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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
4章ですよ モーリン神殿? いえ、建てなくてもいいですが。
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35話 病気? のちくわちゃんからの一瞬だけ見えた妖精さん

「……ジャッドと連絡が取れん。 アイツはどこまで遊びに行っているんだ」


 大妖精ディアモンは呟いた。


 最近、部下の1人と全く連絡が取れないのだ。

 仕事を放置して遊びに行く妖精は珍しく無い。 本来、妖精とは自由なものだからだ。

 そのため、あまり厳しく言わないディアモンではあるが、それが2週間を越えれば流石に放置はしておけないだろう。


 「ううむ、そろそろ本気で捜索するべきだな。 人手が足りないから連れ戻したいのに、居場所を探すために人手を使うとは本末転倒だが……

 何か面倒な事になっていないとも限らんしな」


 ディアモンは部下の名簿を見ながら、誰を捜索に回すかを考え始めた。


 「仕事とはいえ、人探しのついでに、ある程度自由に動けるとなれば、飽きやすい単純作業よりは、やりたがる者も多いだろうが…… さて、どうするか」





 ーーーーー モーリン視点




 どうもこんにちは、モーリンです。


 この前の村を出てから、更に2日経ちました。

 ぺルルちゃんが言うには、今の移動のペースなら、何もなければ、あと3日くらいで目的の場所に到着するようです。


 やはり、馬車の旅は、現代日本人の感覚だと時間のかかるものですねー。 これが自動車なら、もうとっくに到着しているでしょう。

 まあ私は、今ののんびりした旅を楽しんでますからOKですけどね。

 よく、ラノベで現代人が馬車に乗って、お尻が痛くなる描写がありますが、それも私の体には無縁ですし。


 あ、でも、ちくわちゃんのお尻が痛くなってしまわないか心配だったので、私のひざの上に座らせてあげたんです。 安定感が悪かったので、腕でシートベルトのようにギュッとして安定させました。 窮屈かな? っという心配もあったんですが、大丈夫そうですね。


 ちくわちゃんは、ものすごく嬉しそうにしています。 あ、やっぱり今までお尻が痛いのを我慢していたんですかね? これからはしばらくこうやって私のひざに座らせてあげましょうか。 

 ……ですが、心配な事があります。 ぺルルちゃんに訊いてみましょうか。


 ぺルル・チクワ・シンゾウ・ドキドキ・ビョウキ・チガウ?・ダイジョウブ?


 「あ~……その子の心臓がドキドキしてるのは、そう言うのじゃないから大丈夫よ。 ……ある意味では重大な病気かも知れないけど」


 えっ!? やっぱり重大な病気なんですかー!? あっ! 熱とかありませんか?

 私はちくわちゃんを一度ひざから降ろして、正面に立つと、おでこをくっつけて熱をはかります。


 あ、考えたら、私の体温が人間より低いので、このやり方ではよくわからないです。 んー、ですが、顔が赤いので熱はありそうですね。


 その時、馬車が揺れてバランスを崩した私は、ちくわちゃんにのし掛かってしまいました。 あっ、ごめんなさい、平気ですか? 私はちくわちゃんの様子を近くで確認します。

 ……やはり、体調が悪いようです。 体が少し汗ばんでいますし、呼吸も荒い気がします。


 「えっと…… その症状は、リンが離れてしばらく安静にさせれば戻るはずよ。 しばらくはひざに座らせるのを控えなさい」


 そ、そうなんですか? ぺルルちゃんがそう言うなら、信じて従いましょう。


 言われた通り、ひざに座らせるのを控えると、ちくわちゃんは、少し不満そうな顔をしていましたが、顔色などは普通に戻りました。 元気になって何よりです。



 ちくわちゃんの様子ががいつも通りになってから30分くらい後…… あ、時計が無いので、あくまで感覚ですけど、それくらい経った辺りで、休憩所みたいな場所に到着しました。

 そこそこ広いですが、作り方は大雑把ですね。 壁と屋根はありますけど、床が無くて、土がむき出しです。


 ……んー、なんか空気悪くないですか? ここ。

 先頭を進んでいたワイルド商人さんも何か感じたのか、一度首を傾げました。



 その時、突然ぺルルちゃんが焦った様子で言いました。


 「あっ! ここ、魔力が(よど)んでるわ! あまり長く居ると体の調子が悪くなるわよ!」


 えっ!? 長くいると体調を崩す休憩所って、それはトラップか何かですか!? というか、魔力が澱んでいるっていうのは、もっと先の街の中って話でしたよね? えっ? じゃあ今回は、それとは別件ですか?


 ……あっ!! そんな事より中にいる人は大丈夫ですか?

 私が中を確認すると、旅人風の男の人が、ダルそうに座り込んでいました。

 意識はありますが、顔色が真っ青です。

 これは…… 果物で回復できるでしょうか? わかりませんが、やってみましょう!


 「だめよ! こんな環境で魔力を消耗したら、リンが危ないわ! それより、この場所の魔力を浄化して! それでその人も助かるし、リンも消耗しない……

 ううん、むしろリンは回復するはずよ」


 なるほど、原因の方を先に解決するわけですね? 了解です! では、いきますよ!


 私は周囲の魔力を吸収します。 土から吸収するときは、足からストローで吸うイメージでしたが、今回は周囲からまんべんなく吸えるように、髪の毛の1本1本がストローになったイメージで吸い上げます。

 今こそ私の無駄にボリュームのある髪の毛を活用する時です!


 そいやー! 吸収ーっ! 吸収ーっ! 吸しゅ……う?

 あ、ヤバいです。 前回は、胃もたれ程度の違和感だったんですが、

 今回は、体が内側からスパーキングしそうな気配がします。

 こ、これは……あまり、へっちゃらではありません。 人間の姿だと許容量も小さいんですかね? 汚い花火にならないうちに、消費してしまいましょう。


 さあ! 悪い魔力を、綺麗なものに生まれ変わらせます! 


 私は、ちくわちゃんとぺルルちゃんが楽しそうに笑っている姿をイメージします。

 うん。 やっぱりこれが、私がすぐにイメージできる『綺麗なもの』ですからねー。


 私の体が、内側から光り始めたのを感じます。

 心の中で練り上げたイメージが、しっかりと形作られたのを感じ、私は力を解き放ちました。



 自分でもまぶしく感じるような光りが溢れだし、やがて、それが収まると、周囲には金と真珠で細工をしたような花が咲いていました。 うん。 成功です! 辺りの空気の悪さも、ミントの香りでスッキリとリフレッシュ!


 ……おや? 私、ミントの香りをつけた記憶は無いんですが……。

 まあ、いい香りだからOKとしましょう。

 ……んー、そう言えば、私は鼻や口で呼吸していないのに、なんで香りがわかるんですかね? この体は、相変わらず謎なスペックですねー。



 気づくと、兵士さんたちは呆然としていました。

 あ、そうですね。 兵士さんたちから見れば、私が突然フラッシュして、花が咲いて、ミントの香りが漂って来たんですから意味不明ですよね。

 ですけど、説明する手段は無いので、とりあえず私はたまに光ってミントの香りを放出する謎生物だとでも思っていてください。


 ちくわちゃんとワイルド商人さんは、驚いた顔はしていますが、それほど混乱していません。

 ちくわちゃんがこの瞬間を見るのは2回目ですし、ワイルド商人さんは、ここに来てすぐ空気の悪さに気づいてた感じだったので、空気が突然ミントの香りに変わった時に、私が、何か空気清浄機的な事をしたと察したんでしょう。


 あっ! それより、具合の悪そうだった旅人さんは、どうなりましたか!?

 私は旅人さんの体調が気になってそちらを確認すると…… おや? いくらか顔色は良くなったみたいですが、なにやら、天恵を受けた芸術家のような顔をして固まっていました。 えっと、大丈夫ですか?


 数秒すると、突然動き出した旅人さんは、目をウルウルさせながら私の前でひざをつき、お祈りのようなポーズをしました。 いえ、なにもそこまで改まってお礼しなくてもいいですってば。

 この人は少し大げさですよね? って、同意を求めるつもりで、後ろを振り向くと、ちくわちゃんとワイルド商人さんの2人は、『うんうん、それでよし』みたいに頷いていました。


 えっ!? もしかして、これくらい大げさに感謝を示すのが、この世界の標準ですか? シャイな人には少々ハードルの高い世界ですね!?


 気づくと、さっきまで呆然としていました兵士さんたちも目をウルウルさせています。 あなたたちもですか!?

 あっ!? 私が花を咲かせたとたんに涙で目をウルウルさせるということは…… もしかして皆さん、花粉症ですか!?

 ごめんなさい、花を咲かせちゃマズかったですかね? どうしましょう?


 困惑してキョロキョロしていると、一瞬ですが、気になるものが見えました。

 んー、あとでぺルルちゃんに訊いてみましょうか。



 私たちは、空気の綺麗になった休憩所で、一休みしました。

 あ、お礼って事ですかね? 旅人さんがギターっぽい楽器を演奏しながら歌ってくれました。

 演奏は上手でしたし、いい声だったんですけど、歌は、なんか詩吟っぽいというか…… メロディーに合わせて話してるって感じで、現代日本人が想像するような歌ではありませんでした。


 せっかくいい声だったので、アニソンのサビメドレーとか歌って欲しかったですねー。



 その後は、みんなでご飯を食べて、旅人さんとお別れしてから馬車に乗り込みました。

 さあ出発ですねー。 ……あっ、さっき見て気になったものをぺルルちゃんに伝えておきましょうか。


 ぺルル・ワタシ・サッキ・ヨウセイ・ミタ・タブン・オトコノコ


 はい。 実は、皆さんが花粉症になったとき、一瞬ですが男の子っぽい妖精さんを見たんですよ。 すぐに消えちゃったので、本当に一瞬でしたが、あの消え方も、ぺルルちゃんが転移魔法を使った時の消え方に似ていたので、それを考えても、やっぱり妖精さんじゃないかと思うんですよね。



 「え? この辺で仕事をしてる妖精は私だけのはずだけど? ……あー、でも、仕事じゃなくて、単にフラフラ遊んでる妖精なら居るかもしれないわね。

 今回の事が終わったら、一度ディアモン様の所へ報告に戻るから、その時に一緒に報告しておくわ」



 ぺルルちゃんは、そう言ってから、ちくわちゃんの肩に座って口笛を吹き始めました。 あ、さっきの旅人さんの曲です。 ぺルルちゃん上手ですねー。

 ちくわちゃんも曲に合わせて首を動かし始めました。 うん、可愛いです。

 ……おや? 普段の様子を見る限り、ぺルルちゃんの声はちくわちゃんに聞こえて無さげなんですが、口笛は聞こえてるんですか? 気になるので訊いてみましょうか。


 ……ですが、演奏の邪魔するのも無粋なので、後でですねー。



 今日も馬車の旅は続きます。

 ガタゴト進み馬車の中で、しばらくの間、私とちくわちゃんは、ぺルルちゃんの口笛に合わせて首と足を、ゆらゆらと揺らしていました。





 ーーーーー 少し未来の話



 ある日、この大陸に一人の偉大な吟遊詩人が現れた。


 彼の歌は、多くの人を虜にし、芸術にうるさい大富豪や貴族にも一目置かれた。


 そんな彼の代表作といえば、黄金の花を咲かせる精霊の少女を歌ったものであるが、この歌の歌詞は、彼が過去に体験した実話であり、その奇跡を目の当たりにした事が、平凡な三流吟遊詩人であった彼が、一流に生まれ変わる切っ掛けであったと、彼は語った。


 彼は、相棒とも言える自分の楽器に、金色の鈴蘭の刻印を入れていたという。

兵士たちがモーリンの事を、感動の眼差しで見ていたのは、

彼らが、今回初めて自分の目で主人公の能力を見たからです。

モーリンに自覚はありませんが、少女が光り輝いて、周囲に黄金の花を咲かせるという光景は、

感動するほど神々しいものです。 ……たとえ、少女の内面がアホの子であっても。


次の投稿も2日後の予定です

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