24.5話A 彼女の世界が終わる時
間違えて予約時間を過去の時間にしちゃったので、即時で投稿されちゃいました。 すみません。
タイトルは24.5話なのに時間軸的には22話の別視点です。
なので、タイトルはあまり気にしないで、VS冒険者チームのエピソードの別視点を前・後編で2話やりますよー、
くらいで見てください。
ムスカリは、盗賊らしき集団がいると聞いて岩場へと足を伸ばした。
だが、たどり着いたその場所には、特に異常は見られないように見える。
「人影も無いし、争った後もありませんね。 私の勘違いでしたか。 いやぁ申し訳ありません、どうやら無駄足を踏ませてしまったようですね」
旅人と名乗った男はそう言ってムスカリに頭を下げた。 その表情は確かに申し訳なさそうなのだが、どこかに軽薄な色が見て取れる。
「いや、構わない。 何も無いと言うのならその方がいいしな」
だが、男のそんな違和感に気づく事もなくムスカリは、そう答えた。
「そろそろ日が落ちて来ましたね、私は夜営の準備をしますが、ムスカリさんも休んで行かれませんか? どうせ今から村に戻っても夜中になってしまいますよ」
「気遣い感謝する。だが、村を長く空けてはいられないんでな。 俺は村へ戻らせてもらおう」
ムスカリは自称旅人の男からの提案を断り、村への帰路を急いだ。
そして、ムスカリのその背中を見送った自称旅人の男は、冷たい声で呟く。
「ここまで距離を離せばムスカリは作戦の時間までに村に帰る事は無いだろう。
ふふっ、あとは頼みますよ、リーダー」
ーーーーー 魔喰いの顎 リーダー ロドルフォ視点
もう少しで感知の範囲に入りそうだ。
まあこれは、あの村の魔力感知能力者が、ギルドのAランクと同等の感知能力を持つと仮定した射程距離だ。
そんなヤツはそうは居ねぇし、実際はもう少し余裕があるだろう。
「よし、全員魔力隠蔽のポーションを使え! 感知を誤魔化してから接近を…… !? っ! 全員! 散開して伏せろ!!」
全員が飛び退いた瞬間、そこに魔力の槍が突き刺さり爆風が周囲を襲う。 指示がギリギリ間に合ったみてぇだな、全員直撃は避けた。 だが……
「リーダー! 今ので魔力隠蔽のポーションはほとんど割れちまった!」
「クソッ! この距離で感知に引っ掛かってんのかよ!?
カゲミツ! コレミツ! 無事な隠蔽ポーションはお前らが使え! 先行して奇襲を掛けろ! 少しかき回したら無理せず離脱しろよ!?」
オレは、チームで一番素早い東国暗殺者の兄弟に奇襲を任せた。
普通なら感知されてから奇襲も何もあったもんじゃねえが、大多数の魔力は隠さねぇで囮になり、魔力を隠した少数が側面から襲えば奇襲は狙える。 魔力感知の得意なヤツほど直感や目視での索敵は苦手なものだ。
「誰か、耐魔力シールドを張れるヤツが先頭に立て。1人じゃ危ねぇ、二人で重ねて張れよ! 魔法を防ぎながら進むぞ!」
オレの指示に従って、二人の魔導師が前に出て、シールドを張った直後……
「ぐあっ!?」 「うお!?」
何かが魔導師たちに当たり、二人は倒れた。 何だ!? ……これは木の実か? チィ! 1人は肩、1人は足に当たって、二人とも骨折しているようだ。
確かに耐魔力シールドで防げるのは魔法だけだ、木の実は防げねぇわな。
木の実は、さらに続けて飛んで来た。 剣士たちはそれを剣で切り払うが、中から飛び散った汁を浴びた途端に苦しみ始めた。 毒か!? クソッ! 木の実だと思うのは、もうやめだ! これは立派な武器だと考えるべきだ!
「……慎重に行くぞ。 突っ込むのは、カゲミツとコレミツが奇襲してからだ」
ーーーーー フリージア視点
「陣形が崩れてる。 どれだけの被害を与えたかまでは把握できないけど、出鼻をくじく事はできたと思うよ。 フリージア、もう一発撃てる?」
ヒースさんの言葉にコクリと頷いて、私は詠唱を開始する。
最初、走ってきたヒースさんが、近づく人達に攻撃魔法を撃てって言った時は何事かと思ったけど、村か精霊様を狙う敵かも知れないと言われたから攻撃する事への迷いは消えた。 精霊様も木の実を投げて攻撃してるし、私も頑張らなきゃね。
「天駆ける風神の、その偉大な力の一欠片。 猛る風巻く、その槍撃よ。 群がりし愚者を吹き散らせ! 『荒ぶる嵐の投擲槍』!!」
私は手の中に生み出された風の槍を、ヒースさん指示する方向に投げた。
投げるといっても、本当に腕力で投げているんじゃなくて、『投げる』と言う動作がキーになって、魔法が発動して飛んで行くんだよ。 流石に腕力だけであんなに遠くまでは届かない。 ……届かないよね? 最近の私の腕力なら、もしかしたら届くかも?
その時、精霊様が枝を伸ばして、それを勢いよく私の方に振り抜いた。
ビックリしたけど怖くはなかった。 精霊様が私を叩くとは思わないし、もし叩かれるなら、その時は私が悪いはずだから素直に叩かれるだけだし。
精霊様の枝は私の頭の上を通って行き、何かに当たったような音をたてた。
えっ? なにか当たるような物あったっけ? っと思ってそっちを見ると、全身を黒い布で隠した怪しい人が、クルクル回りながら飛んでいた。
敵!? 嘘、全然気づかなかった! 私はヒースさんをチラっと見たけど、ヒースさんも驚いた顔をしてるから気づいて無かったみたい。
私が狙われてたんだよね、精霊様に助けてもらっちゃった。
お礼を言おうと思って精霊様の方を見た私は、愕然とした。 ……精霊様の体に切り傷がついていたから。
少し離れた所には剣を持った黒い人影がいた。 お前かあああっ!!
私は足を魔力で強化して一気に踏み込み、次に鉈を持つ手を強化する。
体の耐久力は上げなくていいや、死ぬ前に殺せば済む話だし。
私はその男の頭に鉈を降りおろすけど、避けられた。
「むぅ……当たれば死ぬのに、なんで避けるの? 精霊様に傷をつけたんだから死なないとダメでしょ? なんでまだ生きてるの? ねえ? なんでっ!?」
私は言葉と共に鉈を振り回す。 剣を折ったし、細かい傷はたくさんつけたけど、なかなか直撃してくれない。
「ぐっ、この少女が、リーダーの言っていた狂戦士か!? 確かに正気じゃない。 そして……つ、強い!」
「むぅ…… 失礼な。 私は狂戦士じゃなくて精霊様の巫女だし、いつも正気だよ。 正気じゃないのは、精霊様を傷つけた貴方たちでしょ?」
「……やはり、色んな意味で危険な相手のようだな。 ここは退かせてもらおう」
逃げる気!? ダメ! 帰るなら、せめて首だけでも置いていってもらわないと!
「怒るのはわかるけど、追わなくていい!! それより、次が来ちゃうから魔法を撃って!」
そのヒースさんの言葉にハッとした。 そうだった! 敵が精霊様を傷つける相手だとわかったからには、ここに近づける訳にいかない!
さっきの男に償わせるのは後回しだ。 今は外の相手を止めなくちゃ!
私は次の魔法を唱え始めた。
むぅ…… マズイ。
コイツらは、何かあるとすぐ精霊様のいる側に動こうとする。
そして私が精霊様に当てるのが怖くて魔法を使えずにいると、その内にじわじわと近づいて来る。
もう、相手の姿は目視出来る距離にあるけど、近いからこそ強い魔法は撃てない。
あとは接近戦で戦い続けるしか無いかな?
「……そろそろ、使うタイミングかな? あまり使いたい手段じゃないけど仕方ないね」
ヒースさんは、そう言ってポケットから小瓶を出して、グイっと飲んだ。
ちょうど、そのタイミングで1人の大男がヒースさんに飛びかかって来ていた。
危ない! っと思ったけど、ヒースさんは別人みたいに素早い動きで、その大男を叩きふせちゃった。 えーっ? ヒースさんは戦闘は苦手だと言ってたのに……?
別人のように大暴れするヒースさんの事は気になったけど、すでに私の方にも敵は来ている。 戦わなきゃ! 私は近くの男を鉈で払おうとしたけど、盾で防がれた瞬間に折れてしまった。 ……やっぱり鉈じゃ、実戦に使うには脆いみたい。
私は鉈を捨てて、相手に殴りかかった。
本当は『強風纏いし圧入杭』を使ってから殴れば一発だけど、あれだと加減して撃っても精霊様まで衝撃波が届いちゃうからダメだ。
魔力で強化した拳で普通に殴るしかない。
むぅ…… 決定打が無い。
わかっていたけど、私の体格だとリーチが足りない。 どうしても顔とかお腹とか、そういうダメージが大きい部分にパンチが深く入らない。 手足には何度か当ててるんだけど、相手も戦い慣れした人だから、『痛い』だけじゃ止まってくれない。
……そして、ついにヒースさんが倒された。
さっきまでいなかった目付きの悪い男が乱入してきて、他の男と戦っていたヒースさんを後ろから殴ったんだ。 私は、それを見て驚いたところを取り押さえられた。
……でも、私は気絶させられたわけじゃないから、体は動かせなくても魔法なら使える。 攻撃魔法じゃなければ精霊様を巻き込むことも無い。
私は、周りの男に気づかれないように、小声で詠唱を始めた。
(我が望むは剣に非ず、我が望むは鎧に非ず、我が望むは翼なり。 我を枷より解き放ち、輝き放ちて風すら超えよ)
もう少しで魔法が完成するのに、それより早く、あの男が精霊様の前に立ち、斧を構える。
「この斧は植物を伐採する事に特化したマジックアイテムでな、正直な話、使い道が無かったんだがな…… あんたに使うにはピッタリだろ?
……悪りぃな、ウチのチームのために死んでくれよ、精霊サマ」
「そんなのやらせない! 我が背に宿れ!『煌めく光翼』」
背中に宿った翼を一度羽ばたかせると、私を押さえていた四人の男たちは、全員ふっ飛んで転んだ。
今だ!!
私は、大量の魔法を翼に送りこみ、一気に加速して飛び出した。
そして私は、自分の体を盾にするために、精霊様の前に……
トンっ と優しく、だけど強く、私の体を押し退けるような衝撃があった。
私を押し退けたのは、精霊様の枝だった。 精霊様!? どうして!!?
予想外の方向からの衝撃に私の体は呆気なく傾いて、私が本来、立ちはだかるはずだった場所からずれていく。
そして私の少し先。 そう、本当に僅か先を、斧が通り過ぎて行く。
ダメっ!! ダメだ!! ダメだ! ダメだ! ダメだ!ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ!!
斧は 精霊様の体を 断ち切った。
私は、私の世界が終わる音を聴いた。
次回は、23話 24話部分の別視点になります。