プロローグ2 事情説明からの人間失格
ほぼ会話、というか念話?ばかりの回です。 プロローグはこれで終わりです。
はい? 私、死んじゃったんですか?
まあ、確かに気が遠くなった記憶はあるんですが……何が起きたんでしょう?
「ある幼い妖精が、転移魔法で君をここに連れて来ようとしたようだ。だが、世界間を越えるような転移は負担が大きい。ましてこの妖精界は妖精や精霊や神族といった精神生命体に属する者しか入ることが出来ないのだ。……君の肉体は転移と同時に消滅してしまった。正直な話、魂が無事だっただけでも奇跡に近いくらいだ」
消滅……ですか……。 その幼い妖精って、あの踊っていた子の事ですよね! あの子は何で私を連れて来たんでしょうか?
「君が飴玉をくれたことが嬉しかったと言っていた。 多分、悪気も無く友達を家に招くくらいの軽い気持ちで連れて来たのだろうが……
あの子は、ここに人間が来れない事を知らなかった」
そこまで言った後、イケメン妖精さんは、「いや……」と首を振り、続けました。
「私達、大人が教えていなかったのだ。 異世界まで行くような上位の転移魔法を、まさか幼い子供が使えると思わなかった。 だから誰もあの子に転移魔法の危険性を教えなかったのだ。 ……あの子が天才と言われていたのを知っていたのにな」
良かった、やっぱりあの子に悪意は無かったんですね。 あんな無邪気そうな可愛い子が、実は悪い子だった! なんて言うのは嫌ですから。
「……君は、自分が死んでしまったのに、あの子の事ばかり気にするのだな。 怒りはないのか? 罵詈雑言を吐かれても受け入れるぞ? 君にはその権利がある」
う~ん、確かに普通ならイケメン妖精さんの言う通り罵詈雑言コースだと思うんですけど……被害者になった実感がないからですかね? これが、殴られたり斬られたりして死んだなら怒ると思いますけど、妖精さんの魔法で事故死したって言われても、突拍子も無すぎて怒りも湧かないです。
で、あの子へのペナルティはあるんですか? 私としては、できれば軽くしてあげて欲しいんですけど。
「もともと私も含めた大人たちの考えの甘さが原因だ。 被害者である君が許すなら、あの子を過剰に罰する気はないが……許してくれるのか?」
イケメン妖精さんは申し訳なさそうな顔ですが、さっき言った通り私はあまり怒ってないですし、何より、小さな子が罰を受けるのは良い気はしないので許します。
あっ……でも、保護者たちは反省して下さいね。
「感謝する。 ……そして、もう一度謝罪させてくれ。 本当に申し訳ない事をした」
そんなに謝らなくてももういいです。 それより、このあと私はどうなるんですか?
「本来ならこのまま冥界へ送られるが、今回は私達妖精族のミスだ。 責任を取って私が君の転生をサポートしよう」
転生をサポート? 次の人生で優遇して貰えるって事ですか?
「その通りだ。 だが、私は神では無いから転生先を自由に選ばせてやるほどの力はない。 君の適性に合っている転生候補の中から選ぶ事になるが、まあ、それでもある程度の自由度はあるはずだ」
そうですか。 う~ん、次も日本人になるのが一番無難だと思うんですけど、全く別の環境に生まれるのも、それはそれで興味ありますね。
「……すまない、言い忘れていた。 今の君の魂は無理な転移で消耗しているから妖精界からあまり遠い世界までは行けないのだ。 悪いがここから一番近い別の世界に転生してもらう事になる」
あ~、流行りの異世界転生というやつですか。ワクワクはしますけど、でも大抵そう言う世界って魔物がいたり戦争してたりして危険ってパターンな気がしますが……。
「確かに魔物はいるし戦争している国もあるが、魔法薬や回復魔法のおかげで地球では助からない病気や怪我を治療できる点を考えれば、簡単に地球とどちらが危険とは決めつけらないだろう。 そもそもこの話を断って冥界に行っても、いずれ転生する時は来る。 その時も安全な場所に生まれる保証は無いぞ?」
ふむむ……一理ありますね。 それに、回復魔法とかがある世界ですか、それは興味ありますね。 そう言う事ならイケメン妖精さんのサポートを受けて転生するコースが得でしょう。
では、お言葉に甘えて転生ってことでお願いします。
「わかった、任せるがいい。 ……では君の魂の適性を見せてもらおう」
そう言ったイケメン妖精さんが、こちらに手のひらを向けると…… うっ……なんか心がザワザワして変な感じです。
「ん? ……う……うむ…… こ、これはっ……」
おや? イケメン妖精さんの様子が?
「あ~……君の適性を見せてもらった。 転生先の候補も……あれだ、大体わかった……と言うか……わかってしまった、と言うか、うん」
……わ~い、変な汗をかきながら、居たたまれない感じの顔で目を反らしつつ、奥歯に物が挟まったような話し方での結果発表ですか~……。
嫌な予感が限界突破で、一周回って逆にワクワクして来ました。 やったね♪
話しにくそうにしていたイケメン妖精さんは、コホン、と一度咳払いをしてから口を開きました。
「まず、言わなくてはいけない事だが……君に人間の適性は全く無い。
……正直な話、今回の命で人間だった事が不思議なくらいだ」
衝撃の事実!! 私、魂のレベルで人間失格ですか!?
「それで……適性の高い種族だが、天才的に適性が高い種族が3つある。 これはとてもとても素晴らしい事だぞ。 うむ!」
大げさな身振りで褒めながらも、視線はこっちに向けようとしないイケメン妖精さん。
お~い、本当に素晴らしい事なら、こっちを向いて褒めてくれませんかね?
で? その3つはどんな種族なんですか?
「1つ目は……木だ。 君の才能なら聖王樹になれるだろう。 世界樹には及ばないが、樹木としては最高位に近いものだ。 真面目に努力すれば、いずれ精霊に進化できるかも知れない」
一発目から木ですか!? 真面目に努力すれば精霊に……とか言われても、木の姿で一体なにをどう努力すればいいと? 「2つ目は……ミミズだ。 君の才能ならアビスワームになれるだろう。
下位のドラゴンくらいなら絞め殺せる巨大で強力な大ミミズだ。 真面目に努力すれば、いずれ三つ首の変異種に進化できるかも知れない」
木の次はミミズの魔物ですか!? ただでさえドラゴンを絞め殺すミミズが更に三つ首に進化って、それは国から大規模な討伐部隊を出されるやつですよね?
「3つ目は……フンコロガシだ。 君の才能なら太陽虫になれるだろう。
後ろ足で灼熱の火球を転がす最高位のフンコロガシだ。 真面目に努力すれば足が120本ある変異種に進化できるかも知れない」
……灼熱の火球を転がす時点でフンコロガシとは呼ばないのでは?
あと、足120本に進化って、普通にキモいです。
「え~っと、ど……どれに転生するのかね?」
気まずそうにしながらも手続きを進めるイケメン妖精さん。
このラインナップを知ってもそのまま転生させようとするあたりがマジイケメン。
それにしても……
そうですか~、私が高い適性を持っているのは、木とミミズとフンコロガシですか~…… ……大人しくこのまま死んでいいですか?
「待て待て! 気持ちは理解できるが、それは少し勿体ない。 私が転生のサポートをすれば、今の君の記憶を残して置けるし、魂に溜まった魔力を消費しないで次に持ち越せるぞ。 転生先で更に魔力を溜めれば、その次の転生では地球に帰る事も上位の存在に転生する事もできるはずだ」
言ってる事が携帯の機種変更時のサービスみたいな感じになってますが、果たして人間の記憶を持って木やミミズやフンコロガシになる事がサービスになるんでしょうか?
むしろマッハで精神ダメージが溜まる未来が見えるんですが……。
「そこは安心してくれ。 人間の記憶があっても魂が転生先の種族に適応していくはず。
多少の違和感くらいはあるかもしれないが、精神に大きな負担が行く事は無い」
なるほど、でもミミズやフンコロガシに魂が適応していくのは、なんというか……仮にも若い乙女として激しくノーサンキューなので、選ぶとしたら木ですかね?
態度を見る限りイケメン妖精さんも私が転生しないとマズイ事情がありそうなので……ほら、今、ギクッて顔しましたね? もういいですよ、納得……とは言えませんが、妥協は出来たので木に転生することにします。
「……すまん、助かる。 では、送るぞ。 ……良い木生を」
良い木生? ……木生って、木の生活ってことですかね? 微妙な響きですね~。
なんかもう少しオシャレな言い回しはありませんかね?
ああ、そうです。
ウッディライフ!
なんてどうでしょうか?
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辺りを激しくも優しい光が包む。
この瞬間、日本の女子高生、毛利 鈴は一本の木として異世界に転生した。
ずっと毎日投稿を続けられる自信は無いですが、とりあえず明日の夜は投稿できます。