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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
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ストーンライフ! 8話 あの子の住む街へ

 鈴が住む街へ向かうという馬車の荷台に積まれ、荷物として運ばれてそろそろ1週間が過ぎたかしら。

 最初のうちは特に問題の無い旅だったけど、昨日、ある山道で遭遇した盗賊から逃げた時に馬車の車輪の辺りがおかしくなってしまったみたいで、それからスピードは出ないわ変な音はするわ激しく揺れるわで大変だったわ。

 それでも小まめに応急処置をしながら進み続けることで、どうにか小さな村までたどり着いたの。



 私たちが村の入り口に近づくと、それに気づいた数人の村人が心配そうな顔をしながら駆け寄って来た。

 まあ、車輪の回らない馬車を無理矢理ズルズルと引っ張っていたら、そりゃあ何事かと思うわよね。


 運送屋のおじさんは、近づいて来た村人となにやら話し始めた。

 言葉が分からないから内容は想像になるけど、状況から考えると多分簡単な事情説明をした後、馬車の修理ができる店とか宿泊施設とかの場所を尋ねているんでしょうね。

 

 しばらく会話を続けた後、村人は私たちを村の奥にある建物の前まで案内してくれた。


 周りにある他の民家と比べるとかなり大きいし、入り口の横には看板があるからお店か何かだと思う。

 看板に書いてある文字は読めないけど、文字の下にはベッドらしき絵が描いてあるから多分宿屋かな。


 馬車の近づく音に気がついたのか店の中にいた店主らしき男性が外に出てきて、ここまで案内してくれていた村人の1人と何かを話した後に、今度は運送屋の護衛の人に話しかけた。

 2~3言ほど会話した後に護衛の人が紙の束にサインすると、それを確認した店主らしき人は笑顔で頷いた。


 今のは宿泊手続きでもしていたのかしら。サインを確認して笑顔で頷いたって事は泊めてもらえるって事よね? 問題は山積みだけど、泊まる宿が確保できたのは良かったわ。

 みんな何日も旅を続けてきた上に盗賊にまで襲われたんだから心身共に疲れているでしょうし、そろそろちゃんとしたベッドで安んでもらわないと体調が心配だしね。

 壊れた馬車の修理とか運び途中の荷物をどうするかとか、色々と心配な事も多いでしょうけど、今晩くらいは何も考えずにぐっすりと寝てほしいわ。





 村の宿に宿泊してから数日経った。


 まあ正確に言うなら宿に泊まってるのは運送屋のみんなだけで、私は他の荷物と一緒に宿屋の裏にある倉庫に入れられてるんだけどね。


 うーん……私が荷物扱いされるのは、まあ仕方ないからそれはいいんだけど、ずっと倉庫の中にいるから運送屋のみんなが今何をしているのか分からないのはちょっと困るわね。

 そろそろ馬車は修理できているのかしら。それともまだ?

 ろくに動けもしない私にできることはほとんど無いだろうけど、せめて状況を把握するくらいはしておきたいわ。


 理屈は不明だけど私には透視能力みたいなのがあるから、それで壁を透視してみんなの様子を見ようともしたけど、なんとか倉庫の外までは見えたけど流石に宿の中まで見る事はできなかった。

 倉庫の壁が厚いからか宿まで距離が離れてるからか、それとも両方なのか分からないけど、できないものは仕方ないか。

 運送屋のみんなも料金を受け取って仕事としてやっていることだから何かの手は打っているはずでしょうし、流石にそろそろ進展があると信じて大人しく倉庫で待つとしましょう。

 


 


 そしてその翌日。

 久しぶりに倉庫の扉が開かれた。


 扉の前にいるのは宿屋の主人と運送屋のリーダーと御者のおじさんと……あれ? あの護衛の人がいないわ。

 代わりに……っていう言い方は違うかもしれないけど、最後尾に1人見たことの無い男の人が立っていた。


 ベテランのワイルド系アクション俳優みたいな男性だ。体格がガッシリしていて眼光も鋭いし、なんだか見るからにただ者じゃない雰囲気ね。


 ワイルド系の男性は倉庫の中を覗きながら他の人たちと少し話しをすると、この場から一度立ち去り、しばらくすると馬車を連れて戻って来た。

 これはこのワイルド系の男性の馬車なのかな? この前まで乗っていた運送屋の馬車よりも大きくて頑丈そうだわ。


 男性が馬車を倉庫の入り口の前に停めて号令を掛けると運送屋の2人、更に宿のご主人まで参加して荷物の積み込みが始まった。

 

 運送屋の馬車を修理して、直ってからまたその馬車で出発するのかと思っていたんだけど、そうじゃなくてこのワイルド系の人の馬車に乗り換えることにしたみたいね。

 まあどんな形であれ旅が再開できそうで良かったわ。

 

 ここから鈴のいる街まで、あとどのくらいかしら? きっとそんなにかからないわよね。……早く会えるといいな。



 私は鈴と会うときの事を考えて胸をわくわくさせながら、荷物の積み込み作業を眺めていた。


 うわっ、あのワイルド系の人って凄く力持ちね。中身がぎっしり詰まっている木箱を、まるで空の箱みたいに軽々と運んでるわよ。

 凄いわね、フォークリフトみたい。それにあの人が凄過ぎるから目立たないだけで他の人達の手際も悪くないし、これは思っていたより早く作業が終わりそう。



 作業は最初に想像していたよりもサクサクと進んで行き、気がつけば残っているのは漬物らしき保存食が入ってる樽と、それと(わたし)だけだ。


 そしてワイルド系の人が漬物樽に手を伸ばす。

 だけど彼は樽を持ち上げようとしていた手を突然止めて、怪訝そうな表情で樽を覗き込んだ。

 どうかしたのかしら、その樽になにか変な事でもあるの?


 ……あら? よく見たら樽に漬物石が載っていないわ。確か馬車で運んでる時はあったはずだから、この倉庫にしまう時にどこかにやったのかしら。

 

 私は倉庫の中を見回した。……あっ、倉庫の隅に置いてあるわね。

 ほらほら、おじさん、漬物石はあっちにあるわよ。

 声が聞こえない事はわかっているけど、私はつい心の中でワイルド系の人に呼びかけた。


 するとそれが通じた訳ではないだろうけど、彼は何かを見つけたように『おっ』って感じの顔をすると、真っ直ぐに歩きだした。


 えっ、なんで私の方に来るの? 漬物石はあっちよ?

 ……待って、なんだか嫌な予感が……。  うっ……!



 嫌な予感は的中した。私は漬物樽の上に載せられて、ワンセットにされて馬車に運び込まれた。


 人違い……いえ、この場合は石違い? まあ呼び方はどうでもいいけど、とにかく私は漬物石と間違えられたらしい。

 一応は漬物樽にダイレクトに放り込まれたわけじゃなくて落し蓋の上に置かれているから全身ぬかまみれにはならずに済んだけど、なんとも言えない悲しさがわき上がってくるわ。

 文句の1つも言いたい所なんだけど文句を言おうにも私は喋れないから、せめて恨みの視線を送っておくことにしよう。

 ……ジー……

 


 最後に少し悲しい出来事が発生してしまったけど、とりあえず荷物の積み込みは完了したからすぐに旅を再開するかと思ったけど、すでに日が落ちかけていたからかこの日は出発しなかった。




 そして翌朝。

 ついに数日ぶりに馬車の旅の再開ね。


 運送屋のみんなとはあの宿でお別れして、今日から馬車を運転するのはあのワイルド系の男性だ。

 私はこの人は馬車を用意してくれただけで、荷物の運搬自体は運送屋の人達が続けるものだと思っていたんだけど、どうやら運送の業務そのものがこの人に引き継がれたみたい。

 さっきは旅の再開と言ったけど、馬車も同行者も変わったんだから新しい旅の始まりと言ったほうが正しいかも知れないわね。

 

目的地まであと何日くらいか分からないけどそれまでよろしくね、ワイルドなおじさん。

 漬物石に間違われた事には思う所もあるけど、これからしばらくお世話になるんだしその事は水に流してあげるわ。


 ……それにしても。



 私は馬車の中を見回した。

 ……大きくて丈夫そうな馬車だ。荷物を積んでもまだスペースには余裕があって、人間の1人や2人は乗せられそうだ。

 なのにワイルド系の人が御者席に座っている他に、人間は誰もいなかった。


 運送屋の人達は3人チームだったのに、この人は1人で行動しているみたいね。

 この世界には盗賊や魔物がいるんだから、長距離の荷物運びを1人でやるなんて危険な気がするんだけど、大丈夫なのかしら?

 ……また何かに襲われたりしないわよね?



 私はそんな心配をしていたんだけど……結論から言うと大丈夫だった。

 襲われなかったわけじゃあないわよ? 襲われたけど大丈夫だったのよ。


 出発して数時間ほど移動したところで、小さな川で馬に水を飲ませていた時に、1匹の魔物が襲いかかって来たのよ。

 以前にアナベルさんたちが戦っていた、あの大きな豚人間みたいな魔物よ。近くで見ると本当に大きくて、凄い迫力だったわ。


 だけど、なんとこの人、素手でボコボコに殴り倒しちゃったのよ。

 よくファンタジー世界のことを『剣と魔法の世界』とか言うけど、まさか剣でも魔法でもなくて拳で解決するとは驚いたわ。

 ある意味では初めて魔法を見た時よりも衝撃的だったかもしれないわ。


 ……なるほど、護衛がいないのは1人で戦う自信があるからってことか。心強いわね。




 魔物の襲撃を受けたのはその1回だけでその後はトラブルも無くそのまましばらく進み続け、太陽が傾いてきた頃に木陰で馬車を停めた。

 今日はこの辺りで夜営かしらね。


 あれ? 夜営といえば……他に誰も居ないのに夜営の時の見張りはどうするんだろう? 強いから護衛がいらないっていうのは納得したけど、交代要員がいないと寝るとき困るわよね?

 ……まさか寝ないつもりとか? ……うーん、この人なら1晩や2晩くらい寝なくてもピンピンしてそうではあるけど……。


 結局どうするのかと思って見ていたら、彼は夜になったら普通にイビキをかいて寝ていた。

 ま、まあ睡眠は大事だし、体のためには眠るほうが良いんだけど……でも馬車の見張りがいなくても大丈夫なのかしら? 

 この人って大物っぽい雰囲気だし凄く強かったから、仕事のできる男だと思っていたんだけど、実は少し無用心な人なのかな?


 あっ、いいえ、前言撤回ね。無用心ってわけじゃあなさそうだわ。

 さっき野犬が近づいて来たんだけど、音か気配か知らないけどすぐに気づいてパッと目を覚ましたし、ギロリと睨みつけただけで追っ払ったわ。


 眠ってても隙が無い人って漫画とかでは見たことあるけど、本当にいるのね。

 ……まあ魔法や精霊が実在する世界なんだから漫画みたいな人がいてもおかしくはないか。


 


 そして翌朝。

 彼は目を覚ますと、軽くストレッチのような動きをして体をほぐすと、朝食代わりにビスケットか乾パンみたいなものをかじりながら御者席に座った。


 移動が始まると私は何となくボーっと彼を眺めていたんだけど、当たり前だけど馬車の運転をしている時は彼はそれ以外の事はしない。

 時々腰に下げた布袋から水を飲むくらいで、後は基本的にずっと手綱を握っているだけだ。


 うーん……ワイルドな男性が馬車を操っている姿は格好いいとは思うけど、ひたすらジーっと何時間も見ていて楽しいものでもないわね。外の様子でも見ているとしましょうか。


 私は辺りの風景の方へと視線を移した。

 

 この辺りは背の高い木は少なくて地形もなだらかだから視界を遮るものが少なくて、かなり遠くの景色まで見える。

 この先には丘や林なんかもあるみたいね。このまま道なりに進むとあの丘の方に行く感じかな。

 ……あれ? あの丘に何か人工物っぽいものが見えるような気がするけど、あれは何かしら?



 最初は遠すぎてぼんやりとした形しか見えなかったけど、近づくにつれてそれが何なのかが徐々に鮮明になっていった。

 丘の上に見えていたのは大きな石の壁だった。そしてその壁の向こうには幾つかの建物の屋根らしきものが見えている。

 

 まだ全容は見えていないけど、外壁のサイズからすると結構な規模の都市かもしれないわ。……もしかしてあれが鈴の住む街?

 ……いえ、落ち着きましょう。まだあそこだと決まったわけじゃあないわ。


 

 期待して違ったら死ぬほどガッカリする。だから期待し過ぎないようにしようと自分に言い聞かせる。

 それで私の心は表面上は冷静さを取り戻したようだった。

 ああ……でもダメだ。表面だけは落ち着いたように見えても、すでに心の奥ではここが鈴のいる街かも、って強く期待してしまっているわ。


 少し、また少しと街に近づいていく度に私の期待は加速度的に膨らんでいく。

 マズイわね……これでここが目的の街じゃなかったら、しばらく立ち直れないかも……。


 馬車は進み、更にまた街に近づいて行く。


 もう入り口らしき門は目の前だ。すでに門番らしき青年の顔まで見える距離まで来ている。

 ……不思議ね。心臓なんて無い石ころの体なのに、ドキドキと胸が激しく鼓動している音が聞こえる気がするわ。



 ワイルド系の人が御者席の上から、『よう!』って感じに片手を上げて門番に声をかける。

 そんな彼に対して門番の青年は、ピシッと敬礼をしてから、すぐに門を開いた。


 手続きとかが必要かと思っていたけど、顔パスで通れるの? 今までも何回か思ったことだけど、この人ってやっぱり大物っぽいわね。


 だけど今はこの人の素性なんかよりも街が気になるわ。

 あの子の……鈴のいる街は、ここなの?



 馬車が門をくぐり、遂に街へと入る。……するとその瞬間、周りの雰囲気が変わったように感じた。

 はっきりと言葉では説明できないけど街の外と中で明らかに空気が違う。そして……。


 ……感じる。

 ここには鈴がいる。間違いない。



 もしも私が石じゃなくて自由に動ける体だったとしたら、今頃はきっと馬車の荷台から飛び出して鈴の気配の方向に全速力で駆け出していただろう。

 前世でも鈴の気配に向かって走った結果、車に轢かれて死んだっていうのに、我ながら成長していないわね。

 ……ふふっ、鈴の前ではずっとしっかり者でいたから、私がそんな理由で死んだと知ったら呆れるかしらね。それとも叱るかしら?

 でも良いわ。呆れられても叱られても、また鈴と会えるならそれで幸せよ。



 会える……。もうすぐ会えるんだ。あの子に……!





 ーーーー その前夜・モーリン視点



 どうもこんにちは、木です。


 ……おっと、失礼しました。どうもこんばんは。の方がよかったですね。もう夜ですし。


 んー、今日ももうすぐ終わりですか~。空にキラキラお星さまが見えていますよ。これは満天の星空というやつですね。


 そういえば私は昔、満天を満点と勘違いしていて、空いっぱいに星が見えるのが満点なら霧がかかっていたら80点、雨が降っていたら50点くらいですかねー……なんて事を考えたことがありました。

 今は満天と満点の違いは分かっていますけど、でも今夜くらい綺麗な星空ならどっちも当てはまりますよね。満天で満点です。

 とっても綺麗ですねー。


 ん? ……おおっ! 流れ星を見つけましたよー! あっ、そうです! せっかくなので何か願い事をしちゃいましょう!


 え~っと……。素敵な事がありますように、素敵な事がありますように、素敵な事がありますように……。


 うむむ……。急だったせいで具体的な願い事がすぐに思いつきませんでしたね。

 おかげで『素敵な事がありますように』なんていうぼんやり漠然とした願い事になっちゃいました。

 なんだかフワッとしたお願いになりましたけど、ちゃんと流れ星が消える前に3回お願いできましたし、きっと叶いますよね?

 うん、叶うと信じましょう。



 だから、明日はきっと、とってもとっても素敵な事がありますよね。

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[一言] 更新…だと…!?お疲れさまです!
[一言] 更新きたー! 楽しみにしてました!
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