後日談 17,5話 イライラフリージア
長らくお待たせしました。フリージア視点です。
私のすぐ横にはモーリンがいて、何かちょっとした拍子に花とハーブが混ざったような甘くて爽やかなモーリンの香りがフワッと漂って来る。
いつもならそれだけで最高に幸せな気分になれるんだけど……。
「むぅ……」
モーリンを見たら幸せになるんだけど、でもモーリンはあの石をしっかりと抱きしめているから勝手にあの石も視界に入ってきてイラッとする。
なんだか大好きな料理に大嫌いな食材が1つ混ざってるみたいな気分だ。
うぎぎぎっ……お前、邪魔だ!
私はギリギリと歯ぎしりしながら石を睨みつけた。
「おいおい。女の子がやったらいけないような顔になってるぞ」
そう言ってアウグスト君が私のほっぺたを指で揉みほぐすようにむにむにした。
「むぅ……むにむにするな!」
私はアウグスト君のその手をペシリと払い落としてから質問した。
「ねえ、結局あのムカつく石はなんなの? アウグスト君はここまで持って来た本人なんだから、何か知ってるでしょ?」
「いや、悪いが俺も知らねえ。隣村で運送屋から荷物を受け取った時にも特に説明されなかったし、ただの漬物石だとしか思ってなかった」
「アウグスト君はベテランの商人で、しかも商人ギルドの偉い人なんだよね?
なのに何もわからないの? 目利きには自信があるんじゃなかったの?」
私がジロリと睨むと、アウグスト君は肩をすくめた。
「うっ……耳が痛い事を言ってくれるぜ。だが言い訳をさせてくれ。
あれは素材として見れば本当に普通の石だ、宝石でも金属でも魔石でもない。それがあんな大きな魔力を放出するなんて普通に考えたらあり得ない事だ。
こういう不可思議な代物を調べるとしたら魔導師や錬金術師の担当分野だろう。
それを俺みたいな普通の商人に目利きしろと言われてもちょいと荷が重いぜ」
むぅ……普通の商人には目利きできないのか。
ん? でも、素手で魔物を殴り倒せるアウグスト君は普通の商人の内に入るのかな? 多分普通ではないと思うんだけど。
手にこんなゴツい拳ダコがある商人ってアウグスト君の他に見た事無いし。
私はアウグスト君の手の甲を指でチョイチョイと触ってみた。
うん。岩みたいにゴツゴツしてる。
「あー……何を考えてるのか何となく想像できるが、ここで言ってる普通ってのはそういう意味じゃあないぞ。魔法関係の知識や技術があるか無いかっていう話だ。
俺は一般に流通してるような量産型マジックアイテムくらいは一通り履修してるつもりだが、それ以上の専門知識は残念ながら持ってないからな。
……つうか魔力関係の知識や技術って話なら、むしろエルフ族の得意分野だろう。
お前さんこそあの石が何なのか見当がついたりしないのか?」
そう言って逆に私に聞いてきた。
むぅ……そう来たか。確かに魔法に関わる事はエルフの得意分野と思われてるよね。でも……
「……エルフと言っても色々いる。私は攻撃とか自己強化みたいに直接戦闘に使うような魔法が専門であって、知識とか技術とか鑑定系の魔法とかを期待されても困る!」
「う〜む……多分、大多数の奴は『精霊に仕えるエルフの巫女』って聞くと、知識とか技術とか鑑定系の魔法の方を期待すると思うんだが……。
実際は戦闘力特化で他は苦手ってのはある種の詐欺だよな」
うぐっ……詐欺とか言うな! 実は私もたまに夜中にベッドの中でふと、
『あれれ? 私って今日、何か巫女っぽい仕事したっけ?』
……って思うことがあるんだから。
人が気にしてる事を指摘するのはデリカシーが無いよ。
「むぅ……戦闘しかできなくても私は立派なモーリンの巫女だもん!
知識とかそっちの部分は誰か別の頼れそうな人に任せるからいいんだもん!」
「すまんすまん、冗談だ。ちょっと軽口を言っただけだからそんな膨れるなよ。
お前さんの言う通りだ。自分が苦手な部分で仲間に頼るのは悪い事じゃないさ。
例えば……ほら、見てみろよ。丁度良いタイミングでこういう分野に詳しそうな奴が来たぞ。存分に頼ってやろうぜ」
そう言ってアウグスト君がクイッと親指で示した先には……。
「ねえ、さっきこの辺りで大きな魔力が膨れ上がるのを感じたけど、何があったの?」
そこには様子を見に駆けつけて来たらしいヒースさんが立っていた。
「あっ、本当だ、丁度良い人が来た!」
「えっ? 丁度良いって何が?」
ーーーー
「……なるほど、事情はわかったよ」
簡単に説明するとヒースさんは納得したように頷いたあと、アウグスト君に話しかけた。
「でも意外だなぁ、コランバインなら荷物の詳細をメモして一緒に送るくらいの気遣いはすると思うんだけど……。
コランバインがうっかりミスをしたのか、それとも運送屋がどこかのタイミングで紛失したのか」
「そのどちらかなら多分後者だろう。担当業者の変更やら山賊の襲撃やら色々とゴタゴタしたからな。
まあその辺の確認と荷物の礼も兼ねてコランバインには手紙を書くつもりだから、その手紙の中であの石のことも尋ねてみるつもりだ。
だが手紙のやりとりにはそれなりの時間は掛かる。もしもヒースがあの石についてここですぐに調べられるっていうなら頼みたい」
「了解。僕も別に専門家って訳じゃないからどこまで調べられるかはなんとも言えないけど、試しにやってみるよ」
そう言ってヒースさんはモーリンに近づくと、一礼してから話しかけた。
「失礼いたします、モーリン様。宜しければ貴女が今抱きしめておられるその石を、少し見せて頂けませんでしょうか?」
その言葉を聞いたモーリンはヒースさんの方を向くと、何か考えるみたいに小さく首を右側にコテっと傾げた。
そしてそのまま何秒か考え込んだ後、『これ?』って言う感じで石を指差して、今度は逆に左側にコテっと首を傾げた。
……モーリンの動きって相変わらず可愛いなぁ。抱きしめたい。
ヒースさんが「はい」と言って頷くと、モーリンもコクコクと頷き返して、石をヒースさんの方に差し出した。
なんか、飼っている猫を『可愛いでしょ? 撫でてみる?』って言って差し出すみたいなちょっと自慢気な仕草に見えて、そんな所からもモーリンがあの石を大事にしている感じが伝わってきてちょっと胸がモヤモヤする……。
「見た感じは本当に普通の石……ああ、でも確かに妙に魔力が多いね。よし、感知魔法で魔力を詳しく調べてみるか」
そう言ってヒースさんは石に手をかざして目を閉じて感知魔法を発動させると、そのまま5秒くらい黙っていた。
「……ありがとうございました。もう結構です」
ヒースさんはその言ってモーリンにペコりと頭を下げてから私の方に戻ってきた。
「ヒースさん。何かわかった?」
私が尋ねると、ヒースさんは小さく頷いた。
「かなりの魔力量だね。しかもただ魔力を含んだ石ってだけじゃない。
アレは……いや、アレなんて言い方をしたら失礼だね」
ヒースさんはちょっと深刻そうな顔でそう前置きしたあと、更に説明を続ける。
「人間……ああ、ここで言う人間っていうのはエルフや獣人なんかも含めた広い意味での人間族全般の事ね? その人間の魔力と、自然物に宿っている魔力は性質が違うんだけど、この石の魔力はその中間の性質を持っているように感じるんだよね。
そして、今まで僕が見たことがある中でその両方の性質を持っているのは……精霊か妖精くらいだね」
「えっ……精霊か妖精? でも明らかに妖精ではないよね? って事は……」
「うん。精霊……にしては魔力が小さいけど、限りなくそれに近い存在だと思う」
それを聞いて私の頭にガーンっと衝撃が走った。それこそ頭に石がぶつかったみたい。
えっ? せっ、精霊? この石が!?
むぅ……困った。コイツは私からモーリンを奪おうとする憎たらしい宿敵だ。
もしこの石がただの魔物だって話なら心置きなく叩き壊して解決だったのに、精霊だっていうならそんな事するわけにいかない。
だって精霊はエルフにとっては最大限の敬意を捧げるべき存在だもん。
……あ、あれ? でもそしたら私はこの憎たらしい石に最大限の敬意を捧げなきゃいけないって事になるの?
むぅ……それは嫌! だって、コイツは私からモーリンを奪おうとする敵……!
でもでも、精霊はエルフの信仰対象で私にとっても小さな頃からの憧れで……!
私の心の中で敵意と敬意がグルグルと回って、だんだん頭もグルグルしてくる。
「……ねえ、ヒースさん。今からでもあの石、やっぱり精霊じゃなくて、魔物か何かだったって事にならないかな? 今すぐ破壊しなきゃいけないような、とびっきり邪悪なヤツって事に。
そしたら迷いなく『えいやっ!』ってヤレるんだけど」
「いや、確かに絶対に精霊だとは断言できないけど、少なくとも邪悪な存在じゃないから『えいやっ!』ってやったらダメだよ?」
そう言ってヒースさんは、ちょっと困ったように笑った。
「で、でもほら、ヒースさんの鑑定が間違っていて、実はあの石は伝説の魔王だったって可能性も……」
「無茶苦茶言うなぁ……」
横で聞いていたアウグスト君が呆れたように呟いた。
むぅ……無茶苦茶じゃないよ。少なくとも私にとってあの石の存在は魔王が現れたくらいの脅威だ。
「うーん……絶対に無いとは言えないけど、流石に魔王よりは精霊の可能性のほうがずっと高いと思うよ?
それにほら、モーリン様を見てごらん?」
ヒースさんにそう言われてモーリンの様子を見る。
モーリンは石を胸元にギュっと抱きしめたまま、その場でコマみたいにクルクル回っていた。
……何をしてるかはわからないけど、とりあえずモーリンの機嫌が良いのは伝わってくる。
「なんで回転してるのかはちょっと分からないけど、もしあの石が邪悪なものならモーリン様はきっとあんな事してないですぐに破壊なり封印なりしてると思うよ。それをしてないってことはあの石は危険なものではないんだと思う」
ヒースさんがそう言うと、アウグスト君も頷いた。
「だな。モーリン様は表情を変えないから感情を読み取るのが難しいが、俺の気のせいじゃなければ楽しそうにはしゃいでいるように見える」
「むぅ……モーリンの機嫌が良いのは2人に言われなくてもわかってる!
モーリンはあの石が来てからすごく機嫌が良さそう! だから私はムシャクシャしてるの!」
ヒースさんもアウグスト君も別におかしなことは言ってない。
でも、イライラしていた私はつい八つ当たりみたいに怒鳴ってしまった。
そしたらアウグスト君は一度キョトンとしたあと、ニンマリと生暖かく笑った。
「ん? おいおい、もしかしてあの石の正体が邪悪かどうかなんて関係なくて、単にあの石がモーリン様に気に入られた事に嫉妬して腹立ててるだけかよ。
心情としては理解できなくもないが……へへっ、やっぱりそういう所はまだ子供だなぁ」
うっ……アウグスト君に本音を言い当てられた。
隠せるとは思ってなかったし本気で隠そうともしてなかったけど、実際に言い当てられると凄く恥ずかしい……。
「う、うるさい! 私だって嫉妬したくてしてるワケじゃないもん! したくもない嫉妬をさせるあの石が全部悪いんだよ! そう、つまりあの石は邪悪な存在だって事! だから破壊して良いよね?」
「いや、良くねえよ。根拠も無く感情だけで邪悪な存在って決めつけて破壊って、お前はどこの暴君だよ」
むぅ、暴君とは失礼な。私はモーリンの巫女だよ。
アウグスト君に一言言い返そうとしたそのとき、ヒースさんが私の肩をポンポンと優しく叩いた。
「まあまあ落ち着いて。……言ってる事は滅茶苦茶だけど、まあフリージアとしては心穏やかじゃ居られないってのは理解したよ。
これは冷静になるためにも一旦距離を取るべきかもね。今日1日くらいはモーリン様のお世話はトレニアかローズにでも代わってもらって、フリージアはムスカリの家にでも泊まって……」
「わ、私にモーリンから離れろって言うの!? ダメ、ムリ! そんな事したら私、干からびて死んじゃうよ!」
「でも今のフリージアは苛立ちを抑えられない状態なんでしょ?
あの石は精霊様かも知れないんだから、エルフとしては敬意を忘れてはいけない。ましてや精霊の巫女である君が他の精霊様を攻撃するなんて大問題だ。
その辺りは理解できてるかい? 本当に大丈夫? 苛立つ事があっても乱暴な事をしないって約束できる?」
ヒースさんはよくやるいつもの苦笑いの表情だけど、その目はいつもより真剣だ。……うん、多分これは言う事を聞かなかったら本気で怒られるやつだ。
ヒースさんって怒ったら凄く怖いんだよなぁ。滅多に怒鳴らないし暴力も振るわないけど妙な凄味があるんだよね。正直、兄さんより怖い。
「むぅ……絶対に乱暴な事をしないって約束は……多分できない。
できるだけ我慢はするつもりだけど、どうしてもカッとしちゃう時があると思う。
……でも、モーリンと一緒に居れないのはもっと嫌」
「じゃあどうする? あれも嫌これも嫌って言ってるだけだと話が進まないよ?」
ううっ……どうしよう……? こんなに困ったの生まれて初めてかも知れない。
えーっと、えーっと…… そうだ、思いついた!
「ねえ、私が暴れられないようにグルグル巻きに縛って、それでモーリンが見えるところにぶら下げておいてくれないかな?
それならモーリンの側に居られるし、カッとなってつい石に殴り掛かったりもしないし両方解決だ!」
「ええっ!? 自分が縛られて吊るされて、それで解決でいいの!?」
「うん。妥協点」
「アホか! その状態じゃモーリン様のお世話ができないだろうが。
ただ天井からぶら下がってるだけで巫女を名乗るつもりかよ?」
アウグスト君にほっぺたを引っ張られた。
むぅ、痛い。
「うーん……縛ってぶら下げるのは論外だけど、それをやっていいってことは、暴れそうな時は強引に止めてもいいって事だよね?
それなら……」
ーーーー
「お待たせ、君が暴れないように見張ってくれる人達を連れてきたよ」
一度街に戻ったヒースさんは、私もよく知っている人達をぞろぞろと連れて戻ってきた。
その中の1人、トレニアがスッと近づいて来た。
「事情は聞きましたわよ。……あの石が精霊様ですか?」
「むぅ、一応そういう事になってるけど……でもまだ精霊と決まったわけじゃない。モーリンを狙う邪悪な魔王の可能性も、まだ少しくらい残ってる」
「お姉様を狙うライバルが増えたことで面白くないのはよく理解できますわ。それについては私だって思うところがありますから。
ですが精霊様への敬意を忘れてはエルフとして失格ですわよ?」
「むぅ……」
トレニアの言う事が正しいのはわかってる。
わかってるつもりなんだけど……。
「頭では理解してるけど心が納得しきれていない……。そんな顔をしてるわね」
そう言ったのはローズさんだ。
前は何かと私の様子を見に来てくれてたけど、労働者向けの酒場を始めてからそっちが忙しくなったからこうして家に来てくれるのは久しぶりだ。
……あれ? 今くらいの時間ならもう酒場の準備をしている頃だよね?
「お店のことが気になる? 私が個人でやってる店だから休もうと思えば自由に休めるのよ。
うふふっ、楽しみにしてくれているお客さんには申し訳ないけど、新しくこの街にいらっしゃったっていう石の精霊様にもご挨拶したかったしね」
そう言ってローズさんはモーリンと、そのモーリンの腕の中の石に挨拶をし始めた。
ローズさんには昔からお世話になっていて、私にとってお姉ちゃんみたいな人だから、私がついカッとなってもローズさんが止めてくれれば冷静になれるかも知れない。
「モーリン様のため。そして新たな精霊様のために力を貸すというなら光栄なんだが、詳しく聞いてみれば元はフリージアのワガママのせいだという話ではないか。
まったく……あまり周りに迷惑かけるなよ」
腕組みをしながら私をジロリと睨んでそう言ったのは、兄さんだ。
兄さんは色々と口うるさいし脳筋で暑苦しいけど、頼りにはなる。
トレニアもローズさんも兄さんも、それぞれみんな頼りになるし信頼もできる人ばかりだ。ヒースさんがこの3人を呼んだのは納得だ。
でも……。
私は残りの1人を見る。
「むぅ……コイツだけは納得いかない」
「おいおい嬢ちゃん、やけにイヤそうな顔をしてるじゃねえか。
ひでえ話だぜ、オレは嬢ちゃんのワガママのためにここに来る事になったってのによ」
口元をニヤニヤさせながら「ああ、嬢ちゃんに嫌われて悲しいぜ」なんて嘘くさいことを言ってる悪人面の男……
ロドルフォだ。
あの石という新しい宿敵が現れたから一時的に忘れかけてたけど……
むぅ! こうして顔を合わせるとやっぱりコイツも腹が立つ!
「ヒースさん! なんでコイツを連れてきたの?」
「トレニアとローズには精神的に君を止めてもらうつもりだけど、それで止まらなかったときのために物理的に止める役が必要でしょ?
もし君が本気で暴れたら、ロドルフォとムスカリとアウグストの3人の中から2人はいないと止めるのは難しいと思ったから呼んだんだ」
「その3人の中から2人いればいいんでしょ? ここにアウグスト君と兄さんがいるんだから、ロドルフォはいなくても……!」
「あー……悪い。俺はそろそろ帰らないとマズイんだ。昨日まで街を離れてたから、やらなきゃいけない仕事が溜まってるんだよ」
そう言ってアウグスト君は謝るように私に片手を軽く上げた後、荷物を片付けて、バタバタと駆け足気味で帰ってしまった。
本当に忙しかったみたいだ。これは呼び止めたらダメそうだよね。
「つうことだ。アウグストの旦那じゃなくて悪いがしばらくはオレが嬢ちゃんのことを見張らせてもらうぜ」
ロドルフォに見張られるのか……。
むぅ、考えただけで背筋がゾワゾワする……!
「まあ見張るっつっても近くでジロジロと見たりはしないし、同じ部屋で寝たりはしないから安心しろ。嬢ちゃんはともかく他にも若い姉ちゃんが2人もいるからな。
いくらオレが育ちの悪い無作法者だっつってもそれくらいの配慮はするぜ」
「むぅ、それでもっ……!」
「フリージア!」
私はロドルフォに文句を言おうとしたけど、兄さんに止められる。
「文句ばかり言ってないでいい加減に妥協しろ。本当ならトレニアとローズが来ている時点でその2人にモーリン様のお世話を任せて、お前を役目から外してもいいんだぞ?
それなのに見張りをつけてまでお前をここに残しているんだ。お前のワガママのためにこれだけの人間を巻き込んでいるという自覚を持て」
「む、むぅ……」
兄さんに真顔でお説教されて、私は引き下がった。
……わかってる。兄さんの言う通り、私があの石への対抗心を我慢できていればみんながわざわざ見張りに来なくてもよかったんだから、迷惑をかけてる自覚はある。
もうこれ以上迷惑をかけるわけにいかないから、我慢して大人しくしないと。
私はチラリとロドルフォを見る。……なんか小馬鹿にするようにニヤリと笑われた。
……ムカつく。
次は石の方を見る。……なんだか困った子供を見る大人みたいな生温かい視線を向けられている気がする。
……ムカつく。
うぐぐぐぐっ…… 我慢、できるかなぁ?