15話 ちくわゲシュタルトからの新たなるフラグの香り
2章の最終話です。 次への繋ぎ回なので短めです。
どうもこんにちは、木です。
先日、デリバリーじいさんが、知らないワイルド系中年男性をデリバリーして来て驚きました。
何事かと思いましたが、ワイルド中年さんが一生懸命に私に話しかけてきたので、多分、私に興味を持った観光客とかだと思います。
実は私は『話しかけると動くファンキーな木』 とか言う名目で観光名所として売り出されているのかも知れないと思って、期待を裏切らないようにワサワサしてました。
ワイルド中年さんも私の空前絶後のワサワサぶりにテンションが上がって徐々に情熱的なしゃべり方になってきていたので、喉が乾くのでは? と思ってミカンを差し上げると、凄く喜んでくれたので、おもてなしは成功したようですね。
その後もたまに顔を出しては話しかけてくれます。
ふっふっふ……。 私の枝を振る姿のファンになりましたか?
それにしても、この村にも外の人が来るようになったんですねー。
最初の頃は、この村も…… というか、最初は村すらなくて私だけでしたね。
……あ~、そうでしたよね。 私だけ、だったんですよね。
それが最近はもう、皆さんがそばに居るのが当たり前の感覚になってましたね。
今は村の皆さんも居ますし、なによりちくわちゃんとぺルルちゃんの二人の美少女を侍らせてウッハウハ生活ですから。 私が男だったら鼻血ものの生活ですね。
私は女な上に鼻も血もありませんけど。
私も今の生活は、なかなか充実していると思っているのですけど、村の皆さんの生活環境も充実してきたようです。
まず、初めて村の畑の作物が収穫出来ました! トマトとニンジンでした。
どっちも室内プランターで育てる野菜くらいのちっちゃいサイズですが、初めての作物だと思うと、むしろその小ささも可愛く感じます。
まだ、サラダの彩りとしてチョイ足しするくらいの使い道しか無さそうですけど、いずれは村の皆さんがお腹いっぱいになるくらいの収穫量になると信じています。
あと、村には木彫り細工が得意な方がいるらしくて、その作品が行商人さんとの取引されているのを見ました。
他にもぽっちゃり係長さんが調合した干したハーブも売れているようです。
ただ、あれはお茶なのかアロマなのか調味料なのか……、見た目では何かわからないのが謎ですけど、アレな感じのハーブの詰め合わせでは無い……と信じています。
なんにせよ、一方的に買うだけでは足元を見られてしまうかも知れませんから、取引できる産業があるのは良いことです。 私の実を売ってもいいんですが、どの程度の品質にすれば、出回っても騒ぎにならないで済むのか判断ができないので、今はやめておきます。
あ、ちくわちゃんがちくわハウスでちくわちゃんブランドのちくわを販売したら名物になりませんか?
ちくわがゲシュタルト崩壊を起こしそうですが、異世界転生には生産チートが付き物ですし、この世界の食文化にちくわで革命を!
ですが、ちくわの作り方ってどんなでしたっけ? 確か魚肉を叩いて…… 叩いて……?
……叩いて、かぶって、じゃんけんポン?
うん、おそらくその方法でちくわが完成する事は、未来永劫無いでしょう。
この計画は一時凍結です。
あ、そのちくわちゃんですが、最近は魔法の訓練を頑張っているようです。
デリバリーじいさんやセクシーさんが持って来た本を読みながら不思議パワーをこねこねしてます。 というか、この不思議パワーって、もう魔力って事で確定ですかね?
ぺルルちゃんは、ちくわちゃんを見て、
「ヤバい…… あれはヤバいわ! あの子の魔力も、練習してる魔法もヤバいわよ!?」
と、伝説のリアクション芸人のようにヤバいヤバいと連呼していました。
ぺルルちゃんは、一度ミートソースにされかけたので、まだちくわちゃんを警戒してるようですが、
あれは不幸な行き違いだっただけで、本来ちくわちゃんは優しい良い子なので怖がらなくても、ヤバい魔法とやらを他人様にブッ放す事は無いでしょう。
だから私もぺルルちゃんの不安を取り除こうと思って、
チクワ・ヤサシイ・チクワ・アンゼン・アンシン・コウヒンシツ
と安全性のアピールをしたんですが、ぺルルちゃんは呆れ顔で、
「恋は盲目って言うわよね。 似たような心情なのかしら? ……流石に恋では無いだろうけど」
などと呟いていました。
ですが、そうやって一歩引いたクールな立場にいるふりをしているぺルルちゃんですか、少しずつちくわちゃんと仲良くなっている様子が見え隠れしています。
ちくわちゃんがお菓子を持って来るときは、絶対にぺルルちゃんの分も持って来ますし、ぺルルちゃんからも、ちくわハウスに遊びに行ったりしているようです。
一度、寝ているちくわちゃんのお腹の上に重なってぺルルちゃんが寝ていた光景を見たときは、あまりの可愛さにニヤニヤと胸キュンとロマンティックが止まらない気分でした。
このままもっと仲良くなって、私も含めた三人で、キャッキャウフフと笑って楽しく生活する未来は、すぐそこまで近づいている事でしょう。
もうすぐきっと、何一つ危険の無い、平和で平凡で穏やかな…… そんな毎日が訪れるに決まっています! (断言)
えっ?……フラグ?
いえいえ、私は頭の中で思ってるだけで、口に出して言ってませんからセーフです。
せっ…… セーフ…… ですよね?……
ーーーーー 数日前 とある街の酒場にて……
時刻は夕暮れ時を少々過ぎた頃。
一番混雑する時間帯には少し早いが、すでに店内は賑わい始めており、中には早くも酒に飲まれた酔っ払いも居るようだ。
そんな店内に、気後れする様子も見せずに1人の若い女が入ってきて、店の奥の一画…… 特に厳つい客が集まっているその場所に近づき、そこで酒を飲む男の隣に座った。
「目撃情報がありました。 とは言え2ヶ月ほど前のものですので、参考になるかは……」
そう言いながら女は、一度も視線を合わせる事もしないまま、隣の男にメモの切れ端を渡す。
「へっ、今まで情報はまるで無かったんだ。 噂程度の情報でも、あるだけ上々さ」
そう言って男は飲みかけの安酒を一気に飲み干すと、後ろのテーブルに座る仲間たちに声をかける。
「……お前ら、愉快な情報だぜ。 東のAランク冒険者が倒し損ねたディラハンと、西の魔術師が倒し損ねたケルベロスが、両方とも同じ方向に逃げたらしいぜ? どちらか片方でも倒せば、しばらく酒代に困る事は無くなる。 ……次の目的地は決まったな」
ガラの悪そうな厳つい顔をニヤリと歪めた男の手の中でくしゃりと握りしめられたメモには、こう書かれていた。
対象A・対象B共に目撃証言が複数。 ネウロナ王国領・最北の名も無い丘。 現在、小さな村があるという情報も有り。
へー、少し前にディラハンとケルベロスの目撃情報があったらしいですよ?
ん? どこかで聞いたようなメンツですね?
これで2章は終わりです。 ちょっとした番外編をはさんでから3章を開始します。
とりあえず明日は番外編を投稿します。