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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
2章ですよ 嬉し恥ずかし同棲生活です。
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7.5話A フリージアは変化する?

フリージア視点です。

フリージアの口調について一言。 敬意を持っているはずの主人公に対しても、敬語とため口が混ざっているのは、仕様です。 フリージアは長老などの村の身内以外では目上の相手と接した事が無いので、敬語に慣れていません。  

朝ごはんも食べた。 服も着替えた。 よし! 出発!


 「フリージア、何処へ行く?」


 家から外に一歩足を踏み出した瞬間、兄さんに呼び止められた。


 「どこって、今日も精霊様に朝のご挨拶に行くんだよ? やっぱり友達になるには毎日の挨拶からだと思わない?」


 「間違ってはいないし、精霊様に日々のご挨拶をするのも良い心がけだな。 だが、今日は話し合いがあるから長老に所に行かなくてはならんのを忘れたか? ご挨拶はその後に行けばいい。 精霊様はご挨拶が遅れたくらいで気を悪くはなさらないだろう」


 話し合い? ……あっ、普通に忘れてた。

 でも、忘れても仕方ないと思うの。 だって、話し合いって言っても、前の日の内に長老を含めた年長者のグループだけで大まかに決めて置いて、それをみんなの前で発表するだけなんだもん。


 よっぽど酷い内容じゃない限り、まず反対意見は出ないような、形だけの話し合いだから気にもしてなかった。 そんな事より精霊様に会いに行くほうが大事だ。


 「だから私は精霊様の所に行くべきだよね?」


 「駄目だ、形だけでもいいから参加しろ」


 「……むぅ……」




 ーーーーーー


 「……というわけで、この役目はローズに任せようと思う」


 ほら、結局今日もいつも通り年長者たちが決めて長老が発表するだけ。

 いつもなら、このまま反対意見が出ることもなく決定。 でも……


 「だっ、ダメ!! 待って!!」


 今日だけはダメ! 譲れない! だって……



 「精霊様の巫女は! 私がなるんだからぁ!!」


 そう、今日の話し合いは、精霊様に仕える巫女を決める話し合いだったから!


 「先祖の文献によると精霊様の巫女は、年若い娘の中で一番魔力が多い者がなる決まりだ。 フリージアよりローズの方が魔力が多い、それは理解しているだろう?」


 年長者グループの1人、ヘンプさんがそう言った。 むぅ……この人、少し苦手。


 「……むぅ……」


 魔力量の事を言われると、それ以上は言えなくなってしまう。

 私は同年代では一番魔力が多いけど、あくまでも()()()()()、だ。

 年上も入れていいなら、ローズさんの方が上になっちゃう。

 ……年上? そうだ!

 見つけた! 反論するポイントを!


 「巫女になるのは、()()娘なんだよね!? じゃあ、ローズさんは、もう……」


 「()()? ……私が()()……何なのかしら?」

 「ごごごっ、ごめんなさい!?」


 すぐ後ろにローズさんがいた。 ……笑顔だけど口元がピクピクしてた。


 私は大人しく引き下がる事にした。

 ……なぜなら、ローズさんが怖かったから。


 「フリージアも納得したかな? ……まあ、正式な任命の儀は次の満月の日だから、4日後だ。 それまでにローズの魔力を超えたら、巫女の候補に認めてもいいがね」


 むぅ! ヘンプさんの言い方がイラっとする!

 そもそも、魔力量なんて簡単に増える物じゃないって知ってるハズなのに、わざわざそんな事言うなんて!

 むぅ……ヘンプさんなんて拾い食いでもして、お腹イタくなっちゃえ!


 呪いを込めてヘンプさんを睨み付けたけど、それで何かが変わるワケでも無くって、そのままローズさんが巫女候補に決まって話し合いは終わりになった。


 「むぅ……精霊様の巫女。 ……なりたかった」


 長老の家の前にある広場。

 話し合いも終わって、ほとんどの人が帰った後のその場所で、ボーっと立ったままの私の口から無意識に未練の言葉が漏れてしまった。


 こんな小さな村の仲間内で決められた称号なんて、大した意味は無い。

 ……そんなの知ってるけど、それでも巫女っていう名前が欲しかった。

 それを名乗れば、あの精霊様の一番近くに居られる気がしたから。



 「悔しそうだね」


 後ろから聞こえた声に私が振り向くと、ヒースさんが立っていた。 その少し後ろには兄さんもいる。


 「落ち込む時間があるなら、諦めずに修行をして4日後までに魔力を増やしたらいいのではないのか? 努力すれば間に合うのでは?」


 脳筋らしい根性論を語る兄さん。 ……無理言わないでほしい。


 兄さんの根性論を聞いて、顔にお馴染みの苦笑いを浮かべたヒースさんが、私の頭にポンっと手を乗せた。


 「落ち込まなくたって大丈夫だよ、フリージア。 君は精霊様の友達になりたいんだよね? 巫女になれなかったとしても、友達になる事はできるだろう?

 だったら、まだ君の夢は終わっていないよね?」


 そう言って励ましてくれたヒースさんは、いつも通りの老け顔のポッチャリだけど、ちょっとだけ格好良く見えた。

 ……もう一度見たら、やっぱりいつも通りだったけど。


 うん、そうだったよね。 精霊様の巫女って立場にはすごく憧れるけど、私の夢は、精霊様と友達になることなんだ!


 自分の夢を改めて確認したら、なんだか心と体が熱くなって来た気がして来た。


 「私、今から精霊様の所に行って来る!」


 行ってらっしゃい、って送り出してくれるヒースさんと、落ち着きの無いやつだ、って呟く兄さんを尻目に私は全力で走りだした。




 足を魔力強化して全力疾走すると、すぐに精霊様の所に到着した。


 「こんにちは! 私と友達になって!!」


 大人のレディらしく行儀よく挨拶した私は、大人のレディらしく行儀よく精霊様の木に飛び付いた。


 ……うん、今のが大人らしくなかったのは気づいてるんだよ?

 でも精霊様の木が見えた瞬間に、自重がどこかに消えちゃったの。


 その後、私は精霊様の根元に座って、特に重要でもないような雑談をしていた。

 あっ、もちろん私にとってはお話できるだけで重要な事だけど。


 「エルフの血をひく子供は、みんな絶対に一度は精霊様に憧れるんです。 当然私も……あっ、私は子供じゃなくて大人のレディなんですけど、それでも……」


 ワサワサ


 「最初に助けていただいた筋肉質の男の人は、私の兄なんです。 兄は強くて真面目だけど、デリカシーが……」


 ワサワサ


 私が話しをするたびに返事をするように枝を振ってくれる精霊様に、嬉しくなった私は、つい手足をパタパタ動かしちゃった。


 精霊様が嬉しそうにもっと大きく枝を振ってくると、それを見た私の手足も無意識に大きくパタパタと動きだしちゃう。


 ワサワサ   パタパタ   ワサワサ   パタパタ


 うん、なんだかちょっと精霊様と理解し合えた気がしたかも。

 ううん、残念だけど、気のせいかな?


 精霊様は私たちの言葉を話す事ができないのか、それとも、何か別の理由があるのか分からないけれど、その声を聞かせてはくれない。


 だけど、優しく見守ってくれるような雰囲気は伝わって来るし、時々、相づちを打つように枝を振ってくれるから、つい気持ち良く話し続けちゃう。


 こう言うの、なんかいいな…… そばにいるのが心地いい。


 むぅ……やっぱり巫女になりたい。

 巫女になって、いつも、近くに居たい。


 一度諦めようと思った気持ちが、膨らみだして止まらなくなっちゃいそう。

 ついポロリと愚痴がこぼれる。 ……精霊様に愚痴を言うなんて! っと思っても、もう止まらない。


 「……精霊様の巫女を決める事になったの。 私は、魔力が足りなくってダメだった。 私の魔力がもっともっと多ければ、絶対に譲らなかったのに」


 悔しさが込み上げて、つい俯いちゃった。

 そのまま下を向いていたら…… ん? なんだか急に空が明るくなった気がする?


 不思議に思って顔をあげると…… むぅ……眩しい!?


 精霊様の枝の先がすっごく光ってる!

 あ、ちがう? 光ってるのは枝じゃなくって、その枝に実った金色のリンゴだ!

 ……すごく眩しいな、まるで小さな太陽みたい。


 ……えっ あれ? 太陽みたいに輝く、黄金のリンゴ……?


 まさか『楽園の実』!?


 たしかあれって、エルフの聖域に残ってる1つ以外は現存してないって聞いた事があったような気が……?

 何処だかの王子様が山ほどの金貨を持ってきて頭を下げても、売らなかったってやつだよね?


 まさか、そんな伝説の実を直接見ることに…… って!? ちょっと!?


 せっ……精霊さま? 何で? どうして枝をそんなにワサワサって振ってるの!? ああっ! 伝説のリンゴがプラプラ揺れてっ…… 落ちて潰れたら大変!!


 落としたらダメ! って思って、つい反射的に両手を出しちゃったら……

 はいどうぞ♪ て言う感じの気軽さで、私の手にリンゴが置かれたんだけど!?


 王子様でも手に入らなかった伝説の実が、今、私の手の中にある。

 ブワっ と、変な汗が体中から吹き出してきた。

 さらに、喉の奥から、ヒュッ て変な音が出た。


 「なな……なんでこれを私に?  ……ううん、本当はわかってる」


 『楽園の実』は、食べた人に色んな効果をもたらすと言われている。

 確かその中には、魔力量を大幅に増やすって言う効果もあったはずだ。


『私の魔力がもっともっと多ければ』

 私がそう言ったからくれたんだと思う。


 精霊様が私のために用意してくれたんだと思うと、すっごく嬉しい。

 嬉しいんだけどね?


 でも、これって国宝級…… もしかしたら、それ以上の価値だよね?

 ほ……本当に私が食べちゃっていいのかな?

 なんか、驚きと緊張で倒れそうかも?


 畏れ多いけど! でも精霊様の厚意を無駄にするなんて私にはできない!

 よし!  食べる!  食べるよ?  ほ、本当よ!?


 3…… 2…… 1……

 「い、いただきましゅ!」 (むぅ……噛んだ……)


 ガブリとかじった瞬間に口の中に甘味と酸味が弾ける!

 なにコレ!? 美味しい!!!


 一口ごとに力が湧いてきて、食べ終わる頃には全身が…… 光ってる!?


 むぅ…… むうぅ!?…… なんか……体が、作り替えられてくみたい!?

 これはなんだか…… 色々と駄々漏れになりそうな新感覚!?


 大人のレディとして駄々漏れだけは避けたいから気合いを入れないと!


 ……む…… むぅ……  ……我慢、デキタヨ? モレテナイヨ?

 ……何事も9割成功すれば、残りの1割は誤差の範囲で許されるはず。


 光が大体収まった後で、ちょっと自分の体を見たり動かしたりしてみた。

 見た目は多分変わってないと思う。 うん、()()()()変わってない。


 だけど、明らかに変わった。

 自分でも怖いくらいの魔力だ、今ならローズさんより魔力が多いはず。 ……多分、圧倒的に。

 これなら、私が巫女になるって言っても、ヘンプさんも文句は言えないはずだよね?


 「精霊様、お陰で生まれ変われた気分です! ありがとう、今日は帰りますね? ちょっとやることがあるから!」


 全身に魔力強化を軽めに掛けてみる。 すごい。 魔力がスムーズに流れるし、何よりも、魔力量が増えてるから魔力切れになりそうな気配がない!


 「あはっ、あははは! アッハハハ!!」


 なんだか笑いが止まらないなぁ! 早くヘンプさんに見せてあげないと!

 私はヘンプさんの魔力を感知して、そこに向かって走った。

明日の20時も投稿できそうです。 次回はムスカリ視点です。

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