8話 赤穂浪士の討ち入りからの共同生活開始
どうもこんにちは、木です。
ちくわちゃんは凄いスピードでトイレに行ったきり、戻って来ませんでした。
あの日から3日か4日くらい経ったんですけど、ちくわちゃんの姿は見えません。
もしかして、まだトイレにこもっているんでしょうか? うう、申し訳ないです。
マッスルさんが食べた時はちゃんと元気になったので、食べれる物になってるんだと思ってたんですが、あれはマッスルさんの胃袋が特別にマッスルだったというだけで、私の実は普通の人が食べたらお腹を壊すようなブツだったんでしょうかね?
うむむ、これから私の実は、あまり気軽に配らない方が良さそうですね。
ちくわちゃんのお腹の健康と今後の繁栄を願いつつ。
さあ、今日も元気に行ってみましょう。
輝け! 私のF P S!!
反応あり! その数は、23……29……34……40……
バカな! まだ増えるだと!?……って戦闘力ごっこはこの辺りにしておきましょう。
……んー、この人数って、もしかして村の皆さんが全員で向かってきてませんか?
しっかりと隊列を組んで歩いていて、まるで赤穂浪士の討ち入りみたいですね~。
………ん?
え!? 私、討ち入られてますか!?
もしかして、ちくわちゃんに変な実を食べさせたお礼参りに来ましたか!?
え~っと、もしかして伐採とかしちゃう感じですか?
ワサワサ、私悪い木じゃないよ? っとかアピールすれば見逃してくれますかね?
幹の部分はちょこっとしか動かないので、土下座するのは難しいですね、とか考えている内に皆さんが近くまで来ました。
先頭に居るのは白いローブを着たデリバリーじいさんです。
……この人は、ポークの頭を持ってきた印象が強くて、少しだけ恐いです。
いえ、大切な隣人とは思っているんですけどね?
そして、その次の列にいるのは、ちくわちゃんです。
お腹の調子は治ったようで、何よりです。 ……ですが、その状況はいったい?
なんか丸太を組んだような、シンプルなお神輿っぽい物に乗っていて、その周りを杖とか楽器? とかを持った人たちが護衛するみたいな陣形で囲んでいます。
な、何事ですか?
ちくわちゃん自身もちょっと雰囲気が違いますねー?
緑、というか若草色をした……修道服……でしたっけ? シスターが着ているような、あの服です。 あれとワンピースの中間みたいな物を着ていて、木彫りとかドングリとかで出来たアクセサリーをたくさんぶら下げています。
あれ? うっすらとメイクもしてますか? 今日のちくわちゃんは、ちょっぴり大人のレディ風味ですねー。
でも、あれですねー、金髪で色白の北欧系美少女で、そのうえ魔法が使えて耳の形が尖っているちくわちゃんが、若草色の服に木彫りのアクセサリーなんかをしていると、まるでエルフみたいに見えますねー。
………あれ? ちくわちゃんって、もしかして本当にエルフですか!?
……まあ、確かにファンタジーな世界ならエルフがいてもおかしくないですよね。
まさか『私が異世界に行ったら会ってみたい存在ベスト5』の内の一人にもうすでに会っていたとは気づきませんでしたよ。
ちなみに残り4つは、
筋肉ムキムキで眼帯をつけた、元・Sランク冒険者だったギルドマスター。
ビキニアーマーを装備した女戦士。(一人称はアタイで、あだ名は姉御)
語尾に、『なのニャ』をつけて喋るネコミミ獣人。(50歳 男)
魔王四天王で一番格下、四天王である事が不思議なくらいの小物と言われてる人。
の4人です。 共感してくれる人もいると思いますが、どうでしょう?
「uP3xQヤて*5」
あ、色々と考え事をしている間にデリバリーじいさんが一生懸命に喋っていました。
これは申し訳ない事をしましたね。 言葉がわからないとは言え、相手が話している以上はちゃんと耳を傾けるべきでした。 まあ、私に耳はありませんけど。
とりあえず枝を振って、話を聞いてますよー、ってアピールしておきます。
ワッサワッサ
私のボディランゲージを見て、うんうん、って感じで頷くデリバリーじいさん。
自分でもこれがコミュニケーションとして成り立っているか不安なんですけど、本人が嬉しそうにしているから、きっとこれでいいのでしょう。
さて、ほかの皆さんの様子も確認しておきましょうか。
ローブみたいな服装で、杖とか楽器をもってる人が多いです。
表情も穏やかですし、武器とか、そういう危険な物を持ってる人はいませんね。
最初はちくわちゃんがお腹を壊した件で、お礼参りに来たのかと思ったんですけど、どうやらそう言う感じでは無さそうです。
物騒な要件じゃなさそうで良かったですね~、って安心したあたりで、楽器の演奏が始まりました。
北欧系の民族音楽を荒削りにしたような曲で、私はなかなか嫌いじゃないですね。
……そして、曲に合わせてデリバリーじいさんが恭しい感じで前にでて来ました。
うぅ、あの人が出てきた時点でちょっと不安が……
そのデリバリーじいさんがマッドな笑顔で何かを指示すると、ちくわちゃんがお神輿から下ろされて、私の正面にある祭壇の前に連れてこられます。
これは……雲行きが怪しくなって来ましたか?
状況を整理しましょうか。
村人たちがローブ姿で杖を掲げたり音楽を演奏したりする、と言うのは、なんとなく儀式っぽいですね。
で、多分、この儀式を指揮しているのはデリバリーじいさんですよね?
でもって、気合いを入れて着飾ったちくわちゃん。(おそらく、エルフ)が祭壇の前に連れてこられました。
さらに、不本意ながら、この村ではなにやら私はゴッド的な何かだと思われているっぽいですよね?
それらの要素を混ぜ混ぜして整理し直すと……
神の前の祭壇に、着飾ったエルフの美少女を連れてきて、マッドな笑顔な人が主催で儀式をすると言うことですか~……
あっ! 分かりました! つまり、生け贄ですね? ……って、えええぇ!!?
いやいやいや! そう言うのはノーサンキューですってば!?
なんとか身ぶり手振りで儀式の中止をお願いしようとしましたが……そこで、ふと、ある可能性が頭に浮かび、心配になりました。
私が生け贄を受け取らず儀式が失敗に終わったりした場合、ちくわちゃんが責任を負うことになって罰を受ける事にならないか? という心配です。
いえいえ、私は皆さんが理不尽な事をするような人たちだとは思ってませんよ?
ただ、前世で、柔道部の山崎君が……そのですね? エルフの美少女と言う存在は、なにかとイヤーンなお仕置きを受ける運命にある、と言っていたのを思い出しまして。
それで少々不安になっちゃったんですよね。
う~ん、どうするべきでしょうかね?
儀式を止めるかどうか悩んでいると、演奏している曲が変わりました。
よく言えば勇ましい、悪く言えば物騒な印象の……RPGのボス戦みたいな曲です。
そしてデリバリーじいさんが笑顔で、持っていた杖の先に炎を生み出しました。
……私の脳裏にフラッシュバックする、ポークの丸焼きの映像……
まさか! ちくわちゃんを焼きちくわにする気ですか!?
もう悩んでいる時間はなさそうです。 よし、作戦は決まりました!
一度受け取ってから、日を改めて解放する方向で行きましょう。……名付けて、
『はぁ? 解放しましたけどなにか? 貰った物をどう扱っても自由ですよね?』 作戦です!
と言うことでミッションスタート! 焼きちくわが完成しちゃう前に受け取ってしまいましょう!
まだ練習段階で完璧ではありませんが、新スキルのお披露目と行きましょう。
乾燥パスタを茹であげるイメージで枝の先を、細く! 柔らかく!
ただし、柔らかすぎても弱くなるので、芯を残してアルデンテを目指します!
今日から私もイタリア人!! 明日には貴方もイタリア人!!
頭の中で、マンマミーヤ……マンマミーヤ……と数回呟くと、枝も丁度良い感じの固さになって、蔓草っぽくなりました。 普通、木の枝から蔓草は生えないですね~、ってツッコミが頭をチラつくせいか、他の特技より成功率が低いんですが、今回は一発で成功しました。
……とはいえ本番はこれからです。
と言うことで……GOです!
「もeZ3+ナ……!!?」
何か喋ってる最中でしたけど失礼しまーす。
蔓草状にした枝をニョロニョロと動かして、ちくわちゃんを捕獲します。
……蔓に絡まって宙吊りになる美少女エルフ…… これはビジュアル的にちょっとアレなので、力を入れてググッとちくわちゃんを引っ張り上げて、枝に座らせます。
ちくわちゃんは、目をこぼれ落ちそうなほど大きく開いて固まっていました。
……あ、ビックリさせちゃいましたか?
焦っていたので深く考えずにやっちゃいましたけど、今のって、捕獲から逆バンジーですから、そりゃあ怖いに決まってますよね。
お~い、ちくわちゃ~ん、正気に戻って下さ~い、と枝を振ろうとしたんですけど、その枝にちくわちゃんが座っているので、枝をふりふりする訳にもいきません。
うむむ…… あ、それじゃあ、こんなのはどうでしょうか?
ちくわちゃんの座ってるあたりに不思議パワーを送り込んで…… ソイヤ!
成功しました! ちくわちゃんの居る枝に、ぽぽぽぽん、と花が咲き誇ってその一画だけ花畑のようになりました。
すると、村の皆さんから歓声があがりました。 えぇ!? あなた方が先ですか!?
喜んで欲しかった本命は、きょとんとしていましたが、自分の周囲を見渡して、自分が花畑に埋まっている事に気づいたんでしょうか? 目を潤ませながら、満面の笑みを……おうふ!!
花畑の中心に座った金髪美少女が目を潤ませながらの満面の笑み!!
恐ろしい破壊力です! もう少しで、新しい扉を開きそうでした!
他の皆さんも、ちくわちゃんの可愛さに撃沈されたんでしょうか? まるでアイドルのコンサートみたいな歓声が飛び交っています。
それに、楽器の演奏も明るい曲調に変わりました。
うむむ? 何か物語のハッピーエンドのシーンみたいになってますけど……
あれ? これは生け贄の儀式とか、そう言うダークな場面じゃなかったんですか? いつの間にか、お祭りムードに変わってますよ? 私はお祭りムードは好きですけど、現状では流石にノリノリにはなれませんよ?
正直、状況がまるでわかりません! 説明プリーズ!!
うむむ、やはりそろそろ本格的に言葉を聞き取れるようにならないとダメですね…… 皆さんの行動が謎過ぎます。
あ~、ほらまた謎が深まりましたね。 数人が歌を歌いながら建築を始めました。
今は家を建てるような流れじゃなかったと思いますよ?
まあ皆さんが笑顔で楽しそうにしてるんで、これでいいんですかねー?
やがて私のすぐ側に木造の小屋が完成すると荷物が運びこまれて行き、そして最後にちくわちゃんが入って行きました。
なるほど、この小屋はちくわちゃんの家でしたか。 確かに私が身元を引き受けた形になるなら、私の所に引っ越して来るのは当然と言えば当然ですね。
でも、生け贄を受け取るのは、身元引き受けに含まれるんでしょうか?
いえ、そもそも本当に生け贄だったかどうかも未確認なんですけどね。
なんにせよ、これからちくわちゃんと一緒に暮らすことになったようですね。
実際に同じ家の中で暮らしているわけじゃあありませんが、枝を伸ばせば届く距離なので、まあ、ほとんど一緒に生活しているようなものです。
前世で妹が欲しいと思った事もありましたし、これからの生活が楽しみですね~。
ちくわちゃん、これからよろしくお願いしますね。
主人公は、やっとちくわちゃんがエルフだと気づきました。
ただ、まだ村には何人か耳の尖った人がいるのに、その人たちがエルフだとは気づいてません。耳が尖ってて魔法が使えて、スポーツ選手並みの運動能力を持つ、普通の人だと思っています。
……普通ってなんだろう?