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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
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後日談 19話 女豹のポーズからのホラー演出

今回もまた長くお待たせしちゃいました。すみません。

 どうもこんばんは、木です。


 稲穂ちゃんを見つけた喜びと驚きでつい人型になっちゃったりもしましたが、今は木の姿に戻っています。

 普段はできるだけ木の姿でいたほうが魔力の消耗が抑えられますからね。

 省エネ、大事です。


 あっ、省エネと言えば私は子どもの頃、使うエネルギーを小さくするから『小エネ』か、少なくするから『少エネ』かのどちらかだと思ってたんですけど、どちらも間違いだと知ってびっくりしました。

 うーん、日本語というのは難しいものです。



 「じゃあ私はあっちにいるわ。念話のチャンネルは開いておくから何かあったら呼んで」


 そう言ってペルルちゃんはパタパタと飛んで行きました。

 どうやら私と稲穂ちゃんを2人きりにしてくれたようです。

 気を利かせてくれたお礼は今後改めて伝えるとして、今は素直に厚意に甘えて稲穂ちゃんと過ごすとしましょう。


 私はさっきまでは人型だったので胸元に稲穂ちゃんを抱っこしていましたが、木の姿に戻ると腕の可動域の都合で抱っこがしづらかったので、稲穂ちゃんは私の足元……というか根元に座っていてもらっています。


 地面に直に座らせるのは申し訳ない気がしたので、私の葉っぱを絨毯みたいに敷きましたよ。

 こうすれば座ってもお尻に土がつく心配はありません。お尻のあたりが汚れてしまうのは女の子としてはやっぱり恥ずかしいですからね。

 ……ん? でも稲穂ちゃんのお尻ってどこなのでしょうか? 


 石材屋さんとか石像を作る職人さんみたいな専門家ならきっと石のお尻がどこなのかもすぐにわかるんでしょうけど、私は石の知識とか無いですからちょっとわからないです。

 むむむ……いいえ、まだ諦めるのは早いですよね、もっとよ〜く見ればわかるかもしれません。じー……



 「……ねえ鈴。なんか変な視線を感じる気がするんだけど、何を考えてるの?」


 私の視線を感じとったらしい稲穂ちゃんが、怪訝そうに言いました。

 あー、ついジロジロと見過ぎちゃいましたね。失礼しました。でもなんか気になっちゃったんですよねー、稲穂ちゃんのお尻……いえ、お尻に限った話ではなくて、体のどこがどうなっているのか。

 ほら、同じく人間じゃなくなったとは言っても一応私の場合は枝が腕で根っこが足で葉っぱが髪の毛で~……みたいな感覚があるんですよね。

 それで稲穂ちゃんの場合は石のどの部分が人間のどの部分にあたるのかなー、って気になったんですよね。


 んー……あのちょっと丸みがあるのが頭で、そっちの少しくびれている場所がウェストだとしたら……お尻はあの辺りでしょうか? だとすると〜……

 はっ!? もしかしてですけど稲穂ちゃん、女豹のポーズをしていますか?


 うむむむ、一度そう見えちゃったらもう女豹のポーズをしてるようにしか見えなくなっちゃいました。

 セクシーですねー、つるりとした石の質感に絶妙な色気を感じます。

 


 「……うん、いったい何を考えてるのかまでは分からないけど、絶対に変な事を考えているんだろうな、っていうのだけは伝わってくるわね……」


 稲穂ちゃんはちょっと引いたような声でそう呟いたあと、クスっと笑って更に言葉を続けました。


 「ふふっ、懐かしいね、その全身から溢れるトボけたオーラ。出会った頃から変わらないわ」


 あの……ちょっと待ってください。

 なんか素敵な思い出を語るかのようにしみじみと言ってますけど、私って出会った頃から現在までずっと全身からトボけたオーラが溢れてるということですか?

 ちょっとそこ詳しく。

 


 「なんか複雑そうね。もしかしてトボけたオーラって言ったの気に障った?

 だったらゴメンなさい。でも悪口のつもりじゃなくて、なんていうか安心したのよ。

 別の世界で別の種族に生まれ変わって凄い能力を手にしても、鈴はやっぱり私の大好きな鈴のままだった、って嬉しくなったわ」



 ふむふむ、私の姿を見て稲穂ちゃんが安心したり嬉しくなったというなら私としてもトボけたオーラを溢れさせていた甲斐があったと言うものです。

 いえ、まあ意識してそんなオーラを出しているつもりはないんですけどねー。


 ……って、おや? そう言えば稲穂ちゃんってば今、『私の大好きな鈴』って言ってくれましたか?


 稲穂ちゃんったら急な告白ですねー、キュンとしちゃいましたよ。いきなりどうしたんですか?

 とっても嬉しいですけど驚きましたよ、稲穂ちゃんってあんまりそういう事を言うタイプではないと思っていたんですけど……

 はっ!? もしや……これがウワサの『デレ期』というものでしょうか?



 「っ! 待って! 私、口に出すつもりじゃない事まで言っちゃったわ!

 ……あー、もう! 精霊語って嘘がつけないし、思った事がそのままポロッと口から出てきやすいのよね。やっぱり扱いが難しいわ」


 稲穂ちゃんは恥ずかしさを誤魔化すように、普段の1.5倍くらいの早口でそんな事を言いました。

 なるほど、精霊語にはそんな特性があったんですか。


 んー、でも嘘がつけないし思った事がポロッと出るはず言葉で私を大好きだと言ってくれたということは、社交辞令とかじゃなくて本当に私を大好きだと思ってくれているという事ですよね?

 わぁ〜、わぁ〜。ちょっと照れちゃいますけど、とっても嬉しいです! 私も稲穂ちゃんが大好きですよ!


 う〜ん、嬉しさと恥ずかしさでついニヤニヤしてしまいそう……と言いたい所なのですけど私はやっぱり無表情のままでした。

 うむむむ、気持ちの上では満面の笑顔のつもりだったんですけど……我ながら気合いの入った無表情ですねー。


 仕方ありません、顔でこの気持ちを表現できないのならせめてボディランゲージで表現してみましょう!


 ワサワサ、ワサワサ、ワッサワサ。

 もひとつおまけにワッサワサ! へいっ!

 フィニッシュにポンっと花も咲かせちゃいますよー。ポポポポンっ。



 「何よダンスと花は。もう、かわいいじゃない……まあ鈴がかわいいのはいつもの事だけど」


 おお、稲穂ちゃんがまたかわいいって言ってくれてましたねー。

 嬉しいんですけど、照れ臭くて背中がかゆくなっちゃいますよ。



 「うっ、また口が滑ったわね……マズイわ、言うつもりの無い言葉がドンドン漏れてくる。

 悪いけど心を落ち着けて集中し直すから少し待って。一旦会話を中断するわよ」


 そういうと稲穂ちゃんは黙ってしまいました。

 うーん、さっきまで楽しくお喋りしていたので、急に静かになるとなんだか寂しく感じちゃいますねー。


 …………


 ……稲穂ちゃん。まだお喋りできませんか?

 んー……まだ2〜3分くらいしか経ってないはずなのですが、やけに時間が長く感じてしまいます。

 待ってて欲しいと言われたのだから素直に大人しく待っているべきなんですけど……やっぱりもっと稲穂ちゃんの声が聞きたいです。


 あの……稲穂ちゃん。わがままかも知れませんが、もう少しだけ私に構ってくれませんか?

 

 私は稲穂ちゃんをジーっと見つめながら蔦を伸ばしてつっつきました。

 ツンツン。



 「だ、だから落ち着くまで待っていてと言ってるでしょ?

 このまま話したら私がどれだけ鈴の事が大好きかをポロッと言っちゃいそうだからまずいのよ。だからそんな、構って欲しい時の子猫みたいな態度を……€5でよ!

 mt2y死ぬほdかわいいじゃNaいのっ!! もう! 愛sてr……! 萌*#2! ……っ!……ガガガ!」


 ほわっ!? 稲穂ちゃんの声が所々バグって聞こえます。壊れたラジオみたいな雑音が混じってなんだかホラー演出みたいになってますよ?

 あの、どうしたんですか? もしかしてどこか具合が悪いとか!?


 ……はっ!? そ、そう言えばさっき稲穂ちゃんの身体に触ったとき、まるで石のように硬くて冷たかったですっ!

 これはいけませんっ! 緊急事態ですっ!

 こ、こういう時こそ私の能力で元気になる果物を創って……


 って、考えたら稲穂ちゃんは漬物石なのでものを食べられないじゃありませんか!

 いえ、ワンチャン漬物なら食べれるのかも知れませんが私の能力では漬物を生成する事は出来ませんし……。


 えっと、どうすれば……そうだ、ペルルちゃんっ!


 ペルルちゃんの姿を探すと、少し離れた木の上でお月見をしている姿を見つけました。

 邪魔をするのは申し訳ない気がしますが、『何かあったら呼んで』と言ってくれていたので、遠慮なく呼ばせていただきましょう。


 ペルルちゃーんっ!!

 大至急で石に詳しい専門家を……いえ、ただの石ではなく、魂のある石の病気を治せるお医者さんを呼んでくださいっ!


 ペルル・ヘルプ・イシアルイシ・ノ・イシ・プリーズ!


 私はペルルちゃんに、向けて念話を飛ばして助けを求めました。



 「はっ? イシアルイシノイシ? ……あぁ、意思ある石の医師って事ね。

 上手いこと言ってんじゃないわよ、なんか腹立つわ」


 パタパタと飛んで来たペルルちゃんは、私のおでこをペシって叩いてから稲穂ちゃんに近寄りました。

 そして2〜3秒ほど様子を見ると、すぐに軽い口調で言いました。


 「あぁ、そんなに慌てなくてもいいわ。動揺で魔力コントロールが甘くなって精霊語が扱えなくなってるだけだから、落ち着けばまた普通に喋れるようになるわよ」



 本当ですか? あぁ、病気とかじゃなくて良かったですよ〜。

 そう言えば稲穂ちゃんも『心を落ち着けるから待って』って言ってましたもんね。それを私が構って欲しくてツンツンつっついたからこんな事に……

 うぅ……わがままでゴメンなさい。


 私はぺルルちゃんに通訳を頼んで『もう甘えてツンツンつっついたりしません』って稲穂ちゃんに伝えてもらいました。


 「ダメよ! もうやらないなんて許さないわ! すごく可愛かったからこれからも甘えなさい!」


 あ、あれれ? やめたらダメなんですか?

 うーむ、甘えちゃった事を怒られるかと思ったら、なんか思ってたのと違う部分で怒られちゃいましたよ?

 それにしても稲穂ちゃん……ついさっきまで喋れなかったはずなのになんか今の一言は力強くてハッキリ聞こえましたねー。


 「っ!……また言うつもりのない本音がっ……ガガガガ! 〆m*っ!」


 あっ、またホラー演出みたいなノイズが……。やっぱり精霊語を使いこなすというのは一筋縄ではいかないものなのでしょうか。

 もし使えるなら是非とも私も習得したいんですけど、色んな分野でハイスペックな稲穂ちゃんでも使いこなすのに苦戦しているのですから色んな分野でポンコツスペックな私では難しいでしょうかね?

 うーん……ものは試しと言いますし、ダメ元で勉強してみるというのもありですよね。稲穂ちゃんがまたお話しできるようになったら、精霊語を教えてもらえないか聞いてみましょう。



 稲穂ちゃん、いつお話しできるようになりますかねー。んー、そろそろでしょうか? わくわく。

 ……おっと、いけません。あんまりジーっと見つめて待っていたら変なプレッシャーを感じさせてしまいそうですよね。

 心が落ち着かないと話せないというのに、プレッシャーなんて掛けてしまったらよくないです。


 私は稲穂ちゃんから一旦視線を外して、ちくわちゃんのお家の方に目を向けました。


 おや? 部屋の明かりは着いていないみたいですね。皆さん、もう寝ているのでしょうか?

 今夜は大勢の人たちが遊びに来ていますから、きっと皆さんで夜更かししているんだろうなー、って思ってたんですけど……うむむ、思ったより早く寝てしまったんですねー。


 そんな事を考えていると、ちくわちゃんの家から賑やかな声が聞こえて来ました。

 ああ、やっぱり皆さん起きていたんですね。でも、暗いままでお話ししていたんでしょうか? 起きているなら明るくすればいいのに。

 この世界に電気の照明は無さそうですけど明かりの魔法はありますから、部屋を照すくらいチョチョイとできると思うんですけど。

 んー、そうしないでわざわざ部屋を暗くしていたとしたら……あっ、なるほど、わかりましたよ。きっと暗い中で怖い話でもしていたんですね。怪談というのもお泊まり会の定番ですからね。

 私は怪談ならあの話が好きですよ、ほら、『恐怖の味噌汁』とか『悪の十字架』とか。懐かしいですねー。

 ……でも夜中に怪談なんかしたら怖くて眠れなくなっちゃいませんかね? まあ怪談は怖くてなんぼですけど、ちょっと心配ですねー。



 


 次の朝、無事に回復した稲穂ちゃんとお喋りしていると、家からちくわちゃんがなんだか暗い表情で眠そうに目をこすりながら歩いて来ました。

 あー、やっぱり怪談が怖くて眠れなかったんですね。ちくわちゃんはとっても強いですけど、それでもまだまだ小さな子供ですからねー。

 よしよし、もう怖くないですよー。


 私はちくわちゃんの頭を優しく撫でてあげました。

 木の状態だったので、撫でるというよりは枝でパサパサと頭に触れただけみたいな感じになってしまいましたが、それでもちくわちゃんは機嫌を取り戻してニッコリ笑ってくれました。

 

 そのまましばらくナデナデしていると、ちくわちゃんは私にギュッと抱きついてきました。

 おやおや、ちくわちゃんは甘えんぼさんですねー。無邪気でかわいいです。



 「……ろすぞ」


 ん? 稲穂ちゃん、今何か言いましたか?

 ……いえ、きっと気のせいですね、稲穂ちゃんにしてはあまりにドスの効いた低い声でしたし。

 稲穂ちゃんがあんな地獄の底から響くデスボイスみたいな声を出すとは思えませんから、きっと何かの聞き間違いですね。うんうん。






 フリージア視点 ーーーー



 「……むぅ」

 

 目を覚ますと部屋の中は真っ暗だった。……まだ夜中みたいだ。

 なんかいつもより窮屈な気がして左右を見ると、私を真ん中にして左にトレニア、右にはローズさんが寝ている。


 あ、そうだった、今夜はみんなが泊まりに来てるんだったね。私があの石に殴りかかったりしないように見張ってくれてたんだっけ。

 今ここで一緒に寝ているトレニアやローズさんだけじゃなくて、兄さんやヒースさん、それにロドルフォも泊まりに来ている。

 男達は私達と同じ部屋じゃなくて居間の床で寝てもらってるけどね。

 

 ……この家って小さいからかなりぎゅうぎゅう詰めで寝てるはずだけど大丈夫かな?

 兄さんは筋肉ムキムキだしロドルフォも兄さんほどじゃないけどゴツい。そしてヒースさんはぽっちゃりしてるから、その3人が同じ部屋で寝ていると思うと……むぅ、想像するだけで暑苦しそうだなぁ。


 あっ、暑苦しいと言えばトレニアとローズさんの2人は大丈夫かな?

 男達と比べれば体格的にスペースに余裕あるとは言っても部屋が狭いことには変わりないし、寝苦しかったりしないかな?


 私は気になって2人の寝顔を覗き込んでみた。

 ……大丈夫そうかな? 2人ともよく寝てるみたい。


 うーん、私ももう一度寝るかな。まだ朝までだいぶ時間ありそうだし……それに起きているとまたあの石の事が頭に浮かんでモヤモヤイライラしちゃいそうだもん。

 ……むぅ、今ちょっと考えただけでも少しイラッとしちゃった。ぐぬぬっ、意識してないのに私の手がギリギリと握りこぶしを作っている。

 静まれ、私の左腕っ!


 うーっ! ダメだダメだ、あんな不愉快な石ころの事なんて忘れてさっさと寝ちゃおう!



 私は毛布を被り直してもう一度目を閉じて……

 そしてまたすぐに目を開けた。


 「むぅ……トイレに行きたい」


 ヒースさんが気分の落ち着く薬草茶を淹れてくれたから寝る前に飲んだんだけど……ちょっと飲み過ぎたかな? 一杯飲んでもあんまり効かなくてイライラしたまんまだったから、おかわりしたんだよね。


 「朝まで我慢するのは……危なそう」


 我慢してこのまま寝ようとも考えたけど、ちょっと無理かも。

 私は大人のレディだからおねしょなんてするわけにはいかない。ましてや今日みたいにみんなが泊まりに来てるときにやらかしたら言い逃れができないし。



 私は隣で寝ている2人を起こさないように、そっとベッドから抜け出そうとした。

 静かに、静かに……

 ……でもやっぱりピッタリくっついて寝てる人に全く気づかれないように動くのは無理だったみたい。

 ローズさんはまだ寝てるみたいだけど、トレニアはピクリと反応してうっすらと目を開けた。



 「……フリージアさん? どうしましたか? まだ夜ですわよ」


 「トイレ。すぐ戻るから気にしないで寝てて」


 そう言って起きあがろうとした私の袖をトレニアがギュッと掴んだ。

 むぅ、何? 早くトイレに行きたいのに。



 「……本当に? またあの石の精霊様に対して何かをしに行こうとしているわけではありませんわよね? まさか、夜の闇に紛れて忍び寄って後ろから鈍器で殴りかかったりとか……」

 

 トレニアがジト〜っとした目で私を見つめている。

 これって私、疑われてる? むぅ、本当にトイレに行きたいだけなのにっ!


 「むぅ、本当だよ、嘘じゃないから手を離して。……漏れる」


 「……その様子だとどうやら本当にトイレのようですわね。フリージアさんは嘘が下手ですから演技とは考えにくいですし。

 疑ってごめんなさい、もう行っていいですわよ」


 トレニアは私の言うことを信じてくれたらしく、掴んでいた袖を離してくれた。

 私は駆け足で、それでいてみんなを起こさないようにできるだけ静かにトイレへと急いだ。


 ふぅ、よかった。離してくれなかったらトレニアを引きずってトイレに行くかそのまま漏らすかの2択になるとこだった……。


 




 「むぅ……それにしても、トイレに起きただけで疑われるなんて心外だ。夜中に鈍器であの石に殴りかかるなんて、そんなこと考えてないのに。

 ……本当に考えてないよ? 2回しか 。3回以内なら実質考えてないのと一緒だよね? だから私は無罪だ。多分、きっと 」


 自分に言い聞かせるようにそんな事を呟きながらトイレから出ると、足元に何かが転がっているのに気づいた。

 ……カナヅチだ。あれ、うちにこんなのあったっけ?


 あー、思い出した。そう言えば前に雨漏りした時にアウグスト君がクギとか木材とかとセットで持って来てくれたんだった。

 私が修理しようとしたら余計に壊れたから最後にはアウグスト君がやってくれたんだよね。思いっきり大笑いされたけど。

 

 人が沢山来るからって急いでその辺の物を片付けたから、その時どっかから転がったのかも。トイレの前に転がってると邪魔だし危険だね。ちゃんと道具入れにしまっておくか。


 私はそれを手に取ると、道具入れの置いてある居間へと向かった。



 居間では兄さんとヒースさんとロドルフォが床に転がって寝ていた。思ってた通りぎゅうぎゅう詰めだ。

 狭い……気をつけないと踏んづけちゃいそう。それに物音を立てたら起きちゃいそうだし……


 カナヅチをしまうのは明日にしたほうがいいかな? うーん、でも気がついた時にやっとかないとまた忘れてどこかに転がしちゃいそうだしなぁ。

 ……どうしよう? 今やるべきか、やめとくべきか……むぅ、悩ましい。



 「確保ぉぉぉっ!!」


 そんな言葉とともに、寝ていたはずの兄さんとロドルフォがガバッと飛び起きて私の両腕を掴んだ。


 「むぅ!? な、何するの!?」


 「何するの、じゃない! 我々が何のためここに泊まっているのか忘れたか? お前が早まった事をしそうになったら力づくでも止めると言っていたはずだ!」


 「むぅ! 早まった事ってなに? 私は悪い事は何もしてない!」


 「とぼける気か? どうせあの石の精霊様を襲撃するつもりなのだろう!?」


 兄さんは厳しい表情でそう言って、私の腕を押さえる手に更に力を込めた。

 

 「むぅ! 誤解だ! 確かにあの石は憎たらしいけど、少なくとも今は襲撃する気なんて無いよ! 本当に!」

 


 私が潔白を訴えると、それを聞いたロドルフォが呆れたような顔をした。



 「おいおい、嬢ちゃんよ……夜中にカナヅチを持ってコソコソしてたら、流石に言い逃れはできないぜ? 確かに石を攻撃するなら刃物より鈍器のほうが有効だもんな」


 「むぅ……カナヅチ!? あっ、こ、これは違う! ただ、邪魔だし危険だから早めに片付けたほうが良いと思っただけ!」



 私のその言葉に、兄さんとロドルフォは無言で顔を見合わせてから更に顔を険しくして私を睨んだ。


 「邪魔で危険だから早めに片付けるだと!? お前、やはり……!」


 「邪魔者は早めに消すって考え方は個人的には理解できるけどよ……仮にも精霊の巫女が他の精霊を攻撃するのは立場的にどうなんだ?」



 「むぅぅっ!! 違うっ! あの石の事を邪魔って言ってる訳じゃない! いや、確かにあの石は邪魔だけど! 心から邪魔だけど! でも今言ってるのは違うーっ!!」



 私は頑張って説明したけど中々わかってもらえなかった。

 途中、騒ぎを聞いて起きて来たトレニアとローズさんも、「やっぱり……」とか「いつかはやらかすと思ってた」とか言って悲しそうな目で私を見つめるし、ヒースさんも「本気で思い詰める前に相談して欲しかった……」とか呟いていた。

 むぅ……なんでみんな信じてくれないの? 私はあの石を破壊したいなんて、そんなこと思っては……

 ……まあ、思ってはいるけど。

 でも頭の中で思ってるだけで、まだやってないよ。実際にやってないんだから私は無罪だ。多分、きっと。

 だからもう少し信じてくれてもいいのに……。



 結局ちゃんと誤解が解けたのは朝日が登り始めた頃だった。 ううっ、疲れたし眠い……。

 誤解した事はみんな謝ってくれたから許したけど、イヤな思いもしたし寝不足だから朝から最悪の気分だ。……ただでさえあの石の事で機嫌が悪いのに……。


 だけどそんな私の気持ちをわかってくれたのか、モーリンは優しく慰めるように私の頭を撫でてくれた。

 我ながら単純かなって思うけど、そのお陰で嫌な気分はすぐに晴れて私は自然と笑顔になっちゃった。

 えへへ、やっぱりモーリンは優しいな。……大好き。



 ……うん、やっぱりモーリンは石ころなんかに渡せない。モーリンは私のだ!


 私はモーリンの根元にちょこんと置いてある石を横目で睨むように見た。

 相手は石だ。表情も何も無いから何を考えているかわからない。……普通なら。

 でも私にはわかる。

 コイツは今、私がモーリンに優しく頭を撫でてもらっているのをそばで見て、嫉妬してイライラモヤモヤしているはずだ。


 ふふん、ざまぁみろー。

 お前とモーリンがどんな関係か知らないけど、今モーリンに優しくしてもらってるのはお前じゃなくて私だよー。


 私は頭を撫でてくれているモーリンからは見えないように気をつけながら、あの石に向かって見せつけるようにモーリンの体にギュッと抱きついて、更にニヤリと笑いながら思いっきり舌を出してやった。


 ベーっ、だ!




 


 

 




 



 



 




 

 

 




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[一言] 今更ですが、更新お疲れ様です。 前世のやべーやつVS今世のやべーやつ レディファイッ!
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