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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
4章ですよ モーリン神殿? いえ、建てなくてもいいですが。
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36.5話 ある冒険者の姉弟

前回登場した、駆け出し冒険者と、槍を持った女冒険者の視点です。

「ティート、緊張してるの?」


 「う……少しだけ緊張してるかもしれねぇ」


 姉さんの問いかけに、オレは正直に答えた。


 昨日の夜は、初めての夜営で、ドキドキしてあまり寝れなかった。

 これはオレが冒険者になってから、初めてのそれらしい仕事だし、そりゃ緊張するだろ?

 それにここで強がりを言ったところで、どうせ姉さんにはすぐバレる。 それなら最初から認めるさ。



 オレは、1ヶ月前にギルドで受けた試験で認められて、見習いを卒業したんだ。

 でも、その後も荷物運びみたいな雑用しか受ける機会がなかった。 だけど、今回初めて街の外に出る仕事をしている。


 今回の仕事は、街道を馬で1日くらい進んだ先にある林で、最近、妙な音が聞こえるからを調べてくれって依頼だ。 魔物や盗賊がいるかもしれないから、メインで受ける人間はCランク以上で、補助のメンバーはDランクからっていう仕事なんだ。

 で、Cランクの姉さんが受けて、Dランクのオレを補助に指名したってことさ。


 オレだって自分が姉さんのオマケだって事はわかっているけど、それでも初めての冒険者らしい仕事だから、緊張も興奮も両方していて、心が落ち着かねぇや。



 「さあ、もうすぐ目的の林よ、気を引き締めなさい」


 姉さんは、オレにそう言いながら、愛用の槍の先に巻いてあった布を外した。


 ギルドの教官が言うには、姉さんの槍の腕はかなりのものらしい。

 仕事中の態度やとっさの判断力も悪くないらしくて、いずれはBランクになるのも夢では無いみたいだ。


 AランクやSランクなんかになれるのは、一握りの天才だけだ。 だからBランクってのは、普通の人間がなれる限界点みたいなもんだ。

 もし姉さんがBランクに上がれたら、嬉しいけど、Dランクのオレなんかとは一緒の仕事は出来なくなると思う。

 だから、こうやって同じ仕事をできる内に、姉さんから学べる所を学んでおかないとな。



 「目的の林はここだけど……外から見る分には変わりないようね。 さて、中には何かあるかしら? それとも、噂は、あくまでただの噂なのかしら? さあ、確かめに行くわよ」




 姉さんの後ろについて、腰くらいの高さまで伸びた草を掻き分けて進む。 

 すると、急に草の少ない荒れ地みたいな場所に出た。 そして、オレはそこにある物を見て、少し興奮しちまった。 


 「おおっ! こいつはゴーレムじゃん!」


 「ええ。 昔、街道の整備に使われた作業用ゴーレムよ。 用が済んだ後、魔力切れになった物をここに廃棄したって、本で読んだことがあったの。 この林で何かがあったとしたら、コレかなって思って見に来たんだけど…… 何もないみたいね」



 そっか、姉さんは、ちゃんと下調べしてから動いてたんだな。

 そういうのも見習わないとな、オレなら勘だけで動いちまいそうだし。


 「でも、今回の噂の原因ってなんだろうな。 結局コイツじゃなかったんだろ?」


 オレは、倒れているゴーレムの残骸をコンコン蹴りながら言ったが……

 ……あれ? コイツ、こっちに顔を向けてたっけ?


 オレがゴーレムの向きに違和感を感じた、次の瞬間。

 ズズズッと重い物を引きずるような音を立てて、目の前のゴーレムが上半身を起こし始めた。


 「どっわああぁ!?」


 地響きと、単純な驚きとで、オレは無様にひっくり返っちまった。

 普段だったら、そこで笑って誤魔化したりする所だけど、その時のオレは、笑う余裕なんて少しも無かった。


 ゴーレムが、腕を振り上げて、まるで虫でも叩き潰すように、オレへと振り下ろそうとしていたからだ。 ……あ、オレ死んだ?


 「ティート!!」


 姉さんが、オレの名を呼びながら駆け寄って、オレを抱えながら横へ飛んで、ゴーレムの腕を避けた。

 腕はさっきまでオレが居た所に叩きつけられて、地面や岩が、砕けて飛び散った。


 「ゴメン! 姉さん、助かった!!」


 オレは、姉さんに礼を言うため顔を上げると、姉さんは強ばった表情をしたまま一方を見ていた。 えっ? 何か……あるのか?



 オレは姉さんの視線の先を確認した。



 「うわぁ!? ほ、他にもまだ居たのか!?」


 そこには、今、起き上がって来たのと同じ外見のゴーレムが、あと4体いた。

 そいつらは、すでに動いていて、ゆっくりとオレ達を包囲しようとしている。

 ……だけど、まだ、後ろは塞がれてねぇ! 


 「姉さん! 後ろに逃げよう!」


 「……ティート、あなた1人で行きなさい。 私は走れないわ」


 走れないって……? あっ! 右足から血が出てる! もしかして、さっき、飛び散った破片でも当たったのか!?


 「ゴメン! ドジったオレをかばったせいで……。 オレが姉さんを背負う! 一緒に逃げよう!」


 「いいから行きなさい! これは、逃げるんじゃないのよ! 生き延びて、ギルドに報告するのがティートの任務なの! さあ! 早く!」



 生き延びるのが……任務……。 オレはグッと唇が切れるほど噛みしめた。



 「わかった! でも、オレは姉さんも見捨てねえ! 絶対に……絶対に助けを呼んで来るから! だから諦めないでくれ!!」


 オレは、走った。 後ろは振り向かない。 ……大丈夫だ、姉さんは、助けが来るまで耐えきってくれる! 絶対に大丈夫だ!


 オレは、自分にそう言い聞かせて走った。 ……わかってる。 ここから街まで片道、馬でも1日近くかかるんだ、来る時はたまたま知り合いの馬車に途中まで乗せてもらったけど、帰りは馬車なんか無い。

 オレが自分の足で走っても間に合うはずがない。


 でも…… でも! 偶然、すぐ近くに、姉さんを助ける力を持ってる人が通りかかるかもしれねぇ! オレは諦めねえぞ!!




 オレが林から抜け出すと、近くに馬車が走っていた。 その馬車には、護衛の兵士が何人か付いている。 やった! 兵士が何人か居れば、ゴーレムに勝つのは無理でも、姉さんを助けるくらいはできるかもしれねぇ!


 オレは馬車に駆け寄って、呼び止めた。

 後で考えると、複数の護衛が居るような馬車は、大抵は偉い人が乗っているんだから、剣を持ったまま突然駆け寄るなんて、その場で斬られてもおかしくない行動だったと気づいた。 でも、その時は、そんな事を考える余裕がなかった。


 「おおい! 止まれ! 止まってくれ! 頼む!!」


 オレが、叫びながら駆け寄ると馬車が急停止して、御者が怒鳴った。


 「おい、そこのガキ! 動いてる馬車の前に飛び出すなんて、あぶねぇぞ! 何考えてる!」


 その御者は、まるでベテランの冒険者のようなオーラがある人で、普段のオレなら、怒鳴られたらビビっちまうような迫力があったけど、今はビビってる場合じゃない。 姉さんを助けてもらわないと!


 「姉さんが危ないんだ! 頼むっ! 手を貸してくれ!!」


 すると、御者の男は、一瞬考えるような表情をした後、こう言った。


 「悪いがダメだな。 お前は、嘘をついてるようには見えない。 だが、真実だって言う保証も無い。

 お前が、俺達を罠に掛けようとしてる盗賊である可能性が少しでもあるかぎり、簡単に言うことを聞いてやるわけにはいかねえ」


 ……御者の男に、助けてくれる気はなさそうだ。

 そう感じたオレは、側にいた若い兵士に直接頼むことにした。


 「なあ、アンタ1人でもいいんだ! 頼むから来てくれよ!!」


 「我々は、任務の最中だ。 勝手に動く事はできん。 他を当たれ」


 それを聞いたオレは、焦りと怒りで、強く言い返しちまった。


 「他を当たれ? 他ってどこだよ! ここにはアンタ達しか居ないじゃねぇかよ!? なあっ、頼むよ! 何でもするから! なあ!」


 熱くなっていたオレは、つい、兵士に掴み掛かるような動きをしちまった。

 すると、兵士が腰の剣に手を伸ばすのが見えた。 マズイ、怒らせたか!?



 その時、目の前に若草色が広がって、爽やかなハーブの匂いを感じた。

 なんだ? 改めて見ると、それは女の子の髪の毛だった。 いつも間にか、小さな女の子が目の前に現れて、右手で兵士の剣を手で押さえ、左手は、トン、とオレの腹の辺りに置いてある。


 この子が誰かは知らないけど、兵士の態度を見ると、どうやらこの子のほうが立場が上みたいだ。 なら、この子に頼めば、兵士を貸してくれるかもしれない。

 よし、この子にお願いしてみよう!


 「なあ、キミ! 兵士に手伝ってくれるように言ってくれないか? 向こうの林で、オレの姉さんが危ない目に会ってるんだ! 頼むよ!」


 すると、その女の子は、無言でじっとオレを見た後、林の方に数歩、スタスタと歩いて行き、腰を屈めてグッと足を体重をかけるように動くと……


 ドンっ!! 爆発するような音が響いて、地面に穴が空いた。

 なっ!? 何が起きた!?


 驚いて固まっているオレに、馬車から降りてきた金髪の女の子が語り掛けてきた。


 「安心していい。 モーリンが助けに行ったから、君のお姉さんは助かるよ。 ……でも」


 その子は、そう言いながらオレに近づいて、オレのデコの辺りに手を伸ばして……


 ズバーン!! と言う衝撃音と共に、頭に激痛が走り、オレは後ろへ倒れてしりもちをついた。


 「モーリンを巻き込んだ事と、モーリンの髪の毛をくんかくんか嗅いでた分。 本当は首を2周くらいクルクル回したかったけど、モーリンが君を助ける気になってたから、私もデコピンで許してあげる」


 「いつつ……、くんかくんかしてねぇし、首を2周回したら死んじまうだろうが! つうか、今のがデコピン!? ギルドの教官の拳骨みたいな衝撃だったぞ!?」


 オレは反射的に色々と文句を言っちまったが、その子は、もうオレの方を見ていなかった。


 「我が望むは剣に非ず、我が望むは鎧に非ず、我が望むは翼なり。 我を枷より解き放ち、輝き放ちて風すら超えよ! 我が背に宿れ! 『煌めく光翼(ティンクル・ウィング)』!!」


 次の瞬間、その子の背中に光る翼が生えた。 ……綺麗だ。 そう思った時には、もうその子は凄いスピードで飛び去っていて、巻き起こった風で、オレはバランスを崩して、またしりもちをついちまった。



 この場には、焦る兵士たちと、苦笑いする御者と、地べたに座るオレが取り残されて、しばらくは誰も何も言えずに無言だった。





 ーーーーーCランク冒険者・ジーナ視点




 ……私は、夢でも見ているの?


 私は、ゴーレムとの戦いで絶望を感じていた。

 鈍器や魔法ならまだしも、私の武器は槍、しかも、それなりの品質だとはいえ、魔力が込められている訳でもない普通の物だ。

 まして、足を怪我していて踏み込みに力も入らない今の状況じゃあ、石の体を持つゴーレムにダメージを与える手段は無かったからだ。


 私は、痛む足をかばいながら、何とか攻撃をかわしつつ、効いているとも思えない、ほとんど意味の無い攻撃を繰り返すしかできなかった。



 だけど、信じられない事が起きたのは、その時だった。


 突然、乱入してきた小さな女の子が、一体のゴーレムを蹴り飛ばしたんだ。

 えっ!? なにその威力!? ゴーレムが、ただの飛び蹴りで吹っ飛んだ!!


 しかもその女の子は、倒れたゴーレムを前にして、突然踊り始めた。

 本当に意味がわからない……。


 その後は、ゴーレムのパンチを踊りながら避けつづける女の子。

 凄いことは凄いんたけど…… なんで踊るの?


 そしてその後、小さな女の子がもう1人現れた。


 その子は魔力の翼を使って高速で突っ込んできて、突然ゴーレムの頭を杖で叩き割った。 ……その杖、木でできてるように見えるんだけど。 なんでそれでゴーレムの頭を砕けるの? 


 二人の女の子は、片方がゴーレムを叩いて気を引き、そっちの子を狙った隙に、もう片方が、また攻撃するというのを交互にやって、ゴーレムの数をどんどん減らしていった。


 凄い。 今の戦法は一見簡単そうで、ゴーレムがバカなだけに見えるかもしれないけど、あれは前提の条件が難しいんだ。


 中位以下のゴーレムは、致命的なダメージを受けた時に、それを与えた相手を優先して狙うように作られている。 今の戦法は、そのゴーレムの特徴を利用した戦法だけど、それをやるには、一撃でゴーレムに大ダメージを与えなくてはいけない。


 あの2人が攻撃するたびに、目標がコロコロ変わったと言うことは、つまり2人ともが、ゴーレムが『致命的』と感じるくらいの威力で攻撃しているということだ。


 私が呆けたように見ているうちに、ゴーレムを倒し終えてしまった2人。 最後の1体は、壊れたゴーレムの腕の部分を投げつけて倒すなんてとんでもないやり方で倒してしまった。 この子たち……本当に何者なの?



 戦いが終わると、先に来た方の女の子が、私の側まで来た。

 色んな意味で怪しい子だけど、不思議と危険な感じはしなくて、私は警戒もしなかった。

 もっとも、さっきの強さを見る限り、もしこの子が敵なら、私では警戒していたとしても対処なんて出来ないだろうけど。


 その子は無言で、しかも無表情でジーっと私を見ていて…… あれ? なんか、髪の毛が葉っぱに変わっていってる!?

 その子は、葉っぱに変わった髪の毛をちぎると、手で揉んでから、それを私の足の怪我に塗りこんだ。


 ま、魔法……なのかな? なんか、怪我の痛みが引いてきた気がするけど…… 流石にこんな早く治るなんてことないよね?



 「姉さぁーん!! 無事か!? 無事だよな!?」


 その時、私にとって聞き慣れた声が、辺りに響き渡る。

 叫びながら林の中から出てきたのは、やっぱりティートだった。

 ティートは泣き笑いの表情で私にしがみついてきた。


 「良かった…… ああ、本当に良かった! 無事なんだよな?」


 「私は無事よ。 そこの女の子達のお陰でね。 ……もしかしてティート、あなたがこの子たちに助けを頼んだの?」


 ティートは、ああそうだ。 と言って、2人の方を向いて頭を下げた。


 「2人とも、本当にありがとう!! 2人のお陰で姉さんが助かった!」


 ああ、やっぱりティートが頼んでくれたんだ。 私も女の子たちに頭を下げる。


 「ありがとう。 あなた達は私の命の恩人よ。 大した事は出来ないけど、できる範囲なら何でもするわ」


 私がお礼を言うと、後で来た方の金髪の子が言った。


 「どういたしまして。 でも、助けようとしたのはモーリンだから、私にお礼を言わなくてもいいよ。 私はモーリンに従うだけだから」


 どうやら、不思議な女の子はモーリンと言うらしい。



 その後も金髪の子とは少しだけ話したけど、結局、お別れするまで、そのモーリンっていう子は一言も話さなかった。 何だろう? 別れ際には手も振ってくれたし、人見知りっていうのとも違う感じだったけど。


 ……不思議な子。 でも、良い子よね。


 私があの子たちの事を考えながら、ふと視線を動かすと、ティートの様子がおかしい事に気づいた。


 「ティート、どうかした? ……あっ! もしかして、どっちかの子に一目惚れしたのかしら?」


 「違うよ!? そんなんじゃなくて、単純に、変な奴らだったなって思ってさ。 いや、もちろん本気で感謝はしてるんだけどさ」



 あら、恋愛的な興味ではなかったみたいね。

 でも、私も、もう少し話してみたかったわ。 友達になれたら楽しそうね。


 また会うことがあれば、友達になって、って言ってみようかしら?


 また、どこかで会えるわよね?

次回も2日後の予定です。

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