長さがあるかも。
ちょっと素振りをしてみると、使い勝手も悪くなさそうだ。
……でも、大きすぎて、持ち歩いたら邪魔になりそう。 やっぱり今の杖の方がいいや。
うん、やっぱりモーリンのくれた杖は凄い! 他の武器は要らないね。
これをくれたモーリンに改めて感謝しなきゃ。 そう思ってモーリンを見ると…… あれ? なんか様子がおかしい? どうしたんだろう。
……もしかして、怯えてる? モーリンの前にあるのは、斧の売り場だった。
……そっか。 モーリンは斧が嫌いなのか。 そうだよね、一度、斧で切り倒された事があるんだから、嫌いになってもしょうがないよね。
うん、じゃあ壊そうか。 モーリンが嫌がる物は存在したらダメだよね?
私は、杖を握る手に力をグッと込めて、それを振り上げて……!!
「お待ちなさい!? 何か妙な事を考えていませんか!?」
トレニアに止められた。 むぅ…… 私は妙な事なんて考えてないのに。
「大丈夫。 私は、世界中の全ての斧を消滅させるための第一歩として、とりあえず目の前にある斧を壊そうとしただけだよ? 斧は悪魔の道具なの」
「それは全然大丈夫な行動ではありませんわよ!? この子、私の想像した以上に妙な事を考えてましたわ!?」
トレニアがどうしてもダメって言うから止めて、モーリンの方を斧から引き離すことにする。
モーリンも斧のそばにいるのは嫌だったみたいで、手を引いたらすぐに外に出た。
うん。 こんな、悪魔の道具のある所にいちゃダメだ。 別の場所に行こう。
次に来たのは服屋だ。
トレニアが、モーリンに似合う服を探すって張り切ってるんだけど……
「ダメです……アレもコレもソレも、素敵なのですけど、昨日のお姉様の服装を見た後では、どれも何か物足りなく見えてしまいますわ」
うん、わかる。 よくわかる。 モーリンのアレは、痺れるほどに素敵だった。
このお店の服も、私が見たこと無いような可愛い服があるんだけど、昨日のあの服以上にモーリンに相応しい服ってなると、なかなか無さそうだ。
……それに、この店の服って値段が高い。 何かモーリンにプレゼントしたかったけど、私の貯金じゃあ何も買えない。
トレニアを見ると『店まで来たついでだから』くらいの感覚で、値段も見ずに買っている。 ……お金の使い方が違いすぎる。
むぅ…… これが持つ者と持たざる者の差か……。
結局、私は何も買わずに店を出た。 トレニアは、自分の服だけを買っていた。
やっぱり、あの服以上にモーリンに似合う服は見つからなかったみたいだね。
その次は喫茶店で一休みした。
お茶もお菓子も美味しかったけど、宿屋とかトレニアの家で出た物の方が美味しかった気がする。
むぅ…… 最近、舌が贅沢に慣れてきちゃったかも。
村のご飯が美味しく感じなくなったらどうしよう? あっ、でも、野菜は村の畑のほうがおいしいから大丈夫かな。
まあ、一番美味しいのはモーリンの果物だけど。
喫茶店を出て、少し歩いたら、大きな通りに出た。
……ん、モーリンが何か見つけたみたい。 何か気になるものがあった?
モーリンが歩いて行った先には、大きくて少し古びた建物があって、その入口の前に、ゴーレムの騒動で出会った姉弟がいた。
名前は……何だっけ? 忘れちゃったけど、モーリンはその2人の、お姉さんの方の背中を指でツンツンと突いた。
「ひゃあっ!? なに!? って、君は…… 確かモーリンちゃん、だっけ? それとフリージアちゃんと…… トレニアさんもいるの?」
「あら? お久しぶりね、ジーナ、ティート」
トレニアが2人の名前を呼んだ。 ああ、そうだった、ジーナとティートだったね。 ……あれ? というか……
「トレニアはこの2人と知り合いだったんだ?」
「ええ、私は遠出する時は護衛を雇うのですが、男性と2人きりというのは抵抗があるので、年の近い女性冒険者という条件で護衛を頼んだら、ジーナが来たんです。
それからも何度か護衛を頼んでますわ。 その縁で弟のティートとも知り合いましたの。 ですけど、フリージアさんがこの2人と知り合いな事が意外でしたわ」
トレニアがそう言ったから、知り合った時の事を話そうかと思った時、突然、目の前の建物からアウグスト君が出てきた。 わっ、びっくり。
あれ? 今、機嫌悪そうな顔してた。 私たちに気づいたら戻ったけど。
「おう、奇遇だな。 ……あん? そっちの嬢ちゃんは知らないが、ソコの坊主は、前に馬車の前に立ち塞がった奴だな?」
「あっ! 御者のおっさん!?」
ティートの発言を聞いたジーナとトレニアは、ギョッとしていた。
ジーナは、おっさん呼ばわりが失礼だって思った程度みたいだけど、トレニアは血相を変えて言った。
「ティート! このアウグスト様は、商人ギルドのマスターですわよ!? 貴族と同等の権力を持っている方ですから、態度には気をつけなさい!」
その言葉を聞いたジーナとティートは、顔色を変えて頭を下げていた。
……ん? アウグスト君がギルドマスター?
「ねえ、アウグスト君、ギルドマスターなの? ……確か、初めて私たちの村に来たとき、商人ギルドの『幹部』って名乗ってなかった?」
「バレたか。 でも嘘は言ってないぞ? ギルドマスターだって幹部には違いないだろ?」
そう言ったアウグスト君は、イタズラ小僧みたいな顔をしていた。 ……機嫌は直ったのかな?
「ねえ、アウグスト君。 さっき少し機嫌が悪そうだったけど、何かあったの?」
私が訊くと、アウグスト君は少しの間、困った顔をしてから、話し始めた。
「まず、この建物は冒険者ギルドなんだがな、その冒険者ギルドの規定では、精霊は、魔物の仲間とされているんだが…… おっと、落ち着いてくれよ。 今、髪の毛が逆立ったぜ? で、俺は、その規定を、どうにか変えられないかと思って掛け合ってみたんだが、断られたってわけだ」
「そっか、それで今、一度戻って戦力を整えてから改めて殴りこもうとしてたんだね? うん、それで…… 私は何人倒せばいいの?」
「いや、殴り込まねえよ!? 俺も不満はあるが、だからと言って商人ギルドのマスターが、自ら冒険者ギルドに殴り込むとか、王都が騒然とするレベルの大事件じゃねえか!? あと、先輩も、誰も倒さなくていいからな!?」
むぅ…… 殴り込まないの?
モーリンを魔物扱いする人達なら、それこそ魔物扱いしていいと思う。
みんな討伐しちゃってもいいんじゃないかな? 魔物なんだから。
「個人ならまだしも、大きな組織っていうのは簡単に方針を変えれらないからな。
俺が掛け合ったのも、方針転換のきっかけの1つくらいになれば、まあいいかと思って、ダメ元でやった事だ。
こう言うのは、内側からの地道な動きがないと変わらない…… おっ、そうだ!」
そう言ったアウグスト君が、私の肩にポンと手を置いた。 ん、なに?
「先輩が冒険者になって、内側から冒険者ギルドの意識を変えてくれないか?
問題点を変えるには、まず、その問題点に注目を集めて、人々の話題になるようにするべきだと思う。
先輩の実力と外見なら、すぐに注目されるだろうから、その先輩が精霊の巫女だとなれば、精霊を魔物扱いしている現状に疑問を持つ人間も出てくるだろう」
冒険者……あまりいいイメージは無いけど、私も、精霊が魔物なんていう認識は早く変えたいし、お金が稼げれば、モーリンにプレゼントを買えるかも?
そう思った私は、こう答えた。
「モーリンの巫女である事が最優先。 それでもいいなら、なってみてもいい」
「おう、兼業は問題ない。 俺だって、流石に商人ギルドマスターになった後は廃業したが、昔は冒険者だったしな。 えーっと、そっちの槍を持った嬢ちゃんは冒険者だよな? ちっと、登録の手続きを手伝ってやってくれるか?」
アウグスト君は、ジーナに声をかけた。
むぅ……私は大人のレディだから、手続きくらいできるのに。
「それはいいんですけど、ギルドの決まりでは、冒険者になれるのは12歳からですけど、フリージアちゃんの年齢って……」
「ああ、先輩はエルフの性質が強いから成長が遅いけど、年齢は……
あ~、まあ、女の年齢をはっきり言う気はないが、多分、槍の嬢ちゃんより年上だから大丈夫だ」
うん、私は大人のレディだよ? でも、ちょっとだけ若く見られるんだよね。
「マジ!? この子が姉さんより年上!? 背もちっこいし、胸だって、まるっきり、ペッタン……ぶべらっ!?」
ティートが余計な事を言った。
ほっぺたの汚れを払ってあげるつもりだったけど、ティートが余計な事を言ったから、手が滑った。
少し力が入ったけど、ティートが余計な事を言ったから仕方ないよね?
無表情のモーリン以外は、みんな苦笑いしてる中、ジーナが私の手をとって言った。
「今のはデリカシーの無いティートが悪いわ。 さあ、フリージア……さん? 登録に行きましょうか」
「呼び難ければ、ちゃんづけでもいいよ。 あからさまな子供扱いをしなければ、別に怒らないから」
手を引かれるのは、子供扱いなのか丁寧な案内なのかは迷うところだけど……
うーん、ジーナに悪気は無さそうだから、まあいいや。
私は冒険者登録をするために建物に入った。 ……あれ? トレニアも来るの?
「いつまでもお姉様を魔物呼ばわりさせるわけには行きません。
私も冒険者になって、内側から方針転換を訴えますわ。
私は戦いは得意ではありませんが、荒事だけが冒険者の仕事ではないでしょう?」
ほっぺたを赤く腫らしたティートも、一緒について来た。 でも、アウグスト君は、モーリンを引き留めるようにして外にいる。 ん、来ないの?
「ああ、精霊を魔物として扱ってる場所にモーリン様を連れて行くわけには行かないだろ?
しばらくは俺の家に居て貰うことにするよ。 夕方に中央広場で合流しよう」
あ、そうか。 そのほうがいいよね。 私も、もし目の前でモーリンを魔物扱いされたら、多分、そんな言葉を言った舌と、見る目のない目玉はアレしちゃうと思うし。
少しの間、モーリンと別行動か。 ちょっと寂しいけど、仕方ないよね。
待っててね、私は冒険者になって、ふざけた認識の冒険者たちの頭蓋骨を……
じゃなかった。 認識を叩き壊すんだ。
あっ、そのついでに、斧を使う冒険者を追放できれば最高かな?
私は決意を胸に、冒険者ギルドの扉をくぐった。
次回も2日後投稿の予定です。