37話 第84代内閣総理大臣からの王都到着
どうもこんにちは、木です。
今夜は久しぶりに木…… と言ってもまあ、例によってゆるキャラですけど、その状態で一晩過ごそうと思います。
ほら、昼間にゴーレムさんたちと戦ったじゃないですか。 あれくらいならあんまり消耗はしませんけど、久しぶりの戦闘だったので、念のために効率良く回復できるこちらの姿で安静にしようかと思ったんですよ。
卵の黄身の味噌漬けみたいなお月様の下で、ぼーっと夜を過ごします。
どうでもいい事を考えたり、前にあった事を思い出したりと、頭の中を自由に遊ばせます。
すると、今日出会った冒険者っぽい2人の事がチラリと頭に浮かんで、ふと、私が冒険者になることはあるのでしょうか? なんて考えてしまいました。
そして結論はすぐに出ました。 あり得ません。
まず、会話ができず、字もわからないため筆談すら出来ないという時点で無理ですし、魔物退治は仕方ないですが、人間と命の奪い合いをするような仕事はゴメンです。
まあ、そもそも木が冒険者に登録できるかどうかが、不明ですが。
んー、異世界と言えば冒険者というイメージなので、ちょっと興味はあったんですけど、自分がなりたいかというと、いまいちですねー。
あ、ですけど、冒険者ギルドは見てみたいですねー。 目的地は大きな街のようですから、きっとギルドはありますよね?
機会があれば、覗くだけ覗いてみましょうかね?
翌朝、薄暗いうちに人間の姿に変身します。 もう、元気は100%中の100%ですし、変身する時、一瞬だけ裸になる瞬間があるので、暗くて人目の無い時間帯のほうが都合が良いです。 英語で言うとグッド都合です。
……都合って英語でなんて言うんでしたっけ? まあいいです。
私は人間の姿になると、馬車に入りました。
ちくわちゃんは、ぺルルちゃんを抱きしめて寝ていました。 抱きしめられたぺルルちゃんがつぶされてしまわないか少し心配でしたが、苦しそうにしていないので大丈夫そうですね。
皆さんが起きる時間までもう少しあります。 それまではやる事も無く、ただ待っているだけですし、どうせなら2人と一緒にいましょうか。
私が側に座ると、ちくわちゃんは寝ているはずなのに、私の気配でも察知したのか、転がるようにして私に密着してきます。
あっ! 今、転がった時、ぺルルちゃんを潰しませんでしたか!?
ぺルルちゃんが『おぶちっ!』 って、第84代内閣総理大臣の名前みたいな声を出しましたけど、大丈夫でしょうか?
……そう言えば、ぺルルちゃんは、普段は念話を使っていると言っていたので、もしかしたら、今のが初めて聴いた肉声かも知れません。
初めて聴いた肉声が『おぶちっ!』だと思うと、何か不思議なガッカリ感がありますねー。 あ、いえ、全国の小渕さんに文句がある訳では無いので悪しからず。
念のために確認しましたが、ぺルルちゃんは、ペラペラになったりはしてませんでした。
そう言えば、昔、ペラペラになったカエルが、シャツに張り付いたまま生活するアニメがありましたけど、ぺルルちゃんがシャツに張り付いたら、普通に萌えTシャツみたいになりますねー。
まだちくわちゃんは、私に密着したまま寝ています。 この子は、あまり寝起きは良くありませんからね。 ですが、ぺルルちゃんは目を覚まして、ストレッチをしています。
「うぅ……体が痛い…… なんか、巨大な竹輪が転がってきて、押し潰される夢をみたわ……」
あ、何気に半分くらい正解してますね。
んー、ですが、まあ真実は、伝えなくてもいいですよね?
まだちくわちゃんは寝たままですが、馬車は出発しました。
まあ、皆さん朝はお茶を飲むくらいで、ご飯らしい物は食べないみたいですし、出発の準備とかも兵士さんがやってくれるので、ちくわちゃんは寝たままでもいいんですが…… でも、よく寝ますねー?
そう思って顔を覗きこむと…… おや? 起きてます? 今、普通に目が合いましたね。
ずっと、私に抱きついたまま動かないので、寝てると思ったんですが…… 起きているなら、なんで抱きついたままなのでしょう?
……あっ! もしかして、ちくわちゃんは村の皆さんから離れて、寂しくなったのかも知れません! 心のケアのためにも、少しスキンシップを増やしましょうか。
私はちくわちゃんをキュッとハグして頭を撫でてあげました。
目を細めて気持ち良さそうにする表情は、仔猫を思い出させます。
ちくわちゃんは犬っぽいと思ってたんですけど、こういう表情は猫っぽいですねー。 可愛いのでもう少し撫でていましょうか。
最近はスキンシップの途中で馬車が揺れて、ちくわちゃんにのし掛かったり、鼻に指を差し込んだりもしちゃいましたけど、大きな街に近づいたからか、この辺りの道は綺麗に整備されているので、馬車もあんまり揺れません。
存分にスキンシップと参りましょう!
私は、しばらく動物をモフるようにしてちくわちゃんとスキンシップをしました。
休憩時間になったので、スキンシップを止めました。 ちくわちゃんはとろけたような表情をしています。 うん、満足してくれたようで何よりです。
……おや? ぺルルちゃんが、なにやら疑うような表情で見てますね?
「……確認するけど、リンがその子に向ける気持ちって、本当に友情とか親愛だけ……なのよね? いえ、別にそれ以上の何かがあったとしても、私に偏見は無いんだけどね? 一応」
ん? ぺルルちゃんが何を言いたいのか、よくわからないですね? んー、もしかしてぺルルちゃんもスキンシップしたかったんですかね? なら、遠慮しないで言ってくれれば良かったのに。 では今からでもしましょうか!
「え? 何で手をワキワキさせてるの? リン、貴方、多分何かを勘違いして……わひゃあ~!?」
うん、スキンシップ完了です! あ、ご飯の支度が出来たようです。 あまり皆さんを待たせてもいけませんね、さあ、行きましょうか。
ちくわちゃんは、とろけたままだったので、私が抱きあげて馬車から降ろしました。
もー、抱っこしないと動かないなんて、甘えん坊さんですねー。
でも、可愛いから許します。 可愛いは正義です。
はっ!? 今、気が付きました! 可愛いは正義! ちくわちゃんとぺルルちゃんは可愛い、つまり、正義です! そして私は2人の味方。
という事は、私は正義の味方!? ジャスティス☆モーリンですか!?
「……リン。 貴方、また変な事考えているでしょう?」
変な事? はて、私は通常運転ですよ?
皆さんが食事している間に、私も土から栄養を分けてもらって、回復します。
……と言っても、今日はちくわちゃんとぺルルちゃんを愛でていただけなので、疲労どころか、むしろツヤツヤしてる気分ですが、ぺルルちゃんが、大きな街に着いたら、好きな時に土に埋まれるとは限らないから、今の内に全回復しときなさいって言ってたので、栄養補給をしておきます。
確かに、この世界の都会の常識とか知りませんけど、もしかすると、土に埋まって頭に水をかける事を禁止する条例とかもあるかもしれませんね、気をつけなくては。
お昼休みも終わり、またしばらく馬車に揺られます。 んー、なんか、揺れが小さくなりました? ちょっと見てみると…… おおっ! 道が石畳になってます! 綺麗ですねー! 当然、日本の基準で見れば荒い感じですが、それが逆に異国情緒を感じます。 いえ、この場合は異世界情緒と言うべきでしょうか?
だんだん道にも活気が出てきました。 通行人も多いですし、道の脇には商品を広げている露店商さんもいます。
おっ……おおぅ!? あの人、明らかにヨーロッパ系の顔で、ターバンを巻いてナマズヒゲを生やして座禅を組んで笛を吹いて客引きををしています! 胡散臭すぎて逆に信用できそうな感じがしますねー。
どんな商品を扱ってるのか非常に気になりますが、お金も持って無いのに、馬車を止めてもらってまで見に行くのもちょっとどうかと思うので、残念ですがサヨナラですね。
私が馬車の窓から手を振ると、胡散臭い露店商さんも手を振り返してくれました。
あ、普通にいい人ですねー。 胡散臭いですが。
んー、周囲が薄暗くなって来ましたね?
普段なら、これくらい暗くなったら夜営の準備をしているんですけど、今は馬車が止まる気配はありません。 つまり、休まずに進めば、完全に日が落ちる前に街まで行けると言うことでしょうか?
ぺルル・モクテキ・マチ・チカイ?・トオイ?・ドッチヤネン?
「私も実際に行ったことが無いから何とも言えないけど…… でも、聞いた話の通りなら、もうすぐ見える頃だと…… あっ、あの灯りがそうじゃないかな?」
ぺルルちゃんが、前方を指差してそう言ったので、私もそっちを確認してみました。
その先には大きな石の壁が、かがり火に照らし出されてボンヤリと見え始めていました。
おお、遂に到着ですかー。 まだ中は見えませんが、壁のサイズからして大きな街っぽいですねー! 私が見たこと無いモノがいっぱいありそうですね、お散歩するのが楽しみです!
……おっと、まずはお仕事でしたね。 さて、澱んだ魔力を見つけて、さっさとキレイキレイしてしまいましょう!
その後は、みんなで仲良くお散歩ですねー!
門の前に並んで手続きを待つ間、私は街でのスケジュールを考えていました。
この話で、街の中まで入っちゃおうかとも思いましたけど、文字数も丁度良かったので、ここで切ります。
次回も2日後の予定です。