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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
4章ですよ モーリン神殿? いえ、建てなくてもいいですが。
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40.5話B 伝説の始まり、芽生える想い

セレブお嬢さんこと、トレニアの視点です。

私は、魔導甲冑のそばに立って、少し離れた場所から、精霊様の姿を見ていました。


 今日、初めて目にした精霊様と姿は、私より随分と年下のように見えて、正直、驚きましたわ。 実は、私は精霊様という存在は、『凛々しいお姉様』というイメージで想像していましたの。

 私の勝手なイメージを押し付けるつもりはありませんが、イメージと違っていて残念という気持ちは、少しはあります。


 ですが、先ほど青いバラを生み出した事には驚かされましたし、彼女が見た目通りの少女ではないのは確かです。 失礼の無い対応をしなくてはいけませんね。


 ふふっ、ああやってサンダーネズミを見ている姿は幼い少女に見えるんですけど。



 ……それにしても、なんだか今日は、この部屋の空気が良くないですわね?

 少し、気分が悪くなって来た気が……えっ!?


 魔導甲冑が動きました!?

 安全のために、コアは外してありますのに……!



 動揺した私は、迫る剣を前に、避ける事も防ぐ事もできずに、ただ、立ち尽くし、死を待つだけしかできませんでした。 ですが……。


 若草色の風が吹いた。 ……私には、そう見えました。 

 次に気づいたのは、鼻腔をくすぐる、ハーブティーのような爽やかな香りです。

 ……そして、その後になって、やっと、何か起きているのかが認識できました。


 「せ……精霊様……!?」


 そう……精霊様が、その身を盾にして、私を守って下さっていたのです。

 その隙に逃げる事が、私に出来る最善であったはずですが、私は情けない事に、腰を抜かして座り込む事しか出来ませんでした。 


 その後、精霊様は、味方の援護が来た隙に、情けなく座り込む私を優しくも力強く抱き上げて、父のそばまで避難させて下さいました。


 そしてまた、すぐに戦場に戻るその背中は、なぜか大樹のように大きく見えました。



 ああ……この、胸の高鳴りは何なのでしょうか?


 年下にしか見えないはずの精霊様の姿が、今の私の目には何故か、幼い日に想像していた、『凛々しいお姉様』の姿に重なって見えていました。



 その後は、お姉さ……コホンッ…… 精霊様が、平手打ちで魔導甲冑を破壊して、戦いは終わりました。


 そして、崩れ落ちた魔導甲冑の中から、何かを拾い上げて…… えっ!? 食べました!?


 最初はその行動の意味が理解出来ませんでしたが、周囲に漂っていた嫌な空気が薄れているのに気づいて、私はやっと精霊様の行動が何だったのかを知りました。

 あれは、この嫌な空気の原因を自分に取り込むことで封じたのでしょう。

 ……ですが、そんな物を食べて大丈夫なのでしょうか?


 ……まあ精霊様に限って、考えも無しに行動して勝手に体調を崩すような、愚かな真似をするはずがありませんわよね。 きっと大丈夫なのでしょう。

 ……なにやら、焦って挙動不審になっているように見えますが、きっとあれも、何か意味のある行動のはずですわ。



 精霊様は決意を秘めた表情に……あ、いえ、表情は変わらないのですけど、そんな雰囲気になり、これから何かをするようです。

 いったい何を…… あっ……!? 


 突如、精霊様の体が光に包まれて、その眩しさに、私は目をつぶってしまいました。

 そして、再び目を開けたとき、精霊様の姿は、変わっていたのです。



 「……美しい」


 私の口からは、ただ、その一言が漏れるのみでした。


 色とりどりの花と沢山のフリルで飾りつけられた若草色のドレスは、明るく華やかで可愛らしく、それでいて優雅で品があります。

 よく見るとあの花は、ドレスに直接咲いていますし、フリルは花びらで出来ているようです。 あれは、人の手では再現できないでしょうね。


 若草色だった髪も色を変え、生え際は鮮やかな金髪で、毛先に向かうごとに、徐々に、真珠のような銀髪に代わり、その銀髪は、光の加減でピンク色が混ざったような色を反射します。 


 その神秘的な髪の美しさは、青いバラの花冠で飾りつけされ、更に魅力を増して見えます。

 そして、その髪の間から見えるその耳は、エルフと同じ、長く尖ったものに変わっていて、瞳の色も、右が青、左が紫に、それぞれ変わっています。


 ですが、最も目を惹くのは、背中にある、大きな蝶の羽でしょう。

 森林を思わせるような深い緑色の蝶の羽は、どうやら、大きな木の葉で出来ているようです。



 辺りを見ると、私だけでは無く、お父様もお母様も、そして、精霊様の事をよく知るはずの、巫女の少女やアウグスト様さえも、声も無く、ただ精霊様に魅入っているようでした。



 音も無く、時が止まったような部屋の中、精霊様が突然、窓から外に飛び出しました。

 いったい何を……!?


 私が驚いている内に、巫女の少女も、精霊様を追って窓から飛び出し、さらに、

 「悪いが、俺も失礼するぜ!」と言って、アウグスト様までも出て行きました。



 事態は把握できていません。 ……ですが、きっと何かが起こります。

 そして、それを見逃すと、きっと私は後悔するでしょう。

 これは、エルフの本能? それとも乙女の勘でしょうか?


 気が付けば、私も窓から飛び出していました。


 「ト……トレニア!! お前まで!?」


 驚いて私の名を呼ぶお父様の声も、今の私の足を止める事は出来ませんわ。



 ……窓から飛び出すまでは良いのですが、私には心配な事がありました。

 日頃、私は『美容と健康のため』という程度のトレーニングしかしていません。

 精霊様が、あの速さで遠くまで移動していたら、追いつく自信はありませんわ。



 そんな不安を胸にしながら、通りに飛び出すと、なにやら街の人達がざわめいています。

 そして、その中に巫女の少女とアウグスト様の姿を見つけ、私は精霊様が近くにいる事を知り、安心しました。 ……ですが、いったいどこに?


 街の人、そしてアウグスト様達2人の視線を辿ると、どうやら上を見上げているようですが…… 上? ……まさか?


 その視線を追うように、私も空を見上げると、そこには、青く澄んだ空を背負い、神々しく天を舞う、お姉さ……コホン! 精霊様がいました。



 そして、そこから先は、もはや神話やおとぎ話のような光景でした。


 精霊様が、空中で舞うように手を振ると、それに合わせて、街の所々に、真珠をあしらった金細工のような、美しい花が咲きはじめ、辺りを、甘く優しい香りが漂い始めました。

 さっきまで、まだ僅かに残っていた嫌な空気は、跡形も無く消え去り、呼吸する度に体に力がみなぎるかのような清らかな空気へと変わりました。


 いつしか、私の目には、感動の涙が溢れていました。

 今、私は数十年、数百年の未来まで語られるであろう、伝説のワンシーンを目撃しているのですわ……。


 精霊様は、辺りに花を咲かせた後、少しずつ元の服装に戻って行き、地上に向けて降りて行き……

 ……降りているんですわよね? 落ちているんじゃないですわよね?


 私は、通りの向かい側にいた、巫女の少女に駆け寄って、確認しました。


 「ちょっと…… お姉様は、自分で降りたんですわよね!? 力尽きて落ちた訳じゃないですわよね!?」


 「え? お姉様? むぅ…… 何でモーリンがお姉様? まあそれはいいや。

 モーリンは、気持ち悪い魔力を綺麗にした後は、むしろ魔力が増えていつもより元気になる。 だから、力尽きたって事は無いはず」



 あっ……つい、口に出して『お姉様』と言ってしまいましたわ……。

 えっと、とにかく、おね……精霊様は大丈夫って事ですわよね?


 その時、厚い岩盤を叩き割ったような音が響き渡り、急に不安になりました。


 仮に…… 仮にですけど、精霊様が落下したんだとしても、あの小柄な体が落ちただけで、あんな豪快な音はしませんわよね?

 なら、今の音は、いったい何なのでしょうか?


 その時、アウグスト様が提案しました。


 「……あの聡明なモーリン様が、ドジを踏むとは思わないが、流石に今の音は気になるな。 念のために俺たちも行ってみようぜ」



 私達は、音がした方に向かいました。




 たどり着いた場所は、今は使われなくなった、古い物見塔がある場所なのですが、

 その物見塔のすぐ横の地面に、大きな穴が空いていて、そこにはすでに、多くの警備兵が駆け付けていました。


 私は、近くにいた兵士に声をかけました。

 この方は、確か警備隊の隊長さんだったはずでしたわよね。


 「少しよろしいですか? ここに、精霊様…… いえ、神秘的な少女がいるはずなのですが、見ていませんかしら?」


 私が訊ねると、隊長さんは、助かった、とばかりに表情を明るくしました。


 「おお、貴女はコランバインさんの所のお嬢さんでしたね? あの少女はお嬢さんのお知り合いでしたか! それは助かりました」




 隊長さんから聞いた話は、こういうものでした。



 ある犯罪組織のアジトが、物見塔の地下にあると突き止めたのですが、作戦会議に時間が掛かっているうちに、数人の若手の兵士が功を焦って、突入したそうです。


 ですが、返り討ちにされ、人質にされるか、あるいは、そのまま殺されるか……という絶体絶命の危機に、精霊様が天井を蹴り破って現れ、組織の構成員は瓦礫の下敷きになり、戦闘不能になったらしいです。

 それはもう、見事に狙いすましたように、構成員のみに瓦礫が当たり、捕まった警備兵たちには小石1つも当らなかったそうですわ。


 その直後、隊長さん達が駆けつけたらしいのですが、精霊様は何も話さず、かといって、犯罪組織を1人で制圧し、部下の命を救った英雄に強引な尋問をする訳にも行かず、どうするべきかと困っていた所だったそうです。



 なるほど、そこで尋問などしていれば、厳重に抗議する所ですが、ちゃんと恩人として敬意をもって精霊様に接しているのなら、協力いたしましょう。


 ですが、私は精霊様の事をさほど詳しく知っている訳ではありませんし、ここで精霊様の情報を、どこまで公開していいのかも判断がつきません。

 なので、巫女の少女とアウグスト様にも説明に参加してもらいました。


 その間、精霊様を拘束しておくわけにも行きませんから、精霊様は、先に私の屋敷に送って差し上げるようにとお願いしました。

 本来、素性がはっきりする前に解放する事は無いようですが、何か問題が起きた場合、私と、そしてなにより、アウグスト様が責任を取ると言うと、すんなり許可されました。


 あまり乱用する気はありませんけど、やはりこういう時は、知名度・財力・権力が揃っていると便利ですわね。


 巫女の少女も、『私が責任を取る!』 と言っていましたけど……

 あの…… 隊長さんからすれば、貴女も謎の人物ですから、貴女が責任を取ると言っても効果は無いと思いますわよ?



 先ほどの、空を飛び、花を咲かせ、魔力を浄化したあの奇跡が住民達から警備兵の詰所に伝わっていたらしく、私達が説明する前に、善良な存在である事と、普通の人間ではない事がわかっていたようなので、説明はスムーズに終わりました。


 精霊様を我が家へ送り届けた兵士から様子を聞きましたが、お礼の言葉を伝えても、敬礼をしても、精霊様は困惑するような雰囲気を見せるばかりで、その様子は、まるで、

 『私はお礼を言われるような事などしていないのに……』

 と言っているようだったそうです。



 きっと、悪を倒して他人を救う事を、ごく当たり前の事だと本気で思っているからこそ、改まってお礼を言われる事に困惑しているのでしょう。



 ああ…… 強く、優しく、美しく。 あくまでも無言を貫き、ただ行動のみで自分を語る……


 誇り高い戦士のような魂を、神秘的で愛らしい体に宿しているなんて、まさに私が想像していた理想のお姉様の姿、そのものですわ。


 エルフは、本人の魔力量によって年を取る速度が違いますから、他種族ほど年齢と言うものを気にしませんし、兄弟や姉妹の外見年齢が逆転しているという事も、さほど珍しくありませんわ。


 精霊様も、不老不死に近い存在ですから、きっと年齢なんて、気にしませんよね?


 で……ですから……あのっ……。


 お姉様、って、お呼びしても…… よろしいですか?

次回も2日後の予定です。

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