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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
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後日談 16話 運命の再会からのマイナンバーカード

お待たせしてすみません。

 どうもこんにちは、木です。


 今、私はとてもハッピーな気分で胸元に漬物石を抱き抱えています。

 といっても、別にこの漬物石の抱き心地が超絶気持ち良いとかいう理由ではありませんよ? 触った感触の話ではなくて精神的にハッピーなんです。

 なぜかと言うと、実はこの漬物石の正体は……なんと! 私が前世で日本に暮らしていた頃のお友達である、稲穂ちゃんなんですよー!

 もう会えないと諦めていたお友達をまたこうやって抱っこできているなんて……んー、とても幸せですねー。


 これが稲穂ちゃんだという事は誰かが教えてくれたわけではありませんけど、不思議と本能的に稲穂ちゃんだとピンときました。

 そしたらもう居ても立ってもいられなくて、とっさに人間形態に変身して抱き上げてしまいましたよ。

 稲穂ちゃん、稲穂ちゃん、お久しぶりですー。

 

 ハロー・イナホ・マタ・アエテ・メッチャ・ハッピー!


 私は今の気持ちを伝えようと、念話で稲穂ちゃんに話しかけました。

 ですが…… おや? 返事がありませんねー? 聞こえなかったのでしょうか? それとも恥ずかしがってたりします?

 んー、今度はさっきよりも聞き取りやすいように気をつけながら、もう一度話しかけてみましょうかね?


 そう思ったところで、驚きと心配をブレンドして炭酸水で割り、仕上げにライムを1絞りしたような表情のぺルルちゃんが私の顔の前に飛んで来ました。



 「ちょっ……ちょっとリン! 突然変身したかと思ったら漬物石に飛び掛かったりして、一体何事よ!?」


 ハッとして周りを見るとぺルルちゃんだけではなく、ちくわちゃんやワイルド商人さんも困惑したように私の様子を伺っているようです。


 あっ……そ、そうですね。私にとっては『全米が泣いた!』というキャッチコピーを付けてもいいくらいの感動の再会シーンだったんですけど、周りから見たら私が突然人間形態に変身してダッシュして漬物石を抱き上げたという事しかわからないのですから、何事かと思いますよね。


 皆さん、ご心配をおかけしてごめんなさい。ちゃんと事情の説明を……と言いたいところなのですが、言葉が通じないちくわちゃんとワイルド商人さんに説明するのは中々に苦戦しそうですし、とりあえずは先にぺルルちゃんだけにでも説明しておきましょうか。



 ツケモノストーン・is・ワタシノ・フレンズ。リャクシテ・ツケモノフレンズ!



 「リン……あなたが誰にでも友好的なのは知ってるし、そのスタンスはとても良いことだと思うわ。だけど漬物石まで友達と呼ぶのは流石に……ちょっと引くわ。

 あと、どうでもいいけどわざわざ変な略しかたしなくていいわよ」

 


 おや? なんかだ可哀想なものを見るような目で見られてます? んー、なんかちょっと誤解されているみたいですねー。

 なにも私は漬物石と友達になろうとしているのではなくて、前世の友達が漬物石の姿になっている、と説明しているのですけど……。

 上手く伝わっていないようですので、もう一度説明してみましょう。


 ツケモノストーン・is・ニホン・コウコウ・ドウキュウセイ!

 ツマリ……ツケモノフレンズ!


 「いや、ツケモノフレンズはもういいってば。それにしても……同級生? 高校の? ああ、忘れてたけどリンって元は高校生なんだっけ? 知っていたはずなのにすっかり小学生だと思い込んでたわ。

 ……でも、リンの日本での友達だっていうのが本当なら、この石も転生者だっていう事? うーん、アンタを疑うつもりは無いけど……本当に? 石が?」


 

 どうやらぺルルちゃんは半信半疑のようですねー。 ……ところで、もしかしてですけど今までずっと私の事を小学生だと思ってました? 

 私が小学生っぽいのなんて、せいぜい顔つきと身長と胸のサイズと学力と……おや? 冷静に考えると、ほぼ小学生ですね?

 ……おっと、今は私が小学生っぽいかどうかを議論するよりも、この漬物石が稲穂ちゃんだということをぺルルちゃんに証明するのが先ですね。

 私は稲穂ちゃんで間違いないと信じているのですが、他の人は漬物石が元・日本人だと言われても、すぐに信じられないのは仕方ないですし。

 客観的に見ても信じてもらえるように証明できればいいんですけど。……ふむふむ、誰もが納得する身分証明の方法と言えば…… んー……。


 ああ、身分証明書ですね!


 私と違ってしっかり者な稲穂ちゃんは、どこかに出かける時には万が一に備えて身分証明書を持ち歩くタイプなんですよ。

 ちょっとした遠出でも学生証を持ち歩いていたくらいなのですから、異世界なんていうめっちゃ遠い場所まで来ているからには、きっと学生証を通り越してマイナンバーカードとかを持って来ているのではないでしょうか?

 それを提出して貰えばぺルルちゃんにも信じてもらえると思います!

 


 イナホ・プリーズ・マイナンバーカード・OK? ノットOK? ドッチヤネン?


 私は稲穂ちゃんに向けて念話を送りました。……ですが今回も返事がありません。


 1回だけでなく2回、しかもさっきより強くハッキリと念話を送ったので聞こえていないとは思いにくいです。それなのに返事が無いなんて…… 

 も、もしかして……無視されちゃってますか!? えーっと、えーっと……稲穂ちゃんの機嫌が悪くなるような心当たりといえば……

 あっ、わかりました! きっと以前、稲穂ちゃんのプリンに勝手に醤油をかけてウニの味に変えた事をまだ怒ってるんですね?

 ごめんなさい! 謝りますから! 今度はウニにカラメルをかけてプリン味にして返しますから、許してくださいよ~!



 私は稲穂ちゃんの機嫌を直そうと思って、赤ちゃんをあやすように胸に抱いたまま上下に揺らしたり、高い高いをしたりしてみました。

 すると、そんな私にぺルルちゃんが声をかけて来ました。


 「ねえ、もしかしてその石と念話しようとしてる? でも多分ダメよ。

 忘れてるかも知れないけど、今こうやって私とリンが念話で話せてるのは私の方から念話出来るようにチャンネルを合わせているからよ。

 リンはすでに合っているチャンネルに声を送ることは出来てるけど、自分から念話のチャンネルを合わせる技術は無いでしょう?」



 そ、そうでした! ぺルルちゃんとは頻繁にお話ししていたから念話が出来ている気なっていましたけど、よく考えたら念話は私のスキルではなくて、あくまでもぺルルちゃんのスキルでした!

 うう…… では、せっかく稲穂ちゃんと再会できたというのに、お話しできないということでしょうか?


 ……いえ、まだ諦めては行けません! めっちゃ疲れるから今まで数えるほどしかやった事ありませんが、魔力を消費しまくれば声を出すことも出来ます!

 多分、4~5文字くらいしゃべったら倒れてしまうと思いますが、ここは根性を見せる場面ですよね?

 なんとかして『また会えてハッピーです!』という気持ちくらいは伝えたいです。 ……あっ、それだと4~5文字では足りないですね。

 では短縮してそれをどうにか5文字くらいにするとして……『またッピー』とかですかね? ですが果たして『またッピー』で意味が通じるでしょうか?

 いいえ、稲穂ちゃんならきっと、私の気持ちを読み取ってくれるはずです! そう信じて『またッピー』で勝負に出ます! ファイナルアンサー!


 私はぐぐっとお腹に魔力を込め始めました。 ぬぬぬぬぬっ……! 


 「ちょっとストップ! あんた、もしかして声を出そうとしてない? 友達と話したい気持ちは理解できるけど、無理をするのはやめなさい!」


 怒られてしまいました。……うう、ごめんなさい。



 「はあ……仕方ないわね。その石と話したいなら私が念話で通訳してあげるわ。……ただ、石に対して念話を使った事なんて無いから成功するかは分からないわよ?

 で? 何を伝えればいいの?」

 


 ありがとうございます! それではぺルルちゃんの厚意に甘えさせてもらって、稲穂ちゃんへのメッセージを伝えてもらいましょう。

 それでは、えーっと……


 マイナンバーカード・テイシュツ・オネガイ・プリーズ。



 「はっ? マイナンバーカード? なにがどうしたらそんなメッセージを伝えるって結論に? ……ああ、なんとなく分かったわ。

 多分、この石が本当に日本から来た鈴の友達だと証明して、それを私に信じさせたいって事ね」


 おお、わかってくれましたか! 流石ぺルルちゃんです!

 私のアイデアを理解してくれたはずのぺルルちゃんでしたが、その表情は『もう、相変わらずバカね』とでも言いたそうなものでした。


 「もう、相変わらずバカね」


 あっ、本当に言われました。



 「まず、荷物を持ったまま転生なんてできないし、もしも持って来れたとしても日本の身分証明が異世界で使えるわけないでしょ?

 それに仮に使えたとしても前世の身分証明書で転生後の身分の証明はできないわよ。魂はともかく体は完全に別モノなんだから。

 そもそも身分証明書の提出なんて遠回りな事しなくても、これから私が念話するって言ってるのよ? だから私が直接本人に確認するわよ。

 念話はお互いに言語が通じる相手同士でしか成り立たない。だから日本語の念話が通じるなら、とりあえず転生者だって事は確認できるわ。

 で、鈴の友達なのかどうかって部分の確認は会話の中でする感じになるわね」



 おお……正論パンチが流星の如く飛んで来ます。これぞぺルル流星拳。

 ですが言われてみればつくづくその通りですねー。ということで、ここはぺルルちゃんにお任せするとしましょうか。


 ぺルルニ・オマカセー。



 「日曜お昼のバラエティみたいに言わないでよ。……まあいいわ、そういう訳だからちょっと話してみるわね」


 


 ーーーー セリーナ視点




 鈴……やっと会えた。

 黒かった髪の色は緑色になっているし肌の質感が少しだけ作り物っぽくなってるけど、私の記憶にある姿とほとんど変わっていないわ。

 相変わらず小学生かと思うくらいに小さいわね。……だけどそんな小柄な鈴よりも私の方が今は小さくなってるだなんて…… うふふ、なんだか変な感じ。


 今、私は鈴の胸の中に抱き抱えられている。

 石と木。お互いに血の通わない体のはずだけど、こうしていると不思議とあの頃と変わらないぬくもりを感じるわ。

 鈴……鈴……。私達、本当に再会できたのね。


 ……まぁ、贅沢を言えばぬか漬の樽の上に乗って登場するなんてマヌケな状態じゃなくて、もっとムードのある形で再会したかったけどね。


 

 ああ……話したい事が山ほどあり過ぎて何から話したらいいか分からないわね。 でも、今は鈴と話せるなら内容なんて何でもいいわ!

 そう思って鈴に精霊語で話しかけようとしたんだけど、なんだか上手く行かない。

 精霊語は自分の魔力と相手の魔力を触れ合わせてそこから自分の想いを送るっていう要領なんだけど、その作業が上手く出来ないみたい。


 すぐに理由は想像できた。

 魔力の細かな操作にはちょっとコツがいる。慣れたら別なのかも知れないけど、少なくとも今の私にとってはかなりの集中を要する作業だ。

 だから、鈴と再会できた感動とか喜びとかで心が高揚し過ぎている今の精神状態だと難しいんだと思う。


 心を落ち着かせれば大丈夫だと頭では理解しているけど、その心を落ち着かせるっていうのがこの状況ではなかなか難しいわ。上手く出来ないから焦って、その焦りのせいで余計に上手く行かなくなるという悪循環でイライラしそう。


 ……自然に心が落ち着くまで待つしかないか。本当は1分1秒でも早く鈴と話したいんだけどね。


 そんな事を考えていたその時、突然知らない女の子の声が聞こえた。



 「ねえ、そこの……えーっと、漬物石さん、って呼んでいいのかしらね? ……まあいいわ、とにかく、聞こえる?」


 えっ!? ……日本語!?

 驚いて声の聞こえた方を確認すると、そこに居たのは少し気の強そうな目付きをした美少女だった。

 美少女とは言っても明らかに普通の人間ではない。身長が30センチあるか無いかの小さい身体に生えた羽を羽ばたかせて飛んでいる。

 きっとこの子は妖精ね。いかにも漫画やゲームに出てくる妖精のイメージそのままって感じだわ。



 「……ねえ、聞こえてるの? もしもあなたにこの声が聞こえていて、そして理解できているなら、あなたが何者なのか名乗ってくれない?

 念話のチャンネルは合わせてあるから心の中で言葉を強くイメージしてくれれば私に伝わるわ」


 念話? 精霊語とは違う言語なのかしら。 言葉を強くイメージすれば伝わるって言ってたわよね、だとすると……えーっと、こんな感じかな?


 ……聞こえるわ。私の心の声は聞こえてる? 私は稲穂。そこに居る毛利鈴の友達よ。この世界ではセリーナと名乗る事にしたからそっちで呼んで。



 「聞こえるわ! ……驚いた、日本語が通じるって事は本当に転生者なのね。しかもモーリンって名前ならならまだしも、転生前の毛利鈴って名前を知ってるってことは本当に前世からのリンの友達で間違いなさそう。

 ……でも、地球からこの世界へ転生すること自体がほぼあり得ないのに、こんな短期間に……しかも友達同士が続けてなんて、そんな不自然な事が……?」


 ああ、やっぱり普通なら地球の死者はこの世界に転生しないのね。

 ねえ、オベロンっていう妖精を知ってる? 私はその妖精さんに転生させてもらったのよ。


 「オベロン様に? …それならこの世界に転生できてもおかしくないけど…… でも、どういう経緯でオベロン様に転生を手配してもらうなんて事に?

 ……って、いけないいけない。聞きたい事はたくさんあるけど、まずはあなたが本当にリンの友達だと確認できたことをリンに伝えてあげないと」


 ちょっと待って。あなたと話してるうちにだいぶ心も落ち着いてきたし、そろそろ精霊語も使えると思うから鈴には自分で挨拶するわ。


 「えっ? あなた、見たところまだちゃんとした精霊にもなりきってないみたいなのに、もう精霊語を使えるの? 凄いわね。 あっ、だけど……」



 妖精さんは私が精霊語を使えることを知って驚いたみたい。……最後に何か言いかけていたようだったけど、魔力の操作に集中していたからよく聞き取れなかった。

 ごめんなさい、話を途中で終わらせた形になって申し訳ないとは思うけど、今はまず鈴と話させて貰うわ。


 私は出来るだけ穏やかに、そして精密に魔力を操る。

 すると、さっきは上手く出来なかったお互いの魔力を触れ合わせるという工程がスムーズに成功して、鈴の心と繋がったように感じた。

 ……いける。今なら多分、鈴に精霊語が伝わるはずだ。

 私は、鈴に心で語りかけた。


 鈴……私よ。やっと会えたわね……これからまた一緒にいられるわ。



 私のその声が届いたのか、鈴は嬉しそうに私を胸にギュッと強く抱き締めてクルクルと回り始め、しばらくすると私を抱いたままパタリと倒れてそのまま地面をゴロゴロと転がりだして、最後にはポンっと頭に花を咲かせた。

 

 あははっ、喜んでいるみたいね。鈴って基本的に大人しくてボーっとしてるけど、たまにこんな風に全身を使ってリアクションしたりするのよね。

 いえ、流石に前世だと頭のてっぺんに花は咲かせなかったけどね。でも全体的な動作や雰囲気は本当に変わっていない。……懐かしいわ。

 鈴と会えなくなってから日数としては1年程度しか経ってないはずなのに、本当に……懐かしい。


 ……でも、鈴の方から何も言ってこないのはおかしいわね?

 この子が無口なのは知ってるけど、久々に再会したんだから今くらいは声を聞かせてくれても良いのに……。


 そう思った私は、「何か声を聞かせて」と精霊語で鈴に言ってみたけど、やっぱり返事は無かった。

 あら? 鈴……なにか困っているよう見えるわね。どうかしたのかしら? 


 その時。体をツンツン、っとつつかれた感覚があり、そちらを見るとさっきの妖精さんがいた。

 ……そして彼女は苦笑いしながら驚きの事実を教えてくれた。



 「リンは精霊語……使えないのよ」


 ……はっ?

 だって、鈴って私みたいな半端者じゃなくて、一人前の精霊なのよね? 魔法とかも私より出来るのよね? なのに精霊語はダメなの!? 


 「聞く分にはちゃんと聞こえてるんだけど、しゃべれないらしいわ。

 以前、精霊の女の子と出会ったことがあるんだけど、その子との会話もずっと一方通行だったみたいだし」



 以前出会った精霊って、きっと私が旅の途中でお世話になったあの精霊さんよね? 鈴をおかあさんって呼んでたあの子。 

 ……ああ、そう言えばあの子も「おかあさんはしゃべってくれない」って言ってたわね。あれって鈴が無口だって事を言ってると思ったんだけど、そうじゃなくて本当にしゃべれなかったのね……。

 

 うん。…なんかこう、大事な場面で残念な感じになるこの展開……。鈴と一緒にいるんだなー、って実感するわね……。



 「……えっとさ、せっかく友達同士が再会できたのに会話できないなんて残念だろうけど、気を落とすんじゃないわよ?

 リンが精霊語を使えるようになるか、あんたたち2人のどっちかが念話を使えるようになるかすれば話せるようになるはずだし、それができるようになるまでは……まあ、私がリンの言いたい事を通訳してあげてもいいし……。

 あっ! でも会話するたび毎回通訳しろってのは流石に断るわよ? あくまでも時々よ?」


 妖精の子が、私にそんな言葉をかけてくれた。

 少しぶっきらぼうな言い方ではあるけど、私が鈴と話せないことを悲しんでるんじゃないかと思って、気を遣ってくれているのが分かる。


 ふふっ、いい子ね。……でも心配しなくていいわ。鈴の声が聞けないのは確かに残念だけど、鈴がしゃべらないのは日本にいる頃から慣れてるから雰囲気や身振り手振りで言いたい事を理解する自信はあるわ。

 ……でも、通訳してくれるのは助かるし、気遣おうとしてくれる気持ちも嬉しいわね。


 だから私は彼女に念話で「ありがとう」と素直に感謝を伝えた。

 すると彼女はなぜかハッとして、何かとても重大な事に気づいたかのように深刻そうな表情を浮かべた。


 「……ね、ねえ、セリーナって言ったけ? 気のせいかも知れないけど、あなた……」


 え? 私がどうかした?

 彼女の言葉の続きが気になったのだけど、そこで会話は中断される事になった。

 後ろから突然ニュッと伸びて来た手が、私を鷲掴みにしたからだ。


 ちょっ……! いきなり誰っ!? まさか、魔物!?



 「あっ……ヤバ……」


 妖精の女の子は、スゥッと顔色を青くしながら呟いた。 ……え? いったい何がどうしたって言うのよ?

 私は妖精さんの見つめる視線の先を辿って……


 そして私を鷲掴みしている犯人の姿を確認した。



 その犯人は鈴と同じくらい小柄で、そしてとても可愛い顔をしていて……だけどその瞳の奥にはドロリとした狂気を感じさせている、エルフらしき女の子だった。

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