20話 スーパーな桃の隠蔽工作からの黄金と真珠の花畑
最近一話一話が長くなってきました。この話も思ったより長くなっちゃいました。
まあ、まだギリギリ毎日投稿で書ける量ですが、これ以上長くなると毎日書くのはつらいので、なんとか上手く調整出来るように頑張ります。
どうもこんにちは、木です。
今日は朝からぺルルちゃんがディアえもんの元へ里帰りしています。
あ、大丈夫ですよ? お仕事の話で呼ばれただけです。
なにか怒らせてしまって『実家へ帰らせてもらいます!』とか言われた訳ではありませんよ。 というか、そうなったら自分の幹をポッキリ折り曲げて強引に土下座をしてでも帰ってきてもらいますけど。
「私のいない間に、あんまり変なことやらかすんじゃないわよ?」
と言ってから出発したぺルルちゃんの姿は、まるで留守番をする幼い妹に注意をする姉のようでした。
おかしいですね? 私が皆のお姉ちゃんになるつもりだったのですが、思いの外ぺルルちゃんの姉力が強くて、私が妹みたいになってきました。
まあ、『身長30センチのお姉ちゃん』というのもちょっと萌えるワードに思えますし、三姉妹の長女の座はぺルルちゃんに譲りましょう。
ちくわちゃんは、不動の妹ポジションなので、自然に私が次女になりますね。
仲良し姉妹です!
さて、しっかり者の長女が留守の間は、次女の私が妹の面倒を見なくては!
時間は…… 時計がないので何とも言えませんが、多分ちくわちゃんが起きてくるまでは少し余裕があるはずですね。 ふむふむ、お目覚めのタイミングに合わせて果物を作っておきましょう。 ソイヤ!
はい、完成! 最近はミカンが多かったので、今日は桃にしておきました。
んー、なんか今日は調子が良いですね? 村の皆さん分も創っておいてあげましょうか。
ソイヤ! ソイヤ! と景気よく桃を量産します。
あー、桃といえば、あの日、倒れていたマッスルさんに桃をあげたのが、ここの皆さんと知り合うきっかけだったんですよねー。
そう言えば、あの時マッスルさんにあげた桃も、ちくわちゃんにあげた林檎ほどではないですけど、結構気合い入れて創ったんですよね。
あの時は栄養たっぷりの桃だから元気になりましたー、くらいに思ってましたが、
怪我がすぐ治ったという事は、もしかしてあれも結構なスーパーアイテムだったのかもしれませんね~。
……なんて事を考えながら桃を創っていたら……
あ、やっちゃいました。
一つだけですけど、マッスルさんにあげたのと同じ桃を作ってしまいました。
う~ん、これもスーパーアイテム疑惑があるんですが、どうしましょうか?
よりによってぺルルちゃんに、『やらかすんじゃないわよ?』って言われた直後にやらかしちゃいましたね~。
ぺルルちゃんの言葉が、芸人の言う、押すなよ? 押すなよ? みたいな意味で言ったならOKでしょうが、多分ぺルルちゃんはそう言うネタはやらないと思います。
つまり、あの言葉はガチなワケですねー。 うん。 コレ、怒られますかね?
問題の桃の取り扱いに悩んでいると、ちくわハウスで物音がしました。
あ、ちくわちゃんが起きましたか? 桃の問題は一度後回しにしておいて、まず朝の挨拶をする方が優先ですよねー。
パッカーン! と、ちくわハウスの窓が全開になり、そこから顔をヒョコッと覗かせたちくわちゃんが、私の方を見てニコニコ笑ってくれました。
その姿に後光が見える気がします! ありがたやー。
私は後光を背負ったちくわ大明神様に桃をお供えします。 なむー。
一瞬、スーパーな方の桃を渡しましょうかね? とも考えたんですけど、ちくわちゃんにはすでにハイパーな林檎を食べさせているので止めました。
問題ないとは思いますけど過剰なドーピングっぽくて体に悪そうですし。
ちくわちゃんは、一度私に飛び付いてから周りを見回しました。
きっとぺルルちゃんを探したんでしょうが、今日はいないと理解したようで、大人しく桃を食べ始めます。 今までも彼女がいない事があったので、たまに居なくなることをわかっているようです。
桃を食べ終わったちくわちゃんは、私の枝にたくさんの桃があるのを見て、私が村の皆さんにも配ろうとしているのに気づいたんでしょう。
「へhU9m¥る?」
何か言いながら村を指さし、その後自分が立っている足下を指さして首を傾げます。
言葉はわかりませんが、今の一連の動きは、『村のみんなをここに連れて来るの?』というジェスチャーだと思います。
私がワサワサと枝を振って返事をすると、ちくわちゃんが走って呼びに行きました。
皆さんを呼びつけるなんて偉そうですし、ちくわちゃんをパシりみたいに使うこともに抵抗があるので、本当だったら私が自分でお裾分けでーす。 って言って配って歩きたいのですが、歩くのと喋るのは未だに少しもできる気がしません。
他の能力は最初より器用に使えるようになったんですけどね~。
しばらく待っていると、ちくわちゃんを先頭にしてゾロゾロと…… あ~、やはり今回も村人全員来てるっポイですね~。 出席率が脅威の100%です。
果物を配るだけなので、代表で何人かが取りに来て、箱詰めして持って帰って貰う、とかしてくれてOKなんですけど、結局いつも授与式みたいに大げさな感じになってしまうんですよね~。
あ~、ほらまたデリバリーじいさんが出てきて司会進行を始めましたね。
……この方って、村が誇る名司会者とかなんでしょうか?
きちんと整列した皆さんに桃を蔦で手渡ししていきます。 ん? 蔦で渡したら手渡しじゃないですかね? 蔦渡し? ……まあいいです。 皆さん相変わらず果物1つに恭しい受け取り方ですけど、それはもう諦めてスルーです。
こう見ると、やっぱり子供は受け取ったらすぐ食べちゃう子がほとんどですね。 大人も食べる人は食べるんですが、大切そうに箱にしまったりする人もいます。
いや、所詮、果物ですから普通に食べてくださいよ。
リアクションに違いはありますが、皆さん喜んでくれて何よりですねー。
とか思いながら皆さんの反応を眺めていると、少し離れた所から、行商人さんの一団が羨ましそうに見ていました。
おや? 食べたいんですか? だったら遠慮しなくていいですよー。
その中に1人、ちょこちょこ村に来ている顔馴染みの行商人さんがいたので、その人になら伝わるかなー、と思って、蔦をクッイクッイと動かしてみました。
かもーん、かもーん。
顔馴染みの、ワイルド行商人さんは、驚いた顔をしながら、『オレかい?』って感じで自分を指さしています。 そうそう、貴方ですよー。 あ、周りの方々もどうぞどうぞ。
初めましての行商人さん3人にワイルド行商人さんを合わせた4人パーティーがやって来ました。
これがRPGなら、商人4人のパーティーってボス戦キツそうですね~。
なんか皆さん、やけにワクワクした表情です。 そして桃を配ると、皆さん大喜び。
そんなに桃が好きなら最初から並べば…… あっ! あ~、そういう事ですか!
大の男が行列に混じってまで、桃を貰うのが恥ずかしかったんですね?
これは、うん。 あれを思い出しますね。
私は、前世で見かけたあの光景…… かわいい系の喫茶店で、中年サラリーマンが恥ずかしそうにパフェを注文する姿を思い出して、ちょっとほっこりしました。
最後にワイルド行商人さんに桃を渡しているとき、視界のはじっこで、ちくわちゃんの頭の上に座るぺルルちゃんが見えました。 あ、帰って来たんですねー、
……あっ! そう言えば、ぺルルちゃんにバレる前に、例のスーパーな桃を処分しようとしていたのに、すっかり忘れてましたー!
……え~っと、うん。 今、ぺルルちゃんはちくわちゃんの方を見てます。
今のうちに処分しましょう。 私は例の桃をワイルド行商人さんに渡そうとしました。 ギョッと驚いた顔で遠慮するように手を振るワイルド行商人さん。
い、いいから受け取ってください! この桃がぺルルちゃんにバレたら、また呆れた目で見られるじゃないですか!! それはまずいです!
最近ぺルルちゃんに冷たい目で見られるのが、ちょっとだけ気持ち良くなって来たので、手遅れになる前に更正したいんです! 協力すると思って受け取ってください!
私は桃を強引にワイルド行商人さんのリュックに投入して、『さあ帰った帰った』と言わんばかりに蔦を振りました。 すみません! 失礼は承知の上です! 今度改めて謝罪しますので、ぺルルちゃんにバレないうちに離れてください!
怪訝な表情をしながらも、大人しく帰ってくれたワイルド行商人さん。
ごめんなさい、それと、ありがとうごいます。
「戻ってるわよ。 で、貴方はまたみんなに果物を配ってたの? 私にも貰える?」
ぺルルちゃんが話しかけてきました。 あの桃には気づかれなかったようですね。
……ギリちょんセーフです。
私は内心ドキドキしながら、ぺルルちゃんにも果物を創ります。 まるごとの桃は、ぺルルちゃんのサイズでは食べにくそうなので、スモモにしました。
「ありがとう! ディアモン様から貴方に依頼があるんだけど…… コレを食べてから話すわね」
そう言ってスモモにかぶり付くぺルルちゃん。 ……スモモとは言えぺルルちゃんから見たら大きいハズなんですけど、相変わらず良い食べっぷりです。
「んぐっ、ご馳走さま。 じゃあ仕事の話しをするわね? ほら、前にディアモン様が貴方を協力者って扱いにしたって言ったの覚えてる? 折角だから本当に仕事を手伝って貰うって話になってね、 ……よいしょ!」
そう言ってぺルルちゃんは、ウエストポーチから真っ黒なピンポン球みたいな物をとりだしました。 明らかにウエストポーチより大きいです。 これが小説によく出てくる収納魔法という物ですか? それともポーチがマジックアイテムなのでしょうか?
「これは、穢れ、とか邪気、とか…… 世界によって呼び名は違うけど、言ってしまえば悪い魔力よ。 あ、今は魔法で固めてあるから危険は無いけど。 貴方にこれを吸収してみて欲しいの」
自分で『悪い魔力』と言っておいて、それを吸収しろと言いますか!?
なっ……なかなかムチャを言いますね~?
「心配しないで。 精霊、特に植物系の精霊は、悪い魔力を吸収して、浄化してから外に戻す事ができるわ。 貴方にもその能力は備わってるハズよ。 それに今回持ってきたのは、濃度の薄めの物だから、失敗してもすぐに命がどうっていうような危険性は無いわよ。 そこまで危険な事を貴方にさせるわけないでしょ?」
ふむふむ、なるほど。 確かにぺルルちゃんが他人に危険な事をさせる事は無いとは思います。 ですけど、このお話は前提が間違ってませんか?
ぺルル・ワタシ・キ・タダノ・キ・セイレイ・チャイマンガナ
「はっ……はぁっ!? なに? 貴方、自分が普通の木だと思ってたの!? え? 嘘? それ、貴方の数々の戯言の中でも一番の戯言よ!?」
あれれ? 私、数々の戯言なんて言った記憶ありませんけど……?
と言うか、もしかして私は木じゃないんですか!? 今まで何度も頭の中で、
『どうもこんにちは、木です』って呟いていたのは嘘になっちゃいますか?
私は木ですか? 木じゃないんですか? 探し物は何ですか? 見つけにくい物ですか? 結局の所どうなんですか? パフェとサンデーの違いは何ですか?
ぺルル・バナナハ・オヤツニ・ハイルン・デスカ?
「え!? なんで今の流れでその質問!?」
そのあとしばらく話し合って落ち着きました。
ふう……少々動揺してしまいましたね。 ちくわちゃんも、心配そうに私の幹を撫でてくれています。 ご心配をおかけしました。
私が木であることは間違いないのですが、存在の格が上がって精霊化しているそうです。 ゲームで言えばレベルが上がってクラスチェンジしたようなものですね。
あと、パフェはフランスのバルフェというお菓子が元祖で、
サンデーはアメリカの日曜日限定のアイスクリームが元祖という説があるけど、現在の日本では明確に区別はしていないそうです。
バナナはそのままだとオヤツだけど切ってお弁当箱に入れてあればオヤツでは無いんじゃないか? とのこと。
ぺルルちゃんはなんでも答えてくれますねー。
特に、探し物が見つけにくい物か訊いた時の、
『見つけにくい物だから探すはめになったんじゃないの?』
と言う答えには目から鱗が落ちました。
私には目も鱗もありませんが。
「何か余計な時間が取られたけど…… 魔力の吸収は試してくれるんでしょ?」
色々な質問に答えて貰ったお礼の意味も含めて、私は協力することに決めました。
ダイレクトも吸えなくは無いですが、私の場合、土を経由した方が吸収しやすいので、例の魔力ピンポン球は私のすぐ手前、ちょうど村の皆さんが作ってくれた、あの祭壇のそばに埋めました。
でもって、足の裏からストローでタピオカを吸うイメージで、吸収ー!!
うーん? 普通に吸収できましたね? 強いて言えば、深夜にポテチを食べ過ぎた時の胃もたれに似た違和感はありますが、どうってことないですね?
「今度は、吸収した魔力を綺麗な物に作り替えるイメージで放出して。 できるだけ綺麗で純粋で清らかなイメージよ?」
綺麗…… 純粋…… 清らか……ですか。
私の頭には、当然ちくわちゃんとぺルルちゃんとイメージが浮かびました。
ちくわちゃんの黄金の糸のような髪とぺルルちゃんのピンクパールのような桃色混りの銀髪が織り上げられていくようなイメージが頭の中に広がって行きます。
解き放つタイミングは、直感で理解できました。
今だ! と感じた、その瞬間に、私は一気に魔力を放出しました。
カッ! と周囲が光輝き、次の瞬間、私の周りは花畑になっていました。
その花は、形は鈴蘭です。 でも、色は違いました。
艶やかな黄金色の葉や茎は金細工を、
桃色の混じった銀色に輝く小さな花はピンクパールを思わせます。
花そのものがアクセサリーのようでとても綺麗です。
でもきっと、その花が綺麗に思えるのは、
その花を彩るのが、私の大切な友達二人の色だからだと思います。
「sLよd2イ*らwt!!」
「なにコレ! すっごい綺麗!!」
ちくわちゃんとぺルルちゃんは大興奮で花畑に駆け寄ります。
金と真珠で彩られた花畑の中で笑う美少女と妖精。 まさに楽園の風景です。
デジカメかスマホがあれば、全ての容量をこの瞬間だけで消費しますね、絶対。
「綺麗なだけじゃなくて、魔力の浄化もされてるわ。 想像以上の結果よ」
ぺルルちゃんの力になれて何よりです。
私も笑顔ではしゃぐ二人が見れて嬉しいです。
……私の力はこのためにあるのかもしれませんね。
……私の進むべき道が見えました!
悪い魔力を浄化して、この世界中を美しい花畑で満たしましょう!
さあ、ぺルルちゃん! どんどん悪い魔力を持ってきてください!!
私の燃える使命感が冷めないうちに!
「なんか、やる気になってる所、悪いんだけど…… 同じ場所で浄化をし過ぎると、この一帯の魔力だけが過剰になるから、しばらくはやらないわよ?」
なんですと? (燃える使命感、終了のお知らせ)
前半に出たワイルド行商人は、商人ギルドのアウグストです。
次回は、そのアウグスト視点になります。