9話 お宅拝見からの宿命のライバル
日常回なので、とくに重要なイベントは起こりません。
どうもこんにちは、木です。
ちくわちゃんとのドキドキ同棲生活一日目です!
でも、意外と思ったほどドキドキしてませんね~? と思いましたが、考えてみれば私には心臓が無いのでドキドキしようもありませんでしたね。 テヘッ☆
とりあえずドキドキの代わりにワサワサしておきますか。
ワサワサ
よし、これでOKですね! 良い一日が始められそうです。
やっぱり今日、メインで語るべき物は、ちくわちゃんの家でしょう。
ぶっちゃけ数時間くらいで建ててたんで強度とかの不安もありますけど、皆さんも考え無しでは無いでしょうし、どうにかなるのでしょう。
本当はどんな物か確かめる意味でも、ちくわちゃんの家…… ちくわハウスと呼びましょうか?
そのちくわハウスにお邪魔してみたいのですが、先に日課を終わらせましょう。
私は楽しみは後に取っておくタイプなんです。 ケーキを食べる時はイチゴを先に食べる方なんですよ。
え? それなら逆じゃないかって?
いえ、私はイチゴよりスポンジの方が好きなんで、間違ってないですよ。
まあ一番好きなのは、剥がしたフィルム部分についたクリームですけど。
と言う事で、遠いあの日に舐め回したクリームに思いを馳せながら……
ときめけ! 私のF P S!
うん、今日は特に問題は無さそうです。 と言っても村の皆さんの人数を正式に把握してないので、1人くらい増えたり減ったりしても気づけませんけど。
なので気づいていないだけで、座敷わらしが混じっていたりするかも知れません。
あ、この村は座敷がありませんね? ログハウスとゲルが主な建築物ですから座敷わらしは出ようがありませんか。
ゲルわらし……なら出るかも知れませんけど。
まあ、居るか居ないかわからないゲルわらしよりも、今は、ちくわわらし……じゃなかった、 ちくわちゃんの様子を確認しましょう。
さっきのF P Sで、動いているのは見えたので起きているはずです。
ヨガ~っと枝を少し伸ばしてから…… うん、これくらいで届きますね、あとは程よく加減して枝を振れば…… とんとん、おはようございまーす♪
私はちくわハウスの窓をノックしました。
視界を飛ばせば中を覗くことも出来ますけど、着替えやトイレの最中だったらマズイじゃないですか。
ほら、それで、キャー! 樹木さんのエッチ! とか言って殴られたりすれば笑い話になりますけど、視界を飛ばして覗く場合は一方的に気付かれる事もなく覗きまくる事ができます。 それは陰湿過ぎて笑えません。
なのでちゃんとノックして、ちくわちゃんの方から開けて貰います。
ちくわハウスからパタパタ足音が聞こえて来て、窓がちょっとだけ開きました。
数センチだけ空いた隙間から片目だけ覗いて、外を確認するちくわちゃんの姿が愛らしいですね~。
あ、いい忘れましたけど、窓といってもガラス窓じゃなくて、開けないと外が見えない引き戸みたいな窓です。 なのでその隙間から覗くちくわちゃんが、家政婦が見ちゃう感じのビジュアルになってます。
ちくわちゃんはノックしているのが私だと気づくと、一瞬驚いた顔をした後に、パァッと花が咲いたような笑顔を見せてくれました。
目がぁ! 目がぁぁ!! って言いたくなるほど眩しい笑顔ですねー。
まあ私に目はありませんけど。
ちくわちゃんが窓を全開にしてくれたんで、ちょっとお宅拝見です。
オタクじゃなくてお宅ですよ? オタク拝見なら、鏡を見れば済む話ですので。
ふむふむ、広さは前世の私の家のリビングくらいの広さです。
あ、私の家のリビングがわかりませんか? なんというか……ほどよい広さです。
さて、広さについては伝わったと思うので、置いてある物について……
と言いたいんですけど、ワラ束にシーツを掛けたアルプスの少女式のベッドがある以外は、まだ運び込んだだけで荷ほどきもしてないようです。
そういえば、昨日引っ越して来たばかりなので仕方ないですね。
あっ! そうです! 私が手伝ってあげましょう!
何を隠そう前世の私は、整理整頓は得意中の得意だといいな、と日頃から考えていました!
収納の匠と呼ばれた夢も見たことがありますよ?
根拠と実績はありませんが、自信だけは売るほどあります。
さあ、私にお任せあれ!
まずは、ボンジョルノ……ボンジョルノ……っと呟いて枝をアルデンテにします。
ほわぁ!? いきなり失敗しました!
枝を蔓にしようとしたら蔦になっちゃいました!?
……?…… 別に動かす分には不都合はありませんね? じゃあOKです。
私は蔦をうにょーんと伸ばして荷物をツンツンと突っつきます。
これを片付けるの手伝いますよー、という気持ちを伝えたいんですけど……伝わります?
すると、ちくわちゃんは顔を赤くしてパタパタと挙動不審になりました。
……よくわからないですけど、伝わってないっぽいです?
それではもう一度、荷物ツンツンを再開します。
ほあたたたぁ! 樹木百烈拳!
すると、私の突きが秘孔に直撃したらしく、ひでぶ! っとばかりに荷物が崩れ落ちました。
……やってしまいました。
しかも、被害は崩れた事だけではありません。
ひっくり返った箱からは、数枚のカボチャパンツが『ふっ、私の出番かい?』って感じで登場しました。 いえ、出番じゃないです。
この世界の下着はカボチャパンツが主流だという発見はありましたが、真っ赤な顔でカボチャパンツを拾い集めるちくわちゃんには、純粋に申し訳ない気持ちです。
……というか、私は下着の入った箱をツンツンしていたんですか……
無意識の変態行為に罪悪感が膨らみます。 いえ、もちろん意識した上の変態行為なら良いとは言いませんよ?。
結局、手伝うつもりが、盛大なパンツ発表会をしただけでした。
お……おかしいですね? もう少し活躍できるはずだったんですけど。
うう……何とかこの後の活躍で挽回しましょう。
今の時間は……11時くらいですかね? まあ、太陽の位置からの予想ですから確実とは言えませんけど。
そろそろご飯ですかね?
この村の常識なのか、世界の常識なのかは知りませんけど、1日2食で昼食が無いんですが、その分朝食が遅いみたいです。 ブランチというやつですね。
そう言えば、前世でブランチをブランコと読んだことがありましたねー。
雑誌の表紙に優雅なマダムがブランチを楽しむ、とか書いてあったのを、優雅なマダムがブランコを楽しむ、と読んで、優雅なマダムも時には童心に帰りたくなる事もあるんですねー、とか思ったものです。
ふむむ? 何の話でしたっけ? ああ、ご飯の時間だと言う話でしたね。
そう言う訳で、ご飯の時間なのでちくわちゃんが火を起こしているのは、ご飯の支度だと思うのですが…… 上手くいってないみたいです。
この村の皆さんは、漬け物石みたいな物を魔法で熱くして、こねこねしたパン生地みたいな物をその石に貼り付けて焼いているんですけど、ちくわちゃんは使った魔法が強すぎるようで、石が真っ赤に焼けています。
そこで止めればいいのに、ちくわちゃんは赤く焼けた石を一度、あれ? って顔で見た後、普通に生地を貼り付けて焦がしちゃってます。
涙目になっているちくわちゃんも可愛いんですけれど、ご飯抜きは可哀想です。
私が果物をあげても良いんですけど前の光るリンゴの件から、自分の創る実の安全性に少々不安があるので、今は止めておこうと思います。
と言う事で、普通に料理を手伝いましょう!
何を隠そう前世の私は、プリンと醤油からウニを作り出すほどの料理上手でした。
パンをトーストしてジャムを塗った事だってありますよ!
全身から家庭的なオーラが出ていると面白いな、と思っていた私の実力が火を吹きますよ?
さあ、私にお任せあれ!
まずは、プリンと醤油を…… おや? プリンと醤油はどこですか?
あれれ? 食パンの買い置きも、トースターすらありません!!
どういう事ですか!? ここは異世界ですか!?
……あ、異世界ですか、そうですか。
私が無力感でしんなり萎れていると、ちくわハウスに来客がありました。
少しメタボでニコニコした…… なんか、営業部の係長とかが似合いそうな人です。
そう言えばこの人、ちくわちゃんとかマッスルさんの近くでよく見ましたねー? 仲良しグループなんでしょうか?
係長さんは、持っていたカゴをちくわちゃんに手渡しました。
中は…… おお、食べ物です! なんとタイムリーな!
……この人、デキますね? 敏腕です、まさか特命係長!?
ぽっちゃり係長が十歳くらいの美少女に食べ物を貢いでいる姿には、危険な香りを感じないでもありませんけど、今はちくわちゃんのご飯が確保できたことを喜びましょう。
あれ? ちくわちゃんがパタパタ走って来ますけど、食べないんですか?
ちくわちゃんは、持っていた食べ物のほとんどを私の前の祭壇に置きました。
えぇ!? いやいや、ちくわちゃんが食べて下さいよ、私は土から栄養を吸えますし!
でも、ちくわちゃんはニコニコしながらずっと私を見ています。 くっ……これは、私が食べるまで自分も食べないつもりですね?
うぬぬ…… わかりました、ゴチになります。
私が食べ物…… ハーブを混ぜたナンみたいな物を吸収したのを見たちくわちゃんは、ニコっと笑って、その後でやっと自分の分を食べ始めます。
くっ…… 反則です! 全ての行動が可愛いです! 流石私の妹です!
ちくわちゃんは、誰にもあげませんよ!?
ちくわちゃんが、食べ終わった食器とカゴを係長さんに返すと、係長さんがちくわちゃんの頭を優しくポンポンしました。 むむっ!? あの動き……手慣れてますね!?
多分、ちくわちゃんが私以外で一番なついている相手は、あの係長さんですね。
……係長さん、貴方をライバルと認めましょう…… ですが、負けませんよ!?
何やら困ったような笑顔をする係長さんですが、その笑顔からは、
『ふぅ、やれやれ、君程度が僕に勝てるとでも?』
と言う、王者の余裕が透けて見えます。 うむむ……手強い!
早くちくわちゃんともっと仲良しになれるように頑張らないと……!
私は、宿命のライバルの存在に、改めて闘志を燃やすのでした。
ストック切れました。 でも、話の流れは考えてあるので、もう少し毎日投稿でいけると思います。