36話 口笛の疑問からのふたりはガコーン!
どうもこんにちは、モーリンです。
ただ今、馬車で移動中です。
特別な事も起きていなくて、まったりモードなので、前に訊かなかった、ぺルルちゃんの口笛がちくわちゃんに聞こえる件を質問してみました。
「そりゃあ実際に音が出てるんだから聞こえるわよ。 声がその子に聞こえてないのは…… 多分、普通に聞こえてるから誤解してるんだろうけど、今話してるこの声は、念話の一種よ? 普通の念話と違って、ちゃんと音として届くけど、会話の相手にしか聞こえないわ」
あ、この声って念話なんですか? 普通に耳に聞こえてますけど……って、そう言えば私のこの耳は飾りなので、ぺルルちゃんの声を不思議に思う前に、なぜか音が聞こえる私の体を不思議に思うべきですね。
うん、人体の不思議というやつですね。 あ、私は人じゃないので違いますか。
んー、そう言えば、ぺルルちゃんは、何で普通に声を出さないんですかね? 普通に声を出せば、ちくわちゃんにも聞こえるはずなんですけど。
ぺルル・フツウニ・ハナス・シナイ・is・ナンデヤネン
「いや、リンの念話は私にしか届いていないんだから、声を出して話してたら、私が1人でぶつぶつ言ってる変な子に見えるじゃない。 それに、私は日本語と妖精語しか喋れないんだから、声を出して話しても、どうせ誰にも通じないわよ」
あ、そうですよね。 なんか普通にお話が出来てる気がしちゃってて、どうも忘れがちなんですけど、私もぺルルちゃんも、ちくわちゃんの言葉はわからないんですよね。
今のままでも不満なく楽しく毎日を過ごしていますが、もしもみんなでお話が出来たら、もっと楽しいんでしょうねー。
この日は、そのまま何事も無く終わりました。 うん。 平和が一番ですよねー。
次の日の朝も何事もなく、馬車に乗り込み、出発しました。
移動中の馬車の中で私は、特に理由はありませんが、なんとなくちくわちゃんの鼻の先をツンツンしていました。 ちくわちゃんも少し嬉しそうに笑っています。
ですがその時、馬車が急に止まり、ガタンと大きく揺れました。
そして、その勢いで私の指が、ちくわちゃんの鼻にズブリと入ってしまいました。
やっちゃいました! ご、ごめんなさい、だいじょぶですか!?
幸い、ちくわちゃんは鼻血を出す事もなく無事でした。 恥ずかしそうではありましたが。
この前は、ちくわちゃんにのし掛かってしまいましたし、今回はコレですし……
これから馬車に乗ってる時は、大人しく座ってないとダメですねー。
道がデコボコしてるので、時々すごく揺れます。
「めwZs7o9よ*!!」
おや? 今、外から知らない声が聞こえましたね?
もしかして、馬車が揺れたのは、今の声の人と関係あるんでしょうか?
私は窓から外の様子を見てみます。
えーっと……あの子ですか。 なんか、いかにも駆け出し冒険者って感じの少年が騒いでいます。 兵士さんと何か言い合いをしているようですが…… あっ! ダメですってば! 駆け出し君が兵士さんに掴み掛かって行って、それで警戒したのか、兵士さんが剣に手を伸ばしました。
私は窓からダイブして、駆け出し君と兵士さんの間に着地、そのまま二人を引き放しました。 ブレイク! ブレイクです!
すると、駆け出し君は私を見て、今度は私に何かを訴えかけて来ました。
……ごめんなさい。 私の事を、兵士さんよりも話が通じそうだと思ってくれたのかもしれませんけど、私は文字通りの意味で話が通じていません。
んー、ですが、この駆け出し君が何かに困っているなら、できる限りは力になってあげたいですしねー? どうしたものでしょうか?
……おや? 駆け出し君は、何度か林の方を指差しましたね? もしかして、あちらに何があるという事でしょうか? ……どれどれ。 調べてみますか。
囁け! 私のF P S !
んー…… ん!? 林の中に反応がありますが…… これ、戦ってませんか!? しかも、1人と複数が戦ってる感じです! 助けに行かないと!!
私は感覚を本気モードに切り替えます。 そして足に力を込めて~…… ダッシュです!
ひい!? 今、踏み込んだ瞬間、地面が抉れました!?
初めてこの体で全力のダッシュをしましたが…… これはパワーがありすぎますね。 ちょっと加減しましょう。
私は、少し力を抑えて走ります。 いえ、まあそれでも、ちょっとあり得ない速さなんですけどね。
やがて、反応のあった辺りに到着しました。 あっ! いました!
槍を持った女性が戦っています! 相手は…… 5体の石の巨人…… えっ? これってゴーレムってやつですか?
……あれ!? でも、ゴーレムって林の中に出るものでしたっけ?
でも、都合が良かったですね。 魔物であっても、動物や人間みたいな外見だと戦いにくいのですが、こういう生きていない相手なら気兼ね無く戦えます。
まあ、そもそも好んで戦いなんてしたくないのですが、女性はどう見ても劣勢です。
槍で突いてもゴーレムは少し欠けるだけで、あまり効いているように見えません。
囲まれていますし、これは助けないと危ないでしょう。
と言うことで、ゴーレムさん! 不意討ちしてごめんなさいね!
女性の後ろ側にいた一体の脇腹に、ジャンピングモーリンキーック!!
説明しよう! ジャンピングモーリンキックとは、ジャンピングしたモーリンがキックする技である!
んー、流石に石の体は硬いですねー。 転んでヒビは入りましたけど、一撃必殺とは行きません。
ネチっこく同じ場所を攻撃するか、はじっこの方から少しずつ壊していくかのどっちかが無難ですかね? ……おっと、今ので敵認定されちゃいましたね。 ゴーレムさん達が一斉に私の方に向き直りました。
まあ、お陰で女性の方は狙われなくなったようです。 このまま私が囮になりましょう。
そ~れ! そ~れ! 私はここですよー。 私は、阿波おどりを踊り始めました。
さあ! お姉さん! 私が注目を集めているうちに逃げて下さい!
狙い通りゴーレムさんは私の方に殺到して来て、女性はノーマークになりました。 ……ですが、女性は困惑の表情を浮かべたまま、逃げようとしません。
何で逃げないんですか? っと思って、踊りながら女性を見ると…… なるほど、女性は足を怪我していました。 確かにそれでは走れませんね。
私が女性を抱えて逃げるというのも考えましたが、ゴーレムさんを放置して、また別の人が襲われても困ります。 ゴーレムさんには申し訳ないですが、やっつけてしまうべきですね。
私が、そう結論を出した時、ゴーレムさんが殴り掛かって来ました。
ですけど、遅いです。
イメージ通りと言うべきか、ゴーレムさんの動きはモッサリしてます。
多分、普通の人間から見ても、あまり速くないと思います。
なので当然、私から見れば何の驚異も感じない動きです。 私は阿波おどりしながら避けました。 ……おっと、女性が逃げられないなら、囮になっても仕方ないですね。 私は阿波おどりを中断しました。
……ちょっと楽しくなって来たので、もう少し踊りたい気もしましたが。
さて、改めて戦闘開始です! っと思ったところで、後ろから何かが飛んで来ました…… て、ちくわちゃん?
飛んで来たのは、翼を生やしたちくわちゃんでした。
あ、私が突然走り出したから、追ってきたんですか。
ちょうどいいので、ちくわちゃんに女性を守っていてもらいましょう!
って、あれぇ!? ちくわちゃんは、そのままゴーレムさんに、マジカルちくわロッドで殴り掛かりました。
あ、攻める気満々ですか。 おお!? ゴーレムさんの頭が砕けました!
ですけど、あれですねー。 マジカルちくわロッドは、原材料が私の腕なので頑丈なのはわかってましたが、それにしても石で出来たゴーレムさんを砕くというのは、杖の強度だけの話ではありません。 ちくわちゃんの腕力も相当なものですね。
……一撃目で頭を狙う容赦の無さも相当ですが。
うん。 最近、兵士さんを見て改めて気づいたんですけど、ちくわちゃんって、強かったんですね。 いえ、強いのは知ってましたけど、周りに強い人が多いので、どれくらい強いかわかってませんでした。
今まで、ちくわちゃんに争い事は似合わないから、守ってあげないと! って思ってましたけど、守るのではなくて、肩を並べて共に戦うというのもなかなか燃えますねー。
ちくわちゃんはプリティですし、私は魔力を浄化できます。 ですので合わせると、ふたりはプリキ『ガコーン!』……おっと、またちくわちゃんがゴーレムさんを殴りました。 私も戦いましょう、相方1人だけに任せていては、仲間とは言えません。 力を合わせましょう! だって私たち、ふたりは『ガコーン!』ュアです! あ、また殴りました。
ちくわちゃんを敵認定して、取り囲もうとするゴーレムさんたち。
おっと、私を忘れてはいけませんよー! ヘルファイアモーリンパーンチ!
説明しよう! ヘルファイアモーリンパンチとは、燃え盛る地獄の業火のような威力が出ればいいなー、と思いながらモーリンがパンチする技である!
ちなみに炎は出ません! もし出せてもやりません。
ほら、体に引火したら木から木炭にジョブチェンジしてしまうので。
私は一体のゴーレムさんを殴り倒したあと、また阿波おどりを始めて注目をを集めます。 そして、その隙にちくわちゃんが後ろからゴーレムさんの頭をシバきます。 すると、ゴーレムさん達は一斉にちくわちゃんを振り向いたので、今度は私が後ろからシバきます。
んー、このゴーレムさんって、ポンコツ臭が漂ってません?
私とちくわちゃんが交互にボコスカやっていると、ゴーレムさんはどんどん壊れていき、残りはラスト一体になりました。 よし、これで終わりです!
必殺! ロケットパーンチ!
私は転がっていたゴーレムさんの腕を拾って投げつけました。
腕は、ラストのゴーレムさんの頭に直撃して、みごと粉砕! 戦闘終了です!
……本当は胴体を狙ったのがズレて頭に当たったというのは、ナイショですよ?
周りに敵は居なくなったっぽいので、槍使いのお姉さんの様子を見てみます。
17~8歳くらいの凛々しい感じのお姉さんです。 安全になって気が抜けたのか、その場にペタンと座り込んでしまいましたが、足に怪我をしている他は無事のようですね。
んー、痛そうなので、治してあげたいんですが、果物をホイホイ配るのは自重すると決めましたし…… あ、こんなのはどうでしょうか?
私は、葉っぱ…… まあ、今は髪の毛になってますけど、それに薬効成分をプラスしてみる事にしました。 イメージは、ゲームでHP回復に使う薬草です。
うん。 多分、出来ると思います。
頭の中で薬草のイメージを固めながら、意識を集中すると、髪の毛状態だった葉っぱが、だんだん開いて葉っぱらしい形になっていきました。
うん、そろそろですかね? 私はその葉っぱをちぎって、手でモミモミしてから、お姉さんの足の傷に貼っつけました。
きっとこれで回復すると思います。
「ろwAf4Fつr!」
ん? この声は…… あ、馬車の所に来た駆け出し風の少年ですね。
ああ、半泣きで槍のお姉さんに駆け寄っています。
やっぱり、この駆け出し君は私に、この女性を助けてって言っていたんですね。
折角の出会いなので、この二人ともお友達になりたいのは山々ですが、馬車にいる皆さんが心配しているかもしれませんし、ぺルルちゃんを一人で馬車の中に置いてきてしまいました。 早く戻ったほうがいいでしょう。
私とちくわちゃんは、お礼を言っているっぽいお二人に手を振ってお別れすると、馬車の方へと帰りました。
まだ、日は落ちていません。
今日はもう少し進むでしょうし、明日くらいには、目的の街に着けますかねー。
久しぶりの戦闘でしたが、緊張感は0でしたね。
ちなみに、ゴーレムは攻撃してきた相手に反応しているだけで、
別に阿波おどりに反応しているわけではありません。
なので、モーリンの阿波おどりは無意味でしたが、本人は意味があったと信じています。
次の投稿も2日後の予定です。