26話 モーリンガーからの特別な友達認定
ここに来て、やっと主人公の呼び名が決まります。
一般的な作品なら3話以内くらいでやりそうなイベントが、ここでやっと発生。
どうもこんにちは、木です。
今の自分が何者がよくわからなくて、何と名乗るべきか迷走気味でしたが、人の姿の時も基本的に木なんだと再認識したので、原点に帰って木と名乗ることにしました。
ん? 原点と言うなら毛利 鈴の方ですかね? でも、体の基本は木ですしね?
んー、まあ、心の中で名乗っても誰かにその名前で呼ばれるわけじゃないですし、そこまで深く考えることも…… あれ? そういえば今まで考えたことすらありませんでしたが、ぺルルちゃんとは念話できるので、名前を名乗れるんですよね?
な……なんで気がつかなかったんでしょうか!?
ぺルル・ワタシ・ナマエ・モウリ・リン
「えぇっ!? 何で今さら自己紹介!? というか、ディアモン様から聞いてるから、貴方の前世の名前くらい知ってるわよ?」
あれれ? 名前、知ってました? でもそれにしては名前を呼ばないで私の事をいつも『貴方』と呼んでましたよね?
ぺルル・ワタシ・ナマエ・ヨバナイ・ナンデヤネン
「自分から言わないから、『生まれ変わったからには前世の名前は捨てる』とか、そういうポリシーだと思ってたんだけど……違ったの?」
ポリシー・チャウネン・ワタシ・ノ・ナヲ・イッテミロ
「い……今さら改めて名前で呼ぶって、ちょっと照れくさいんだけど!? えっと…… リ……リン。 こう呼べばいい?」
おお! 照れくさそうに目を泳がせながらの名前呼びです! これはなかなか……萌えますね。 私はそっちの趣味は少ししか無いんですが、キュンと来ました。
リンと呼ばれるのは、こちら世界に転生してから初めてですから新鮮な感じですねー。 鮮度バツグンです。 お刺身でイケます。
「……ねえ、名前で呼んで欲しいなら、あの子にも名前を教えてあげればいいじゃない。 単語の一言くらいは喋れるようになったんでしょ?
言葉が通じなくても、自分を指さして名前を言えば伝わるんじゃないの?」
……確かにそうです! 気がつかなかったです!!
ぺルル・カシコイ・ぺルル・テンサイ・アナタガ・カミカ
「神じゃなくて妖精よ。 あと私が天才なんじゃなくて、リンがバカ……もとい、ちょっとうっかりしてるだけよ」
ぺルルちゃんが普通に名前を呼んでくれるようになりました! 嬉しいです!
……ところで、一瞬、バカって言いかけた件についてはスルーするべきでしょうか?
まあ、それはいいです。 それより、一刻も早くちくわちゃんに名前を教えてあげましょう。
……そう言えば、村の皆さんの間では、私はなんと呼ばれているのでしょうか?
名前を呼んではいけないあの方……とかそんな感じで呼ばれていたら微妙に嫌なので、ちくわちゃん経由で村の皆さんに伝えてもらいましょうか。
さて、せっかく歩けるようになったので自分からちくわちゃんの所に行きますか。
と言っても目と鼻の先ですけどね。 ちっくわちゃ~ん、遊びましょー♪
ダダンッダンッダダン……と、未来から来た筋肉サイボーグのテーマのリズムで扉をノックします。
少しして扉を開けてくれたちくわちゃんは、今日もニッコリ笑顔です。
なのに、その姿を見たぺルルちゃんは顔を青くして固まっちゃいました。
「ね……ねえ? あの子が大事そうに胸元に抱えているアレって……」
えっ? ああ、ちくわちゃんってば、私の左腕を抱きしめてますねー?
昨日、私は切り株の上で充電しながら寝ていたから、ちくわちゃんと一緒に寝てあげられませんでした。 だからちくわちゃんも、ちょっと寂しくなっちゃたのかもしれませんねー。 もう、甘えん坊さん♪
「どっ、どうして自分の腕を抱きしめて笑ってる相手を見て、微笑ましいものを見たようにほっこりした雰囲気になってるの!? この光景を平然と受け入れるって、貴方って精神のキャパシティ、大きすぎないかしら!?」
うむむ……でも、犬とかは寂しくなると、飼い主の靴とか服とかをくわえて持って来たりしますよね? ちくわちゃんって少し犬っぽい所がありますし、そう言うものだと思って見たら微笑ましくないですかね?
……あ~、ですが、言われてみれば確かに、普通は腕を持ち歩いてたらホラーに見えちゃいますか。
あの腕は、実質は木の枝ですから、知っていれば怖くないと思いますけど、知らない人からどう見えるのかも考慮すべきですね。 なんとかしましょう。
私は、ちくわちゃんの持っていた、私の左腕に触れてイメージをこねこねします。 ……元々は私の体の一部ですし、多分、形を変えるくらい出来るハズなんですが……っと! よし、できました!
魔法少女テイストの杖が完成しました! 先っぽの飾りは、星とか月とかハートのほうがそれっぽいかとも思いましたが、独自性を考えて、X形に交差した2本のちくわを飾りました。 マジカルちくわロッドです!!
「……まあ、ちぎれた腕を持ち歩くより何倍もマシだけど、そのデザインはどうなの?」
ぺルルちゃんは微妙な顔で見ていますが、ちくわちゃんは大喜びしてくれました。
マジカルちくわロッドを持ったままクルクルと踊っています。 うん、可愛い。
このまま、エンドレスでちくわちゃんのちくわダンスを見ていたい気持ちもありますが、今日は名前を伝えるのがメインイベントです。
私はちくわちゃんをツンツンして、こっちを向いてもらいます。 そして自分を指さしながら名乗りました。
「……モウ…リ……リン……」
あ、精神集中が足りませんでしたか? ちょっと声がかすれました。
でも、多分大丈夫! 伝わりましたよね?
ちくわちゃんは、確認するように私を指さして言いました。
「……モーリン?」
惜しい!! 一文字伝わりませんでしたかー!!
ここはしっかりと訂正しましょう!
ぺルル・コレカラ・ワタシ・モーリン
「ええっ! そっちを訂正するの!? なんで間違いの方に合わせて本名の方を捨てちゃうのよ!? 貴方……正気!?」
いえ、どうせ今の私は厳密に言えば『日本のピチピチ女子高生・毛利 鈴』ではありませんし、この機会に新しい名前で生きていくのもいいんじゃないか? っと思ったんですよね。 あ、それと私が正気かどうかについては、私もたまに不安になります。
「……モーリンガー」
ちくわちゃんが呟きました。 モーリンガーってどこのスーパーロボットですか!?
さっきはモーリンって言ってましたよね? それでいいんですよ。
『ガー』は、いらない子です。
……でも、いらないって、どう言えば通じますかね?
クイズ番組で間違えた時みたいに、ブーッ! てブザー音で伝わりますかね?
「ガー、ブー。 モーリン」
結局、本当にブザー音を言ってみました。 これで伝わればいいのですけど。
ちくわちゃんは、驚きと喜びが混ざったような顔で、少し遠慮したように言いました。
「ガー2itA6#……モーリン、dE7#w」
所々、何を言ってるか不明でしたが、モーリンと言ってくれたようですね、私は、コクコクと頷いて肯定しました。 ……今さら『実は毛利 鈴です』とは言いにくいので、やはり、これからはモーリンを名乗りましょう。
……そう言えば、前は結局、村の見学ができませんでしたね~。
よし、今日こそ行きましょうか!
私は、肩にぺルルちゃんを乗せ、ちくわちゃんの手を握って歩き出します。
これが、この世界に生きる『モーリン』としての最初の一歩になりますね!
……ぺルル・フシギ・メノマエ・イキナリ・ツチカベ・メイビー・ヌリカベ?
「バカ! いきなり土の壁ができたワケでも、妖怪・ぬりかべが現れたワケでもないわよ! 貴方が地面に倒れたのよ! 自分の魔力の残量くらい把握しなさいよ!」
魔力残量? えっ? ちょこっと歩いて、ちょこっと喋って、杖を一本作ったらガス欠ですか? ……それはまた驚異的な燃費の悪さですねー、私。
今日も私は、ちくわちゃんにお姫様抱っこで、切り株まで運ばれました。
……私は、いつになったら村を見学できるんでしょうか?
ーーーーー フリージア視点
むぅ……やっちゃった!!
扉がノックされて、外から精霊様の気配がしてたから、嬉しくてすぐに扉を開けちゃったんだけど、その時の自分が精霊様の腕を持ったままだって事を忘れてた。
案の定、妖精は青い顔で固まっていた。
……精霊様の方は表情が変わらないから反応がよくわからなかったけど。
私にとっては宝物だけど、普通は、腕を持ち歩いてたら気持ち悪いって思われるよね。 頭では理解してるけど、持っていると落ち着くから手放したくないし……。
その時、精霊様が手を伸ばして、私の持っていた腕に触れたの。 そしたら、それは光りながら形を変えて行って、最後には一本の杖になった。
嬉しい! これを持っていれば、いつも精霊様と繋がっている気分でいられる。
何よりも、主が部下に武器を、しかも、直接渡すと言うのは、戦力として期待するという意味だ。 前回の戦いで精霊様を守れなかった私を、まだ頼りにしてくれると言っているんだ! それが凄く嬉しい!
嬉しくて私は、無意識に踊り出していた。 むぅ……恥ずかしい。
突然、ツンツンとつつかれる感触があり、ハッと見ると、精霊様が私の目をじっと見ていた。 なんだろう、なにかを言いたそうに見える。
「……モー……リン……」
精霊様が、自分を指差しながらそう言った。
え? 今のって、もしかして精霊様の名前? 教えて……くれたの?
でも、勘違いだったら困る。 もう一度確認しよう。
私は精霊様を指差して言った。 (指を差す時点で失礼なのは、後で気づいた)
「……モーリン?」
精霊様は否定も肯定もしなかった。 ……あれ? ……あっ!?
そうだ! 私はなんて事を!? 精霊様の名前を呼び捨てにしちゃった!!
様をつけなきゃだめだ! で……でも、もう遅いかな?
私は恐る恐る、もう一度名前を呼ぶ。 もちろん今度は様をつけてだ。
「……モーリン様」
すると、精霊様が口を開いた。
「様、違う。 ……モーリン」
「様、が違うって言うのは……もしかして、モーリンって呼び捨てでいいって事?」
すると精霊様は、コクコクと頷いた。 え……? ほ……本当に呼び捨てでいいの!?
凄い! これは、全エルフに自慢できる栄誉だ!!
膝の力が抜けてプルプルするくらい喜んでいた私は、更に精霊様に手を引かれて歩きだした。
うわっ……うわっ……夢みたいな気持ちだ! 気を抜いたら倒れそう!!
……私じゃなくて、モーリンが倒れた。 ええぇ!? 何で!?
私は、妖精に誘導されて、モーリンを切り株の上に運んで、足を土に埋めて頭に水をかけた。 変な方法に見えるけど、これで回復が早まるみたいだ。
モーリンは昨日も倒れた。 むぅ……心配だ。 もしかしたら、人の姿になったことが負担になってるのかな? 元気になるまで私が守ってあげなきゃね。
だって、私は友達だって言ってもらったもん。
杖だって作ってもらったし、名前も教えてもらったもん。
そして、呼び捨てにしてもいいって言われたもん!
これって特別だよね!? 特別な友達になれたんだよね!?
うん……うん! 私がずっと一緒にいるからね! ね! モーリン!
またもや噛み合ってないはずの会話が奇跡的に噛み合いました。
『ガー』は、貴族や王族につけるくらいの最高クラスの敬称で、『ブ』は否定の意味です。
主人公は、ブザーのつもりでブーと伸ばしていましたが、否定という意味は変わりません。
これ以降、フリージアは主人公をモーリンと呼ぶようになります。