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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
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ストーンライフ! 7話 ある山道での事件

セリーナ視点です。

 あの大きな街から出発してから6日目。 いえ……私の場合は『出発』というより『出荷』という方が正しいかしら?

 なにせ他の荷物と一緒に馬車の荷台に詰め込まれて運ばれているんだからね。


 まあ今の私はただの石にしか見えないんだから荷物として扱われるのは当然だし、文句は無いわ。……でも、なにもする事がないのは少し辛いわね。

 この前までは精霊さんが話し相手になってくれていたけど、ここでは石に話しかけてくれるような酔狂な人もいないし、やることと言えば荷台でただこうして揺られながら時々透視能力で外を眺めるくらい。

 なんだか時間を無駄にしている気がして勿体ない気になってくるわね。


 とはいえ今の私にやれることはほとんど無いし、今日もまた外の様子でも眺めて過ごすとしましょうか。

 景色を眺める事が有意義な時間の過ごし方かと問われると自信を持ってそうだとは言いにくいけど、これだって魔法で馬車の(ほろ)を透視して外を見ている訳なんだから、一応は魔法の訓練になってるわよね? ……多分だけど。



 私は透視能力を使うと、まずは同行者たちの様子から確認をする。


 まず、馬車の先頭には御者席があって、そこに座ったおじさんが馬を操っている。

 そして次は馬車の本体部分。

 大半は荷物用のスペースなんだけど、その中にカーテンで仕切られた1人分の空間があって、そこにこの荷馬車の責任者らしき男性が座っているわ。

 あとは馬に乗ってこの馬車の少し前を走っている人が1人ね。

 この人はいつも馬車を先導するように動いているし食事の時でも肌身離さず剣を持ち歩いているから、きっと護衛担当かしらね。


 この3人が今の同行者よ。……まあ向こうは私がただの石だと思っているでしょうから、同行者だなんて認識はしていないでしょうけどね。


 3人の様子はいつも通りで特にコメントするようなことも無いようだったので、次は周りの風景の方へ視線を移してみた。



 広い草地に舗装も何もなくただ踏み固められて出来たの土の道。ごくたまに他の馬車や旅人らしき人とすれ違うこともあるけど、基本的には自分たち以外の人はほとんど見かけない。

 そんな代わり映えの無い景色がしばらく続いていたけれど、馬車が山道を登り始めた辺りから周囲の様子が変わっていった。


 傾斜はキツくて道はデコボコ。砂利や雑草もあって進む度に馬車がガタガタと大きく揺れる。 

 ちょっと、これ本当に荷馬車が通っていい道なのかしら? 馬車の揺れで荷物が傷ついたりしそうなんだけど。

 

 しばらくそのまま山道を進み続け、比較的広くて緩やか所までにたどり着くと、そこで馬車はストップする。 どうやら今日はここで休むみたいね。



 御者のおじさんと護衛の男性は馬を木に繋いで休ませてから、火を起こしてご飯の準備を始めた。

 ご飯の準備と言ってもその辺りで採った山菜っぽい葉っぱと干し肉を鍋で煮ただけのもので、あんまり美味しそうには見えないものだけど、塩や胡椒はちゃんと使っているみたい。

 物語とかだとこういうファンタジー世界では塩や胡椒が高価だったりする展開が多い気がするけど、この国だと高価なものでは無いようね。

 

 食事の準備が進む中、馬車の責任者っぽい人は私のいる荷台に入ってきて荷物の様子を確認し始めた。さっきまでガタガタの道を進んでいたから、荷物が無事かどうか気になったのかしら。

 気にするくらいなら最初からこんな酷い山道を通らなければいいじゃない、って言いたくなるけど、この人たちも好きでこんな道を通るとも考えにくいから、きっとなにか事情があったんでしょうね。


 責任者らしきおじさんは荷物の状態を一通り確認し終えるとみんなで食事をして、その後は見張りを1人だけ残して眠ることにしたみたい。


 責任者のおじさんは馬車の中で休んでいるけど、御者のおじさんは外で眠っている。

 しばらくしたら起きて、護衛の人と交代して交互に休むんだろう。今まで旅してきた数日間の中でも何度かそうしている場面を見たわ。


 この世界は漫画に出てくるような怪物が実在する世界なんだから見張りは絶対に必要っていうのは理解できるわ。でも、野宿するってだけでも大変なのに睡眠時間まで少ないっていうんだから、きっと疲れも溜まっているでしょうね。

 私は眠らなくても大丈夫な体だから代わりに見張りをやってあげたい気持ちはあるんだけど、みんなは私が意思のある存在だなんて知らないんだから見張りなんて任せてくれないわよね。


 うーん……せめて何か少しでもできることは無いかしら?


 そんな事を考え始めたその時、外から話し声が聞こえてきた。

 1人は護衛担当の男の人だと思うけど、もう1人の声は知らないわね。誰かしら?


 確認してみると、知らないヒゲ面のおじさんがニコニコしながら護衛の人に話しかけていた。


 誰? こんな夜中に、しかも人気の無い場所で近寄って来るなんてちょっと怪しくない?

 それにあの人、優しそうな笑顔ではあるんだけど、心がこもっていないっていうか……なんかインチキセールスマンの作り笑顔っぽく見える気がするんだけど気のせいかしら? 

 うーん……私の考え過ぎならその方が良いんだけど、なにか嫌な予感がするわね。


 私はその不審者を注意深く見つめる。 ……やっぱりどこか嘘臭いわね。なんか身ぶり手振りもオーバーだし。

 見張りの人もそう思っているのか、不審者の話を聞きながらも手は腰の辺りに構えて、すぐに剣を抜けるようにしているわね。

 だけど、それでも不審者は相変わらず笑顔&オーバーアクションでなにやら話し続けている。


 今にも剣を抜きそうな人を目の前にして笑顔でマシンガントークって、やっぱりあの不審者おかしくない? 

 単におしゃべり好きで空気が読めないおじさんという可能性もゼロじゃあないけど、あれが何か考えがあってやっていることだとすれば……。


 もしかして……見張りの注意を引いている? だとすれば目的は……!?

 


 その時、馬車の裏側の茂みから、カサリと小さな足音が聞こえた。

 ……小動物か何かなら良いんだけど、多分このタイミングだとそんな平和な展開にはならないわよね。残念だけど。


 私は厄介事の気配を感じながら足音のした方を確認してみると、怪しい人影が忍び足でゆっくりと馬車に近づいて来ているところだった。


 その人影は、錆びの浮いた金属の胸当てを装備して腰には剣を下げていて、ボロ布をバンダナの様にして頭に巻いている。

 そして汚ならしい無精髭だらけの顔には、いかにも何か企んでますといった感じにニヤニヤした下品な笑いを浮かべていた。

 ……明らかに盗賊ね。盗賊なんて会ったことのない私でも一目でハッキリ分かるほどに盗賊らしい盗賊だわ。


 なるほどね、1人が見張りとおしゃべりして気を引いているうちに、別の1人がこうやってコッソリと馬車に近づく作戦か。

 単純な作戦だけど見張りが1人しかいない状況なら確かに効果的ね。その1人の気さえ引いておけば後は隙だらけなんだから。

  ……っと、いけない! 感心している場合じゃないわね。こうしている間にも盗賊は馬車に乗り込もうとしているわ。


 護衛担当の男性はおしゃべり不審者に気を取られていて侵入者に気がついていないようだし、木陰で寝ている御者さんも馬車の中で寝ている責任者らしき人もグッスリと眠ったまま目覚めようとしない。

 侵入者に気づいているのは私だけか。……マズイわね。


 私がどうにかするべきなのは分かるけど、動くことも話すこともできない石の体でどうすればいいっていうの? 魔法でも使えない限りどうしようも無いわ……って、ああ。そういえば使えるのよね。魔法。

 石である私がこうして見たり聞いたり出来ているのも魔法といえば魔法だし、あの精霊さんに魔法の基礎を教わってからはそういうのとは別にもう少し魔法っぽい魔法も出来るようになったのよね。

 ……普段あんまり使い道の無い魔法だから忘れかけていたわ。


 今の私が使える魔法は2つ。自分の重さを変える魔法と、自分を磁石に変える魔法だ。……改めて考えてもやっぱり使いづらい魔法よね。だけどこれでどうにかするしか無いわ。


 

 私が覚悟を決めたのとほぼ同時に、僅かに馬車の床がギシリと軋んだ音を立てた。……ついに盗賊が入り込んで来たのだ。


 盗賊は周りの積み荷には目もくれず、責任者が眠っている方へと向かって真っ直ぐ進んでいく。 

 人質にする? それか……寝ている隙に殺す気? どちらにせよやらせる訳には行かないわ。


 私は盗賊の格好や自分と盗賊の位置関係を見て、1つの作戦を思いついた。

 とっさに考えたものだからどこまで上手くいくかは不明だけど、もう他の手を考える時間は無いし1発勝負よ。

 ……もうすぐ盗賊は私のすぐ横を通るわ。やるならそのタイミングしか無い。


 あと5歩……4歩……3……2……1…… 今よ!


 まず私は重さを変える魔法を使って自分の重さを限界まで軽くする。

 そしてその後すぐに次の魔法で自分を磁石に変えて、全力で磁力を放射した。

 目標は盗賊の着けている胸当てだ。

 

 普段の私の重さならちょっとの磁力くらいじゃあ浮かび上がったりはしないけど、魔法で軽くなっている今の私は磁力に吸い寄せられるままに飛んでいって盗賊の胸当てに張りついた。

 よし、成功。もしもこの胸当てが磁石につかない種類の金属だったらどうしようかと思ってたけど、普通の鉄か何かだったみたいね。良かったわ。


 突然飛んで来た(わたし)を見て盗賊は、驚いて叫びそうになったけど、咄嗟に両手で口を押さえて声が出そうになるのを押し止めたようだ。

 チッ……これで大声をあげてくれれば早かったんだけど、結構根性あるわね。

 だけどこれで終わりじゃあないわ。続けて仕掛けさせてもらうわよ。

 

 私は磁力で胸当てにくっついた状態のままで、今度はさっきとは逆に魔法で自分の体を重くしていく。

 最初のうちは盗賊も頑張って重さに耐えていたけど、限界が近いのか次第に足がプルプルし始めた。

 もう少しね。このままもっと重さを増やして動けなくしてしまいましょう。


 ……石になったとはいえ精神的には女のつもりだから、自分の体重を増やしてそれを武器にするという戦法は正直複雑な気分なんだけど、これしか使える手段がないんだから仕方ないわよね。

 さあ、更にこのままもっと重さを増やして…… あっ!? 

 

 次の瞬間、さっきまであったはずの手応えがプツンと消えて、自分の体が落ちていくのを感じた。

 どうやら調子に乗って重量を増やし過ぎて、磁力だけでくっついていられる限界の重さを超えてしまったみたい。

 私は盗賊の胸当てからポロリと外れて、そのまま落下してドスンと強く叩きつけられた。 ……盗賊の足の上に。


 ……なんか『ぐにゅっ』って潰れる感触があった気がしたけど、怖いから深く考えないことにするわ。 



 「GYOwAaあaa!!? @むeV4*kねA#c~!!?」


 盗賊は怪獣の鳴き声みたいな悲鳴をあげて転げ回る。

 これには流石に気づいたのか、寝ていた責任者や御者さん、そして護衛の人も気づいて駆けつけて来た。


 重さで動きを止めるだけのつもりだったんだけど……まあ予定とは違ったけど、結果オーライね。

 足が潰れた盗賊はその痛みのせいで身動きが取れなかったみたいで、駆けつけた護衛の手であっさり取り押さえられた。


 マシンガントークで見張りを引き付けていた盗賊と、どこかに潜んでいたらしい別の盗賊2人も参戦してきたから、大怪我……いえ、悪ければ死人がでるような激しい戦いになるかと不安だったんだけど、幸いそうならずに済んだ。


 最初に捕まえた盗賊を盾にして、護衛担当の人が上手く時間を稼いでいる内に、まず馬車が逃げる。

 護衛の人は、人質にしていた盗賊を地面に突き飛ばしてから、木に繋いでいた馬に飛び乗る。

 地面に転がっている盗賊を仲間の盗賊たちが助け起こしている隙に、護衛の人も馬で撤退。

 こんな感じで本格的な殺し合いに発展しちゃう前に逃げることに成功したわ。

 

 まあそうよね。この馬車のみんなは軍人じゃないんだから命懸けで盗賊と戦う義務は無いんだし、逃げられるなら逃げるのが正解よね。

 私も人間同士の殺し合いなんて見たくもないし、血生臭い展開にならなくてホッとしてるわ。


 ……とはいえ、何も問題無しという訳にはいかなかったわ。

 盗賊から逃げるために、整備されていないデコボコの山道を強引に駆け抜けたのが原因だと思うんだけど、それからずっと馬車の車輪がガタガタいってるのよね。

 荷台の揺れも明らかに酷くなってるし、絶対にどこか壊れてるでしょ、これ。


 大丈夫かしら? もう山道は抜けたとはいっても、まだここは人里離れた草原のど真ん中だし、こんなところで馬車が動かなくなったら深刻よね。

 なんとか完全に壊れちゃう前に人のいるところまでたどり着ければいいんだけど……。

 


 私は動きの悪くなった馬車にガタガタと揺られながら、これ以上のトラブルが起きませんように……と祈った。





 ーーーー とある盗賊視点



 ヘヘヘッ……チャンスが巡って来てくれたぜ。


 オレたちは前のアジトが兵士にバレたせいでトンズラをして、最近この山に隠れ住み始めたばかり。

 以前に稼いだ金や食い物も少なくなってきて、そろそろ獲物を探さなきゃいけねえと思っていたところだったんだが、丁度そこに都合よく荷馬車を連れた奴らが通りがかったうえに、アジトのすぐそばで夜営の準備を始めやがった。

 ……こりゃあいい。襲ってくれと言っているようなものだぜ。


 とは言っても考え無しに襲いかかる訳にはいかねえ。

 なんせこっちの人数はオレを含めて4人だけだ。見たところ相手も少数のようだが、それでも相手の腕が分からない以上は正面から襲うにはチョイと不安がある。


 獲物はすぐ目の前なんだから焦る必要はねえし、夜中になって奴らが眠った所を狙うとしようか。




 そのまま様子を見ていると、まず最初に主人らしい身なりの良い男が馬車の中に戻って行った。

 辺りはもう真っ暗になっているし、そろそろ眠るつもりだろうな。

 続いて御者だと思われる中年が木陰に布を敷いてゴロンと横になった。


 あと起きているのは見張りが1人だけか。見た感じではこいつが護衛担当か?

 武装しているし、身のこなしからして戦闘経験もありそうだが、1人だけならやりようがある。

 オレは部下に合図をしてから、見張りの男に向かって歩き出した。



 「っ! ……誰かいるのか?」


 こちらに気がつき警戒する見張りの男に、オレは出来るだけ善良そうに見える作り笑いで話しかけた。


 「旅の人ですかい? オレはこの山のふもとに住む猟師です。恥ずかしながら上手く獲物が取れずにさまよっているうちにこんな夜中になっちまって、すっかり困り果てていた所なんでさぁ。

 そんな時に焚き火の明かりを見かけたんで、こうして急いでやって来たところなんですよ。

 ……そっちに行っていいですかい? 朝までそこで一緒に休ませて欲しいんですがねぇ」



 へへっ、どうだ。オレは盗賊になる前は役者として劇団にいたこともあったんだ。演技にはチョイと自信があるのさ。



 見張りの男は少し考える様子を見せたあと、オレに向かってこう答えた。


 「……いいだろう、だが全面的に信じるわけにはいかない。この焚き火より馬車側には近づかないでもらうぞ」


 「へい。夜明けまで近くにいさせてもらえるだけでもありがてえもんですよ。1人きりじゃあ心細いですからねぇ、ははは……」


 盗賊だとは見破られていないみてえだが、信じきってはいないようだな。 ……よしよし、その調子でオレを警戒していてくれよ。

 オレの事を警戒すればするほど、他への注意は弱まるってもんよ。こうしてオレが見張りと話している間に、裏から部下の1人が馬車に忍び込んで主人を人質を取るって計画なのさ。



 「いやぁ、なかなか立派な荷馬車ですなぁ。ですがこの山道を馬車で進むのは大変でしょうねぇ」


 そんなどうでもいいような雑談を続けて見張りの男の意識をこちらに引き付けていると、オレの部下がコッソリと馬車に近づくのが見えた。

 ……よしよし、今のところ見張りに気付かれてはいねえな。オレが気を引いといてやるからそのまま上手くやるんだぜ。




 部下が馬車に入ってから2~3分ほど経った。 ……そろそろ上手く人質を取った頃か?

 オレは作り笑顔で見張りと雑談しながら、横目でチラリと馬車の方を見た。

 ……するとその時。



 「ぎょわあああぁぁっ! あっ、足があぁぁ!?」


 

 馬車に侵入したはずの部下が何やら叫びながら足を抱え込み、馬車からゴロゴロと転がり出て来た。

 あのバカ野郎! そんな大声を出したらっ……!


 「っ……! 誰だ貴様!? さては賊か!」


 見張りの男は腰から剣を抜き、馬車の方へと駆け出した。

 その騒ぎに外で寝ていた中年も目を覚まし、枕元に置いてあった木の棍棒を持って立ち上がると、馬車の方へと向かう。

 おそらくはすでに馬車の主人も目を覚ましていることだろう。


 クソッ……作戦失敗か! こうなったら仕方ねえ、予定変更だ! 盗賊らしく力で奪い取るまでだぜ!

 オレは大きく口笛を吹いて物陰に待機させていた2人の部下に攻撃の合図を送り、オレ自身も隠し持っていた短剣を抜いた。



 

 ……結果を言うと、馬車には逃げられた。

 1番の理由は最初にドジを踏んだあの部下のせいだ。

 あの野郎、ただ足を抱えて泣き喚くばかりで、戦うどころか抵抗らしい抵抗もしないまま捕まりやがった。

 なんとか助け出したはいいが、それで手間取っている隙に目当ての荷馬車に逃げられちまったってわけだ。


 クソッ! 全部あのドジのせいじゃねえかよ! ……アイツはアジトで足の治療をしているはずだな。 ちょいと文句を言ってくるか。



 オレはアジトに戻ると、あのドジが足に包帯をぐるぐる巻いている所に乗り込んで、まずは1発頭をぶん殴った。


 「痛えっ! ひでえよアニキ、オレは怪我人だっていうのに……」


 「うるせえ! てめえがドジったせいで獲物を逃がしちまったんだ! 頭を殴るくらいで許してやるんだから優しいと思え!

 大体その足だってどうしたんだ? まさか眠っている商人1人を相手に怪我を負わされたとか言わねえよな?」


 「ち、違う! オレが商人1人程度に負けるわけねえだろ!? オレの足をやったのは商人じゃねえ! もっと恐ろしい奴だ!」


 「恐ろしい奴? 馬車には他には誰もいなかったはずだが……いったい誰にやられたっていうんだ?」



 嘘を言っている雰囲気じゃねえし、もしかしたら外にいたのとは別の護衛を馬車の中に待機させていたのか?

 そう思って聞いてみると、あまりにも予想外すぎる答えが返って来た。



 「石だ! オレは石にやられたんだ!」

 

 「………………あ? なんだって?」



 聞き間違えかと思って、小指で耳の穴をほじってからもう一度聞いてみた。

 だが、答えは変わらない。


 「本当だ! 石だ! でも違う! あれは普通の石じゃねえ! あの石、突然オレの胸に向かって飛びついてきて、そのまましがみついて離れなかったんだ! しかも最初は軽かったのにどんどん重くなって、オレの足の上に降ってきやがった!」


 「アホが! 酔っぱらってんのかよ? 石が飛びついたり、しがみついたり、突然重くなったりする訳ねえだろうが!

 ドジなてめえのことだ、どうせ自分の不注意で積み荷を倒して足の上に落としたか何かしたんだろう! 罰としてしばらくの間は酒は禁止だ!」


 「ち、違うんだ! 信じてくれよ、アニキ! 本当にっ……本当に石がっ!」


 「うるせえ! 黙って寝てろ!」



 オレはアホのいる部屋を出て、バン! っと叩きつけるよう扉を強く閉めた。


 チッ……これ以上アイツの寝言を聞いていると頭が痛くなりそうだぜ。……だがまあこれ以上文句ばっかり言ってる暇もねえか。

 あの馬車の連中が次に立ち寄った街で兵士か冒険者にでもオレたちの事を報告したら、すぐにでも討伐隊が送られて来るかも知れねえからな。

 そんな事になる前にさっさと荷物をまとめて新しいアジトを探さねえといけねえ。


 ……まったく頭に来るぜ。前のアジトからここに移って来たばかりだってのによ。

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