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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
3章ですよ 精霊姫って誰ですか?
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20.5話 新たなる信者

商人ギルドのアウグスト視点です。

「あなた、またあの村へ行くの? 好き勝手に出歩いちゃって、不真面目なギルドマスターね?」


 「知らなかったか? 不真面目だからギルドマスターで居られるんだぜ?」


 妻・キアラの言葉に、俺は笑いながら冗談で返した。


 「じゃあ行ってくるぜ。 運良く精霊様の果物が手に入ったら食わせてやるからな」



 商人ギルド北方支部マスターなんて肩書きを持っているが、大した意味は無い。

 商人なんて生き物は、放っておいても、お互いを監視して牽制しあっているから、まとめ役なんて居なくても意外とまとまるものだ、表向きだけだがな。

 内心がどうあれ、表向きまとまっていればデカいトラブルもあまり起きないものだ。


 という事で、俺はギルドマスターの仕事なんて放り投げて、行商人としてある村に通っている。

 そこには住人達から精霊様と呼ばれ、慕われる存在がいる。

 その精霊様に対等な取引相手と認めて貰うのが、今の俺の目標だ。


 「精霊で、しかも体が木って言うんじゃあ何を手土産にすればいいのかわからんのが難点だな。 まあ、村の役に立つ事を続けるのが信頼される一番の方法だろう」


 俺は愛馬に揺られながら呟いた。

 一人旅は気楽でいいんだが、自然と独り言が増えちまうな。


 行商人は護衛を雇う事が多い。 だが普通に雇うと賃金で行商の儲けが飛んでっちまうから、目的地周辺で他の仕事をする予定のある冒険者と直接交渉をするのがコツだ。

 移動中の食料を提供すれば、賃金は格安で、場合によっては無料で受ける冒険者も居る。 まあ、もちろん実際に戦ってもらう機会があれば別料金は払うが。

 俺は色々と自衛手段があるから、あまり護衛を雇わないけどな。





 幸いトラブルもなく、例の村の近くまでたどり着いた。 

 ここにも一つ村がある。 あの村ができるまでは、ネウロナ王国最北の村はここだった。 ……しっかし、あの村とかこの村とか、辺境の小さな村は、名前の無い村が多くてややこしいな。 精霊様のいる村だけでも名前が欲しいな。

 村に着いたら、あそこの長老に相談してみるか。


 さて、今日はここの村で一泊だ。 あの村までは、あと2日くらいか?



 翌朝、朝飯を食っている時に宿の親父に聞いたが、最近この村と例の村に交流が増えたらしい。 流石に精霊様の果物は取引してないようだが、あの村のハーブや野菜と、この村の小麦で物々交換をしているらしい。 確かに村と村の取引なら金より物々交換の方が便利かもな。

 ……そういえば、このパンに挟まってる野菜が前より美味い気がしたが、なるほど、あの村の野菜か。



 朝飯が終わると出発した。

 道中で3人組の行商人と出会ったから話をしたら、ヴァンクリフ商会の所属だった。

 おお、あそこの会長は飲み仲間だ。 敵対してる派閥の商人があの村に近づくなら妨害するつもりだったが、あそこの若手なら俺も少しくらい面倒見てやってもいいな。


 俺はその3人に同行することにした。

 俺の正体は隠したが、Bランク証明証を見せたら信用して貰えた。

 本当はSランクだが、Aランク以上で行商なんかしてたら逆に怪しまれちまう。

 あのBランク証明証も、昔使ってた本物だから問題ない。 俺の証明証だ、と言って見せたが、今の俺がBランクだ、とは一言も言ってないから嘘はついてねえしな。



 半人前が手際悪く行動しているのを懐かしい気持ちで生暖かく眺めながら移動を続けて、例の村に到着した。



 「さあ、村に着いたからには別行動だぜ。 と言っても宿は一緒だろうがな」


 俺は半人前どもと別れて、あいつに会いに行った。



 目的の家の前に立ち、ドアをノックしようとした所で、先にドアが開いた。


 「やあ、アウグストさん。 中へどうぞ、お茶も入ってるよ」


 この小太りの男はヒース。 この村で一番交渉に慣れていて、金の話がわかる男だ。 


 頭が回るがズル賢い印象は無い。 まあ、腹の奥に黒いものを隠している気配は感じるが、真面目に村の事を考えているのは確かだし、商人としては真っ白なほどに善良な聖人よりは、これくらい食えない相手のほうが付き合いやすい。

 だから俺は、村での交渉相手にヒースを選んだのだ。 ただ荒稼ぎしたいなら長老のほうがチョロい相手だが、この村とはパートナーとして付き合いたいからな。


 「しかし、お前は俺がいつ来てもすぐ気づきやがるな…… ドアをノックさせて貰った記憶がないぞ。 なんでわかるんだ?」


 「ふふふっ、なんでだろうね? 想像に任せるよ」




 俺たちはそのまましばらく、雑談と交渉と情報交換を織り交ぜて会話していたが、途中でヒースは突然ドアの方を向いた。


 「フリージアだね? 何かあったのかい?」


 そうヒースが語りかけると、ドアが開き、そこにいたのは、 ゲッ! あの少女かぁ……。 この娘は少し苦手だが、まあ精霊様を軽んじるような事をしなければ無害だ。 普段は善良な少女だからな。 ……()()()……だがな。


 「これから精霊様がみんなに桃を配ってくれるみたいだから来て。 商人のおじさんも来る? 精霊様の方から桃をくれたら受け取ってもいいよ? ……でも、おじさんから催促したらダメだよ」


 「お、おう。 じゃあ行かせてもらおうかな」


 俺から催促したら何が起こるのか疑問だが、俺に自殺願望は無い。 この娘を下手に刺激するのは避けよう。

 しかし、この娘の方から精霊様の所へ誘ってくれるって事は、少しは信頼して貰えたって思っていいのか? そいつは嬉しいな。



 精霊様の所へ行くと、あの半人前たちも居た。 俺は駆け寄って声をかける。


 「よう、お前たちも顔を出したのか」


 「はい! この村の秘蔵の果物は噂になってますからね、実際に手に入るなら所持金を全部払っても惜しく無いですし。 美食家の貴族に転売すれば……ぐふっ!?」


 俺はその半人前にボディブローをかまして黙らせた。 お前のためだ、悪く思うなよ? 


 「いいか? あの果物は、あくまで精霊様からの厚意のお裾分けだ、金の話は持ち込むな。 『転売』なんて言葉を村人…… 特に、あの巫女の娘に聞かれたら死ぬと思え。 残念ながら脅しじゃないぞ? 本当に死ぬからな?」


 俺がこの村から生きて帰るコツを伝授しているうちに、村人たちの分は配り終えたようだ。 だが、まだ枝には桃が少し残っている。 これは……期待できるか?


 その時、精霊様の視線を感じた。 木の視線ってのも変な話だが、実際に感じたものは仕方ないだろう?

 精霊様は(つた)を…… ん? 蔦だよな? (つる)か? いや、蔦でいいよな?

 まあいい、それをクイクイ動かして人を呼ぶような仕草をしている。

 つい、俺かい? って感じで自分を指さしてしまったが精霊様はそれを肯定するように、更に強くクイクイ手招きした。 いや、手じゃねえけど、手招きでいいよな?


 俺は誘われるままに精霊様に近づいた。

 あの半人前たちもゾロゾロついて来て焦ったが、精霊様に気にする様子は無いから、多分コイツらも行っていいんだよな?

 巫女の娘を確認したが、あの娘にも動きは無い。 よし、セーフだ。


 俺たちは桃を受け取った。 半人前どもは跳び跳ねそうなほどの大喜びだ。

 こんな半人前のうちに精霊様の果物を貰えるとは、運の良い奴等だな。


 ……いや、精霊様が認めたと言うことは、運だけじゃなくて、何かを持ってるのか? 念のためコイツらの事を覚えておくか。


 そんな事を考えながら、精霊様から一歩離れようとしたその時。

 いつもはゆっくりと動く精霊様が、焦ったように蔦を(せわ)しく動かして、俺に桃を乱暴に差し出した。 いや、精霊様? 俺の分はもう貰ったんだが……?


 困惑しながら、その桃を見て…… ギョッとした。

 これは…… まさか仙桃か!? 東方の地で僅かな量だけ手に入る物で、最高位のポーションと同等以上の回復効果を秘めた希少な桃だ。

 俺は、少しは名の知れた商人のつもりだが、その俺でも取り扱ったのは2度だけ、しかも王族の依頼で必死に取り寄せた物だ。

 商人としては喉から手が出るほど欲しい物だが、だからこそこんなに簡単に貰っていい物じゃない! 精霊様……どういうつもりだ?


 遠慮して受け取らない俺に痺れをきらしたのか、精霊様は俺のリュックを開けて桃を放り込むと、俺を乱暴に追い払うような仕草をした。


 おかしい…… 今まで精霊様が乱暴な仕草を見せる事は無かった。 なにか気に障ったかと思ったが、俺が気に入らないなら仙桃なんて希少品を渡す訳がないだろう。


 精霊様は、俺に、早く帰れと言わんばかりに蔦をブンブン振っている。



 ……強力な回復アイテムを持たせて、その上で早く帰れと……?

 っ! まさか!? 街で、仙桃が必要になるような何かが起こるという事か!?


 俺は半人前どもに声をかける。


 「おい、俺の馬を連れていけ! 盗んでも文句は言わねえし、商人ギルドに届ければ礼はするからどっちでも好きにしろ!」


 俺はそれだけ言って返事を待たずに村の外まで走ると、左手に着けた腕輪を掲げた。

 俺の切り札の1つだ。 貴重な癖に一度の使用で壊れるコストパフォーマンスの最悪なマジックアイテムだが、使うのは今だ。


 「来い! スレイプニル!」


 その瞬間に腕輪が粉々に砕けると共に、地面に巨大な魔法陣が展開される。

 そして、魔法陣の中心に光の柱が立ち、そこに6本の足を持つ馬が現れた。

 俺はその背中に跳び乗りながら指示を出す。


 「俺をネウロナの王都まで乗せてくれ! 乗り心地は気にしない! 全速力で頼む!」


 スレイプニルはその指示に答え、乗っている俺が呼吸に苦しむ程の速度で空を駆け抜けて、俺を即座に王都に連れ帰った。

 上空から見る王都は美しかったが、今は景色を楽しむ時ではない。 何か異変は無いかと見渡すと、中央通りに人だかりが見えた。 ……あれか!?


 「ここでいい! 世話になったな、あばよ!」


 俺は空を走るスレイプニルから飛び降り、魔力で全身を強化して着地した。 そして人だかりへと走り、周囲の人間に問いかける。


 「何があった!?」


 「酒に酔った冒険者が剣で子供に斬りかかったんだ! かばった女性が代わりに斬られた!」


 なんだと!?

 俺が人だかりの中を進むと、中心に血まみれで倒れていたのは……。


 「キアラ!!?」


 俺の妻…… キアラだった。


 「あぁ……あなた、 間に合ったのね、 良かっ……た…… 

お別れは、直接、言いたかった……から」


 「バカ野郎! お別れじゃねえ! お別れだなんて言うな!!」


 俺はキアラに駆け寄るとリュックから桃を……

 くそっ! 手が震えて上手く持てない! 俺のバカ野郎! しっかりしやがれ!


 ようやく取り出した桃をキアラの口へ押し込む。


 「食え! 食ってくれ! こんな時に何を、って思うかもしれねえが、無理にでも飲み込んでくれ!」


 やがてキアラの喉がコクりと動いたかと思うと、即座に効果が現れた。

 血の気の失せたキアラの顔色が、目に見えてわかるほどに良くなっていき、

 消えそうなほど弱々しかった呼吸が、穏やかな寝息に変わった。

 あんなにも深かった傷口も消え、血のあとが残るだけだ。


 駆けつけた治癒術師の見立てでも、今は眠っているだけで、

 肉体的にはなんのダメージも残っていない、もう命の危険は無い。と言っていた。

 ……そうか、キアラは、助かったんだ。


 「精霊様…… 感謝するぜ」


 俺は……精霊様と対等のビジネスパートナーになろうと思っていた。

 だが、諦めた。 もう無理だ。


 これだけ感謝と敬意を持ってしまえば、もう対等になんてなれない。

 これだけの恩義があれば、もうビジネスの付き合いなんてできない。

 もう俺の魂は、精霊様を自分の上の存在だと認めてしまっている。





 その後、あの巫女の少女と再会した時、今まで感じた恐怖感は感じずに、

 なぜか不思議なシンパシーを感じるようになっていた。

 少女も俺に何かを感じたのか、不思議そうに俺をじっと見て、

 納得したように小さく頷いた後、ニコリと笑い、その言葉を放った。


 「ようこそ。 心から歓迎する」


 その言葉が意味するものが、村への歓迎なのか、なにか別の扉の先への歓迎なのかはわからないが、俺も少女へ挨拶を返した。


 「ああ、よろしく頼むよ。 ……()()

ワイルド系ちょいワルおやじ信者が誕生しました。

ちくわちゃんも後輩の登場にニッコリです。

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