31話 2メートル広がる世界からのダンディブラザーズ
どうもこんにちは、モーリンです。
はい、今日は人の形ですよ。 燃費が悪いとはいえ、やはりこれが一番動き易い姿ですね。 特殊能力を使わなければ、あまり燃費の悪さも気になりませんし。
あっ、燃費と言えば、ちょっと発見がありました。
実とか花を創るとき、木に成る実や花ならそこまで消耗しませんが、地面に直接生える花や、ベリー系やメロンなどの野菜寄りのフルーツを創ると、結構な消耗をします。 例外もありそうですけど、基本的には木にできる事は消耗が少なめで、木には出来ない事をすると消耗が多いようです。
そう考えると、喋る事の消耗がべらぼうに多い理由も理解できる気がしますね。 木が喋るなんて見たことも聞いたこともないですし。
動くのは何度か見たことあるから出来るんですけどねー。
……え? ほら、木ってたまに動きますよね?
ゲームをし続けて3日徹夜した次の朝とか、ラム酒入りのお菓子を大量に食べた時とか、インフルエンザで倒れた時とか、自分のオリジナル料理を味見した時とか、そう言う時に木がクネクネ踊るのを見ましたよ?
不思議と、あまり信じてくれる人がいないんですけどね。
まあ、木が踊るかどうかの議論はともかく、どんな事をしたらガッツリ消耗するのかがわかるようになったので、逆に言えば、その行動を避ければそれほど疲れないで済むという事です。 なので、それを考えて行動すれば人の姿でも活動できますね。
ということで、私は今日、ついに! 村の敷地の外に出てみました!
いやー、そうなんですよ。
考えたら、私は村の敷地から出たことがなかったんですよねー。 まあ、木ですし、当然と言えば当然ですけど、私の行動範囲って狭すぎですよね。
ですが、私の世界は今、広がったのです!
……2メートルくらいですが。
いえ、今日はちくわちゃんはいるんですが、ぺルルちゃんがディアえもんの所へ行っているんですよ。 決してちくわちゃんが頼りないと言うつもりはありませんが、なにか新しい行動をする時は、二人とも揃ってないと不安があるんですよねー。
私が新しい事を試すと、高確率で何かが起きるイメージがありますし。
なので、今日の所は村を囲った柵から少し外に出た辺りでお散歩終了です。
ですが、ちょっと外に出ただけで、意外と気分が違うものですね?
今日は、このままもうしばらく、村の入口でマッタリひなたぼっこをしているのも良いかも知れませんね~。
私は近くにあった岩に腰掛けて、ぽや~っとします。 当然ちくわちゃんも隣に座っています…… というか、ピッタリ私に寄り添って座ってます。
おや? 余裕を持って座るくらいのスペースがあったはずなんですが…… いえ、ちくわちゃんならピッタリ密着しても来てもウェルカムですけどね。
そのまましばらく座っていると、遠くから何かがやって来るのが見えました。
んー? あれは何でしょうか。 肉眼ではよく見えませんね。
という事で…… 華やげ! 私のF P S !
ふむふむ、生き物の反応は10~12くらいで、この並び方はもしや? ……とか考えてるうちに、肉眼で見える距離になりましたね。 おお、やっぱり想像通り馬車でしたね。 こういう飾りが付いた馬車は見たことありませんでしたね。 荷馬車っぽいやつは何度か商人さんが使ってるのを見ましたが、こういうリッチな方が乗ってそうなやつは初めてです。 あ、リッチというのはお金持ちの意味ですよ? 魔法を使うアンデットの方ではありません。
……あっ! 異世界でお金持ちの馬車と言うのは、魔物かヒャッハーな方々の襲撃フラグなのでは!? そう思った私は、何かあれば飛び出せるように心の準備をしておきました。
そして馬車は、何事も無く村まで到着しました。
……うん、わかってましたよ? F P S に不穏な反応はありませんでしたし、
この辺りはマッスルさんが巡回してますから、危険なモノは排除してあるでしょうしね。 何事も平和が一番、何も起こらなくて何よりです。
本気で良かったと思ってるんですけど…… でも、異世界でお金持ちの馬車が何事も無く到着すると、なにかがスッキリしないのはなぜでしょうね?
例えるなら、バトル漫画で、必殺技を食らわせたあとに『やったか!?』ってセリフを言った時に、本当にやっちゃってて戦闘終了したら、あれれ? って思いますよね? なんかそんな気分です。
「へeLi3sX@や!?」
私が、安堵しながらもモヤモヤした気持ちでいると、馬車の護衛っぽい騎兵さん。 うん、失礼ながら騎士さんと呼ぶにはオーラが足りない感じなので、騎兵さんです。
その騎兵さんが何か言いましたが、私は理解できませんし、ちくわちゃんは、明らかに面倒臭そうにしてます。 おや? ちくわちゃん、機嫌悪いです?
ちくわちゃんの反骨精神溢れるロックな態度が気に入らなかったのか、騎兵さんは、腰の剣に手を伸ばしました。 おっと、それはNGですよー。
私が意識を集中すると世界がスローモーションのようにに見えます。
う~ん……相変わらずこの体のスペックは、無駄に高性能ですよね、これならピンポンダッシュしても絶対捕まりません。 いえ、やりませんけど。
私はそのまま騎兵さんに素早く接近します。
……多分これ、騎兵さんは全然反応できてませんね、格闘ゲームなら、このまま回転するパイルドライバーを決めたくなるくらい簡単に接近できました。
ですが、戦いが目的ではなく、あくまでも剣を抜かせないのが目的です。
私は騎兵さんの剣を握る手をグッと押さえます。 あ、やっぱり思った通りですね、騎兵さんより私の方が力が強いみたいです。 私が押さえると、騎兵さんは剣を抜くどころか、腕を動かせないようです。
……正直の話、ここまで力に差があると思いませんでしたね。
というか、護衛の騎兵さんがこれくらいの強さということは、私の周りって強い人が多いんですね。 マッスルさんとか、前に戦った若頭さんなんて相当強いんじゃないでしょうか?
「けrZa8*わ」
その時、馬車の中から渋めの男性の声が聞こえて来て、騎兵さんが剣を抜こうとするのをやめました。 あ、偉い人が『そこまでだ』的な言葉を言ったんですかね?
馬車の方を見ると、50歳くらいの知的ダンディという感じの人が出て来ました。 その後ろには、知的ダンディさんを少し若返らせたような人がいます。
親子にしては歳が近そうなので、兄弟ですかね?
二人とも質の良さそうな服を着ています。 良い服を着て馬車に乗っていると言うことは、もしや貴族ですか?
いえ。 この世界の制度を知らないんで、そもそも貴族がいるかどうかすら不明なんですが、異世界と言えば貴族がいるイメージですよね。
……はっ!? 異世界の貴族と言えば、女好きな悪役と言うイメージです!
このダンディブラザーズは理性的な感じですが、油断はできません!
ちくわちゃんに一目惚れして『ムヒョヒョ! 我輩の愛人にしてやろう』とか言い出すかも知れません!
ちくわちゃんは渡しませんよー!!
私はちくわちゃんをかばうように立ちはだかって、相手を、キッ! っと睨みつけます。 ……無表情なのでわからないかも知れませんが、睨みつけてるんですよ? よーく普段と見比べたら、ちょこっと目付きが違うと思います。
ほらほら、よく見てください、眉毛の角度とか、少し違いませんか?
それから5秒間くらいお互いに動きが無かったんですが、ダンディブラザーズ(兄)が、スッと前へ出て来て、私に胸に手を当てながら頭を下げました。
腰は曲げずに首だけ曲げるという、日本基準ではマナー違反のお辞儀でしたが、流れるような優雅で自然な仕草だったので、やり慣れている印象を受けました。
おそらくこの世界、もしくはダンディブラザーズの周りでは一般的なお辞儀なのでしょう。
ふむ、この方々、普通に礼儀正しいですね、悪徳スケベ貴族では無さそうです。 疑いの目で見ちゃって申し訳ないです。 私も頭を下げた方がいいですよね。
作法がわからないので、今されたお辞儀をまねして頭を下げました。
すると、ダンディブラザーズ(兄)は、少し驚きながら微笑むような表情を見せたあと、今度は握手を求めて来ました。
握手なら日本でもある挨拶なので、私は迷う事なく応じます。 よろしく~。
ダンディブラザーズ(弟)とも握手した方がいいですかね? とか思って、チラッと弟さんの方を見ると、彼はちくわちゃんの方を見ていました。
むむ? ちくわちゃんと握手したいんですか? ちくわちゃんほどの美少女とスキンシップしたい気持ちは理解できますし、悪人では無さそうなので、握手くらいは許してあげましょう。
私は弟さんとちくわちゃんの手をとって、二人を握手させました。
はい、これでお友達ですねー ……でも、握手以上の事をしようとしたら、酸味3倍のレモンを生成して口に詰め込みますよー?
平和的で、それでいて結構ダメージの高そうなお仕置きを考えている内に、村から係長さんとデリバリー爺さんがやって来て、ダンディーブラザーズと話し始めました。
ふむふむ、あとは私がいる意味は無さそうですね、そろそろぺルルちゃんも帰って来そうですし、いつもの場所に戻りましょうかねー。
私はちくわちゃんの手を握って、ちくわハウスの方へと歩き出しました。
しばらくは、2日に1回の投稿ペースで行こうと思います。 なので、次は明後日ですね。
あと新作の事ですが、連載を複数抱えるのは辛いので、まずは短編を投稿しようと考えています。
せっかくなので、色々なジャンルを書いてみようかと思ってます。 もう少し後になると思いますが、
完成したらお知らせします。