番外編 if ・もしミミズ転生を選んでいたら?
もし主人公がミミズに転生していたら? というifストーリーです。
閑話と本編の世界は共通ですが、この話は完全に独立したパラレルワールド的な話なので、区別するために閑話ではなく番外編というタイトルにしました。
プロローグ (超ダイジェスト)
ディアえもん「ゴメン、君、死んじゃった。 転生させるから許して」
主人公「マジですか!? う~ん、でもまあいいや。OKです」
ディアえもん「あ、でも君、人間に向いてないから、木かミミズかフンコロガシの3択でヨロシク」
主人公「じゃあミミズで」
ディアえもん「え!? 良いの? まあ本人が良いならそれで決定ね。 はい、行ってらっしゃい」
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どうもこんにちは、ミミズです。
土、美味しいですね~。
いや、現代の日本から自然溢れるファンタジー世界に来たので、空気が美味しいですね~って言おうと思ったんですよ。 で、実際に美味しかったんですけど、
折角ミミズになったんなら土を食べなくては。 いつ食べるの? 今でしょ!?
って頭の中で、謎の先生が熱弁していたので、試しにパクッと一口いってみたら、これがまあ美味しいこと。
予想外の美味しさに、
「う ま い ぞぉー!!」
って叫んだら、口からビームが出てビックリしました。
ミミズってビーム出るんですね、学校では教えてくれませんでした。
近くで草をモシャモシャしていた山羊さんも、
『ちょっ!? お前何してんねん!? 危ないやん!?』
みたいな顔して逃げて行きました。 山羊さん、驚かせてすみません。
結局この日は転生して土を食べてビームで周囲をなぎ払っただけで終わりました。
……最後の一つは、なかなかの事件かも知れませんが。
そして、それから数日は、ウネウネして、土を食べて、またウネウネすると言う、実にミミズらしい生活を送っていたのですが、ある朝、その平穏が破られました。
むむむ……、 グホぁ!? 誰ですか!? 上で暴れてるのは!?
私は基本的に寝る時は土に潜って寝ています。
静かで薄暗くて涼しくて、ミミズにとっては住みやすい環境です。
ですが、今朝は、ちょうど私が埋まってる真上で暴れてる方がいます。
潜水艦の潜望鏡のように、ひょっこりと頭を出してみると……。
ぶぉん! って感じの音と共に剣が横切りました。 危ないです!
とっさの反応でフニャッと伏せたのでギリギリ避けることができましたが、危うく首と胴が別れるところでしたよ!?
ミミズの首と胴の境界線がどこかは知りませんが。
何をするんです!? 首が取れたら死んじゃうのを知らないんですか!?
って言おうと思って犯人を見ると、首無し騎士さんでした。 乗っている馬さんも首無しです。
なんと!? 首が取れても死なない方がいらっしゃるとは盲点でした……。
これでは、『首が取れたら死ぬ』というクレームをつけるワケにはいきません。
とりあえず土の中に引っ込んでアイデアをこねこねします。
ふむむ……、 よし。
ここは、首がなくても平気なんて凄いですねー、でもそれは貴方が特別な存在だからですよー。 みたいな感じに少し持ち上げてから、
普通の生き物にとって頭はたった1つで、代えが利かない大切な部分ですよー、
って感じで諭す方向で行きましょうか。 よし、決定です!
私が再びひょっこり頭を出すと、正面にはでっかいワンちゃんがいました。
……首は3つありました。
意表を突かれて動きを止めた私を、ワンちゃんのパンチ、略してワンパンチが襲いましたが、とっさにズボっと土の中に引っ込んで避けました。
なんと!? 首が3つある方がいらっしゃるとは盲点でした……。
これでは『たった1つで代えが利かないんですよ』と諭すワケにはいきません。
うむむ…… どういう角度から交渉に入るべき『ズシィーン!!』やはり、ここは平和『メリメリィ!!』それが『ゴゴァァ!』と言うも『シャキィン!』
………うぬぬ。
私は穴から這い出してワンちゃんと騎士さんの前へ姿を晒しました。
やかましくて考えがまとまらないじゃないですかー!!
私は、しならせた体を鞭のように叩きつけ、ばちこーん! と騎士さんを、乗っていた馬さんごとパワフルにドツキました。
ぶっ飛んだ騎士さんが、ワンちゃんの体にパイルダーオン!
ふらふらしながらもワンちゃんは立ち上がり、私に向けて炎を吐きました。
そんな物騒なモノを吐いたら…… 危ないじゃないですかー!
私はビームを吐いて迎撃しました。 私のミミズビームは炎を押し返してワンちゃんを呑み込みます。『キャイン』と一声鳴いてぶっ飛び、煙をあげてピクピクするワンちゃん。
その後、今度は騎士さんが立ち上がりました。 そして馬さんに跨がり、私の側面に突っ込んで剣を突き刺して来ました。
剣が私に突き刺さりますが、体をつつむ粘液のお陰か、致命的な傷ではありません。
痛いじゃないですか! 暴力はいけませんよー!?
私は体を下から上に振り上げて、アッパーのように騎士さんを打ち上げました。
そして、地面に叩きつけられた騎士さんと馬さんは、そのままピクピク痙攣し始めます。
ふう…… やはり争いとは空しいものですね……。
……そして数日後、私の両側には、2つの影がありました。
『主、この先に多数の気配があります』
「ディラっさん、報告ご苦労様です。 ではケルべぇ。 先に行って調べてきて下さい」
『調べずとも匂いで判る。 オークとエルフが争っているようだ』
……私と2つの影は、そんなやり取りをしていました。
……はい。 ワンちゃんと騎士さんが私の部下になっちゃいました。
しかも、突然会話が出来るようになりましたよ。 いえ、言葉は解らないままなんですが、心で繋がった感じです。
ゲームで、別の種族のモンスターが華麗な連係攻撃とか使って来た時、どうやって打ち合わせしてるんでしょう? とか思ってたんですが…… なるほど、モンスターには仲間とコミュニケーションを取る特殊スキルがあったんですね。
『それで、どうするのですか? 主よ』
「じゃあエルフを助けましょう。 行きますよ、ディラっさん! ケルべぇ!
作戦です! あなた方がアレやコレやしている間に私が何かをします!」
『まるで理解出来ませんが、了解です!』
結論から言います。 楽勝でした。
オーク? ポーク? どっちでしたっけ? まあどっちでもいいですけど、それの集団にディラっさんとケルべぇが突っ込んで掻き回して、その隙に私が戦場のど真ん中に、土の中からコンニチハ。
丁度そこにボスっぽいデカイのがいたので、土の中に引きずり込んでからギュっとハグしてあげると泡を噴きながらギブアップしてくれました。
暗がりで女の子から泡を噴くほど熱烈にハグされるなんてラッキーな豚さんだと思いませんか?
え? 誰が女の子かって? 私ですよ私! 中身は、ピチピチ女子高生ですよ? 外側はでかいミミズですが、何事も中身が大切だと思いませんか?
ディラっさんやケルべぇにそう訊ねると、
『女子高生……というのが何かは知りませんが、主は確かにピチピチしていると思います、雨の日の次の朝などは特に』
『うむ、俺もそう思うぞ。 主の動く姿はまさにピチピチという言葉が似合うな』
っと、同意してくれました。 私が女の子という点に触れられていないのは気のせいでしょう。 多分、当たり前すぎてわざわざ口にしないんですね。
戦いが終わってしばらくするとエルフたちがやって来ました。
あれ? エルフだと聞いていましたが、耳の尖った人は数人しかいませんね? 更にその中で金髪の美人さんとなると…… あ、1人だけ居ました、美人というより美少女か美幼女という年齢ですが。
実は私は、せっかく異世界に来たならエルフと会ってみたいと思っていたんです。
なのでこんな、いかにもエルフっぽい美少女に会えて嬉しいですねー。
手を振ってみようと思いましたが、今の私に手はありませんから、とりあえずクネクネ踊ってみました。
美少女エルフちゃんは、体をビクッとさせて目をまんまるにして驚いています。
むむむっ……。 ファーストコンタクトはあまり好印象ではなさそうですかね?
私が、良いコミュニケーション方法はないものか……っと考えていると、ディラっさんが話しかけて来ました。
『主、この者達が部下として働くから庇護下に入れてほしいと言っていますが、如何いたしますか?』
「あれ? ディラッさんはエルフさんと会話出来るんですか?」
『はい。 私に限らず、人に近い見た目をした魔物には人語を話せる者もそれなりの数は居ます』
「そうですか。 会話ができるなら、きっと仲良くなれますよね? では仲間として歓迎しますよー」
『主よ! こっちもだ!』
「今度はケルべぇですか。 どうしましたか?」
『オーク達も部下になりたいと言っているぞ。 どうする? 主』
「もうエルフさんとケンカしないと誓えるなら歓迎しますよー。 友達は多いほうがいいですし」
私は、両方の代表者に出てきてもらっていました。
ポークの代表者は私のハグで昇天した、あの純情な豚さんでした。
キングだと言っていたので、ポークキングのポーキンさんと名付けましょう。
エルフの代表者はマッスルな人でした。 一番偉い人は別にいるそうですが、戦いに関してはこのマッスルさんが指揮しているらしいので、この場では代表者になってもらいました。
そして、この場で代表者に仲直りの握手をしてもらって、これからよろしく~ って流れになって一件落着! やっぱりみんな仲良しが1番ですよねー!
こうして私たちのグループは百人くらいに膨れ上がりました。 いろんな種族がいるので、単位が『人』でいいかは微妙ですけど、まあ些細は事です。
魔物というのも思ったより話が通じますね~?
折角なので、もっといろんな種族と仲良くしてみましょう!!
あ、それと1つ言い忘れてました。
今朝、目が覚めたら頭が3つになってました。 ケルべぇとお揃いですね~。
ーーーーー冒険者ギルド本部・会議室にて
今、この場には、様々な顔ぶれが並んでいた。
傷だらけの顔に黄金の眼帯をした、筋肉質な大男。
白いヒゲを腹の辺りまで伸ばした老人。
ニコニコしながらも、眼に宿る冷酷さを隠そうともしていない青年。
大きな帽子を深く被っていて、口元しか見えない女。
その他にもいるが、全員に共通しているのは、どの人物もその道では多くの尊敬、または恐怖を集めている大物だと言うことだ。
当然、全員が少なからず命のやり取りにも慣れている。 いや、むしろ、命のやり取りこそが本業とも言える者すらいるのだ。
……だが、その勇敢であるはずのメンバーは、ネウロナ王国に訪れつつある未曾有の危機に皆、顔を強張らせていた。
「魔物の軍勢…… しかも、高度に統率されていて、自分たちで街のような物まで作っているだと?」
「人の街を奪ったんじゃなくて、1から作っただと!? しかも農業などで、ある程度の自給自足を可能にしている様子まであると言うのか?」
「戦力はディラハンとケルベロスに、キングが指揮するオーク軍団に…… ハーフエルフ!? 何でエルフが魔物側に混じってんだよ!?」
「最近は、更にゴブリンの集落とオーガ数体やワイバーンも指揮下に加えているらしい。 魔物がこれ程の軍勢を作り、しかも秩序を保っているなど聞いたことが無いぞ?」
「……いや、1つだけ知っている。 皆も聞いたことがあるはずだ」
その言葉に、皆が息を飲む。 ……頭に浮かんだ答えを、誰も認めたくないからだ。
……だが、1人が、その答えを口に出した。
「ま、まさか……魔王軍? では、この軍勢の中に魔王が!?」
「群れの中心辺りで、3つ首のでかいミミズを見たという目撃情報がある。 あるいは、そいつが……!」
こうして人間たちは巨大なミミズの魔王が現れたと言うことを知り、ある者は恐怖し、またある者は闘志を燃やした。
このまま人類と魔王の争いが始まってしまうのか?
それとも両者は、互いの手を取り合う事ができるのか?
あるいは、全く別の未来へと進むのか……
その答えは、まだ、誰も知らない。
という事で、ミミズになった場合は魔王ルートです。
これはこれで面白い話になるかもしれません。
次回はフンコロガシを選んだ場合のifを予定しています。