後日談 20話 レモンからの北欧の巨人
長らくお待たせしました。
どうもこんにちは、レモンの木です。
はいどうぞー。気分がスッキリするレモンですよー。
レモンには、なんとレモン1個分のビタミンCが含まれているので美容や健康にも良いんです。
心配しなくても酸っぱさ控えめ甘さマシマシのハチミツレモン風味にしてありますからそのまま美味しく食べられますよー。
今、私は皆さんにレモンを配っています。
なんでレモンかと言うと、今朝起きて来たちくわちゃんがなんだか眠そうにしてたからなんですよ。
しかもよく見るとちくわちゃんほどではありませんが他の皆さんもなんとなく寝不足っぽい顔をしているじゃありませんか。
となればここは何かスッキリ爽やかな気分になる物ですよね! ……っと思いまして、レモンを選びました。
レモンってフルーツとして食べるというよりも、料理に使ったりお酒を割るのに使ったり全員分の唐揚げに勝手にかけて怒られたりするためのものというイメージがありますよね?
なので生でそのまま丸齧りするのに抵抗ある人もいるかなー、という心配もあったんですけど、皆さん美味しそうに食べてくれました。
皆さんの眠気が覚めたらいいなー、って思いながら創ったおかげでなんかそういう成分も配合されていたみたいで、食べた皆さんはスッキリした表情になっていましたよ。
うんうん、上手く行って良かったです。
ええ、それは良かったんです。 ……ですけど……。
「なに悲しそうにしてるのよ。私の事は気にしないで」
そう言ったのは稲穂ちゃんです。
稲穂ちゃんにもレモンをプレゼントするつもりだったんですが、残念ながら稲穂ちゃんは物を食べることができないようです。
石の体には口も胃袋も無いので、食べれないのは当たり前と言えば当たり前なのかもしれませんけど……やっぱり残念です。
日本にいた頃、お菓子とジャンクフードとエナジードリンクばかりで生活していた私を心配して栄養バランスを考えた手料理をご馳走してくれたりしたのに、結局日本にいるうちには大したお礼もできませんでした。
なのでその頃のお礼と、この街への歓迎の意味も兼ねて豪華な果物の盛り合わせとかをプレゼントしたかったんですけどね……。
「……まあ、私は石だからね。物を食べられないのは仕方ない事よ。どうにもならない事をいつまでも気にしていても何にもならないわ。凄く残念ではあるけどね」
そう言った稲穂ちゃんの口調は、悲しそうながらも静かで落ち着いていて……
「凄く……凄く残念だわ! ああああっ……悔しい、悔しい! せっかく鈴が1から……いえ、0から創った果物だっていうのに、それを……それを食べられないなんてっ……!
一体どこの誰よ、石に転生しようなんて決めた馬鹿は! 私だわ! 私の馬鹿あぁぁぁ! j#ドD$*ベm'6っ!! a'€4パ*ーー!」
あ、いえ、前言撤回です。やっぱり静かでも落ち着いてもいなかったですね。こんなにエキサイトする稲穂ちゃんは日本ではあんまり見たこと無かったかもしれません。
今までずっと稲穂ちゃんってクールでかっこいい系だと思ってたんですけど、こんなパッション溢れる一面もあったんですねー。
稲穂ちゃんはノイズのような謎の言葉で何やら喋りまくっていましたが、しばらくすると落ち着きを取り戻しました。
「ふう……ご、ごめんなさい、つい取り乱したわね。もう平気だから気にしないで」
いやいや、気にしないでと言われてもどうしても気になっちゃいますよ。本音しか話せない精霊語であんなにエキサイトしていたということは、本当に心から悔しがっていたということですからね。
それに他の皆さんにはレモンをプレゼントしたのに稲穂ちゃんにだけ何もあげないなんていうのは気分がモヤモヤしちゃいますし。
でも食べられない事を知っているのに果物を無理にあげるというのは逆に失礼ですし……
うーん……何か他にあげられそうな物は無いでしょうか?
果物がダメなら薬草? ……いえ、稲穂ちゃんは怪我も病気もしていないですし、そもそも石の体では薬草もきっと効果無いですよね。
えーっと、果物や薬草を創る以外で何か私がやってあげられる事といえば〜……
おおぅ……こうして改めて考えてみると、私がやってあげられそうな事って少ないですね〜……。あまりの無力感にちょっと落ち込みそうですよ。
無口、無表情、無乳、無一文に加えて無力となっては、いったい私にはなにがあるのでしょうか……。
「もしかして落ち込んでる? ……ああ、鈴のことだから、私の為にできることがない、とか考えているのかしらね」
私の様子を見ていた稲穂ちゃんがそう言いました。
あー、やっぱり稲穂ちゃんには私の考えている事が読まれちゃってますか。
「図星みたいね。フフッ、気にしなくていいってさっきも言ったでしょう?
鈴の果物が食べられないのが残念なのは本当だけど、それでも私は鈴とまたこうして一緒に居られるだけで凄く嬉しいんだから」
顔も無い石の姿だから表情なんてわからないはずなのですが、その言葉を言った時の稲穂ちゃんは優しく微笑んでいるような気がしました。
一緒に居られるだけで幸せ、ですか。
それは私も心底から同感なんですけど、ただ一緒にいるだけじゃあ稲穂ちゃんに何かしてあげたって感じにはならないですよね。
ただの自己満足かも知れませんが、やっぱりなにかしたいです。
……そうです! ここは私がこの街を案内してあげましょう!
これなら一緒に居たいという稲穂ちゃんの気持ちを尊重しつつ、この街に暮らす先輩として稲穂ちゃんの力になってあげることもできますし、ついでに私自身も楽しいです!
我ながらグッドなアイデアですねー。
私は稲穂ちゃんに『街を案内しますよー』と伝えるためペルルちゃんに通訳を頼んだのですが……
「ダメよ」
しょぼん。
ノータイムでペルルちゃんに却下されました。
「街の案内って事はリンがセリーナを抱きかかえて街を歩き回るって事でしょ?」
あ、はい。稲穂ちゃんを抱っこしてお散歩するつもりでしたけど……
私はコクコクと頷きました。
「あんたはちょっと前まで体も小さくて果物も創れない状態だったでしょ。
今は体のサイズも果物を創る力も戻ったみたいだけど、まだどこまで回復できてるか分からないわ。リハビリ無しでいきなり自由に街を歩き回るなんて危なっかしくて許可できないわよ」
うぬぬ……それを言われては何も言い返せません。1番元気だった頃でも人間モードを長く続けていたら疲れましたから、今、歩き回って大丈夫かと聞かれると、あんまり自信はありません。
別にどこか痛いとか苦しいとかではありませんけど、なんとなく前より魔力が少ないような実感はありますからね。
なんというか、こう……胸とか頭とかがスカスカしてるような、物足りないような、そんな気が……
……あっ、私の胸と頭がスカスカで物足りないのは以前からですけど、そうではなくて今言っているのは感覚的な話ですよ?
「とにかくまだ今日はダメよ。久しぶりに会った友達と街を歩きたいって気持ちは分かるけど、時間はこれからいくらでもあるんだからもう何日かくらいは大人しくお喋りとかだけで我慢しなさい。
無茶をしてまで街の案内なんてしてもセリーナも喜ばないわよ」
おぅ……正論ですねー。ちょっと残念ですけどペルルちゃんも私を心配して言ってくれているんですし、あんまり駄々をコネコネするのも良くないですよね。
アドバイスに従って今日は稲穂ちゃんとお喋りして過ごすとしましょう。
ですけどお喋り。……うん、お喋りですか。
言葉がなくても稲穂ちゃんとなら意思の疎通ができる自信はありますけど、でも1日中ずっとお喋りするとなるとやっぱり言葉が通じたらいいなー、って考えちゃいますよね。
伝わらない事がある度に毎回ペルルちゃんに通訳してもらうのも申し訳ないですし、どうにか上手くお喋りする方法は無いでしょうか?
日本にいた頃はスマホでメッセージを送ったりもしていたのですが、ここにはスマホはありません。
筆談というのも考えたんですけど、ちくわちゃんの家には紙と鉛筆が無いんですよねー。
ワイルド商人さんが書類にサインしてるのを何度か見た事あるのでこの世界にも紙はあるはずなんですけど、どこのご家庭にもある、と言えるほどありふれた日用品ではないのかもしれませんね。値段が高いとか流通量が少ないとかそんな感じで。
スマホは無い。紙と鉛筆も無い。
それ以外でメッセージを送る手段となると……ふむ、やっぱりアレですね。
そう。尻文字です。
あっ、でも木の姿では上手くお尻が動かせませんね。……ということで、変身!
「えっ、なに?」
「突然どうしたの?」
「?」
いきなり変身した私を見て稲穂ちゃんとペルルちゃんは驚いたような声を出しました。
ちくわちゃんは声は出していませんが、目を丸くしてこっちを見ています。
いえいえ、皆さん心配はいりませんよ。別に歩き回ろうとかは思ってません。お尻を動かすだけだから負担とかはあんまり無いはずですし。
人間形態に変身した私は、くるっと後ろを向いて稲穂ちゃん達にお尻を向けました。
でもって、はい、お尻をこうやってこうやって……くいっくいっと……!
よーし、できましたね。ちゃんと伝わりましたか?
……あっ、ちくわちゃん、拍手ありがとうございます。ですけどこれは別に拍手して貰うような芸とか技とかじゃないですよー。
「いや、なんで突然クネクネし始めるのよ? アンタはいっつも意味分からないけど今回は特に意味分かんないわ」
ペルルちゃんが困惑しています。あれれ? なんて書いたかわかりませんでした?
ああ、確かに心の準備をしてない時に突然始めても解読なんてできませんか。ごめんなさい、急過ぎましたね。じゃあもう一度やるので今度はしっかり見ててくださいよ。
はーい、それではスーパー尻文字タイム、再放送ですよー。何を書いたか当ててくださいね。
お尻フリフリ、くいっ、くいっ、と。
……おや? ちくわちゃんも真似してフリフリし始めましたねー。
それではせっかくなので、ご一緒に。はい。くいっ、くいっ、っと。
さあ、なんて書いたでしょうか?
「か……かわいい」
稲穂ちゃんが呟きました。
『かわいい』ですか? あー、残念! 近いけど不正解です。
正解は『カバディ』でした。惜しいですねー。
じゃあ次の問題行きますよ、次は当ててくださいねー、って……あれれ?
冷静に考えてみると、これではただ尻文字当てゲームをして遊んでいるだけなのでは?
これはこれで楽しいんですけど、お喋りしているとは言えませんよね。
尻文字は一旦中止するとして、他の手段は……んー、当たり前のことですけど、やっぱり普通に言葉を使ってお喋りできたらベストなのですけど。
でも私が言葉を喋る方法と言えば……ふむ、すぐに思いつくのは3つですね。
1つ目は魔力を消費して声を出す。
(すごく疲れるので単語1つ喋るくらいがやっと。無理すると倒れる)
2つ目は念話。
(相手側が念話のチャンネルを合わせてくれないと話せない。しかも何故か妙な片言にしないと音量が大きくなり過ぎるらしい)
3つ目は精霊語。
(今のところ使えない。私も一応精霊なので使える素質はあるはず。多分。きっと。もしかしたら)
ふむ……これはひどい。
これなら本当に尻文字でお喋りしていた方がまだマシなレベルなのでは?
さて、どうしたものでしょうか? などと思っていると、稲穂ちゃんがフフッと小さく笑いました。
「空を見上げてボーッとした後、突然カクンと頭を落としておでこをペチペチと叩いてる……。その動き、見覚えあるわ。それって最初に考えていたより自分の状況が悪かったことに改めて気がついた時の反応でしょう?
思い出したわ、テスト直前に勉強の進み具合を聞いたら大体いつもそんな反応してたわよね」
えっ、私って勉強の事を聞かれる度にこんな動きをしてたんですか?
自分でも知らなかったので今言われてちょっと衝撃なんですけど……。
ですがやっぱり稲穂ちゃんは私の事をよくわかっているんですね。
うーん、動きだけでこんなに読み取ってくれるなら、やっぱり言葉が通じなくてもどうにかなりそうな気が……
って、いえ、それではダメです! ダメダメです!
『きっと理解してくれるでしょう』なんて稲穂ちゃんに甘えて私が努力しないのはフェアではありません。
稲穂ちゃんはこちらの世界に来てからまだあまり経っていないのに頑張って精霊語を覚えたのですから、私だって頑張るべきです。
元々、『やっぱり喋れた方がいいですよねー』って考える事も今までも何度かありましたから、これを機に本格的に頑張ってみるべきなのかもしれません。
よし、決めました。私はちゃんとお喋りできるようになってみせます!
魔力を消費して声を出すやり方で普通にお喋りできるようになるというのはあまり現実的ではなさそうなので、やるなら念話か精霊語を使えるようにすることですかねー。
両方出来れば最高ですけどそれは難しいでしょうから、どっちか1つにしぼるべきですよね。
どっちかを選ぶなら〜……うん、やっぱり精霊語でしょうね。
稲穂ちゃんやペルルちゃんとお喋りするだけなら念話でもいいですけど、精霊語を使えるようになっておけばいつかまたフラスケちゃんと再会できた時にお話しできるかもしれません。
あと、もしかしたらですけどちくわちゃん達ともお話しできるかも……
あっ、ちくわちゃん達は精霊ではないから精霊語は通じないですかね? んー、その辺はどうなんでしょう?
まあどちらにせよ、習得できそうなら習得しておくべきですね!
稲穂ちゃんと過ごす時間がより楽しくなって、更に他にも色々と今後の可能性に繋がりそうなら一石二鳥ですから。
そうと決まれば早速ですが、稲穂ちゃんに精霊語を教えてくださいってお願いしてみましょうか!
さあ、それじゃあ、えーっと……
…………あっ、稲穂ちゃんには私の声が届かないんでしたね。
こういう時に私が精霊語を使えれば、その精霊語で『精霊語を教えてください』ってお願いできるんですけどねー。
残念ながら今はまだ自分では喋れないので、またペルルちゃん経由で伝えてもらうとしましょう。
ペルルちゃーん。何度もお手数かけてしまってすみませんが、またお願いします。
私はペルルちゃんに視線で合図してから、念話を送信しました。
セイレイゴ。ベンキョウ・ノ・ヨッキュウ。シンキョウ・ガ・トッキュウ。
イナホニ・オネガイ・ペルルニ・チュウカイ。
ベンキョウカイ・ヲ・タノメルカイ?
ユカイ・ツーカイ・チョハッカイ!
「は? いきなり何よ、そのラップの出来損ないみたいなヤツは。
えーっと……精霊語、勉強の欲求、心境が特急……で、後半は稲穂にお願い、ペルルに仲介……勉強会を頼めるかい? だから、つまり……」
ペルルちゃんは人差し指をこめかみに当てながら「うーん」と唸りました。
「……急に精霊語の勉強がしたくなったからセリーナに勉強会してもらえるように私から頼んで欲しい、って事?
でもって最後の愉快、痛快、猪八戒はただ単にノリと勢いで言っただけで特に意味は無い。……て事であってる?」
おお、流石はペルルちゃんです。いつもより長めだったのですけどちゃんと伝わりましたねー。凄いです!
私はペルルちゃんに拍手を送りました。ブラボーです。
「いや、伝わった事に対して拍手で賞賛するって事は、自分でも伝わりにくい難解なメッセージを送ってる自覚はあるって事よね? なら最初からもう少し分かりやすく工夫するとかしなさいよ。
はぁ……まあなんとか伝わったから別にいいんだけどさ」
ペルルちゃんはちょっと呆れたような顔をしながらも、ちゃんと稲穂ちゃんへの通訳はしてくれたようで、しばらくすると頭の中に稲穂ちゃんからの返事が聞こえてきました。
「私の精霊語もまだまだ未熟なんだけど、それで良ければ教えるわよ。
鈴とならただ一緒にいるだけでも幸せだけど、ちゃんと会話ができるようになるならそのほうが嬉しいものね」
「あ、もちろん私も手伝うわよ。勉強をするにも通訳は必要でしょ?」
稲穂ちゃんに加えてペルルちゃんも快く協力してくれるようです。
うんうん。やっぱり2人とも優しくて頼りになりますねー。
……おや? 何故か後ろの方でちくわちゃんまで
『私に任せて! シャキーン!』……みたいに胸を張ったポーズをとりながらキメ顔で私に熱い視線を送ってきていますね。
ちくわちゃんは言葉が通じないので私たちが何を話していたかわからないはずなのですが、雰囲気で私が何かに挑戦しようとしてるって事くらいはなんとなくわかって、応援してくれているのかもしれませんね。
うんうん、やっぱりちくわちゃんはいい子です。
稲穂ちゃんとペルルちゃんが先生をしてくれて、ちくわちゃんが側で応援してくれているのですから、これはとっても心強いですねー。
これなら私の学習能力も2倍、3倍……いえ、10倍くらいまでブーストされそうですね!
……おや? 今、なんか小学校の時に先生が『ゼロは何倍してもゼロのまま』と教えてくれた時のことが頭にチラついた気がしたのですけど、なんでですかねー?
まあいいです。今はそんなことよりお勉強ですね。こういうのはやる気があるうちに始めるのが大事ですから。
鉄は熱いうちに打て、というヤツですね。まあ私は鉄じゃなくて木ですけど。
それではお勉強開始です。レッツ・スタチュー!
……おや? スタチュー? 勉強って英語でスタチューでいいんでしたっけ?
スタチューじゃなくてステディ……だったかも知れません。
どっちでしょう? 少なくともどっちか1つは正解のはずなんですけどねー。
あっ、そう言えばスカディという言葉もどこかで聞いたことごある気がします。
2択でも迷っていたのに、ここに来て第3の選択肢の登場ですか……むむむ。
スタチューかステディか、それともスカディか……謎は深まるばかりです……。
「なに首を傾げてるの? なんか気になる事でもあるなら遠慮なく聞いてくれていいわよ、今日はリンの先生をするって決めたからね」
おお、ペルルちゃん。いえ、ペルル先生。今日はいつもよりもお姉さんっぽく見えますねー。
それではお言葉に甘えて遠慮なく聞いちゃいましょう。
ペルル・イングリッシュ・DE・ベンキョウ・スタチューorステディ・ドッチヤネン?
「いや、なんの質問よ? 今、気にする事がそれなの? しかもどっちも違うわ。勉強はスタディよ。
スタチューは石像、ステディは安定してるとか、いつものとかそういう意味よ」
なんと、両方違いましたか。どっちかは合ってると思ったのですけど、正解はスタディでしたかー。うん、言われてみたらそうだった気がします。
……ん? じゃあもう一つの候補だったスカディとは何なのでしょうか?
ついでなのでこれも聞いておきましょう。
ペルル・チナミニ……スカディ・is・ナンヤネン?
「はっ? スカディ? ……スカディは北欧神話に出てくる巨人族の女性で、山の女神でもあるわ。
……はあ。私はなんでこんな事を教えてるんだろう? 精霊語どころかもはや英語ですらないわよ。もう」
おおっ、どこかで聞いた事があると思っていたら北欧神話の巨人さんでしたか。多分、漫画かゲームあたりで聞いたことがあったのでしょうね。
うんうん、今日は勉強になりました! 1つ賢くなった気がします。
私が新しい知識を手に入れた満足感に『うんうん』と頷いていると、ぺルルちゃんが呆れたような声で言いました。
「ねえ、リン。なんだかもう勉強が終わったような顔してない? 勉強を始めるのはこれからなんだけど、分かっているのかしら?」
…………えっ?
あっ! そ、そうでした! 私が勉強するべきは精霊語についてでした。
まだスタチューとステディとスカディについての勉強しかしてないじゃないですか!
うぬぬっ……不覚です。本命の勉強を始める前だというのに要らない知識に頭の容量を使ってしまいました……。
「なんかショックを受けてるみたいだけど……それで精霊語の勉強はどうするの? 今からすぐ始めていいの?」
あ、ハイ、ゴメンなさい、じゃあお願いします。
「わかったわ。じゃあまずは……そうね、私達3人はリアルタイムで話し合うのが難しいから勉強の流れはあらかじめ決めておいた方が良さそうね。リンは少し待ってて」
そう言ってペルルちゃんと稲穂ちゃんは話し合いを始めました。
確かに先生役になる2人の間で先に決められる事は決めておいた方が話がスムーズに進みそうですよね。
教えてもらう側の私が何も準備を手伝わないというのは非常に申し訳ない気持ちなのですけど、ここで私が話し合いに参加してたところで余計に話が進まなくなるだけですから、今は大人しく待っていましょう。
勉強に備えて頭のマッサージでもしておきましょうか。頭が柔らかくなればちょっとは学習能力が上がるかも知れませんし。
もみもみ、ぐりぐり。
あっ、ちくわちゃんもマッサージしてくれるんですか? ありがとうございます。お陰でちょっと頭が良くなった気がしますよ。
「お待たせ。まずは知識のある私が講義をしてから実際に精霊語が話せるセリーナが実技を教えるって流れに決まったわ」
ふむふむ、最初の先生はペルルちゃんですか。それではよろしくお願いしますねー。
それでは改めて勉強開始です! レッツ・スカディ!
……おや? スカディ? 勉強って英語でスカディでいいんでしたっけ?