40話 半解凍の悪い魔力からの中二病コスプレ
どうもこんにちは、モーリンです。
セレブファミリーのお屋敷で、甲冑戦隊オモタインジャーと戦いました。
リーダーのオモタインレッドを倒したことで、甲冑戦隊の全員が動かなくなって、戦いは終わったんですが、レッドの中からポロリと出てきた黒いピンポン玉を見て、ぺルルちゃんが固まっちゃいました。
んー、実は私もコレに見覚えがある気が……
あっ! 思い出しました! 前にぺルルちゃんが持ってきた、『悪い魔力を魔法で固めたもの』ですよね、コレ。
ほら、私が初めて魔力の浄化にチャレンジした時のやつです!
あれれ? ですが、魔法で固めたものって事は、元々はピンポン玉の形で自然にあるものではないって事ですよね? では、何で今ここに転がってるんでしょう。
誰かの落とし物ですか?
まあ、何でここにあるのかは知りませんけど、病気の原因になるようなものが、お家の中にあるのは大問題ですね。
しかも、前にぺルルちゃんが持ってきたやつは、カッチカチに固まってたんですけど、コレは、半解凍というか何というか…… むわ~ん、って感じでイヤな気配が漏れて来てます。
どう見ても絶対に体に悪そうなので、さっさと浄化してしまいましょう。
まずは、これを吸収してしまいますかねー。
今までは、足か髪かの違いはありましたが、ストローで吸うイメージは共通でした。
……ですが、もしかして、この方が早いんじゃないですか?
アーンっと、口を開けて、悪い魔力の固まりを放り込みます。
ふ……ふももっ! ちょっと私の口には大きかったようですっ……!
ですが、やはりストローで吸うイメージより、直接食べる方が早いですね。
まあ、正確には食べると言うより、『食べるイメージで吸収』という感じですが。
うおぅ……!? やはり、吸収が早い代わりに、体に負担がかかりますねー!?
例えるなら、1ヶ月、点滴だけで生活してた人が、いきなり特盛りカルビ丼を食べたような強烈な胸焼けを我慢している状態で、さらに背中の上で相撲取りがヒップホップダンスを踊っているような最悪な気分です!
ぐっ……ぐふっ……これはキツイですねー。
「リン!? 馬鹿っ!! 今、ここで吸収してどうするのよ!?」
ぺルルちゃんが血相を変えて叫びました。 えっ? 何かダメでしたか? 確かに負担はヘヴィですが、いつも通り浄化すれば解決じゃないんですかね?
ほら、こうやって花を咲かせて…… ……おや? 土は、どこですか?
そ……そうでしたっ! ここは、室内です! 花を咲かせる場所がありません!
自分の頭に咲かせる事も考えましたが、頭が大量の花で埋め尽くされてアフロみたいになるのを想像すると、ギャグにしかなりません。
綺麗なモノをイメージをしないと浄化効果は無いので、ギャグになってはダメですよね。
え~っと……セレブファミリーの皆さん? このコレクションルームに土は飾ってませんかね?
ほ、ほら、高級で激レアでプレミアムな土とか、そういうのは、無いんですか!?
は、早くしないと! 今、私の体の中で、世紀末の拳法使いが百烈拳を撃ってるんですけどっ! ほらっ! 今、『お前の命は後10秒』って言いましたよ!
皆さんには聞こえませんでしたか!?
だ、確か、教えてください! 私は『ひでぶっ』と『あべしっ』と『たわばっ』の、どのセリフで破裂すればいいんですかー!!?
「リン! いつもの花じゃなくてもいいの! 体の中の悪い魔力を、何か綺麗な物に創り変えて! 早く!」
綺麗なモノと言われましても……私が創れるのは植物だけですから、花くらいしか思い浮かばないです。
それに私にとっての綺麗なものと言えば、やっぱり、ちくわちゃんとぺルルちゃんのイメージで固定されちゃってます。
土が無くてもOKなもので、ちくわちゃんとぺルルちゃんを表現しろと?
結構な無茶ぶりですが、やらないと、もれなく私が爆発します。
……あっ! こんなのはどうでしょうかね? い、いえ、流石にそれはアウトです。 んー、 ん? あ、ダメです。 これ以上我慢すると体ガガガ……。
げ、限界です! もう、これで決定! やっちゃいます! ソイヤ!!
全身から光を発しながら、悪い魔力を綺麗なものに創り変える……あ、いえ、コレを綺麗なものと言うのは非常に心苦しいのですが、ゆっくり考えている暇が無かったので許してください。
やがて、光が収まりましたが、特に何も変わってないように見えます。
……ええ、私の視点からはですけど。
……はい、私は、自分の姿を変化させました。
流石に完全に変化するのは怖いので、魔力の浄化が済んだら元に戻るようにしたつもりです。
……本当に戻りますよね? 大丈夫ですよね?
……わかってます。 わかってますよ? 綺麗な物って言ってるのに、自分がコスプレするなんて、どんなナルシストだよw っとか言われる事、間違いなしですよ。 実際、まだ悪い魔力は浄化し終わっていないみたいですし、私のコスプレが綺麗な物だとは、世界が認めていないんでしょう。
今、どんな外見か、ですか? ……自分では見えないからわかりませんねー。
……視点を動かせば見えるかもしれませんが、あえて見ません。
普段よりも長くなった髪の毛が、途中までは金色で、先へ行くにしたがって、ピンク混じりの真珠色になっているのが、チラチラ見えていますが、見えて無い事にします。
髪の毛の間から尖った耳が、ひょっこりはん、と顔を出しているのも錯覚です。
私の背中にくっついているのは、蝶々の羽などでは無いって事に決めました。
うんうん、私はいつも通りデスヨー。
はい、ウソです。 今の私は、かなり痛いデザインになっているはずです。
どうもこんにちは、中二病コスプレイヤーです。
いえ、やっぱり、私としては、綺麗なものと言われれば、ちくわちゃんとぺルルちゃんの要素は外せないんですよ。
ですが、私も全身を変形させるのには限界があるので、ちくわちゃんやぺルルちゃんを100%コピーは出来ません。
なので、私をベースとして、2人のパーツをトッピングしていったら大変な事になりました。
一度ビジュアルを想像して『あっ、コレは無い』と思ったんですけど、私が弾けて木片になるまで時間が無かったので、そのデザインのまま変身しちゃいました。
ちなみに、実は、蝶々の羽の部分は、でっかい葉っぱ4枚で出来ています。
しかも、少しでも多く魔力を消費しなくてはいけないと思ったので、服も、大量の花や実で飾り付けしたゴテゴテ、ヒラヒラのゴージャスな物で、頭には花冠も装備中。
更に、イメージ通りなら、今の私は瞳の色もちくわちゃんとぺルルちゃんがミックスされているので、青と赤紫のオッドアイになってるはずです。
……いやー、我ながら気合いの入った中二病デザインに仕上がったと思います。
私は中二病コスプレも素敵な文化だと思いますが、美男・美女じゃないと、イタいだけですよね。 私ではなくて、ちくわちゃんやぺルルちゃんなら文句なしに可愛いくなったと思いますが。
さて、浄化は終わってませんが、とりあえず爆発しそうな感じは収まりました。 今のうちに土のある所へ行って、残りの悪い魔力も花に変えちゃいましょう。 いつまでも自分のコスプレ姿に苦悩してても仕方ありませんし。
ちくわちゃんとぺルルちゃんが、私の姿を見て、何か言いたそうにしていましたが、反応を見るのが怖いので、この場から逃げる事も兼ねて、私は外に出る事にします。
緊急なので、勝手に出て行ってごめんなさいね。 私は心の中でセレブファミリーに頭を下げてから、お屋敷の窓から飛び出ました。
……何で窓から出たかと言うと、お屋敷が広いので、玄関がどこなのか忘れちゃったからです。
おや? 今、窓から外に飛び出した時、何かいつもよりフワッと飛べましたね?
見た目だけの、コスプレウィングのつもりだったんですが、もしかして、この羽って本当に飛べるんですかね? ちょっと試してみましょうか。
私は、木の姿で、枝をワサワサ振ってた時の感覚で羽ばたきます。 お? おおっ?
少しずつ足が地面から離れて、視界が高くなっていきます。 はい、上へ参りまーす。
ほ……本当に飛べました! 知りませんでした…… 木って空を飛べるんですねー。
気持ちいいです。 しかし、葉っぱの羽で飛べるとは、思いませんでした。
『葉っぱで、飛んで、気持ちいい』
……誤解を受けそうな字面ですが、大丈夫、私の葉っぱは合法です。
おっと、フライング・モーリンに進化した感動に浸るのは後です。 まずは、魔力の浄化を終わらせましょう。
私は上空から街を見下ろします。 んー、石畳みたいになってる所が多くて、土が少ないですが、まあ、いろんな所に点々と咲かせれば大丈夫でしょう。
折角なので、空中で浄化してみましょう。 今は胃もたれするほど力に満ちているので、少し無駄使いするくらいで丁度いいですし。
私は、周囲を見渡して、土のある所を狙って、いつもの花を咲かせます。
はい、そこ! ほい、そこ! あ、こっちもです!
街の色々な所がお花畑になったころには、私の中の悪い魔力も浄化し終わっていました。
それと同時に、スゥーッと消えるように、私のコスプレも解除されていきます。
ああ、そう言えば、浄化が終わると解除されるようにしたんでしたね。
うん、ちゃんと設定通りに機能してくれて良かったです。
おや? また頭の中に世紀末の拳法使いが現れました。
こんにちは、さっきぶりですねー。 え? 今、また『お前の命は後10秒』って言いました? それはいったい……。
あっ…… 空中で羽が消えちゃったら、落ちるに決まってるじゃないですかっ!!
おおぅ!? 気付けば、すでに落下が始まっています!?
今は普段の姿に戻ってますから、羽を生やすことはできません。
赤い牛のマークのエナジードリンクは翼を授けてくれるという噂ですが、生憎と今は持ち合わせていません!
くっ……! ならば、根性で耐えるのみです! この体の頑丈さなら、落下の衝撃くらいは耐えきってくれるはず! 私の頑丈さは、今、この時のためにあったのです!
多分違いますけど、そういう事にします!
さあ! 地面が近づいて来ました! 頑張れ私! 強いぞ私! 私ならやれます!
1・2・3 ダアッー!! って! ほわあっ!?
き……気合いを入れすぎましたか!? 地面をぶち抜きました!!
……おや? ここは、地下室でしょうか? なんか、人工的な空間ですね?
……あっ!? 気絶してる人がたくさんいます! わ……私、やってしまいました!! 罪もない人に大怪我を!?
少しして、兵士さんが駆けつけて来るまで、私はショックと罪悪感で放心状態でした。
そして、私を取り囲む兵士さん。 ああ、私を逮捕しに来たんですか? ご苦労様です。
ちくわちゃん……ぺルルちゃん……私は、牢屋の中から、幸せを祈っていますからね……。
兵士さんたちは、ピシッと整列して私に敬礼した後で、丁寧な対応でセレブファミリーのお屋敷まで送ってくれました。 なぜ!?
そして、屋敷に帰ると、セレブファミリーの皆さんも、私を見る目が変わっていました。
色々とやらかしたので、マイナスの方向に変わったかと思ったら、なぜか、皆さん、私を好意的に見てくれているっぽいです。
……んー、正直な話、わからない事だらけなんですけれど、とりあえず『悪い魔力の浄化』と、『セレブファミリーに認めてもらう』という2つの目的は果たせたので、めでたしめでたし、って事でOKですよね?
主人公は、コスプレをする事自体には抵抗はありません。
ただ、気合いの入りすぎたデザインが、自分に似合わないと思っているから嫌がっているだけです。
ネタっぽい見た目のコスプレなら抵抗なく普通に着ます。
次回も2日後の予定です。