16話 楽しい女子会からの不穏な気配 前編
3章開始です。
どうもこんにちは、木です。
最近は、よその街からのお客さんも増えました。
賑やかなのは好きですし、村の経済的な意味でも外からのお客さんは重要なのですが、たまに物騒な感じのお客さんが混じっていて、治安に、ちょっぴり不安を感じます。
いえ、ある意味では楽しいんですよ? モヒカンで背中に刺青を入れてトゲトゲの棍棒を持ってる人とか、獣の頭蓋骨で出来た兜をかぶって武器は鉄の爪とか、そういうキャラの濃い方々もいるので、遠目に見てるぶんには面白いと思います。
ですが、村の治安や景観としては少しアレですよね~。 だってほら、上半身裸の大男さんとかいますし。 私個人としては裸芸人とかも嫌いではありませんけど、ちくわちゃんの10メートル以内には入って欲しくないです。
まあ、いくら心配したところで私に出来るのは見守ることだけなんですけどね。
だから見守るくらいはしっかりやりましょうか!
ざわめけ! 私のF P S!!
実は最近になって、やっと村の皆さんの反応と知らない人の反応を見分ける事ができるようになりましたよ。 まあ、まだ個別にそれが誰かなのか? まで見分けれるのはちくわちゃんとぺルルちゃんだけですけどね。
ふむふむ、知らない反応は…… 今日は二人だけですね。 多分、行商人さんと護衛の方ですかね?
でも、こんな小さな村に個人で来る行商人さんが護衛なんて雇ったら赤字になりそうな気がしますけど、この世界は護衛の仕事は、よほど低賃金なんでしょうか?
……あっ! もしや、半裸だったり骨で装備を作ったりしている人たちは、お金が無いから節約でやっているんでしょうか!?
でしたら、見てて面白いファッションだなんて思っていたのは、とても失礼な事だったかもしれません…… うう、自己嫌悪です。
「ただいま。 あれ? なんで微妙に萎れてるの?」
あ、ぺルルちゃんです。 ちょっと機嫌が良さそうですね。
ぺルル・キゲン・Good ・デート・タノシイ・ダッタ?
「デ、デートじゃないわよ!? あの子が買い物に行くみたいだったから、私も一緒に行っただけよ。 ほら、売り物とか見てみたかったし…… それだけよ?」
こんな事を言ってますけど、最近はちくわちゃんが出かけるときに肩や頭に座ったままついて行く事も多いので、一緒にいる事が楽しいんだと思います。 ちくわちゃんも笑ってますし、仲がいいのは良いことですねー。
その後は、ちくわちゃんが買ってきたお菓子を食べながらお話して過ごしました。
ちくわちゃんとぺルルちゃんはお互いに言葉が通じていませんし、私は二人の間でワサワサしているだけでしたが、それでも私にとっては楽しい女子会でした。
明日もそんな日が続くと思っていました…… な~んていうのは、やっぱりフラグなんでしょうね~。
案の定、翌日いつも通りにF P S を使った私は、その反応を見て嫌な予感を感じました。
もうすぐ村に近づきますね。 ……10人以上ですか、友好的なキャラバンとかなら歓迎するんですけど、それにしては移動速度が速い気がします。
物騒な展開にならなければいいんですが……。
ーーーーー ムスカリ視点
皆、この土地での生活にも慣れて来たようだ。
畑の作物はまだ充分な量ではないが、周囲の林で採れる食料と合わせれば飢えをしのぐには足りる。 それに、あまり甘え過ぎるのも良くないが、精霊様が果物を皆に配ってくださる事もある。
精霊様の実は何種類かあるが、どれも旨いうえに、皮や芯などの部分を畑に埋めると作物の質が明らかに良くなるし、育ちも早くなるのだ。
生活用品も、この辺りで手に入る素材で大抵は作れるし、足りない物は行商人から買えばいい。
……行商人と言えばあのアウグストとか言う商人ギルドの男の紹介で来る行商人は皆、誠実そうな者ばかりで、村に足りない物をしっかり調査し、次に来る行商人がそれを持ってきてくれるあたり商人の間で連携も取れているようだ。
何故こんな小さな村に良くしてくれるのかと訊ねると、精霊様に信頼してもらうための初期投資だと思えば安いもの、と言って笑っていた。
食料の面でも商人との繋がりの面でも、ここまで精霊様に力を貸してもらっておいて、肝心の我々自身が村を守れませんでは済まされない。 もし、戦いになるなら命を懸けてでも戦いぬくまでだ。
俺はいつでも剣を抜ける準備をしたまま、正面の連中に視線を固定する。
目の前にいる人相の悪い一団は、ギルド所属の冒険者だと名乗った。
……なるほど、確かに戦い慣れた雰囲気を感じる。 特に先頭にいる、目付きの悪い男は相当な腕だろう。
「だから言ってるだろ? オレたちは手配中の魔物がこの辺りにいるって聞いて探しに来たんだ。 そのためにしばらくこの村で宿を借りたいって言ってるだけだぜ?」
「それはわかったけど、この村には行商人向けの小さい宿が1つしかないんだ。13人も泊めれる場所は無いから、悪いけど自分たちでキャンプでもしてくれないかな? 炊事場くらいは貸しても良いからさ」
戦いの苦手なヒースに前に出てもらうのは悪いと思うが、俺は上手く交渉する自信が無い。
だから今のように、ヒースに交渉を任せて俺がその後ろで目を光らせているわけだ。
「だったら村人の家を貸してくれてもいいんだぜ? 代わりにオレたちがこの辺りの魔物を倒して安全にしてやるんだから安いものだろ?」
「うーん、この村も自分たちの身を守るくらいの戦力はあるつもりだから、悪いけどその条件じゃあ魅力が足りないよ」
ヒースが『戦力』と言う言葉を口に出した瞬間に、相手の視線が俺に向いた。
男はしばらく俺を値踏みするように見ていたが、チッ、と舌打ちしてから口を開いた。
「戦力ねぇ…… ただの強がりじゃあ無さそうだな。 いいだろう、今回はこっちが退いてやるよ。
おい! お前ら! 宿は無いってよ、外にテントを張るぞ!」
男の仲間たちはぞろぞろと村から出ていったが、その場に最後まで残っていたその男は、去り際に俺に話しかけてきた。
「オレの名はロドルフォ。 Bランクチーム『魔喰いの顎』のリーダーだ。 ……あんたの名を聞かせてくれねえか?」
「いいだろう。 俺はムスカリ。 若草の民の戦士だ」
「ムスカリか、覚えておくぜ」
そう言ってロドルフォと名乗った男は、村から出ていった。
「ふう~、どうなるかと思ったけど、いきなり暴れるほどの無法者じゃなくてよかったよ」
「交渉を任せて悪かったな、ヒース」
「まあ適材適所さ、かまわないよ。 ……でも、あの人たちもあと何日かはこの辺りに居るんだろうし、今後またトラブルにならないか不安はあるよね」
ヒースの表情は晴れない。 ううむ、確かに不安ではあるな、俺もしばらくは見回りに力を入れよう。
ーーーーー『魔喰いの顎』リーダー ロドルフォ視点
ムスカリか…… アイツは強いな。 少なくともそこらの魔物から村1つ守る位の腕はあるだろうな。
あんな奴が居れば村人も、わざわざオレ達に金を払ってまで荒事を依頼しないだろう。
チッ! 当てが外れちまったか。 周りの魔物を倒してやると言えば、金か、最低でも宿と飯くらいは喜んで差し出すと見てたんだがな……。
もし、これで目当ての奴らが二匹とも居ないようなら赤字決定だ。
今日はさっさとテントを張って、寝ちまうか。 明日は朝一番から魔物探しだ。
ケルベロスかディラハンの、どっちか片方でも見つけねえとな。
2日目
今日は朝から辺りの捜索だ。 チッ! 念のために近場から探し始めたが、大した魔物はいねぇみたいだ。
やはり村の周りはムスカリが片付けちまったみてえだな…… どうせタカれねえなら村のそばに居る理由もねえし、キャンプは別の場所に移すか?
3日目
今日は林を中心に見て回った。 ゴブリンを何匹か見かけた。
どっかに小さな集落くらいは作ってんのかもしれねえが、ギルドからもあの村からも依頼は受けてねえし、わざわざ討伐はしないでいいな。
オレ達にボランティアの趣味は無い。
だが、ケルベロスやディラハンみたいな大物が居るなら、ゴブリンごときがウロウロしてるはずはねえ。 こっちの方角は外れだな。
4日目
オーガを倒した。 奴らは強いわりに売れる素材は角だけだし、肉も食えねえ。 普段は、依頼を受けてないなら狙って倒すこともないが、今回は下手すると赤字かもしれねえから、売れる素材なら角だけでも持って帰らねえとな。
一週間が過ぎた。
チッ! 今回は外れだな、これだけ探しても痕跡1つ無いってことは、この辺りにはもう目当ての奴らは居ないんだろう。
このままここで小物を狩ってても大した稼ぎにはならねえし、探索に出てるブルーノのパーティーが戻ったら、一度帰って仕切り直しだな。
その時、楽しげな声が聞こえてきた。 ブルーノが戻ったか。 だが、やけに機嫌が良さそうだ、何か見つけたのか?
「リーダー! 今回は良い報告があるぜ!」
ブルーノがニヤニヤ笑いながらそんな事を言った。
なんだよ、報告があるならさっさと言えよ。
「見てくれよ、ワイバーンの卵だ、運良く親が出かけている巣を見つけて盗ってきたんだ。 もちろん中身も生きてるから高く売れるぜ!」
ブルーノは背負った皮袋から卵を取り出した。 ほう! 確かにワイバーンの卵だ。
ワイバーンは、卵から育てれば人間の言うことを聞くようになる。 ギルドのお偉いさんや貴族にも、大金を出しても欲しがるヤツは幾らでもいる。
中から魔力も感じるし、中身もちゃんと生きてるみてえだな。
……あん? 魔力を感じるだと? おい、まさか……。
「おい! ブルーノ! まさかてめえ、卵に魔力隠蔽のポーションを塗ってねえのか!? このバカ野郎!! 親に追跡されるだろうが!!」
卵を奪われた親は激怒して、魔力を辿ってどこまでも追ってくる。 だから、卵を持ってくるときは卵の魔力を隠して持ち運ぶのが常識だ。
「す……すまねえ! うっかりしてた! 今すぐやる!」
焦ったブルーノは、卵に隠蔽のポーションをドバドバとかけ始めた。
クソッ! こいつ、どこまでドジなんだ!!
「ここが村のそばだって忘れたのか!! 卵の魔力が突然消えて、そこに村があったらワイバーンは村人が卵を奪って殺したと思うだろうが!!」
ブルーノは、青い顔をして、すまねぇすまねぇと繰り返していたが、魔物を村に押し付けたなんてギルドにバレたら、ライセンスは一発で剥奪だ。 もし、村が壊滅したりすれば死罪もあり得る。 ブルーノの汚ねえハゲ頭をペコペコ下げられたくらいで許せる話じゃねえ。
「……今回の遠征は大物退治を想定して準備している。 空を飛ぶのは厄介だが、勝てない相手じゃねえか……」
どうせ、もう撤収するつもりだったんだ、道具の消耗を覚悟して最後に一稼ぎするか。 ワイバーンの素材と卵を持って帰れば、稼ぎとしては上等だ。
仲間達に迎撃準備を指示しようとした所で、ふと気がついた。
「……待てよ? 考えたらそこまで焦らなくても、オレ達が卵を持っている事は誰も知らねえよな? 何かあっても簡単にはバレねえな。
よし、ムスカリが居るなら、村があっさり全滅する事はねえだろうし、一度ワイバーンを村にぶつけてから助けに入れば村人からも謝礼が取れるな」
ムスカリが1人で倒しちまう可能性も考えたが、ワイバーンは空を飛ぶから、強力な飛び道具か攻撃魔法で打ち落としてからじゃなくては倒すのは難しい。
ムスカリはどう見ても生粋の戦士タイプだ、弓や魔法は得意では無いだろう。
おそらく時間稼ぎがやっとのはずだ。
「お前ら! 戦闘の準備をしてから、少し離れた目立たない場所に待機だ! 村人が焦った頃に倒して恩を売るぞ。
言うまでもねえが、オレ達が卵を持ってる事は誰にも知られるなよ!」
信じてるぜ? ムスカリ。 お前が時間を稼いでくれるってな。
時間が経って村人が焦れば焦るほど、オレ達の救援の価値がつり上がるんだ。
オレ達のために頑張って時間を稼いでくれよ。
オレはニヤけそうになる口元を隠すこともせず、キャンプを移動させる準備を始めた。
長くなったので、前・中・後の3話に分けます。 次回は中編です。