閑話 妖精ぺルルの誕生
閑話です。
ぺルルについて語る話ですが、視点は主にディアモンです。
妖精は、どうやって生まれるのか?
その答えは一つではない。
まず、本当に僅かだが、神の手によって作り出された妖精が居る。
これは、天使と言われるものに近い存在だろう。
そして、強い魔力を持った花のつぼみから生まれるもの。
これは、精霊に近い存在と言えるだろう。
そして、それらの妖精同士の間に生まれた子供。
これは、先に説明した2種類の妖精よりも、人間や、その他の動物に近い存在だ。
……そして、人の強い想いや願いから生まれて来る妖精も居る。
ある所に、勇者と呼ばれる人間がいた。
彼は地球から異世界リーズガルドに呼び出された少年で、国の危機を何度も救い、後に英雄となって不自由の無い一生を終えた。
だが、生活に不自由が無いからと言って、故郷の事を忘れたわけではないのだ。
彼は幾度となく想った。
故郷の家族を、友を、思い出の街並みを。
そして、彼が大切な者を想う時、大切な者たちもまた、彼を強く想っていた。
突然いなくなってしまった彼が、どうか無事であるように……と。
その想いたちは、やがて世界を越えて、出逢い、重なり、溶け合い……
そして一人の妖精が、リーズガルドに生まれ落ちた。
ーーーーー 大妖精ディアモン視点
「……確か、新しい妖精が生まれたのは、この辺りだな」
魔導具に新たな妖精の誕生の反応が表れたとき、部下の大半は何処かへ遊びに出ていて、動けるのは私だけだった。 ……まさか大妖精と呼ばれる立場になってまで、現場の仕事をするとは思わなかったな。
「さて、いったいどこに…… む? 居たな、あの娘か」
私は小川の側の流木に、ポツンと座る小さな影を見つけた。 薄い桃色の髪の幼い少女…… 人間で言う5歳くらいの外見か? ふむ、生まれたばかりにしては育っているな……
例外はあるが、基本的に妖精の外見は精神年齢だと思っていい。
生まれ落ちてすぐに、5歳程度の外見というのは、なかなか理知的な妖精だと言える。 これなら現段階でも会話をする知能はありそうだな。
私は、少女にリーズガルドの共通語で声をかけた。
「d2Hよ#¥ユa?」
「だれ? なにいってるの?」
これは…… 日本語だと!? なぜだ!?
妖精には生まれた直後から言葉を理解する者もいる。 だが、それは生まれた地の言葉の話だ。 生まれてすぐに異世界の言葉を使う子供というのは、聞いた事が無い。
ふむ、疑問はある……だが、今は保護する事が優先だな。
「……この言葉なら理解できるか?」
少女は私の顔を見てコクりと頷いた。 やはり日本語を理解しているようだ。
ここで生まれた妖精だと思っていたのだが……もしや日本の妖精が、何かの理由で転移して来たのか? オベロンに連絡しなくてはいけないな。
「さあ、ついて来ると良い。 同胞達のいる場所に連れていこう」
私は少女の手をとり、妖精界へと転移した。
「うーん、どうなってるんだろうね? この子」
私は少女をオベロンの元へ連れていったが、オベロンも首を傾げている。 ううむ、妖精の中でも特に古株であるオベロンなら、何か気づく事もあるかと思ったのだが。
「あっ! ディアモン! さては、『あ、こいつ何もわからないのか?』みたいに思っているだろ!? 違うよーっ、ちゃんとわかった事もあるからね?」
そう言ってビシッ! と少女を指差してから、喋り出すオベロン。
「この子の魂は、地球の魔力で構成されてる。 だけど、体を構成してるのはキミの世界、リーズガルドの物だ。 だから、きっと地球人…… まあ、日本語を喋るんだから、多分日本人だろうけど、その祈りとか願いが集まって生まれた魂が、リーズガルドで妖精の形になったんだと思うよ。
ボクがわからなかったのは、そんな事が起きた理由だよ」
「なるほど、だが理由よりも、まずはこの子の今後の話だな。
この子の生まれを考えると、私とオベロン、果たしてどちらが引き取るべきなのかを悩む所ではあるな……」
「いやいや、今の彼女は日本語しか喋れないんだから、まずはボクの所で妖精語を教えるよ。 キミの所に日本語を喋れる妖精ってキミ以外ほとんどいないだろ?」
「……それはそうだが、意外だな。 子供の世話など面倒だと言うと思っていた」
私がそう言うと、オベロンは呆れたような顔で返した。
「そりゃ面倒さ。 だからボクは少ししかやらないで部下に任せるよ? 他人を使うのは別に悪い事じゃないだろう。 ……まさか、キミは自分の手で子育てする気だったのかい? そりゃあ抱え込み過ぎだ、少しは他人任せにする事も覚えようよ」
抱え込み過ぎ、他人任せに……か。 自覚はあるのだが。
「だが、私の部下は、良くも悪くも妖精らしいと言うか、自由奔放というか…… 時々、勝手に遊びに出てしまう者達が多くてな。 もちろん皆、可愛い部下だ。 部下に恵まれない等とは言わない。 だが、仕事の面で信頼できるかと言うと……な」
「あ~、もう! もっと適当に軽~く生きないと、妖精に生まれた意味がないよ!?」
ビシッ! と私を指差して文句を言ったあと、またも、ビシッ! と今度は少女を指差してからオベロンは続ける。
「ボクがこの子を、ディアモンのサポートができるくらいまで育ててみせるよ!
ボクがこの子を教育して、キミの所のエースにしちゃうよ!
これも育成ゲームだと思えば、そこそこ楽しめるよね?」
私は少女を見る。
今、我々は妖精語で会話しているため、少女は理解できずに不思議そうにしている。
……この無垢な少女を、教育を『ゲーム』と言ってしまうオベロンに預けていいのか? っと言う思いが浮かんだが、すぐに思い直した。 間違いなくオベロンなら、仕事よりもゲームの方が本気で取り組むだろう。
オベロンがゲーム感覚で教育すると言ったなら、むしろ信頼できる。
何より、日本語を話せる者がほとんど居ない私のそばよりは、日本の妖精も複数所属しているオベロン側の方が、この子にとっては良い環境と言える。
「では、任せる。 ……その子を頼むぞ」
少女はぺルルと名付けられ、オベロンに預けられた。
そして数年後に私の元へ来たぺルルは妖精語をマスターしており、その他の事も基礎的な事は、そつなく教え込まれていた。
だが不思議な事に、物覚えは良いのだが、その割にリーズガルドを含めた私の管理する6個の世界の言葉の覚えが悪かった。
なので、その世界での仕事は任せ難く、結局は私の秘書や、オベロンへの伝令などの仕事をさせていた。
それでも充分に役に立ってくれているし、ぺルル自身もその仕事に不満は無い様子だったので、そのまま問題もなく十数年が過ぎて行った。
だがある日、ぺルルに別の仕事を与える時が来たのだ。
私が、とある事情で転生させた元・日本人が、想像以上に怪しい行動を見せていた。
ここで言う怪しい行動と言うのは、現地で悪事を働くとか、私に反抗する気配があるといった意味では無くて、純粋に何をするか想像できない動きという事だ。
木に転生した以上、穏やかに生きていくものだと思っていたのだが……。
彼女には、妙な行動をしそうになった時、それとなく助言をする存在が必要だろう。 当然彼女に助言するには日本語が話せる必要がある。
そして今現在、異世界での大きな仕事を担当しておらず、身軽に動ける者。
そう思うとぺルルが最適だと思い、彼女の補佐をするために派遣した。
「ねえ、ディアモン」
特に用もなく、雑談のために私に会いに来たらしいオベロンが話しかけてくる。
……大妖精筆頭がフラフラ出歩いていると言うのは、どうなのだろうか?
「……なんだ?」
「最近のぺルル。 楽しそうだねー。 なんか生き生きして見えるよ」
確かにそれは私も感じていた。 最近のぺルルは、まるで、手のかかる妹の世話をする姉のような…… ああ、そうか。
「ぺルルも彼女も、魂は地球の魔力で、体はリーズガルドの魔力で構成された存在だ。 そう言う意味では姉妹とも言えるのかもしれんな」
私がそう言うと、オベロンは呆れたような顔で言う。
「姉妹みたいなのは同意するけど、魂や体の構成物を理由にして絆を語るのはどうかと思うよ? 彼女達は気が合って、一緒にいて楽しいから仲良しになったのさ。
それ以上の理由をどうこう言うのは野暮ってものだよ?」
「そうか。 ……うむ、そうかも知れないな」
私は魔導具に映し出された彼女達の楽しそうな姿を思い出した。
……自然に私の口元にも笑みが浮かんでいた。
この閑話で3章は終了です。
少し休んで、次の投稿は13日、木曜日の20時を予定しています。
それと、まだ詳細は未定ですが、そのうち新作を書こうと思っているので、
その構想を練るために毎日更新は止めるかも知れません。 ただ、もしそうなっても、
2~3日に一度は更新しますし、この作品を未完で中断するつもりはありません。
完結まで続けるので、これからも読んでもらえると嬉しく思います。