3話 気配がビビンパ!からの顔があんパン
どうもこんにちは、木です。
あれから2~3……いえ、4週間くらい? 経ちました。
日数がアバウトで申し訳ありません、1週間までは数えていたんですけど、いつの間にか日にちの感覚がどこかへ飛んで行っちゃったんですよ。
さて、ここ数日の間、私が何をしていたかというと……実は大した事はしてません。
いえ、最初の数日は頑張って色々と試したりしたんですよ? それで何個か新しい能力も見つけたんですが、その数個を見つけて以来、新発見がありません。
なので、朝の体操感覚で能力のトレーニングをする時間以外は、のんびりしたり、マッタリしたり、だらだらしたりして過ごしています。
隠居かニートみたいな生活ですが違いますよ? 隠居でもニートでもありません。
私は木です。
ちなみに業務内容は光合成するだけの簡単なお仕事です。
と言うことで今日も真面目に光合成に勤しみましょう。
……おっと、その前に、まずは日課の周囲確認からですね。 新しい能力その1……
F P Sの出番です。
実は私は、F Pを感知できるようになりました。 名付けたのは私ですよ。
新たな能力を使って何かの力を感じ取れるようになったのは確かなんですが、それがこの世界でなんと言う名前で呼ばれている力なのか知らないので、とりあえず仮にF Pと名付けたんですよ。
……だってほら、魔力だと思って「魔力サーチ発動!(キリッ)」とかキメ顔で言って、他の人に「え? これは生命力ですよ?」とか指摘されたら気まずいですよね?。
なので、保険として付けた名前です。朝一番にこの能力を使って周囲の確認をするのが最近の日課です。 と言うことでF P S発動! (キリッ)
これを使うと、フワリと広がった感覚の中でポワンとした丸い気配がビビンパ! って感じで感知できます。 と言えばイメージできますよね?
はい、サーチ中でーす。
サーチ中でーす。
サーチ中で…… っ! はい、ビビンパ来ました! 何か居ますよ!
……気配はゆっくりですが、確実に近づいて来ています……!
もう、目の前の茂みの奥まで来ていますね……危険な生き物じゃない事を祈りますよ……!
ガサリと音をたて、茂みから顔の覗かせたのは……
おおっ! 人間です!
ガッシリとした男性です。 西洋系の顔立ちで、歳は三十代前半くらいですかね?
堀の深い顔立ちとマッスルボディが合わさって、ギリシャのブロンズ像みたいな外見になってます。 パッと見だけで判断する気はありませんが、とりあえず悪人っぽくはないですね。
私がこの世界に転生して、かれこれ……え~と、何日かは忘れましたけど、とにかく初めて出会った人間です! 会話が出来ないのは残念ですが、見るだけでも少し嬉しいですね。
という事で、これから私はマッスルな男性を無言でジットリと眺めます。
記念すべき第一異世界人さんは、フラフラと頼りない足取りで私の近くまで来ると、震えたような声で呟きました。
「d3hよ##つwホ8……」
……うん、何を言ってるのかサッパリです。
どうやら私には異世界転生のお約束である言語チートは備わっていないようです。
第一異世界人さんはそのまま力無くペタンと座り込んでしまいました。
どうかしたんでしょうか? と、改めてよく見ると、服はボロボロで血で汚れていて、まだ出血が止まっていない怪我もあります。 さらに疲れ果てた顔には、
『オッス、オラ瀕死!』
と言わんばかりに死相がバッチリ自己主張。 ……あ、これはガチでマズイやつです。
最初のワンちゃんたちの事もそうですし、最近でも何度か動物や魔物が死んでしまうのを何回か見ました。 なので少しは見慣れたと思いますけど、やはり元、人間としては人間が死ぬのは見たくありません。
ここまでボロボロな人にどこまで効くか分かりませんけど、ここはやはり新しい能力その2を使ってみるべきでしょうね。
私はイメージを練りながら、枝の先にF Pを送り込みます。
すると、光の粒子が集まり始め、それはゆっくりと丸い何かに変わっていきます。
次の瞬間、私の枝の先には大きめの桃が1つ実っていました。
よし、多分成功ですね。
これが新しい能力その2…… イメージした果物を生み出すっポイ能力です。
なぜ断言出来ないかと言うと、自分で食べれないので、味とか成分とかがイメージ通りにできているか確認できないからです。
でも、まあ上手く行ってるハズです、それに悠長に実験してる場合でもないですし早く食べさせてあげましょう。 イメージした通りになっていれば、甘味と水分と栄養たっぷり。 ついでに痛み止めと抗生物質とタウリン5000ミリグラム配合の桃に仕上がっているはずです。
後はこの桃をポトっと落とせば……っあ、やらかしました。
何となく病人には桃って印象があったので、深く考えないで桃を創りましたけど、考えたら水分を増量した桃なんて、地面に落としたら潰れちゃいますよね。
んー……よし、こうなったら手渡しですね。
私は第一異世界人さんの方へ枝を伸ばして……
(例えじゃなくて、本当に枝の長さを伸ばせるようになりました。一時的ですけど。)
彼の胸元30センチ上くらいで桃を切り離しました。
お腹すいてますよね? さあ、私の実を食べて下さい。
う~ん、なんだか、顔があんパンの国民的ヒーローになった気分です。
驚いた表情ながらも両手でしっかりと桃を受け取った第一異世界人さんは、戸惑った顔で私を見ました。 うん、木から桃を手渡しされたら戸惑うのは分かりますけれど、まずは食べましょうよ、ホラホラ。
食べろ~、食べろ~、っと念を送りながら、枝をワッサワッサと羽ばたくペンギンの様に動かします。
すると念が届いたのか、彼は桃に一気にかぶり付きました。 おぉ…… ワイルドに皮ごと行きましたね。 そしてそのまま凄い勢いで食べ続けてペロリと完食。 あれ? もしかして種まで食べました?
「At3cゆ*p……」
桃を食べ終えた第一異世界人さんは何か呟いてから、パタリと倒れてしまいました。
……これ、死んじゃってないですよね?
心配になった私は、彼にピンポイントでF P Sを使って見ましたが、ちゃんと反応があって一安心しました。 むしろさっきより反応大きくなった気がするのは、少しは回復してるってことですかね?
これは多分、疲れて寝てるだけっポイですね。
でも寝ている間に体を冷やしても良くないから、なにか布団を……って、そんなものあるわけ無いですね。 とりあえず葉っぱを被せておきましょうか。
ワサワサ
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数時間経ちました。
そろそろ夕方になります。 気温も下がってくる頃ですし、葉っぱを被せただけでは寒いですかね? 風邪をひかなければいいんですけど。
そんなことを思いながら第一異世界人さんの寝ている場所を確認してみると、被せた葉っぱの山がモゾモゾ動き出していました。 目が覚めたみたいですね。
彼は自分が大量の葉っぱに埋まっているのに気づいて目を丸くしていましたが、誰が何のためにやったか事なのかに気づいたのでしょう。
私の方を向いて何かを言いました。
眠る前よりも声が力強い感じがするので、いくらか元気になったみたいですね。
相変わらず言葉は理解できませんけど、お礼を言ってくれたんだと思います。
うん、私の創った実が役に立って何よりです。
「*るe9LヒwN」
彼は最後に何かを言ってから、立ち去りました。
足取りもしっかりしているようですし、もう大丈夫そうですねー。
どこに行くのか知りませんけど、お元気で~。
ワッサワッサ
遠ざかる彼の後ろ姿を、私は枝を振って送り出しました。
次回は主人公の視点ではありません。 今回出てきた第一異世界人さんの視点になります。
投稿は明日の夜20時過ぎにするつもりです。