25話 体調不良からの精霊姫疑惑
どうもこんにちは、抱き枕です。
あの戦いの後、ちくわちゃんにテイクアウトされた私は、まず服を借りました。
ですが服を着るにも片腕では不便だったので、とりあえず腕を再生できないかと思い、トライしてみたんです。 で、簡単とは言いませんが、枝を伸ばす能力や、枝や葉の形を変える能力を応用したら、見事に再生に成功しました。
まあ、それは良かったんですけど……
メッチャ疲れました……。
前世で3日間徹夜でゲームをしていた時と同じくらいの消耗でした。
いやー、懐かしいです。 2日目の夜くらいから、自分が何のゲームをやってるのかわからなくなったものです。 私は野球ゲームで盗塁する時にスピードアップの魔法を使おうとして味方の魔法使いがどこにいるか探したりした事がありました。
いえ、まあゲームの話は置いといて、そのメッチャ疲れたという話でしたね。
結局、なんとか服を着るまでは頑張ったんですが、その後は力尽きるように眠ってしまいました。 そう、眠ったんですよ。
木の姿の時は眠れなかったのに、今は眠れる…… というか、もしかすると気を失ったのかもしれませんけどね。 で、そのまま朝が来て目が覚めると、ちくわちゃんに抱き枕にされていたというワケですよ。
目が覚めると、隣にちくわちゃんの寝顔というのは、なかなか素敵な朝ですねーって言いたいんですが…… 今日は、あまり素敵な朝とは言えないかも知れませんね?
なんか体の調子がよろしくないっぽいです。 いえ、具合が悪いと言うほどではないですが、木の時は疲れる事があっても休めばスッキリ絶好調! 毎日がエブリデイって感じだったんですが、今は疲れが残っている感じです。
私の体の中に寝不足と筋肉痛が同時に遊びに来た感じですかね? 前世で人間の時はたまにこの程度の不調はありましたけど、こっちの世界に生まれ変わってから初めての感覚なので不安ではありますねー。
やっぱり本質と違う形に体を作り替えた事で、どこかに無理がかかってるんですかね? んー、こう言う時はぺルルちゃんに質問したいところですが、まだ帰ってないんでしょうか?
私の心の声は、片言にしないと大音量になると言っていました。 逆に言えば、普通に呼び掛ければ、大声で呼んだ感じに伝わるってことですよね? そしたら遠くにいても聞こえますかね? うん、ちょっと試してみましょうか。
イエーイ!! ぺ・ル・ル・ちゃーん! L・O・V・E・ ぺルルちゃーん♪ 聞っこえるかにゃ~? 聞こえたら、私の所へ、かもん! かもーん!! かみなりもーん!
「ぎゃあぁぁ!? 耳がー!!」
おや? ぺルルちゃんの声がしました。 ミミガーとか言ってましたね? 妖精さんも沖縄の郷土料理を食べるんでしょうか? 確かにミミガーはコリコリして美味しいですが、妖精さんのイメージとは合わない気がしますねー。
次の瞬間、耳を押さえたぺルルちゃんが窓から怒鳴り込んで来ました。
「ボリューム抑えなさいって言ったでしょ! 頭の中でドラを鳴らされたような衝撃だったわよ!?」
ぺルル・チカク・イル・オモウ・ナカッタ・アイム・ソーリー・ヒゲ・ソーリー
「少し前から帰ってたんだけど、外で貴方の切り株を見て呆然としていたのよ。
ディアモン様の所にオベロン様が来てね、それで昨日の夜に何があったかは聞いて、知ってたんだけど…… やっぱり直接、貴方だった木が切り株になってるのを見ちゃったらショックだったわ」
そう言ってぺルルちゃんは、私の事をじっと見ました。 少し照れますね~。
「……それが貴方の前世の姿なんだ。 なんか少しイメージと違ったわ、もっと元気でウザ……活発そうな外見を想像していたんだけど、のんびりと本でも読んでそうな外見なのね」
本はよく読みましたよ、漫画とラノベとゲーム雑誌ですが。 でも頭の中は元気で活発ですよ? 目を離すと、すぐに思考が明後日の方向に遊びに行っちゃいますし。 ところで一瞬、ウザ……とか言いかけた件についてはスルーするべきでしょうか?
「で、その子がコアラみたいにしがみついてるけど、それは暑苦しくないの?」
暑苦しくはないですよ。 やはり私の体は人間の肌ほど温度に敏感じゃないようですね。 まあ、ちくわちゃんが抱きついてくるなら、例え暑苦しくてもウェルカムですけど。 でも……コアラですか。 なるほど、私が木だと考えると、確かにコアラっぽいかも知れませんね。
それにしてもよく眠ってますねー。 お疲れモードですかね? 昨日は色々ありましたし。
心優しくて純粋で天使なちくわちゃんに戦いは似合わないのに、私や村を守るために勇気を振り絞って戦ってくれましたし、それを労うためにも全身全霊を持って抱き枕になりましょう! 神すらも恐れおののく抱き枕っぷりをみせてあげますよー!
「……なんかまた変なことを考えてる気がするわ」
むむっ! 失敬な。 私は変なことなど考えていません! しっかり考えた結果、変なところにたどり着くだけです!
結局ぺルルちゃんも私の上で眠ってしまい、みんなが起きた頃には太陽が真上に来ていました。 そのあと、折角歩けるようになったんだから村を見て歩きたいと思った私は、ちくわちゃんにボディランゲージで説明して、案内してもらうことにしました。
ですが……。
……ぺルル・フシギ・メノマエ・イキナリ・ツチカベ・メイビー・ヌリカベ?
「バカ! いきなり土の壁が出来たワケでも、妖怪ぬりかべが現れたワケでもないわ! 貴方が地面に倒れたのよ! 体調が悪いなら早めに言いなさいよね!」
「のtYx2!!vよ¥!」
ぺルルちゃんのお叱りの言葉と、ちくわちゃんの慌てたような声が聞こえます……。 そ……そうでした、体調が悪いからぺルルちゃんに相談しようとしてたのに、うっかり忘れていました。 でも、倒れるほど悪くは無かったと思うのですが……。
「ちょっ!? 貴方! 髪の毛の先の方が枯れてるわよ!? 大丈夫!?」
え? 私、枯れてます? もしかして自分で思ってるよりヤバいですか?
「えっと、たしか、ディアモン様とオベロン様が『彼女が植物だと言う事を忘れるな』って言ってたわよね…… という事は…… あっ! そうか!!」
ぺルルちゃんはジェスチャーでちくわちゃんに指示を出しました。
任せて! とばかりに私をお姫さま抱っこするちくわちゃん。
……私は、歩けるようになったハズなのに、運ばれてばっかりな気がしますね~。
ぺルルちゃんの誘導にしたがってちくわちゃんに持ち運ばれた私は、ちくわハウスを出てすぐの場所。 と言うか、私の切り株の上に座らされました。
その後ぺルルちゃんは魔法で穴を掘ると、私の足を足首くらいまで埋めました。 ……あの、ぺルルちゃん?
更にぺルルちゃんは、前にも使った、あの水を出す魔法で私の頭に水をかけ始めました。 おーい、ぺルルちゃん!? なにごとですか? 急にドSに目覚めましたか?
始めは、ちくわちゃんもぺルルちゃんに文句を言いそうな様子でしたが、ぺルルちゃんが少し離れた場所にある木と私を交互に指差すと、あっ! って顔をした後で、ちくわちゃんも私の頭に水をかけ始めます。 二人がかりですか!?
「貴方のためよ、イジメじゃないから誤解しないでよ? ……多分、本来動けない貴方が動いているのは、それだけで魔法を使ってるようなものなのよ。
そして植物である貴方は土や水を介さないと効率の良い魔力補給ができない。
つまり今の貴方は補給なしで常に消費をしてる状態だと思うの。 だから定期的に植物らしい環境で回復に専念する必要があるんだと思うわ」
えっと……つまり、今の私は電源を入れっぱなしのスマホや携帯用ゲーム機のような状態だから、定期的に充電する必要があると。 で、その充電方法は足を土に埋めて頭から水を被る事だと。
……うん、理屈は理解しましたが、本当に元気になるんでしょうか?
いえ、もちろんぺルルちゃんの事は信頼してますよ?
ですが、想像して下さい。 体調が悪くて病院に行ったら先生に、
『ふむ、過労ですな、足を土に埋めて頭から水を被って安静にして下さい』
とか言われて、ハイそうします。って素直に従いますか?
流石にこんな事で回復したりは…… って、あれれ? 何か元気になってきましたよ!?
『美少女2人に土に埋められて頭から水をかけられたら元気が出てきました』
真実……なんですが、字面で見ると特殊性癖のカミングアウトみたいですね……。
この日から私は、ぺルルちゃんによって、1日2回の休憩を義務づけられました。
うむむ……今まで読んだ事のあるラノベでは、動物やモンスターから人間に変身すると、万能で便利な能力を手に入れるパターンが多かったんですけど……
何でまた私は燃費が悪くなっちゃいましたかね~?
ーーーーー ムスカリ視点
「……とまあ、そんな感じで騒動は落ち着いたんだよ」
先ほど村に戻ってきた俺は、昨夜あったと言う戦いについて、ヒースに訊いていた。
くっ……不覚だ! 村の危機に俺は戦いに参加すら出来なかったとは……。
「……それで、ロドルフォたちはどうしている?」
「この村には牢獄なんてものはないから、取り敢えず倉庫の一部を片付けて、そこに放り込んでおいたよ。 僕は商人ギルドのアウグストと連絡を取り合ってるから、アウグスト経由で冒険者ギルドに連絡して、引き取って貰うつもりだよ。
……もちろん色々と賠償も払って貰うつもりさ」
「ふむ……そうか。 あと、精霊様が実体を持った人の姿で顕現したと言う話だが…… 俺は精霊様の伝説はそれほど詳しくないのだが、たしか実体を持っての顕現というのは……」
俺はヒースに確認する。 俺の記憶違いかも知れない。 だが、記憶通りなら……
「原初のエルフの相棒である、初代精霊姫・ルピナス様と、聖王の伴侶で聖王樹の名の由来にもなった、二代目精霊姫・ハイドランジア様の二名……。
つまり、精霊姫様以外には、実体を持った顕現の例はないハズだよ」
やはりか! と言う事は我らの村にいる、あの精霊様は……
「うん、多分想像してるだろうけど、次代の精霊姫様、いや……もし違っていても、世間はそう見るだろうね。 人間は精霊様をさほど信仰してないから、そこまで騒がないと思うけど ……石頭な深緑の民が妙な事をしなきゃいいけどね」
深緑の民か……
確かにプライドの高い彼らなら、若草の民の村に精霊姫様が住むことに良い顔はしないだろう。
……だが、もしも、また争いが起こるならば、次は戦場に立つことすらできない等と言う恥は晒さない! 必ず皆を守るために戦ってみせるぞ!
その相手が、同じくエルフの血を引く同胞であってもだ!
俺は、そんな誓いの気持ちを込めて、腰の剣を強く握った。
せっかく人の姿になった主人公ですが、この話では結局あまり動きませんでした。
そして喋りませんでした。 人の姿になってまでやった事は、抱き枕になったくらいです。