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ウッディライフ! ~ この木なんの木? 私です ~  作者: 鷹山 涼
番外編&後日談ですよ まだやりたい事がありますから。
140/151

後日談 14話 アイドル談義からのバーベキューパーティー

 どうもこんにちは、木です。


 んー、このフレーズ久しぶりですねー。なんだか嬉しいのでもう一度繰り返しておきましょう。


 どうもこんにちは、木です。


 一度死にかけてしまってたあの日以来、私は盆栽サイズになり、少し力を取り戻してから観葉植物サイズになり、そして今やっと木と呼べるサイズまで戻れました。

 数は多くありませんけど果物も創れるようになりましたし、私の日常はわりと好調です! ……と思っていたんですが、実は先ほどやらかしてしまって少し落ち込んでいるところなんですよね。


 何があったかと言うと、今日はたくさんのお友達が遊びに来てくれているのですけど、若頭さんがすぐに帰ってしまったんですよ。

 きっと私が上手く場の空気を盛り上げることができなかったせいで気まずくなってしまったのでしょう。若頭さんには申し訳ない事をしてしまいました。

 ……やはり多くの人に楽しんでもらうためには、場の空気をさりげなく整える能力も必要ですね……その辺りは昔から苦手なんですよ。


 うむむむ…… 私はお笑い番組を観る時は芸人さんの一発ギャグにばかり注目していたのですが、やはり司会者さんの話術にも注目して勉強しておくべきでしたか……。


 「ねえ、リン」


 いえ、今までももちろん司会者さんの存在を軽く見ていた訳ではありませんよ? むしろ番組をどう面白くするかは司会者さんにかかっているといっても過言ではありませんから、私は司会者さんをとてもリスペクトしていますけど、ただ私が目指す方向としては雛壇芸人の方向でしょうから、ついそちらに集中していたといいますか……


 「ちょっとリン。リンってば!」


 ほわぁ!? ぺルルちゃん? ……あ、ごめんなさい、考え事をしていました。 えーっと、それでなんでしょうか?


 「ほら、そっちのガッシリしたお兄さんがリンに何か話しかけてるみたいよ?」

 


 へっ? ……あっ、本当です! マッスルさんが私に向かって何か話しかけてくれています!

 お友達が話しかけてくれているのに気づかないなんて失礼でしたよね。ごめんなさい。

 私は会話できませんけど、せっかく私に話しかけてくれているのですからせめてコクコクと頷いたりしてリアクションを返すくらいはしなくては。

 ということでコクコク。



 私が頷いたのを確認すると、マッスルさんは一気に何かを語り始めました。


 「dXよ2m>B@マ2えfR#ssK€5うwR9mゆmZル<*へ5vDn#れ*eW>3cjRら€4お……」


 おおっ……突然の早口、しかもなかなかの長台詞です。マッスルさんがこんなに喋るのは珍しいですね。

 んー……ですけど、この急にいつもより早口になって熱く語り始める感じ……どこかで見たことある気がしますねー?


 んー……。

 あっ、思い出しました。そういえば柔道部の山崎君が自分の好きなアイドルについて語っている時の様子がこんな感じでしたねー。

 ということは今、マッスルさんも好きなアイドルについて語っているのでしょうか? マッスルさんがアイドル好きとは意外な一面を見ましたねー。

 ですが、なんであれ熱く語れる趣味があるというのは良いことですよね。


 他人の趣味の話を聞いているのは退屈だという人もいるようですが、私はお友達が喋るのをずっと聞いているだけというのも結構好きなので、そのままマッスルさんのアイドル談義に耳を傾けてることにしました。


 するとマッスルさんの言葉が一区切りしたタイミングで、今度は係長さんが何かを呟きました。


 「h4……るlK5」

 

 その言葉の後、係長さんはその場に片ひざをついてしゃがみました。

 そして片手を地面につけてからゆっくりと立ち上がり、その手をスッと前へと差し出してからパッと手のひらを開きました。

 このステージ映えしそうな一連の動きは……ダンスでしょうか? ああ、なるほど! これはきっと係長さんの好きなアイドルのダンスの振り付けですね?


 ふむふむ、どうやら係長さんもアイドル好きだったようですね。マッスルさんのアイドル談義を聞いて、血が騒ぎだしてしまったようです。

 その気持ちはわかりますよ。私も自分の好きなゲームや漫画の話をしている人が隣にいたら、会話に参加したくなりますからね。

 


 「b7wxよgJ<@ん#ozてP8や……」

 

 係長さんも何かを語り始めましたねー。これは係長さんの好きなアイドルについてですかね? それとも自分なりのアイドル論とかでしょうか?


 「め*A……i8uモーリンガーJ#れ?」

 

 おや? 今度はまたマッスルさんが何かを言いましたね。

 なんか疑問系っぽいイントネーションで私の名前を言いましたから、これは多分ですけど私に質問しているっぽいです。

 マッスルさんだけでなく係長さんの視線もこちらに向いていますし、2人とも私の意見に注目してる感じですかね?


 うむむむ……何を聞かれたのかわかりませんけど、意見を求められたなら何か答えを返すのがマナーというものです。

 状況や2人の表情をよく見て、何を質問されているのか予想して答えなくてはいけませんね。

 ふむ……ここは私の推理力が試される時ですか。

 任せてください! 実は私は、名探偵の孫である高校生や、怪しい薬で子供の姿になった名探偵が活躍する推理漫画を読んで、自分もなんとなく頭が良くなったような気になったことが何度かありますから、きっと推理は得意分野です。


 ということで推理開始です。……え~っと、お2人がアイドル談義で盛り上がっていた直後の言葉であることを考えると……

 『ん~、やはりアイドルって最高だと思わないかい? マッスル! マッスルぅ!』……みたいな感じで私に同意を求めていると予想しました。

 多分これで正解です。 ファイナルアンサー!


 うんうん。私はアイドルには詳しくありませんけど、ファンに夢を与える素敵な存在だと思いますよー。

 私は力強くコクリと頷きました。


 すると、マッスルさんと係長さんは満足気に表情を緩めると、私に一礼をしました。

 ふう……この反応を見た感じ、どうやら私は正しいリアクションを返してあげられたようですね。

 

 ……それにしても、アイドルが素敵だと同意しただけでこんなにホッとしたような顔で頭を下げるとは……。もしかするとマッスルさんは今までアイドル好きという趣味を他人から肯定してもらった事が無かったのかもしれませんね。


 なるほど……日本ではアイドル好きなんて珍しくありませんけど、きっとこの世界ではまだ理解され難いマイナーな趣味という扱いなのでしょう。

 だからアイドルに対して理解がある人がいると知って安心したのかもしれませんね。


 良かったです。私はただ頷いただけですが、それでマッスルさんの気持ちを少しでも楽にしてあげられたなら、とても嬉しいことですよ。



 マッスルさんは心配事が1つ無くなったかのような穏やかな様子で立ち去って行きました。

 そしてその後、係長さんもちくわちゃんとセレブお嬢さんと少しお話ししてから、マッスルさんを追うように帰って行きました。


 もっとゆっくりして行けばいいのに……とも思いましたが、きっとマッスルさんと係長さんは女の子のいないところで男同士でお酒でも飲みながらゆっくりとアイドル談義を繰り広げたくなったのでしょう。

 ふふふっ、そういうことなら呼び止めるのも野暮というものですね。


 どうやらセレブお嬢さんはまだ帰らないでいてくれるみたいですし、私たちは私たちでガールズトークを楽しみましょうか。



 「……ねえ、リン。いつも通りと言えばいつも通りなんだけどさぁ、さっきの2人とリンの空気が噛み合ってなかった気がするんだけど……」


 ぺルルちゃんが呆れと驚きと笑いをブレンドしてから仕上げにレモンをサッと絞ったような顔でそう言いました。


 あはは、それは仕方ありませんよ。私はアイドル好きという趣味に理解はありますが、私自身がアイドルに詳しいわけではありませんからね。

 所詮は半端者ですから本当のアイドルファンの方とはまとっている空気が違うのは仕方ありません。


 ぺルル・ワタシ・アイドルファン・レベル・ミジュク。



 「は? アイドルファン? いや、そもそもどこからそんなワードが出てきたのか理解できないんだけど。

 ……まあいっか、リンの思考がアクロバティックでトリッキーなのは今さらよね」



 おや? アクロバティックでトリッキーって、そんなサーカスみたいな思考をしているつもりはないのですけど……

 あっ、でもサーカスというものは多くの人を楽しませるためのものですから、私の目指す方向性としては良いことかもしれませんね。

 ふむふむ、では私は今後も今のスタイルで生きていくとしましょうか。




 この後、お昼過ぎくらいまでみんなでまったり過ごしていたのですが、そこで1度セレブお嬢さんがいなくなりました。

 帰っちゃったんですかねー? とか思っていたら、しばらくしてから沢山の食べ物のや飲み物を持って戻ってきました。


 ああ、買い出しに行っていたのですか。それにしても色々と買って来ましたねー、タイムセールでもやっていたのでしょうか?

 お肉もお魚も野菜もそろっていますねー。

 

 その後はその食材を使ってちくわちゃんとセレブお嬢さんがいつもより豪華なお料理を用意してくれて、ちょっとしたパーティーのようになりました。

 学芸会の木モードになっていて家に入れない今の私に合わせてくれたようで、外での食事になったので、バーベキューっぽいスタイルになりました。


 あっ、そういえばどうでもいい話ですけど、バーベキューの事をBBQって言う人は陽気なパリピっぽいイメージがありませんか?

 ……本当にどうでもいい話でしたね。ごめんなさい。

 

 ぺルルちゃんによるととても美味しかったようです。

 残念ながら私は味はわかりませんけど、それでもとても楽しい時間でしたよ。


 夜になるとセレブお嬢さんはちくわちゃんと一緒のベッドで横になって、そのまま楽しそうにお話しを始めました。

 どうやらセレブお嬢さんは、ちくわハウスに泊まっていくようです。最近は忙しそうにしていましたからお泊まり会は久しぶりですねー。


 私も人間形態になって一緒に寝たいと思ったんですけど、ぺルルちゃんが、

 「昨日から今日の間で、果物を創ったり体を成長させたりと色々やり過ぎたから、しばらくは木の姿でいたほうがいいわ」

 と言ったので、それにしたがって今夜は学芸会の木モードで根っこを土に埋めた状態で過ごすことにしました。


 皆さんと一緒に寝れないのは少し残念ですけど、寂しくはありませんよ。ぺルルちゃんは私の枝の上で寝てくれていますし、明日になればまた皆さんとの楽しい1日が待っていますからね。


 うん、きっと明日も素敵な日になりますね。 んー、朝が待ち遠しいです。


 

 

 

 ーーーー フリージア視点

 


 私はモーリン姿を見つめた。

 モーリンの事はいつも見つめているんだけど、今はいつもよりもジッと見つめている。


 だって、最近ずっと小さな姿でいたモーリンが、今は久しぶりに前の大きさに戻っているんだもん。ついジッと見ちゃうよね。

 別に小さな姿に不満があったわけじゃあ無いよ? 小さなモーリンはすっごく可愛いくて見つめているだけで幸せな気分になれるから。

 でもずっと小さいままでいたから、もしかして元の大きさに戻れなくなっちゃったのかな? って心配していたんだよ。

 だから、さっきロドルフォがモーリンに、精霊の能力が残っているのか? って聞いた時、失礼な事を言うな! って怒ると同時に、実は心のどこかでは少しドキッとしていたんだよね。


 だからこうやってモーリンが大きくなれたのを見てホッとしたんだ。

 ……ああ、良かった。モーリンはちゃんと元気だったんだね。



 「お姉様……良かった」


 トレニアが安心したように呟いた。……きっと私と同じことを考えてたんだね。

 改めて見ると、トレニアだけじゃなくて兄さんやヒースさんもホッとした表情をしている。

 みんなモーリンが元気だって事がわかって嬉しそう。


 うん。今日は良い日だ。私にとって隣にモーリンがいてくれる日はいつも良い日だけど、今日は特におめでたい日だね。 ……あっ、そうだ!



 「ねえ! これからみんなでお祝いしようよ! みんなで夜中まで一緒にモーリンの素敵なところを語り合おう!」


 「まあ! それはとても魅力的な提案ですわね! それでしたら、たまにはワインでも用意いたしましょうか。たしかうちの倉庫にいくつかあったはずですから、あれを……」



 私が提案すると、すぐにトレニアも賛成してくれた。

 良かった。最近トレニアは仕事が忙しかったみたいで、あんまりうちに泊まっていってくれてなかったし、今日は久しぶりにご飯を食べながらゆっくりモーリンの魅力について語り合おう!



 「……待ってくれ」


 私とトレニアはもうすでにパーティー気分だったけれど、そこに兄さんが待ったをかけた。

 むぅ……何?


 「盛り上がっている所を邪魔するようで悪いんだが、先に報告を済ませてしまいたい」


 報告? なんの? ……ああ、そう言えばロドルフォな話を先に聞いたから、まだ兄さんの用事を聞いていなかったんだっけ。モーリンが元の大きさに戻った事が嬉しくてすっかり忘れてたよ。


 トレニアも言われてから思い出したのか、「あ、あら、そう言えばそちらが先決でしたわね」と言って恥ずかしそうにしている。

 しっかり者のトレニアにしては珍しいうっかりだけど、モーリンの事を優先して他の用事を忘れちゃうのは仕方ないよね。

 むしろそれが正しい事だと言ってもいい。私くらいになればモーリンの事を考えていたら息をするのも忘れそうになるくらいだよ。

 

 うーん、そう考えると自分の用事を忘れていない兄さんはモーリンへの忠誠心が足りない言ってもいいかも知れない。

 むぅ……私の兄さんだというのに、まったく情けないなぁ。



 「フフン。兄さん、まだまだ半人前だね。未熟未熟。もっと私を見習うといい」


 「……俺は何故いきなり見下されているんだ? 訳がわからんし少々腹も立つが……まあいい、そんなことより報告を済ませるとしよう」

 


 兄さんは前へ進んで、モーリンから2~3歩くらいの距離で立ち止まった。


 「モーリン様。それでは報告させていただいてよろしいでしょうか?」


 その言葉にモーリンはコクコクと頷いたのを確認して、兄さんは改めて一礼してから報告を始めた。

 ……モーリンに礼儀をはらうのは良い心がけだけど、きっとモーリンはそこまで堅苦しくしなくても怒ったりしないと思うんだけどなぁ。



 「あの剣を持ち込んだ行商人を捕らえて尋問したところ、隣国のオークションで魔力剣として売っていた物を仕入れてを転売しただけで、呪いの剣とは知らなかったそうです。

 どうやら今回の相当はあくまでもその行商人が不注意で起こした事で、この街に敵意を持って騒動を起こそうとしたわけではなかったようですね。

 厄介事には違いはありませんが、敵対勢力の攻撃ではなかったというのは幸いだったというべきでしょう。……まあ意図的ではなかったとしても罪は罪ですから、あの商人は相応の罰は受けることになるでしょうが」


 あっ、これは仕事用の声だ。 兄さんは仕事の話をする時は、いつもより早口で大きな声になるんだよね。


 兄さんは一息でそこまで喋った後、何かを探すように視線をキョロキョロと動かした。

 

 「商人についての報告は以上です。……ところで、その呪いの剣についての話なのですが……」


 ああ、視線で何かを探していると思ったら、どうやら兄さんは剣がどこにあるのか気になっていたみたいだ。

 あの剣なら昨日からずっとモーリンが持っているはずだけど……って、あれ? そういえば今日は持っていないね。どこにやったんだろう。


 私はあの剣の事はあんまり気にしてなかったんだけど……むぅ……無くなったと思うと気になるなぁ。

 つい私も視線をキョロキョロして剣を探しちゃった。


 すると、視界のはじっこで、ヒースさんが『あれ?』みたいな顔をしたのが見えた。……なにかあったの?



 「うん? ……もしかしてこれは……」


 ヒースさんは突然しゃがみ込んで地面に手を伸ばした。

 地面から何かを拾ったみたいだけど、指先でつまみ上げるくらいの大きさの物だったみたいで、ここからだと何を拾ったのか見えないや。


 ヒースさんは立ち上がると、それを手のひらに乗せてみんなに見えるようにその手を広げてくれたけど……やっぱり小さくてよくわかんない。

 砂……にしてはなんか表面がツヤツヤしてる気がするし、砂鉄とかかな? あっ、それにしては大きいか。



 「……これは砕けた金属の欠片みたいだね。かなり細かく砕けているからはっきり分からないけど、もしかしてこれってあの剣じゃないかな。

 ……あっ、そこにも落ちてる。あっちのキラキラしてるのもそうかな?」


 「なんと……もしやあの剣はすでにモーリン様が処分なされたのですか?」


 兄さんがそう確認すると、モーリンはコクリと頷いた。

 ……なんだかいつもよりも優しくて、それでいて力強い頷き方に見えるなぁ。まるで子供をを安心させようとしてる大人みたい。

 

 すると、兄さんは少しホッとしたように表情を柔らかくした。


 「実はこれからあの剣についてご相談しようと思っていたのですが、もう既に処分済だったとは……。私ごときが心配する必要は無かったようですな」


 そういうと兄さんは、モーリンに一礼してから後ろに下がると、「では、これで失礼させていただきます」と言って立ち去っていく。


 それから少ししてからヒースさんも一礼して兄さんの後を追うようにして立ち去ろうとした。

 ……あれ? ヒースさんはモーリンに話したいことは無かったのかな? もしかして兄さんに付き添ってた来ただけ?


 私が不思議に思ってヒースさんの方を見ていると、その視線に気づいたのかヒースさんが振り向いて、微笑みながら言った。


 「僕の用件はもう終わったよ。……というか最初から気にする必要が無かったみたい」


 「むぅ……どういう事?」


 「ムスカリも最後に言ってたけど、実は呪いの剣の処分方法について話し合うつもりだったんだよ。物にもよるけど呪いのアイテムっていうのは普通に破壊したりすると呪いを撒き散らしたりして余計に被害が広かったりする場合もあるから、素人には処分するのも簡単じゃないんだ。

 だから、近くの街にいる顔見知りの呪術師と連絡を取りましょうか? って提案するつもりだったんだけど、無用な心配だったね。

 いやぁ、モーリン様ならもしかして……とは思っていたけど、やっぱり呪いのアイテムの処分方法も心得ていらっしゃったか。周りには呪いらしき魔力は残っていないし、完全に解呪されてるみたいだ。流石はモーリン様だね」



 そっか、あんまり知らなかったけど。呪いのアイテムっていうのは面倒なんだね。

 でもそれを壊しちゃうんだからやっぱりモーリンは凄いんだなぁ。……壊した瞬間を見てなかったから、どうやったのかは知らないけど。



 「まあ、そういうわけで僕の用事は無くなったから、もう戻ろうかと思うんだけど……トレニアはどうするんだい?」


 「そうですわね……私も呪いの剣について話し合う予定でここに来ましたから、その件が片付いているというなら、もう仕事はなくなったのですが……」


 

 トレニアの用事も終わったの? だったら……


 「むぅ……トレニア、今日の用事が終わってるならこのままうちでゆっくりしていってよ。モーリンもきっと喜ぶ」


 「よろしいのですか? でしたらお言葉に甘えてもうしばらくお邪魔させていただきますわ」



 「そうかい。うん、トレニアは最近忙しくしてたし、たまには羽を伸ばすといいと思うよ。じゃあ僕は帰るとするよ。

 ……それではモーリン様、失礼いたします」


 ヒースさんは今度こそ帰るみたいだね。……あっ、そうだ。言っておくことがあった!

 私は、ヒースさんの丸っこい背中に向かって声をかけた。



 「ねえヒースさん。アウグスト君にもモーリンが元の大きさに戻った事を伝えておいて。きっとアウグスト君も喜んでくれるはず」


 「ああ、そうだね。……でもアウグストはさっき出かけた所だから今はこの街にいないんだ」


 ヒースさんは首だけこちらを振り向くと、少し困ったような顔でそう言った。 むぅ……出かけてるのかぁ……。 


 「……せっかくモーリンが元の大きさに戻った記念日だっていうのに、いないなんてアウグスト君はタイミングが悪い」


 「何でも近々王都からこの街に届く予定だった荷馬車が、隣村の辺りで壊れて立ち往生しちゃってるんだってさ。

 それでアウグストが自分の馬車を連れて荷物を受け取りに行っているみたいだよ」



 それを聞いて、トレニアがピクリと反応した、


 「あら? 王都からの荷馬車で、近々ここに到着する予定……と言いましたか? それはもしや私の父、コランバインが送ったものでは?

 父が手配した馬車に問題が起きているというなら私としても他人事ではありません。私も荷物の受け取りには同行しなくては……」


 「いや、まあトレニアの気持ちは分かるけど、もうアウグストが出発してしばらく経ってるから今から出発しても追い付けないよ。

 気になるのは分かるけどそっちはアウグストに任せて、君は今日はモーリン様やフリージアとゆっくりしたらいいよ」


 「そういうわけには……」


 「言い方は悪いけど、追い付けないのを分かってて追いかけたってただの時間と労力の無駄だよ。申し訳ないと思うならアウグストが戻ってきてから別の仕事を手伝ってあげればいいさ。だからその時のために英気を養うつもりで、今日くらいは楽しみなよ」

 

 そう言ってヒースさんは、帰って行った。

 トレニアはまだどうしようか迷っていたみたいだったけど、最後にはここにいる事を選んでくれた。

 仕事は一段落していてスケジュールに余裕があるから、今晩は泊まって行ってくれるんだって。


 そういえばトレニアがうちに泊まっていくのって久しぶりだなぁ。前は毎日のように一緒に寝てたんだけど、最近は仕事場に泊まってばっかりであまりうちに来てくれてなかったし。


 うーん、ちょっとワクワクするかも。

 モーリンと2人きりとか、妖精も入れて3人でいることに不満なんて少しも無いけど、トレニアとも一緒になってワイワイ騒ぐのも賑やかで楽しいよね。


 ……よし! 今日はみんなでパーティーだ! 私はあんまり料理は得意じゃないんだけど、きっとトレニアも料理を手伝ってくれるだろうし、今日は頑張ってちょっと豪華なご飯を用意してみようかな。 


 私がそう言ったら、お昼にトレニアが色々な食べ物を持って来てくれたから、一緒に料理をしてみんなで食べて、夜になったらトレニアと一緒のベッドに入ってモーリンの素敵なところについて話しながら寝た。


 今日はすごく楽しかったなあ。でもきっと明日も今日に負けずに良い日になると思う。だってモーリンがいてくれれば、いつでも良い日になるからね。……えへへ、明日が待ち遠しいなぁ。






予定が変わらければ、次回はセリーナ側の話になると思います。

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