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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
3章ですよ 精霊姫って誰ですか?
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閑話 あの娘の消えた日常 2

ブクマが100に到達しました! ありがとうございます!


今回は閑話です。 いつもより短い話です。

主人公のいなくなった後の日本での話で、視点は1章の閑話の時と同じ、前世での友達です。

……ついに、ほとんどのクラスメイトが、あの娘の事を完全に忘れてしまった。


 もう、名前を出しても、誰もあの娘の事を思い出さないのかな……?

 悲しい事を忘れてしまうのは、1つの救いなのだ……そんな事をどこかで聞いたことがある。 確かにそうかもしれない。 ……でも。


 でも、みんなに忘れられてしまったら、きっとあの娘は……


 「寂しいよね…… 鈴……」

 「えっ……」


 一人の女生徒が反応を見せた。 私の声に驚いただけ? それとも……


 「鈴を…… 毛利 鈴を覚えているの?」


 私のその問いに彼女は、つらそうな顔で頷いた。 ……その表情は、きっと単純な悲しみだけから来るものでは無い。 私にはそう見えた。




 「……鈴とは、小学校が一緒だったんだ。 仲良しだったのよ? 最初はね」


 夕方4時も過ぎ、人影も少ない校舎裏で、彼女はそう呟いた。

 私が鈴と友達になったのは中学一年の時からだ。 そして、私は鈴の側で、この子を見た事は、多分1度も無かったはず。 つまり……


 「ケンカしたんだ。 ……ううん、あれはケンカなんかじゃない。 私が…… 私が勝手に妬んで鈴を遠ざけたんだ」


 この子が言うには、小学校の頃の鈴は、よく喋る、陽気な子だったみたい。

 その頃から無表情だったらしいけど、少なくとも無口ではなかったらしい。


 大声で騒ぐことは無かったけど、まるでテレビ番組の司会者のようにスラスラと喋る子で、同級生達に面白がられて人気者だったんだって。

 だけど、この子が……


 「私は、『私の友達がみんな鈴の所に行っちゃうからつまらない』って言ったわ。 ……それだけじゃないの、私は鈴に、こうも言ったの。

 『もう、あんまり喋らないで』って……

 『……そうですか、わかりました』 ……そう言った鈴は、その日から本当に、別人みたいに無口になってしまったわ。

 鈴は卒業する前に家の都合で引っ越して行って、中学も別々になって、それっきり。

 小さな頃のちょっとした出来事……そう思って忘れていた。 ……だけどっ!!

 ……この高校で偶然再会した鈴は、まだ無口なままだった……!」 


 ……そっか、この子は、その罪悪感の強さから、鈴を忘れられないんだね。

 ……だけど。


 「鈴はきっと、あんたに妬まれてたなんて気付いてもいないわ、多分あんたを友達だと思ったままだったはずよ。 それに、多分あんたの言葉に傷ついてもいないわ。

 ただ、友達が喋らないでって望んだから、喋らなくなっただけよ」


 最初は、自分がこの子に対して何を言いたいのか、自分でもよくわからなかった。

 だけど、多分私はこの子に、鈴に対して罪悪感を持って欲しくないんだ。


 「鈴は酷い事を言われたと思っていないわ! だからあんたも最後まで罪悪感なんて持たないでよ! きっと鈴は、これは友達との約束だから…… なんて思っていたはずよ! なのに、あんたの方があれはただの妬みだったって言っちゃったら、それこそ鈴の気持ちを傷つけるわ!!」


 こみ上げて来た感情のままに声を荒らげた私に、彼女も感情的に言い返して来た。


 「わかってるわ! だけど、鈴が、そういう子だって知っているからこそ罪悪感がわくのよ!! なんとも思わないなんて、できるハズがないじゃない!」


 「おい! 君たち! 何を大声出しているんだ!?」


 二階の教室の窓が開き、そこから先生が怒鳴り声を飛ばす。 ……声が大き過ぎたみたいね、二階にいた先生にまで聞こえてしまったみたい。


 ……でも、おかげで冷静になれたわ、こんな口論に意味は無い。


 彼女が罪悪感を抱くのは、彼女の勝手な感情。

 私が彼女が罪悪感を抱くことを許せないのは、私の勝手な感情。

 そんなものをぶつけ合って、どちらが勝っても正しい訳でもない。

 それじゃあただのケンカだ。 鈴の事をケンカの切っ掛けにはしたくない。


 「……もう行くわ」


 それだけ言って私は立ち去った。 彼女も、何も言わなかった。




 あれから、彼女とは、学校で会えば挨拶くらいは交わすようになった。

 決して友達では無い。 多分、これからも友達になんか、なる事はない。

 彼女のせいで、私は元気に喋る鈴の姿を見ることは出来なかったんだから。


 私と彼女を結ぶのは、鈴を覚えているという1つの共通点だけ。 どちらかが鈴を忘れてしまえば消えるであろう、曖昧で細い糸。 だけど、二人が鈴を覚えている限りは、切れないであろう糸だ。


 だから私は、決して好きになれないであろう彼女との、この奇妙な縁が切れない事を願っているんだろう。


 この関係を、何と呼ぼう?

 今日も私達は、ろくに目を合わせる事すらもしないまま……

 それでも、お互いの姿を視界の端で追っている。

次回も閑話を投稿します。

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