28話 村の見学(裏視点)からの知名度拡大フラグ
私の住所は地震の範囲内なので、一度停電になりました。
今は復旧したので投稿できましたが、余震の可能性もあるので、
明日以降の投稿ができない可能性があります。 その場合はご了承下さい。
前半は、前話の別視点です。
この話で3章の本編は終わりです。
その日、小さな村に衝撃が走った。
「あれは……まさか! 精霊様?」
「本当だ! こっちに向かってくるぞ! 歩けるようになったとは聞いていたが、実際に歩く姿を見るのは初めてだな!」
「フリージアが言っていたが、精霊様のお名前は、モーリン様と言うらしいぞ」
「モーリン様が村へ来て下さったぞ」
「モーリン様を村の入り口まで出迎えるわよ!」
「モーリン様! モーリン様!」
流浪の身であった若草の民を快く迎え入れ、村の始まりの時から今日まで、常に村人達に寄り添ってくれた優しき存在……。
村の誰もが感謝し、信頼し、敬愛する、聡明で慈悲深い、そんな偉大な存在……。
聖王樹の精霊・モーリンが、彼らの村に姿を見せたからだ。
村への来訪を歓迎し、殺到する村人達たちに対し、精霊モーリンはおもむろに両腕を広げると、それをゆっくりと上下に動かした。
その時の精霊モーリンの所作を見た少女は後に語った。
それは大地に根差した荘厳な大樹が風を受ける姿にも、
大空を自由に舞う、優美な鳥の姿にも見えた。
その時、私は雄大にして穏やかな『静』の頂点と、猛々しくも軽やかな『動』の頂点の融合せし境地を垣間見た…… っと。
これが、後に『辺境に舞う花』と呼ばれ、大陸中を魅了する事になる舞姫・ネリネの芸術的な舞いの原点となったのだが、それはまた別の話である。
ーーーーー ムスカリ視点
……俺は、驚愕を隠す事も出来ないまま、精霊モーリン様と妹の立ち去る後ろ姿を見送った。
……うむ……。 たった今、モーリン様が見せた技術は目を見張る物であった。
手を滑らせたナーシサスが放り投げた木剣の先端を指先で突き、縦に真っ二つに割って見せた。 しかもモーリン様は、側面から飛んで来た木剣に対し、一瞬たりとも視線を向ける事も無くやってみせたのだ。
モーリン様に対して木剣を投げつけるという無礼な振る舞いをしてしまったナーシサスも、その事へ反省も忘れて、二つに割れた木剣を見つめていた。
うむ、気持ちはわかるが、反省は後でしっかりとしてもらうぞ。
しかし、あのロドルフォという冒険者をモーリン様が倒したと聞いた時は、魔法か何かで倒したと思ったのだが、あれを見ると、純粋な戦闘力で勝ったのかもしれんな。
失礼を承知で言えば、モーリン様は強そうには見えない。 身長体格は、俺の妹、フリージアと同じ程度で、細くて小柄、そして雰囲気にも表情にも覇気は無い。
……やはり、見た目だけで戦闘力は測れないということか。
実際に戦っていない以上確信は無いが、あの男と俺の戦闘力は大きな差は無さそうだった。 だとすると、俺もモーリン様には勝てないという事になるな……。
まったく、上には上がいるものだ。
……だが、挑む立場だからこそ、更に訓練に熱が入ると言うものだ!
俺は気合いを入れ直して、村の男達の方に向き直る。
「さあ、お前達!! もう少し訓練を続けるぞ!!」
ーーーーー アウグスト視点
人の姿になった精霊、モーリン様の外見は、正直な話、俺の想像と違っていた。
確かに、穏やかな雰囲気や不思議な存在感はそのままだったし、顔立ちも、一般的に想像する意味での美人とは違うものの、神秘的な魅力があった。
だが、大地に属する精霊で、実りを司る力を持っているという事から俺は、成熟した母性的な女性…… まあ、ぶっちゃけると、巨乳でセクシーな姿を想像していたんだが…… まさか十歳くらいの少女の姿とは思わなかった。
……だが、考えてみれば巨乳が母性の象徴なんて考えるのは、人間の偏見だな。
植物は母乳で育つ訳じゃないんだから、木の精霊であるモーリン様には胸の有無など関係の無い話だ。 むしろ性的な意味合いを感じさせない無垢な神秘性、という点では、今の外見こそがモーリン様に似合うものなのかも知れないな。
そんな事を考えていると、モーリン様が俺の方を向いて両腕を広げ、上下に動かし始めた。 最初はそれの意味がわからなかったが、その姿の後ろに枝を振る木の姿が重なって見えた瞬間に俺は理解した。
『お前は何を見ている? 私は何も変わらないというのに……』
そんなモーリン様の声が聞こえた気がして、俺は恥ずかしくなった。
想像と違う? 今の外見が似合う? 俺は何を考えている!?
精霊は本来実体の無い精神生命体だ。 雰囲気や存在感がそのままだと自分でもすぐ気づいただろうが! ならばそれが真実だと言うのに、その上で外見で何を判断すると言うんだ!?
俺はいつから、箱が変わるだけで中の価値を見失うような三流商人になっちまったんだ!? 畜生!
俺が羞恥心と自分への怒りから、必死で頭を下げているところに、哀れみと失望の色含んだ冷たい声が飛んで来た。
「むぅ……アウグスト君。 今、モーリンの外見を見てがっかりしなかった?
見た目一つが変わっただけで、評価そのものを変えようとしなかった?
……素質のある後輩だと思ってたのに、残念……」
フリージア先輩の言葉が耳にイテェ……。 返す言葉も無いぜ……。
俺は、その後もしばらく先輩のありがたい説教を心に刻みながら聞いていた。
「……ねえ、アウグスト。 ちょっとこれを見てよ」
自分の信仰心を見つめ直していた俺は、そのヒースの声で正気に帰った。
「あぁヒース。 悪い、ちょっと呆けちまってた。 で、どうした?」
「さっき見せた駄目になった作物だけど、今、モーリン様が何かしたんだけどさ…… 見てよ」
「いったい何があったん…… なっ!? これは……」
数分前に見た時は、芽が出始めた辺りで枯れ始めていたはずの野菜が、この数分で急速に育って花を咲かせ、中には実をつけている物すらあった。
この野菜は育たないから捨てよう。 俺とヒースは、そう話していた所だった。
……だがモーリン様は、その出来損ないを見捨てずに育て、実らせた。
……そうだよな。 失敗しちまっても、まだまだこれから花も実もつける事はできるんだよな……。
よし! 俺もこれから信仰を磨く時間は、まだまだあるはずだ!
フリージア先輩ほどにはなれなくとも、俺は俺のやり方でモーリン様の力になればいいんだよな!
「……ねえアウグスト。 君、急に瞳がドロリと変な輝きを放ち始めたように見えるんだけど…… まるでモーリン様について語ってる時のフリージアみたいだよ?」
ヒースがそう言った。
おお、そうかい! 俺も少しは、フリージア先輩に近づけたって事か!?
そいつは光栄だ! これからも精進しなきゃな!
「……そうか、アウグスト、もう君は引き返せない所まで……
あっ……ううん、何でもない。 気にしないでね?」
そう言ってヒースは俺に、見たことが無いほど優しい顔で笑いかけて来た。
ん? ヒースの言いかけた言葉の意味が良くわからなかったが…… まあいいか。
ーーーーー精霊モーリン(主人公)視点
どうもこんにちは、モーリンです。 そしてリンです。
うん、今この時は、木である事を少しだけ忘れています。 まあ、別に木であることに不満はありませんけど。
私は今、ちくわちゃんとぺルルちゃんと3人で、同じテーブルでお菓子を食べています。 私の口は食道に繋がっていない……というか、多分、食道も胃も無いっぽいので、実際は口の中に物を入れて、噛み砕いてから能力で吸収しているだけです。
なので正確に言えば食べているとは言えないかも知れませんが、友達と一緒に同じお菓子を囲んで同じ時間を過ごしているという事実が嬉しいんですよ。
……これで、みんなで楽しくお話しできれば最高なのですが、私はちょっと喋ったらグッタリですし、そもそもちくわちゃんとは言葉が通じませんしねー。
んー、しかし、なかなか儘ならない物ですね。 一度死んでしまった以上、あの子との約束も無効でしょうし、もう無口キャラを貫く必要も無いんでしょうけど……
今度は物理的理由で無口キャラになっちゃいましたしねー。
ですが……
私はぺルルちゃんを見ました。
……自分の顔と同じくらいのサイズのビスケットにかぶり付いて笑っています。
私はちくわちゃんを見ました。
……嬉しそうに私の口にビスケットを放り込んで、笑っています。
……うん。 お互いを大事に思って、みんなで笑顔で暮らせるなら、あんまりお話しができなかったとしても、素敵な毎日を送れるはずですよね。
この世界の神様がどんな方か知りませんけど、私は神様に祈ります。
これ以上の幸福は望みません。 ただ、平穏な日が続くことを願います…… っと
うん。 しっかりお祈りしたので、神様だってお願いを叶えてくれますよね?
これで、これから平穏な日が訪れますよ!! (断言)
えっ? ……フラグ?
いえいえ、私は頭の中で思ってるだけで、口に出して言ってないのでセーフです。
せっ…… セーフ…… ですよね?……
ーーーーー その頃、長老は……
「おぉぉ…… 領主様の許可は出た。 アウグスト殿も全面的な協力を約束してくれた…… これでモーリン様の神殿が建てられる……!
これで精霊姫モーリン様の素晴らしさを世界中に知らしめる事ができるぞい……!
それはもう大々的に宣伝して、深緑の民の石頭どもを全力で羨ましがらせてやるぞい!」
3章の本編はこれで終わりです。
閑話を数話書いてから次の章に行く予定です。
村の少女ネリネは、実は名前だけは一度登場しています。
今後も名前くらいは出るかも知れませんが、彼女のメインキャラ昇格は多分ありません。
舞姫ネリネのサクセスストーリーは今の所書くつもりは無いので、ただのネタだと思ってください。
ムスカリが、主人公が飛んで来た木剣に視線を向けなかったと言っていますが、
単純に、元々主人公は目で物を見ていないだけです。 木の時のクセで、能力で視界を動かして見ています。