13話 ぺルルの帰還からの大袈裟なお裾分け
最初の少しだけ三人称・その後ぺルル視点で後半は主人公視点です。
多くの妖精は転移魔法の適性を持っている。
その適性は成長と共に研かれていき、一人前と呼ばれる頃には、
ある者は仕事のために。 またある者は自分の娯楽のために。
様々な世界を転移魔法で渡り歩いていた。
だが、当然妖精の魔力にも個人差はあり、自分の体1つで自由に世界間を渡れる者はそう多くは無い。
そのため妖精界には、転移を補助するターミナルと呼ばれる転移魔法陣が設置されている。
これには安全性や転移精度の向上などの様々な有用な効果があるのだが、そのなかでも、特によく利用されている効果に、ターミナルへの帰還に限り魔力をほぼ消費しないというものがある。
そのためほとんどの妖精は、帰還時にはターミナルに転移するのだ。
今日もまた、ターミナルには帰還を意味する青い光が輝いた。
ーーーーー 妖精 ぺルル視点
「ただいま、と言っても誰もいないか。 一応グルナが管理人のハズなんだけど、またサボりね」
まあ大半の妖精はサボり癖があるから仕方ないわね、これは個人の性格じゃなくて種族の性質だから無理に矯正できるものじゃないし。
でも、私も今は雑談している暇はないから、知り合いに会わないのは好都合かもね。
私はターミナルに魔力を流して、宮殿の入り口まで転移した。
(自力でも転移できる距離だけど、ある物は使わないと損だしね)
光が収まったとたん、目の前に広がる白い色…… 宮殿の壁の色だ。
「転移成功! まあ失敗した事ないけどね」
私は宮殿入り口に設置された受付に目をやると、ちゃんとあの子の姿があった。
あの子はやる気は無いけど職場放棄はしないのよね。
伝令妖精コライユ。 妖精族でも屈指の念話の使い手で、この子に頼めば、念話ですぐにディアモン様に取り次いでくれる。 ちなみにこの子には性別が無いらしい。
「コライユ。 ディアモン様に取り次いで、ぺルルだって言えば会わせてくれると思うから」
「んー、わかったー」
そう言って明後日の方向を見つめてボーっとするコライユ。 念話をしてるんだと思うけど、ちょっと不気味ね……。
「あってくれるって。 おうせつしつにてんいしていいよー」
「わかったわ、ありがと」
宮殿の中では転移は封じられているけど、許可が出れば応接室の手前には転移が許される。
……歩いても遠くは無いんだけど、転移に慣れちゃうと歩くのが面倒になってダメね。
「ぺルルだな? 入ってくれ」
転移の魔力で気づいたのか、私が入り口に立つと同時にディアモン様が許可を出してくれた。
「はい、失礼します」
部屋に入ると、ディアモン様自ら私の椅子と紅茶を用意してくれた。
なにも大妖精と呼ばれる人が、自ら紅茶まで用意しなくていいのに…… 忙しい忙しいって言いうクセに自分で動かないと落ち着かない仕事中毒みたいな所があるのよね。
「で、彼女についての報告だろう? 早速聞かせてもらえるだろうか?」
私は紅茶を一口飲んでから、布に包んだそれを見せた。
むき出しで持ってくるのも違うかと思って、途中で包んだものだ。
「彼女は、これを簡単に創り出しました」
「これはっ!? ……そうか、彼女はそこまで規格外だったか……」
例の光るリンゴを見て頭を抱えるディアモン様。 やっぱりそういう反応になるわよね。
「まさか、魔力の循環を管理する大妖精が転生させた者が、魔力の循環を乱す原因を創り出す力を持つとは…… 笑えんな」
「循環を乱す原因……ですか?」
「そうだろう? 彼女が土地の魔力を吸い上げてその実を創っているなら、その土地の魔力枯渇に繋がる。 あるいは彼女が自力のみでその実を創れると言うなら、彼女個人で世界の魔力の総量を増やす事が可能と言う事になる。 ……どちらにせよ、正常な状態とは言えない」
えっ……? なに? じゃあ彼女は妖精族の敵って扱いになるの? 違うよね!?
「かっ、彼女は、もうその実を創らないはずです! ちょっと変な子だけど素直で善良な性格だし! だから!」
「安心しろ、彼女の素質の高さを見誤った私の責任だ。 彼女を罰するつもりは無いさ」
その言葉にほっとした私だけど、ディアモン様の表情が険しい事に気づいた。
……やっぱり問題はあるって事よね。
「彼女に関してはオベロンは味方だろうが、他の大妖精たちは何か文句を言ってくるだろうな……。 そうだ! 彼女の立場を現地の協力者と言う事にしよう」
バン! っと机を叩いて立ち上がるディアモン様。
「彼女には何かの時に協力してくれるように頼んでおいてくれ、私が依頼した協力者という名目にすれば、少なくとも彼女を野放しにしているという批判は避けられそうだ」
「わかりました。 では私はそろそろ……」
「そうだった、これを彼女に渡してくれ。 オベロンからだ」
小さな赤い宝石だった。 オベロン様から?
「枝でも幹でもいいから埋め込むと吸収されるようにできているらしい。 いざという時に彼女を守ってくれると言っていた。 ……オベロンは余程彼女を気に入ったらしいな」
「彼女を守ってくれる……か。 はい! 必ず渡しておきます!」
さて、じゃあ帰りましょうか。 ……ははっ! こっちが故郷なのにあっちに帰るだなんて、私も随分あのヘンテコな木の事を気に入っちゃたみたいね。
ーーーーー木(主人公)視点
どうもこんにちは、木です。
ぺルルちゃんが里帰りした後も、ちくわちゃんはしばらく眠っていたんですが、
昨日終わらなかったちくわハウスの修理が再開されて、トンテンカンと音が響いて来ると、流石に目を覚ましたようですね。 おはようございまーす。
私は寝惚けてぽや~っとしているちくわちゃんにミカンをあげました。
ぺルルちゃんが入ってた小さなハンモックがミカンのネットに見えてしまってから、
なんか頭にミカンのイメージが焼き付いてしまって、つい創っちゃいました。
最初、不思議そうに見ていたちくわちゃんですが、満面の笑顔を浮かべると、大きく口を開けてそのまま……って! ちょーっとストップです!
私は蔓を伸ばして皮を剥いてあげました。 う~ん、我ながら蔓の扱いが巧くなりましたね。
それにしても、ミカンの皮を剥くことを知らないって事は、この辺りにはミカンは無いのかも知れませんね。 まあ、単にこの辺りでは皮ごと食べるのがナウいのかもしれませんが。
あ、ちくわちゃんがミカンを食べ終わりました。 美味しそうに食べてくれましたね、おかわり入りますか? 2つ? 3つ? どれくらい創りましょう?
私がミカンの量産計画を進行させていると、下から視線を感じます。
確認すると、ちくわハウスの修理を手伝っていた、村の子ども達が羨ましそうに見ていました。
うわあ! 大失敗です! 村の皆さんも大切な隣人だと思っていたはずなのに、
最近は、ちくわちゃんとぺルルちゃんばかり見てました!
折角ぺルルちゃんのお陰で、私の実も普通に創れば安全だとわかったんですから、村の皆さんにも食べてもらいましょう!
ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! えんやこ~らせ~のドッコイせ~!
ポコポコとミカンを量産して、ある程度余裕がありそうな数まで増えると、次はそれを配ります。
と言ってもちくわハウスの修理に来ているのは、大人と子どもを合わせても9人だけです。 この人達だけにあげるのも不公平ですし、皆さんにも取りに来てもらう事にしましょうか。
ちくわちゃんの肩をツンツンしてから、ミカンを見せて、次に村の中心の方向を指し示します。
ちくわちゃんは、それで理解してくれたみたいですね。 そこにいた皆さんに何か指示すると、皆さんは何か叫びながら村へ走って行って、やがて……
おおぅ!? 皆さん、一斉に来ましたね~。 50人くらいの数が一斉に迫って来ると大迫力です。
はーい、並んでくださいよー、って、言うまでもなくデリバリーじいさんが先頭に立って指示を出し始めたので、きちんと列は整理されました。 ですけどね?
……これ、ただのミカンですよ?
王から聖剣を与えられた騎士みたいに、片膝をついて頭を下げて両手で受け取る…… なんて大袈裟な事をされると、申し訳なく感じるんですけど?
「ただいま! ……って、これはどういう状況よ!?」
あっ、ぺルルちゃん、お帰りなさーい。 えーと、どういう状況か、訊かれると……。
蔓をうにょうにょ動かしてミカンを配る私の横には、秘書のような雰囲気で待機するちくわちゃん。
行列を整理するデリバリーじいさんと恭しくミカンを受け取る人々。
受け取った人は私に一礼してからミカンを食べて、グルメ漫画みたいなオーバーリアクション。 うーん、なかなかにカオス。
ご近所さんにミカンをお裾分け、 くらいの気持ちだったんですけどね?
いや~、なんか大袈裟になりましたね~。
「まあ、普通の果物なら大丈夫って言ったのも、美味しいから創ってくれって言ったのも私だから、文句は言わないんだけどね?
でも今朝に許可したら、もう村人全員に配ってるって…… 行動早すぎない? 木って、のんびりしてるイメージだったんだけど」
では、折角なので、植物は受け身、という固定観念を覆す、アクティブな行動派植物を目指してみる事にしましょうか。
あ、皆さん食べ終わりましたね。 皆さん横一例に並んで祈るように胸の前手を組んで一礼してから解散しました。 いえ、そう言うのはもう結構ですってば。
「貴方、敬われてるわねー、完全に守り神か何かに思われてるわね。 中身は本当にヘンテコでへっぽこなのにね?」
はっはっはっ、返す言葉もありませんね~。
私はもう1つミカンを創り出してぺルルちゃんに渡しました。
ヘンテコでへっぽこな木に構ってくれる親切な妖精さんへのプレゼントですよ。
「あら? 気が利くわね? ありがとう」
自分の頭より大きいミカンを器用に剥いて食べるぺルルちゃん。
うんうん、こうやって何か食べながら友達と雑談をするような毎日っていいですね。 私は、こういう日々を望んでいるのです。
なにも、事ある毎に大事に発展とかしなくていいんですよ。
「あ、オレンジはほとんどの世界にあるけど、ミカンは確か地球にしか無いわ。
この世界では新種扱いだから、出回ったら地味に大事になるかも?」
なんですと!?
なんとか毎日投稿を維持できています。 次回も20時投稿で行けると思います。