38話 隠れ家的ペンションからのセレブファミリー
どうもこんにちは、モーリンです。
いや~、今回の旅で、ワイルド商人さんを見直す事が何回かありましたが、街に着いてからは更に見る目が変わりました。
馬車が、お上品で高級そうな感じの宿の前に止まったので、いやいや! ここは場違いですよ? って思ったんですけど、ワイルド商人さんが受付の人に話しかけると、受付さんの顔色が変わりました。 で、直後に、いかにもオーナーっぽいおじさんが出てきて、ワイルド商人さんにペコペコ頭を下げ始めました。
……ワイルド商人さんって、実は私が思ってたよりVIP的な人ですか?
そう言えば、ゲームで防御力の事を、VITって書いてあるじゃないですか、私は昔、VITとVIPを間違えていて、VIP の数値が高いと、なんでダメージを食らわないんですかね? やはり、魔物も偉い人相手には手加減をするという事でしょうか? なんて考えたものです。
おっと、今は宿の話をしましょうか。
あまり大きくは無いんですが、オシャレな外観で、大理石……かどうかは知りませんけど、そんな感じのツルツルした石で出来ています。
現代の地球でも、完全予約制で5組まで宿泊可! とかそんな感じの、知る人ぞ知る隠れ家的ペンションとしてやっていけそうな建物です。
晩ごはんも、見た目と品数、共にこの世界で見た中では、一番豪華でした。
私は味はわかりませんが、食べている皆さんの顔を見る限りでは美味しいんだと思います。
んー、こんないい宿のオーナーがペコペコ頭を下げるなんて、やっぱりワイルド商人さんって大物だったみたいですねー。
あ、さっきの人がオーナーと言うのは、あくまで予想ですが。
少し食休みしてから、部屋に案内されたんですが、その部屋も中々グッドでした。
全体的に、ゴテゴテした飾りがなくて、さりげなく高級感がある感じです。
ベッドも質が良さそうです。 ……ですが、私はベッドで寝てもあまり体力が回復してくれないので、また店の裏でも借りて、土に足を埋めて休みましょうか。
そう思った時、部屋のドアがノックされ、開けてみると、ワイルド商人さんが、でっかい木の桶を運び込んで来ました。
ほら、小さな子供が遊ぶ、ビニールプールがあるじゃないですか、あれくらいの桶です。
ワイルド商人さんが、その桶をベッドのそばに置くと、今度はそこに、宿の従業員さんが麻袋を抱えて来ましたね。
そして、従業員さんが麻袋を桶の上で逆さまにすると、土がドサドサ出てきました。
おお! もしかして、私が部屋で休めるように? これは嬉しいです! 前にも思いましたが、この旅では、ワイルド商人さんに、凄くお世話になっているので、改めて何かお礼をする必要がありますねー。 ちょっと考えておきましょう。
私は、ベッドに腰かけて、足湯に浸かるようにして、足を土に突っ込みます。
んー、やっぱり、外で地面に穴を開けて足を入れるのと比べると、補給の効率は少し落ちますかねー? 土の量の問題ですかね?
ですが、今日はあんまり消耗してないので、これで充分ですし、何より、ちくわちゃんやぺルルちゃんと一緒の部屋で過ごせるのがいいですね。
寛ぎながら、私は、今後の予定について考えます。
魔力の浄化をするのは決定なんですけど…… でも、ちょっと妙な感じなんですよねー。 ほら、道中の休憩所の時は、なんか空気が悪い感じがしたんですけど、この街は、あの時ほど空気は悪くないんです。
ですけど、すでに綺麗になってる、とかそう言う話でもなさそうで、言ってみれば悪いものが息を潜めてる感じというか…… 根拠は無いけど嫌な感じです。
ぺルルちゃんは、どんなふうに感じてるのかな? と思ったので確認してみたんですが、大体私と同じような印象らしいです。
まあ、考えていてわかるものでもないので、街を歩き回って、調べてみましょう。
さて、そうと決まったら寝ましょうか。 まあ、私は眠りませんけど。
あ、旅で汚れた服と体でベッドに入ったら、宿屋さんに迷惑ですかね?
そう思ったタイミングで、従業員さんが、体を洗うためのお湯と布も持って来てくれました。 ……本当にサービスのいい宿屋さんですねー。
ちくわちゃんの背中を布で拭いてあげると、ちくわちゃんもお返しとばかりに私の体を拭いてくれました。
……あの、ちくわちゃん? 背中を拭いてもらうつもりだったんですけど、なんで前に来るんですか? それと、そこに布があるのに、なんで素手で洗うんです?
いえ、まあいいんですけどね……。
汚れを落とした後は、部屋のクローゼットに入っていたパジャマに着替えます。
それにしても、この世界の宿屋の基準は知りませんけど、多分、部屋に備え付けのパジャマがあるっていうのは、やっぱりサービスが良いんじゃないですかね? この宿屋さん。
……おや? ちくわちゃん、流れるような自然な動きで、私のベッドに潜り込んできましたね? まあ、私は座っているだけなので、スペースは空いていますし、そこで寝ても構いませんけど、折角ベッドが2つあるのに……と思ったら、すでにぺルルちゃんが反対側のベッドで寝てました。
ダブルサイズくらいのベッドを、身長30センチのぺルルちゃんが独り占めとは、なんと贅沢な……。 でも、ビジュアルが微笑ましくて、起こすのは気が引けたので、ぺルルちゃんには、そのまま贅沢な睡眠タイムを堪能してもらいましょう。
という事で、ちくわちゃんにはそのまま私のベッドで寝て貰いました。
私は座った状態でしたし、丁度いいから膝枕をしてあげると、幸せそうな顔で眠りました。
この寝顔を見ると、私まで幸せな気持ちになって来ますねー。
私はそのまま朝までちくわちゃんの頭を撫でていました。
翌朝、ちくわちゃんは、腰の辺りにフリルの飾りがついた、若草色のワンピースに着替えました。
おや? いつもの服よりちょっとオシャレですね? いつもは、ワンピースと貫頭衣の中間みたいな、飾りの無い素朴な服を着ていることが多いんですが、これは日本人の感覚で見ても、普通に可愛いデザインです。
大きな街に来たので、ちょっと気合いを入れてオシャレしたんですかね?
……ふむふむ、では私も少しオシャレしましょうか。
私は、いつもの葉っぱで作った服の形を少しいじって、ちくわちゃんの服に似たデザインに変化させました。 フリルの部分は、小さな葉っぱを重ねてそれっぽく仕上げます。
完成です! うん、これでペアルックですねー。
ちくわちゃんは、私の服を見て一瞬きょとん、とした後、自分の服と見比べて、ペアルックに気づいたのでしょう。
パァっと、花が咲いたような、満面の笑顔になって、私に、ガバチョ! と抱きついて来ました。
おお、ちょっとしたイタズラ心でやりましたが、こんなに喜んでもらえて何よりです。
理由はありませんが、なんとなく、ちくわちゃんを持ち上げてクルクル回っていると、部屋のドアがノックされました。 お客さんですか?
ドアを開けるとワイルド商人さんがいて、ちくわちゃんと何かお話を始めました。 んー、なんかこの後どこかへ行く雰囲気ですか?
2人とも私の方を見て何かを言いましたし、これは多分、私も行ったほうが良い感じですね。 ではお供しましょう。
ぺルルちゃんも、留守番してても仕方ないわ、と言ってついて来ました。
いえ、ついて来た……というか、私の頭に乗っています。
ワイルド商人さんにエスコートされた先は、宿屋から数分歩いた所にあるお屋敷でした。
さっきの宿屋は、さりげなくリッチな感じでしたが、このお屋敷は、絵に書いたようにゴージャスな感じですねー。 ちょっと落ち着かない感じです。
入り口に立っていた門番さんに、ワイルド商人さんが何かを言うと、扉が開いて、中からお出迎えの人が出てきてくれたんですが、その姿を見たときに私は衝撃を受けました。
猫耳です! しかもメイドさんです! つまり、猫耳メイドさんです!
やっぱりいるんですねー! 魔物やエルフや人間に変身する木がいる世界なので、獣人もいるかな? と思っていたものの、結局今まで見かける事がなかったんですが、まさかこんなタイミングで出会うとは!
おっと、興奮して、つい立ち止まってしまいましたが、せっかく猫耳メイドさんが案内してくれるようなので、まずは、ついて行きましょうか。
んー、家の中も、まさにイメージ通りのお金持ちのお屋敷ですねー。 所々に、絵や石像などの美術品が飾ってあって、カーペットは、もちろん赤です。
……なんか知りませんけど、豪華な場所のカーペットは、赤ってイメージがありますよね。
そのまま赤いカーペットの廊下をしばらく進んだ先の扉を、猫耳メイドさんがノックしたあとに開けると、その先の部屋には、会食とかに使いそうな長いテーブルがあって、そこにはセレブっぽいおじさんと、セレブっぽい奥さんと、セレブっぽいお嬢さんがいました。
つまり、セレブっぽい家族ですね。
セレブおじさんは、私たちに向かって何かを言いました。
残念ながら何を言っているかわかりませんけど、猫耳メイドさんが椅子を引いてから、どうぞって感じに手を動かしたので、多分、座れって事でしょう。
私は立ったままでも疲れないんですけど、ここで座らないのは逆に失礼ですし、私は素直に座りました。
私が座ったのを確認してから座る、ちくわちゃんとワイルド商人さん。
おや? あなたたち、もしかして私に遠慮してました?
全員が席に着くと、紅茶っぽいものと、上品に一口サイズにカットしたサンドイッチっぽいものや、ソーセージや果物などが運びこまれてきましたね?
んー、さっき、この長いテーブルを見て、『会食に使いそうなテーブル』と思いましたけど、使いそう……じゃなくて、コレ、会食じゃないですか?
……んー、私は、なぜ会食する事になったんですかね?
そして、このセレブファミリーは、どちら様でしょうか?
うーん、謎が謎を呼びますねー?
次回も2日後です。