34話 隣村への到着からの生きている窓
どうもこんにちは、モーリンです。
あれから1日とちょっと経ちました。
つまり、今の時刻は、前の野宿からもう一晩野宿して、次の日の昼くらいですね。
私たちは村に到着しました。 ここも大きい村ではありませんが、私たちの村よりは広くて、歴史もそれなりにありそうな感じです。
で、私たちの村以外の村は初めて見たので、物珍しくて、つい、馬車の窓からキョロキョロと見回していたら、顔見知りのグループを見かけました。
よく、村に小麦を運んでくるグループです。
行商人さんかと思っていたんですけど、この村の人だったんですねー。
お金じゃなくて、物々交換をする人たちだったんで、印象に残ってました。
なるほど、隣の村同士なら、お金じゃなくて、お互いの特産品の交換というのもいいですよね。 お金の取引よりも、助け合いをしてる感じがして、なんだか温かみがある気がします。
「みfYc2#モーリンガー」 「レ*dI7Jkモーリンガー」
「モーリンガーtS*qoふw」
おお…… 顔見知りの皆さんから、一斉に送られるモーリンガーの言葉。
だから、そのスーパーロボットみたいな名前はなんなのですか?
村の皆さんもそう呼んでいますから、もう諦めたと言えば諦めたんですけど。
でも、謎ですねー。 ガー、はどこから来たんでしょうか。
まあ、どの人も、からかって言ってる雰囲気は無いんで、悪い意味じゃないんでしょうけど。
と言うか、この人たちが騒いでいるせいか、会ったことの無い人たちまで集まって来て、一緒にモーリンガーモーリンガー言ってますね~? 私って、この村に初めて来たんですけど、何か知名度高いっぽいですか?
私の考えている事がわかったのか、ぺルルちゃんが言いました。
「隣の村で、リンみたいな妙な精霊が現れたんだから、噂とかになってたんじゃないの? あるいは、村でリンに会ったことある人たちが、家に帰ってから家族や友達に大げさに話したのかも」
噂されるくらいはいいですけど、大げさに話されてたら困りますねー。
ほら、尾ひれをつけて脚色されて、口から火を吹くとか座禅を組んでテレポートするとか言われてたら、実際に会った時にハードルが上がるじゃないですか。
火とかテレポートとかは無理ですよ。 多分、口から樹液くらいは発射できそうですが。
その時、兵士さんたちが、何か言いながら手をブンブンと振りました。
すると、馬車のそばにいた人たちが離れて行きます。
ああ、道をあけなさい的な事を言ったんですね。
んー、私はかまわないんですが、確かに村の真ん中に、いつまでも馬車が居座ってるのも迷惑ですし、馬さんが突然動いたりしたら危ないので、仕方ないですね。
馬車が動き出したので、せめて挨拶をと思って、窓から手を振りました。
……そして、10メートルくらい先の建物の前で止まりました。
あ、あれ? ここで休憩ですか? バイバ~イ、て手を振ったのに、すぐに馬車から降りてコンニチハって、ちょっと気まずいんですけど。
……結局、そこで馬車を降りる事になりましたが、幸か不幸か私は無表情なので、恥ずかしがってるのは多分バレてないです。
馬車を降りて建物の中に入ると、そこは宿屋のようです。 おお! これは、ちょっとテンション上がりますねー!
現代日本人の感覚で言うなら、汚れているしオシャレでも無いのですが、まさにゲームやアニメの世界の宿屋! という感じでロマンがあるんですよ。
特に、食堂で世紀末の荒くれ者みたいな人が、昼間からお酒を飲んでる辺りが異世界っぽくてワクワクします。 あれは多分、冒険者さんだと思います。
というか、シャツも着ないで上半身裸の上に、直接毛皮のベストを着てでっかい剣を背負ってお酒を飲んでる人が、冒険者以外の職業とは考え難いです。
いえ、この服装で、実は教会の神父さんとかだったら面白いですけど。
私たちは、店のオヤジさんに食堂に案内されました。 ご飯ですか?
……おお、案内された席は荒くれさんの斜め向かいの席でした。
こちらを見て、ニヤリと笑ってから、片手を上げながら軽く頭を下げる荒くれさん。
あ、普通に良い人っぽいですね、私も挨拶をしましょう。
私は、両手を横に広げてワサワサと羽ばたきました。 ……おっと、今は人の姿だから普通に頭を下げれるんですよね。 うっかりしてました。
んー、気を抜くとたまに出ちゃうんですよねー、この動き。
ですけど、荒くれさんには伝わったようです。 ……まあ、どんな意味に伝わったのかは不明ですが。 ……なんか、お祈りみたいな動きをしました。
えっと、状況がわかりませんが、周りの皆さんも別に変な顔はしてませんから、挨拶のやり取りとして、成り立ってるん……ですよね? うん、ならOKです。
さあ、席について食事にしましょうか。 あっ、ですが私は水だけで結構ですよー。
後で店の裏の地面から栄養をいただきますので。
料理は、皆さん同じ物でした。 と言うか、そもそもメニューは無いのかもしれませんね。 麦のお粥さん……オートミールって言うんでしたっけ? それとサラダと串焼きのお肉と、小さなリンゴです。
普通の人には見えないぺルルちゃんの分は用意されなかったですけど、ちくわちゃんが大盛りで頼んで一緒に食べてました。
兵士さんたちは残さず食べてましたが、ちくわちゃんとぺルルちゃんが、リンゴを残しました。 ワイルド商人さんは最初からリンゴ抜きで頼んだようです。
ぺルル・ノコス・シタラ・アカンデー
私が注意すると、ぺルルちゃんは、困った顔でいいました。
「うん……わかってはいるんだけど、リンの果物に慣れたら、他の果物は食べられないわ。 正直、味の次元が違うもの。 その子もそうだろうし、あっちの商人の人もわかってたから注文しなかったんじゃないかしら? ほら、あの商人にも何回か果物あげてるでしょ?」
私の果物を美味しいと言ってもらえて何よりですけど、そんなに味が違いますかね? 私は、人間形態なら口に物を入れる事はできますが、味覚が無いので自分で味見はできないんですよねー。
「ああ、味見出来ないからわからないか。 種類の問題か農業の技術の問題かはしらないけど、この世界の果物は、味が薄いくせに酸っぱいのよ。
地球なら商品には出来ないレベルよ。 地球産の果物と比べても大きな差があるのに、リンは、その地球産の味を基準にしたうえで更に、美味しくなれ! って念じて創ってるでしょ? だからもう比べ物にならないくらいの差があるわ」
おや? じゃあ村の皆さんも、私の果物しか食べられない状態になってませんか?
……魔法的な効果の無い普通の果物でも、あんまり誰にでもホイホイ配らないほうがいいですかね?
食事は終わりましたが、出発はしないようです。
まだ昼過ぎくらいなので、出発するかと思ったんですが、今日はここで一泊して、明日の朝から出発するんですかね? まあ、休める場所では休んでおく方が良いでしょうね。
では、私も一休みしましょう。
店の裏の空き地へ行くと、ワイルド商人さんが土を掘っておいてくれていました。
ワイルド商人さんって、本当に気が利きますねー。 今の私の力なら、手や足でチョチョイと穴くらい掘るんですが、それでも気を使ってやっておいてくれるのは嬉しいものです。
おお! しかも、ちくわちゃんの部屋の窓の真正面です。
これならちくわちゃんが部屋に居ても、窓を開ければ顔が見れますね。
まだまだ時間は早いので、ちくわちゃんとぺルルちゃんを連れて、村をぷらぷら散歩する事にしました。 兵士さんも一人ついてきましたが、この人もお仕事でしょうから仕方ないですね。
この村も、きっと世間的には田舎なんでしょうけど、それでも私から見ると色々と見慣れない物があって、なかなか楽しめましたね。
私としては、武器屋さんがあった事にはテンションが上がりましたねー。 あ、別に私は武器マニアとかじゃありませんよ? ただ、剣とか槍とか弓とか、そう言うものが並んでる光景というのは、ゲーム好きとしてはワクワクするものです。
まあ品揃えは、ゲームで言えば最初の村か、その次の村……といった感じですかね? 素人目に見ても、簡単な作りの、シンプルな物しか並んでいません。
あ、考えたら、私にとっては本当にここは『最初の村の次の村』でしたね。
なら、超龍のスーパードラゴン勇者ソードブレイドの剣! みたいな感じの、凄い剣が売って無くてもしかたないですねー。
まあ、あっても私は刃のついた武器を持つ気はありませんが。 危ないので。
武器屋さん以外にも色々なお店もありました。
パン(っぽい物)屋さんや、パスタ(っぽい物)屋さん、あと、ビスケットの屋台もありました。
私たちの村へも小麦を持って来ましたし、この村は小麦が名産みたいです。
あれこれ見ているうちに、お日さまが傾いて来ましたねー。 宿に戻りましょうか。
宿で夕食を食べ、ちくわちゃんは部屋へ、私はワイルド商人さんが掘ってくれた穴の所へと行きました。
……うん。 確かに、ちくわちゃんの部屋の正面だから、窓から顔が見れる……とは言いましたが、ちょっとイメージと違う感じになりましたねー。
防犯のためでしょうか? どうやらこの宿屋の窓は、半分しか開かないようになっているようです。 で、ちくわちゃんは、その隙間からじーっと私を見つめています。 しかも、身長的にギリギリの高さらしく、外から見ると、ちくわちゃんの顔の4分の1くらい。 左目から上くらいしか見えていません。
あの、ちくわちゃん? そんな状態でいるくらいなら、普通に外に出てきたらどうですか? 眠くなってから部屋に戻ればいい話ですし。
あ、いえ。 ちくわちゃんがそれで良いのなら、まあ良いのですが……。
うん、謎の行動をするちくわちゃんも、それはそれで可愛いですね~。
おや? ぺルルちゃんは何で不気味な物を見るような目をしているんですか?
窓の隙間からじーっと私を見つめるちくわちゃん。
そんなちくわちゃんを無表情でじーっと見つめ返す私。
見つめ合う私達を謎の生き物を見るような目でじとーっと見つめるぺルルちゃん。
そんな、不思議なトライアングルは、ぺルルちゃんが寝てしまうまで続きました。 その頃にはだいぶ夜遅くなってましたし、ちくわちゃんも眠った頃ですね。
おや? さっき、窓を閉めたはずなのに、少し開いてますね? 夜に窓を開けていて、ちくわちゃんが風邪を引いちゃうと困ります。
私は、髪の毛の蔦に変えて、うにょーんと動かして窓を閉めました。
それからしばらくすると、また1センチくらい窓が開いてました。
あれれ? 私、さっき窓閉めませんでしたっけ?
また、髪の毛を蔦に変えてうにょーん、と閉めます。
それからも、時々視線を感じて確認すると、窓が1センチ開いているという事が何度も続き、仕方ないので私は髪の毛を蔦のままにして、ドレッドヘア状態で夜を明かしました。
んー、どうやら、ここの窓さんは、たまに勝手に開くようです。 まあ異世界ですからそういう窓さんもいるのでしょうね。
……ですが、私はそっち側を向いているのに、開く瞬間に気づかないとは、まるで私の意識がそれるタイミングを熟知しているような窓さんですねー? 魔法使いのような窓さんです。
敬意を込めて、窓・魔法と名付けましょうか。
あ、皆さんも起きて来ましたね。 おはようございまーす。
おや? ぺルルちゃん、顔色悪いです? どうかしたんでしょうか。
「ねえ、リン。 あの子、やっぱり普通じゃないわよ? 将来が心配になるわ」
なるほど、確かにちくわちゃんの可愛さは普通じゃないです。 変な男の人が言い寄って来ないか、将来が心配ですよねー。
……あれ? なんですか? その『うわっ、コイツ何もわかってねえ!?』みたいな顔は。
あっ! それより、ぺルルちゃんにも報告しておきましょう!
ぺルル・ソノマド・イキテル・ジブンデヒラク・マド・マギカ
「マギカってなによ……。 窓が生きてるわけ無いでしょう? 自分で開いているんじゃなくて、あの子が…… あ~、もういいわよ、それで」
イライラしたような顔をしていたぺルルちゃんですが、最後は悟りを開いたような、仏さまみたいな表情になりました。
おお…… ちくわちゃんは天使ですが、ぺルルちゃんは仏さまでしたか。
ありがたやー。
天使と仏さまと木の3姉妹ですか、私だけブッチギリでしょっぱいですが、まあ、私はこの2人に比べると、平凡な存在なので仕方ないですね。
ワイルド商人さんが馬車を引いて来ましたね、もう出発ですか。
ほらほら、ぺルルちゃんもシャキッとしましょう!
ぺルル・キョウモ・ソラハ・イイテンキ・サア・ゲンキ!・ゲンキ!
「……そうね、今日もリンは能天気で、元気ね」
そうです! 今日も私は能天気…… ……おや? 空がいい天気って話じゃありませんでしたっけ? まあ、否定できないので、素直に認めてしまいましょう。
どうもこんにちは、能天気です。
その後、馬車に乗り込むと、ちくわちゃんは、すぐに私に寄りかかって寝てしまいました。 おや? 寝不足ですか? 昨日はあまり眠れなかったんでしょうかね? まあ、しばらく馬車の中でしょうから、ゆっくりと眠るといいですよー。
天使のような寝顔のちくわちゃんと、相変わらず無口無表情無乳の私と、それを仏の顔で見つめるぺルルちゃんを乗せて、今日も馬車は走り出しました。
ーーーーーその後、一行が出発した後の宿屋にて。
「おう、もうこんな時間か、そろそろ本業に戻るか」
上半身裸の上に毛皮のベストを直接着て、大剣を背負った荒くれ者のような男は、そう呟くと、村はずれの教会へ戻り、法衣に着替えて朝の礼拝を始めた。
そう、モーリンが『教会の神父だったら面白い』と思っていた荒くれ者風の男は、本当にこの村の教会の神父だった。
彼は副業で冒険者をやっていて、村の周辺の魔物討伐に限定して仕事をしているのだ。
とはいえ、別にその事が何かに影響を与えるわけでもなく、モーリンも自分の冗談半分の直感が的中している事など知りもしなかった。
以前も一度書きましたが、『ガー』は、この世界の敬称です。
なのでモーリンガーは、翻訳すると、モーリン様という意味です。
次回も2日後の投稿を予定しています。